本項は上級者向けの内容です。
a^2+b^2=c^2\,を満たす互いに素な自然数の組(a,\ b,\ c)$を原始ピタゴラス数という.
自然数$m,\ n$が以下の3条件を満たすとする.
[2]\ \ $m,\ n$は互いに素
[3]\ \ $m,\ n$の一方は偶数で他方は奇数である
\scalebox{.94}[1]{このとき,\ $(a,\ b,\ c)=(m^2-n^2,\ 2mn,\ m^2+n^2)\ ・・・$\,(A)は原始ピタゴラス数である.}
逆に,\ すべての原始ピタゴラス数は(A)で表すことができる.} \\
原始ピタゴラス数の生成公式 \\
上級者用の定理である.\ 知識としてもっておくと,\ 問題の見通しがよくなることがある.
[\,(A)が原始ピタゴラス数であることの証明}\,]
$m>n$のとき,\ (A)は$a^2+b^2=c^2$を満たす自然数の組なので,\ ピタゴラス数である.
さらに,\ $a,\ b,\ c$が互いに素であることを示す.
$a=m^2-n^2=(m+n)(m-n)とb=2mn$が互いに素であることを示せば十分である.
[3]より$m+nとm-nは奇数}であるから,\ ともに2と互いに素}である.$
$mとm+nが素数p$を公約数にもつと仮定}する.
このとき,\ $m=pk,\ m+n=pl\ (k,\ l:自然数)$とおける.
$n=p(l-k)$より$n$も$p$の倍数となり,\ $m,\ n$が互いに素であること([2])と矛盾}する.
よって,\ $mとm+n$は互いに素}である.
同様にして,\ $n$と$m+n$,\ \ $m$と$m-n$,\ \ $n$と$m-n$\ もそれぞれ互いに素}である.
よって,\ $m^2-n^2\,と2mnは互いに素である.$
ゆえに,\ $m^2-n^2,\ 2mn,\ m^2+n^2}$は互いに素なので,\ (A)は原始ピタゴラス数である.}
3条件を満たす(m,\ n)を( A)に代入すると,\ 次々と原始ピタゴラス数を生成できる.
例えば,\ (m,\ n)=(2,\ 1),\ (3,\ 2)のとき,\ それぞれ(a,\ b,\ c)=(3,\ 4,\ 5),\ (5,\ 12,\ 13)である.
[2],\ [3]の条件がない場合,\ 原始ではない(互いに素ではない)ピタゴラス数が生成される.
例えば,\ (m,\ n)=(3,\ 1),\ (4,\ 2)のとき,\ それぞれ(a,\ b,\ c)=(8,\ 6,\ 10),\ (12,\ 16,\ 20)である.
これらは単に(3,\ 4,\ 5)をそれぞれ整数倍しただけのもので,\ 本質的なものではない.
“原始”ピタゴラス数を作り出すことが意義深い}のである.
( A)が(原始とは限らない)ピタゴラス数であることの証明は容易である.
a^2+b^2=c^2\,を満たすことを実際に計算して確認すればよいだけである.
(m^2-n^2)^2+(2mn)^2=(m^2+n^2)^2\,が成立している.
さらに,\ a,\ b,\ cが互いに素であることを示すことにより,\ 原始ピタゴラス数であることを示す.
ここで,\ 3数a,\ b,\ cが互いに素とは,\ 3数a,\ b,\ cの最大公約数が1ということである.
よって,\ a,\ b,\ cのうち2数が互いに素であれば,\ 自動的に3数も互いに素}といえる.
因数分解して積の形で表せるaとbが互いに素であることを示すのがよい.
互いに素の証明は,\ 素数を公約数にもつと仮定して矛盾を導く(背理法)}のであった.
[1],\ [2],\ [3]を満たし,\ かつ2mnが異なる値になるようなm,\ nの定め方は無限に存在する.
よって,\ 原始ピタゴラス数は無限に多く存在する.}
例えば,\ (m,\ n)=(3,\ 2),\ (3・5,\ 2),\ (3・5・7,\ 2)のように一方の素因数をいくらでも増やせる
[\,すべての原始ピタゴラス数が(A)で表せることの証明}\,]
互いに素な自然数$(a,\ b,\ c)$が$a^2+b^2=c^2$を満たしているとする.
$aとbが素数pを公約数にもつと仮定}すると,\ a=pk,\ b=pl\ (k,\ l:自然数)$とおける.
