本項の内容は上級者向けです。また、前項の内容を理解していることを前提としています。
αを正の無理数とし,\ $x_0=α$とおく. また,\ $n$を0以上の整数とする.\ 実数$x_n$に対して,\
$x_n$を超えない最大の整数を$a_n$とおき,\ $x_n=a_n+1}{x_{n+1$によって$x_{n+1}$を定める.
さらに,\ 数列$\{p_n\},\ \{q_n\}$を次の漸化式で定義する.
\ p_0=1,\ \ p_1=a_0,\ \ p_{n+1}=a_np_n+p_{n-1} & (n=1,\ 2,\ 3,\ ・・・)
\ q_0=0,\ \ q_1=1,\ \ \ \,q_{n+1}=a_nq_n+q_{n-1}
このとき,\ すべての自然数$n$に対して以下が成り立つことを示せ.
(1)\ \ $p_nq_{n-1}-p_{n-1}q_n=(-\,1)^n$
(2)\ \ $p_n$と$q_n$は互いに素
(3)\ \ $α=x_np_n+p_{n-1{x_nq_n+q_{n-1$ \\[1.8zh]
(4)\ \ $α-p_n\vphantom{b{q_n<1}{{q_n}^2}$ \\[1.8zh]
(5)\ \ $lim{n\to∞}p_n}{q_n}=α$
{漸化式を利用した正則連分数の性質の証明}
数学的帰納法}(数 B)で証明するのが確実である.
数学的帰納法の仮定と漸化式を両方利用して証明することになる.
問題で天下り的に漸化式が与えられているが,\ その正体と導出を概略だけ示しておく.
重要なのは,\ 正則連分数展開が本問の背景にある}ことである.
本問のp_n,\ q_n\,は,\ α\,を正則連分数展開したときの第n-1次近似分数の分子と分母}である. \\
以上の規則性から,\ 問題の漸化式が成立すると予想できる.\ 証明は数学的帰納法による.
本問から,\ 近似分数\,p_n}{q_n}\,と\,p_{n-1{q_{n-1\,に対し,\ p_nq_{n-1}-p_{n-1}q_n\,の値が常に1か-1であるとわかる.
このことは,\ 1次不定方程式ax+by=1の特殊解を求めるのに役立つ(具体例は前項で示した).
$p_n$と$q_n$が素数の公約数$p$をもつと仮定}する.
このとき,\ $p_n=pa,\ q_n=pb\ (a,\ b:整数)$とおける.
(1)より$paq_{n-1}-p_{n-1}pb=p(aq_{n-1}-p_{n-1}b)=(-\,1)^n}$となるが,\ これは矛盾}である.
∴ p_n\,とq_n\,は互いに素である.}$
互いに素の証明は,\ 素数の公約数をもつと仮定して矛盾を示す}とよいのであった(背理法}).
もっとも,\ 本問程度ならば背理法を用いずとも次のように直接的に示すことも容易である.
最大公約数をg\ (>0)とするとp_n=ga,\ q_n=gbとおけ,\ g(aq_{n-1}-p_{n-1}b)=(-\,1)^n\,より g=1
本問から,\ 近似分数\,p_n}{q_n}\,はすべて既約分数}であることがわかる.
また,\ 全く同様にして,\ p_nとp_{n+1},\ q_nとq_{n+1}\ がそれぞれ互いに素であることも示される.
(1)で解説したように,\ a_np_n+p_{n-1{a_nq_n+q_{n-1\,は\,α\,の近似分数である.
本問は,\ x_np_n+p_{n-1{x_nq_n+q_{n-1\,が\,α\,自体であることの証明である.
証明の大筋は(1)の解説で示した具体例と同様である.
仮定およびx_n=a_n+1}{x_{n+1,\ \ p_{n+1}=a_np_n+p_{n-1},\ \ q_{n+1}=a_nq_n+q_{n}\,を利用して示す.
とにかく,\ x_k,\ p_k,\ p_{k-1}\,をx_{k+1},\ p_{k+1},\ p_k\,で表すことを目指せばよい.
はさみうちの原理
漸化式から明らかに\{q_n\}が狭義(≦ ではない)の単調増加数列であるとわかる.
\{q_n\}の各項が整数であることも考慮して,\ lim{n\to∞}q_n=∞\ であるとわかる.
狭義の単調増加数列であっても,\ 各項が整数ではない場合には無限大に発散するとは限らない.
実際,\ 1-1nは狭義の単調増加数列だが,\ lim{n\to∞}1-1n=1である.
不等式の証明の後の極限計算では,\ 十中八九はさみうちの原理が有効である.
本問から,\ 無理数\,α\,の正則連分数展開によって得られる近似分数列は\,α\,に収束する}ことがわかる. \ディリクレのディオファントス近似定理
$α\,が正の無理数のとき,\ α-x\vphantom{by{y<1}{y^2}\ となる整数x,\ yが無数に存在する.}$ \\
上の問題に関連して,\ 実数の有理数による近似(ディオファントス近似)に関する定理を紹介する.
α\,を正則連分数展開してできる近似分数\,p_1}{q_1},\ p_2}{q_2},\ ・・・・・・\ の分子と分母をそれぞれx,\ yとする.
このとき,\ (x,\ y)=(p_1,\ q_1),\ (p_2,\ q_2),\ ・・・・・・\ はすべて与不等式を満たす.
最後,\ この中に一致する組が存在しないことを示せば,\ (x,\ y)が無数に存在することが示される.