ピタゴラス数の性質を探るために,\ 前提知識となる平方剰余について確認する.
平方剰余とは,\ 平方数\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ ・・・・・・\ をある整数で割ったときの余りである.
整数nを3で割ったときの余りは,\ 当然,\ 0,\ 1,\ 2の3種類があり得る.
これに対し,\ 平方数n^2\,を3で割ったときの余りを考える.
合同式を用いると,\ n≡0,\ 1,\ 2のとき,\ それぞれn^2≡0,\ 1,\ 4である. (\,\because\ a≡ bのときa^2≡ b^2\,)
ここで,\ 4≡1±od3\ なので,\ n^2\,を3で割ったときの余りは0,\ 1の2種類しかない}とわかる.
言い換えると,\ 3で割ったときの余りが2になる平方数は存在しない.
重要なのは,\ 一般に平方数の余りは元の数の余りよりも種類が少なくなる}ことである.
4を法とする平方剰余が元の数の偶奇と対応する}ことは記憶に値する.
つまり,\ n^2\,を4で割ったときの余りが0か1かで,\ nが偶数か奇数かがわかる.
a^2+b^2=c^2\ を満たす自然数の組(a,\ b,\ c)をピタゴラス数という.$
$原始ピタゴラス数(a,\ b,\ cは互いに素)の性質$
①\ \ $a,\ bの一方は偶数で他方は奇数,\ よってcは奇数である.$
②\ \ $a,\ bのどちらか一方のみは3の倍数である.$
③\ \ $a,\ bのどちらか一方のみは4の倍数である.$
④\ \ $a,\ b,\ cのどれか1つのみは5の倍数である.$
a^2+b^2=c^2\ は,\ 言わずと知れた三平方の定理(ピタゴラスの定理)}である.
三平方の定理を満たす3つの自然数の組をピタゴラス数というる.
最も有名なピタゴラス数(3,\ 4,\ 5),\ (5,\ 12,\ 13)}は暗記必須である.
a,\ b,\ cが互いに素なピタゴラス数}を特に原始ピタゴラス数}や既約ピタゴラス数}という.
原始ピタゴラス数をすべて整数倍して得られる(6,\ 8,\ 10)などもピタゴラス数である.
a^2+b^2=c^2\,が成り立つとき,\ (ka)^2+(kb)^2=(kc)^2\ (k:整数)も成り立つからである.
このような互いに素ではないピタゴラス数は本質的ではないので,\ 原始ピタゴラス数の性質を探る.
①\,~\,④の原始ピタゴラス数の倍数に関する性質を背理法で証明する問題が超頻出}である.
①\,~\,④から,\ abが12\,(=3・4)の倍数,\ abcが60\,(=3・4・5)の倍数}などもわかる.
なお,\ 3数が互いに素とは,\ 3数の最大公約数が1であることを意味する.
よって,\ 2数が互いに素ではない(6,\ 10,\ 15)のような3数であっても互いに素といえる.
a,\ b,\ cは,\ a^2+b^2=c^2\,を満たす自然数である.$
$このとき,\ a,\ bの少なくとも1つは3の倍数であることを示せ.$ \\
a,\ bがともに3の倍数でないと仮定}する.${a^2=3l+1,\ \ b^2=3m+1}\ \ (l,\ m:0以上の整数)\ とおける.$
$a^2+b^2=(3l+1)+(3m+1)=3(l+m)+2}$
$l+mは整数であるから,\ a^2+b^2\,を3で割ったときの余りは2}である.$
$一方,\ c^2\,を3で割ったときの余りは0または1}である.$
$これは,\ a^2+b^2=c^2\,であることに矛盾}する.$
a,\ bの少なくとも1つは3の倍数である.}$}
合同式の利用\,先に,\ 平方数を3で割ったときの余り(平方剰余)について調べる.
つまり,\nは3の倍数 \ ⇔\ n^2\,は3の倍数
nは3の倍数でない\ ⇔\ n^2\,は3で割ると1余る数
}を示すわけである.
場合分けはn=3k,\ 3k+1,\ 3k+2でもよいが,\ n=3k-1,\ 3k,\ 3k+1とすると計算が楽になる.
さらに,\ n=3k±1のときをまとめて記述することもできる.
さて,\ 本題は背理法}(結論の否定を仮定して矛盾を示す)を用いて示す.
ピタゴラス数の倍数に関する性質の証明では,\ 両辺の余りの不一致という矛盾を導く}ことになる.
「\,a,\ bの少なくとも1つは3の倍数」を否定すると,\ a,\ bはともに3の倍数でない}となる.
a,\ bが3の倍数でないならば,\ a^2\,とb^2\,を3で割ったときの余りはどちらも1である.
このことを文字を用いて設定して計算すると,\ (左辺)=a^2+b^2\,の余りが2}であるとわかる.
一方,\ (右辺)=c^2\,の余りは0か1}である(平方数の余りが2になることはない).
よって,\ (余り2)=(余り0または1)となり矛盾する}というわけである.
合同式を用いると,\ 簡潔かつ本質的な記述が可能である.
本問で証明したのは,\ 原始ではないピタゴラス数についての性質である.
原始ピタゴラス数(a,\ b,\ cが互いに素)なら,\ 「\,a,\ bのどちらか一方のみが3の倍数」が成り立つ.}
a,\ bの少なくとも1つが3の倍数を証明済みとし,\ a,\ bがともに3の倍数ではないことを示す.
\ \ \ a,\ bがともに3の倍数であると仮定すると,\ a=3k,\ b=3l\ (k,\ l:自然数)とおける.
\ \ \,このとき,\ c^2=9(k^2+l^2)よりc^2\,が9の倍数となるから,\ cは3の倍数である.