このとき,\ $c^2=a^2+b^2=p^2(k^2+l^2)$より,\ $c^2$は$p$の倍数となる.
さらに,\ $p$は素数なので$c$は$p$の倍数となり,\ $a,\ b,\ c$が互いに素であることに矛盾}する.
よって,\ $aとbは互いに素である.\ 同様にして,\ bとc,\ cとaもそれぞれ互いに素である.$
つまり,\ $a,\ b,\ c$はどの2つも互いに素}である.
$aとbがともに奇数であると仮定}すると a^2+b^2≡2,\ \ c^2≡0\ ±od4$
$a^2+b^2=c^2$であることに矛盾}するから,\ $aとbの一方は偶数で他方は奇数}である.$
以上から,\ $aを奇数,\ bを偶数,\ cを奇数}$としても一般性は失われない.
$a^2+b^2=c^2$より $b^2=c^2-a^2=(c+a)(c-a)$
$a,\ c$は奇数なので,\ $c+a,\ c-a$はともに偶数である.
よって,\ $c+a=2s,\ \ c-a=2t,\ \ b=2u\ (s,\ t,\ u:自然数,\ s>t)$}とおける.
これを$a,\ b,\ c$について解くと $a=s-t,\ \ b=2u,\ \ c=s+t$
$a^2+b^2=c^2$より $(s-t)^2+(2u)^2=(s+t)^2$ よって $u^2=st}$
$sとtが素数pを公約数にもつと仮定}すると,\ s=pk,\ t=pl\ (k,\ l:自然数)とおける.$
$a=s-t=p(k-l),\ c=s+t=p(k+l)$より,\ $aとc$が互いに素であることと矛盾}する.
よって,\ $s,\ t$は互いに素であり,\ $u^2=st$より$s,\ t$はともに平方数}である.
$s=m^2,\ t=n^2\ (m,\ n:互いに素な整数,\ m>n)}$とおけ,\ このとき$u=mn$となる.
ゆえに $a=m^2-n^2,\ \ b=2mn,\ \ c=m^2+n^2}$
$m,\ n$がともに奇数であると仮定}すると,\ $m^2-n^2,\ 2mn,\ m^2+n^2$はすべて偶数となる.
これは,\ $a,\ b,\ c$が互いに素であることと矛盾}する.
よって,\ $m,\ nの一方は偶数で他方は奇数}である.$
細かい部分まで丁寧に示したので長くなったが,\ 特に重要なのは後半である.
まず,\ 原始ピタゴラス数であれば,\ a,\ b,\ cのどの2つも互いに素}であることを示した.
後に,\ aとb,\ aとcが互いに素であることを利用する.
pが素数のとき,\ 「\,c^2\,がpの倍数」ならば「\,cがpの倍数」が成り立つ.
例えば,\ c^2\,が4の倍数だからといって,\ cが4の倍数は成り立たない(c=2).
公約数を2以上の自然数ではなく素数として仮定することが重要である.
次に,\ aとbの一方は偶数で他方は奇数である}ことを示す(前項で詳しく示したのでここでは略証).
a,\ b,\ cはどの2つも互いに素であるから,\ a,\ bがともに偶数となることはない.
よって,\ a,\ bがともに奇数となることがないことを示せばよい.
平方数を4で割ったときの余りを考えることにより矛盾を導く}のであった.
ここからが本題である.\ \ a^2+b^2=c^2\,から(a,\ b,\ c)=(m^2-n^2,\ 2mn,\ m^2+n^2)を導く.
a,\ b,\ cの偶奇性に着目}して自分で文字を設定し,\ その文字の条件を追求する.
u^2=stが導かれるので,\ s,\ tは互いに素}である(共通の素因数をもたない)ことを示す.
これにより,\ 積stが平方数のときs,\ tがともに平方数}といえる(素因数分解の一意性).
例えば,\ st=36のとき,\ s=t=6は平方数ではない.
s,\ tが互いに素ならば,\ (s,\ t)=(1,\ 36),\ (4,\ 9)のようにs,\ tがともに平方数となる.
平方数をそれぞれ文字で設定すると,\ 目的の式が導かれる.\ \
さらに,\ m,\ nの一方は偶数で他方は奇数}であることを示す.
m,\ nは互いに素であるから,\ ともに偶数となることはない.
よって,\ m,\ nがともに奇数となることがないことを示せばよい.