\ \ \,これは,\ a,\ b,\ cが互いに素であることに矛盾する.
a,\ b,\ cは,\ a^2+b^2=c^2\,を満たす自然数である.$
$このとき,\ a,\ b,\ c\,の少なくとも1つは5の倍数であることを示せ
本質的に前問と同じであるから,\ 合同式による解答のみ示す.
前問とは異なり,\ cも含めて少なくとも1つが5の倍数}であることが示される.
a,\ b,\ cがいずれも5の倍数でない場合,\ a^2,\ b^2,\ c^2\,を5で割ったときの余りは1か4である.
よって,\ a^2\,とb^2\,の余りの組合せは4通り考えられる.
4通りの組合せすべてを考慮すると,\ a^2+b^2\,の余りとして0,\ 2,\ 3の3種類ありえることがわかる.
結局,\ (余り0,\ 2,\ 3)=(余り1,\ 4)}となり,\ 矛盾する.
前問のようにcを含めずに議論した場合,\ (余り0,\ 2,\ 3)=(余り0,\ 1,\ 4)となり,\,矛盾とはいえない.
実際,\ 3^2+4^2=5^2\,のように,\ 「\,a,\ bの少なくとも一方が5の倍数」が成り立たない組が存在する.
原始ピタゴラス数ならば,\ 「\,a,\ b,\ cのどれか1つのみが5の倍数」が成り立つ.}\ 以下略証.
a,\ bがともに5の倍数であると仮定するとa=5k,\ b=5l\ (k,\ l:自然数)とおける.
c^2=25(k^2+l^2)よりcも5の倍数となり,\ a,\ b,\ cが互いに素であることに矛盾する.
よって,\ a,\ bはともに5の倍数ではない.\ 同様に,\ b,\ cとc,\ aもともに5の倍数ではない.
a,\ b,\ cは互いに素な自然数で,\ a^2+b^2=c^2\,を満たしている.$
$このとき,\ a,\ bの一方は偶数で他方は奇数であることを示せ.$ \\
{a,\ bがともに偶数でないと仮定}する.$a,\ b,\ cが互いに素であることに矛盾}する.$
∴ a,\ bの一方は偶数で他方は奇数である.}$} \\
2の倍数に関する性質の証明であるが,\ 4で割ったときの余りを考える}必要がある.
2で割ったときの余りを考えても,\ 余りの種類が少なすぎて矛盾を導けないのである.
pで割ったときの余りを考えて駄目な場合,\ p^k\,で割ったときの余りを考える}発想をもっておきたい.
余りの種類が増え,\ pで割ったときの余りについてより深く考察できる可能性がある.
まず,\
nは偶数\ ⇔\ n^2\,は4の倍数
nは奇数\ ⇔\ n^2\,は4で割ると1余る数
その後,\ 前問と同様,\ 少なくとも一方が2の倍数(偶数)であることを示す.
本問は原始ピタゴラス数の性質であり,\ さらにa,\ bの一方のみが偶数であることを示す必要がある.
偶奇性の証明であれば,\ わざわざa=2k,\ 2lなどと設定せずとも,\ この程度の記述で十分だろう.
$a,\ b,\ cは互いに素な自然数で,\ a^2+b^2=c^2\,を満たしている.$
$このとき,\ a,\ bの少なくとも1つは4の倍数であることを示せ.$ \\
前問より$a,\ b$の一方は偶数で他方は奇数であるから,\ $c$は奇数}である.
$一方,\ cは奇数}であるから,\ c^2≡1}\ ±od8\ である.$
$これは,\ a^2+b^2=c^2\,であることに矛盾}する.$
∴ a,\ bの一方は4の倍数である.}$}
最初に示した原始ピタゴラス数の性質のうち,\ 最も証明が厄介なのが4の倍数に関する性質である.
単純に2^2=4で割ったときの余りを考えても,\ 余りの種類が少なく矛盾を示せない.
偶奇性および2^3=8で割ったときの余りの両方を考慮する}方法が標準的である.
cが奇数であることを前提}として8で割ったときの余りを考えることで矛盾を示すことができる.
まず,\
\ nは4の倍数 & ⇔\ n^2\,は8の倍数
\ nは4で割ると2余る数 & ⇔\ n^2\,は8で割ると4余る数
\ nは奇数 & ⇔\ n^2\,は8で割ると1余る数
n≡0,\ 4±od8はnが4の倍数,\ n≡±\,2±od8はnが4で割ると2余る数を意味する.
n≡±\,1,\ ±\,3±od8はnが奇数を意味する.
cが奇数であることを考慮すると,\ (余り0,\ 2,\ 5)=(余り1)}となり,\ 矛盾する.
4で割ったときの余りで駄目ならば,\ 4^2=16で割ったときの余りを考えてみるのは自然である.
本解を知らない場合はこの方法になるだろう.\ 以下に略解を示しておく.
n≡0,\ ±\,4,\ 8±od{16}はnが4の倍数であることを意味する.
nが4の倍数のときn^2≡0±od{16},\ nが4の倍数でないときn^2≡1,\ 4,\ 9±od{16}である.
a,\ bがともに4の倍数でないと仮定すると
一方,\ c^2≡0,\ 1,\ 4,\ 9±od{16}であるから,\ a^2+b^2=c^2\,に矛盾する.a$を偶数,\ $b$を奇数としても一般性を失わない.
$l(l-1),\ k(k-1)$は連続2整数の積なので偶数}である.
$a^2$は8の倍数であるから,\ $a$は4の倍数}である.
∴ a,\ bの一方は4の倍数である.}\,a^2\,が8の倍数ならば,\ aが4の倍数」の証明を示す.
対偶「\,aが4の倍数でないならば,\ a^2\,が8の倍数でない」を示す