オイラーの不等式の三角比・三角関数を利用する別解はこちら。
別項で扱ってきた多くの不等式の背景にはムーアヘッドの不等式がある.
本来のムーアヘッドの不等式は複雑なので(高校範囲外),\ 本項では具体例のみを示す.
ムーアヘッドの不等式は,\ 「対称式は指数が偏っているほど大きい」ことを主張する.
前提として,\ $a>0,\ b>0,\ c>0$である.
等号成立条件は,\ 2変数ならば$a=b$,\ 3変数ならば$a=b=c$である.
a^4+b^4≧ 2a^2b^2$ & $(a^2-b^2)^2≧0$a^4+b^4≧ a^3b+ab^3$ & $(a-b)^2(a^2+ab+b^2)$a^2+b^2+c^2≧ ab+bc+ca${a^2b+ab^2+b^2c+bc^2+c^2a+ca^2≧6abc}$ (本項メインa^3+b^3+c^3≧3abc$ & (別項で証明済)$a^4+b^4+c^4≧ abc(a+b+c)$a+b≧2√{ab}$ & $(相加平均)≧(相乗平均)$ $a+b+c≧3√[3]{abc}$ & $(相加平均)≧(相乗平均)$
記号の意味が次になるが,\ わかりづらいので具体例で理解するのがよいだろう.
[α,\ β,\ γ]=(a^{α}b^{β}c^{γ}\,のa,\ b,\ cを入れ替えてできるものすべての和)
具体例を示すが,\ a^0=1,\ \ a^{-1}=1a,\ \ a^{12}=√[2]{a}=√ a,\ \ a^{13}=√[3]{a}\ \ (後に学習)に注意する.
[4,\ 0]=a^4b^0+b^4a^0=a^4+b^4, [2,\ 2]=a^2b^2+b^2a^2=2a^2b^2
4+0=2+2なので,\ 指数の偏りが大きい[4,\ 0]の方が大きくなるというわけである.
[2,\ 0,\ 0]=a^2b^0c^0+a^2c^0b^0+b^2a^0c^0+b^2c^0a^0+c^2a^0b^0+c^2b^0a^0=2(a^2+b^2+c^2)
[1,\ 1,\ 0]=a^1b^1c^0+a^1c^1b^0+b^1a^1c^0+b^1c^1a^0+c^1a^1b^0+c^1b^1a^0=2(ab+bc+ca)
[1,\ 1,\ 1]=a^1b^1c^1+a^1c^1b^1+b^1a^1c^1+b^1c^1a^1+c^1a^1b^1+c^1b^1a^1=6abc
[2,\ 1,\ 1]=a^2b^1c^1+a^2c^1b^1+b^2a^1c^1+b^2c^1a^1+c^2a^1b^1+c^2b^1a^1=2abc(a+b+c)
本項では,\ 以下の問題で[2,\ 1,\ 0]≧[1,\ 1,\ 1]を証明する.\ これも入試最頻出の不等式である.
$a,\ b,\ c$を正数とするとき,\ 次の不等式が成り立つことを示せ. a^2b+ab^2+b^2c+bc^2+c^2a+ca^2≧6abc$ $(a+b)(b+c)(c+a)≧8abc$
(1)\ \ $a^2b+ab^2+b^2c+bc^2+c^2a+ca^2-6abc$
$=a(b^2-2bc+c^2)+b(c^2-2ca+a^2)+c(a^2-2ab+b^2)$
$=a(b-c)^2+b(c-a)^2+c(a-b)^2≧0}$
∴\ \ a^2b+ab^2+b^2c+bc^2+c^2a+ca^2≧6abc}$}
a^2b>0,\ bc^2>0,\ b^2c>0,\ ca^2>0,\ c^2a>0,\ ab^2>0}$より
{辺々を足す
対称性を生かして平方完成する}のが高校生の標準解法だが,\ 初見では厳しいので経験を要する.
b-c=0\ かつ\ c-a=0\ かつ\ a-b=0,\ つまりa=b=c}のとき等号が成立する.
別解1は,\ 相加平均と相乗平均の関係\ a>0,\ b>0のとき\ a+b≧2√{ab\ を用いるものである.
右辺にabcができるように上手く組み合わせて適用}し,\ 3式の辺々を足し合わせると証明できる.
a^2b=bc^2\ かつ\ b^2c=ca^2\ かつ\ c^2a=ab^2,\ つまりa=b=c}のとき等号が成立する.
さらに,\ 3変数の相加平均と相乗平均の関係\ a+b+c≧3√[3]{abc\ の利用も可能である(別解2).
a^2b=b^2c=c^2a\ かつ\ ab^2=bc^2=ca^2,\ つまりa=b=c}のとき等号が成立する.
a,\ b,\ cが正数のとき a^2b=b^2c=c^2a\ ⇔\ a^2=bc\ かつ\ b^2=ca\ ⇔\ a^2}{b}=c\ かつ\ b^2}{a}=c
a,\ b,\ cが正数のとき a^2b=b^2c=c^2a}\ ⇔\ a^2}{b}=b^2}{a}\ ⇔\ a^3=b^3\ ⇔\ a=b
実は6変数の相加相乗で一発なのだが,\ 無断使用するのは3変数までにしておくのが無難である.
a^2b+a^2c+ab^2+ac^2+b^2c+bc^2-6abc
各括弧内に相加平均と相乗平均の関係を適用し,\ 辺々を掛ける}と導かれる.
3式は両辺が正であるから,\ 辺々を掛けても不等号の向きが変わらない.}
3つの相加相乗の等号成立条件は,\ それぞれa=b,\ b=c,\ c=aである.
よって,\ (a+b)(b+c)(c+a)≧8abcの等号成立条件はa=b=c}である.
(1)では,\ 文字を循環させた3式の辺々を足して不等式を2変数から3変数に拡張した.
本問のように,\ 辺々を掛けて拡張することもできるわけである.
ちなみに,\ 本問の3式を足した場合1が導かれる.
これは,\ [1,\ 0,\ 0]≧\left[12,\ 12,\ 0\right]である.
①においてa\,→\,a^2,\ b\,→\,b^2,\ c\,→\,c^2\,と置換すると,\ 超頻出不等式\ a^2+b^2+c^2≧ ab+bc+ca\ となる.
実は,\ 展開すると[2,\ 1,\ 0]≧[1,\ 1,\ 1]の証明に帰着}する(別解).
つまり,\ (1)と(2)は実質同じ不等式である.
両辺に$abc\ (>0)$を掛けた$bc(b+c)+ca(c+a)+ab(a+b)≧6abc$を証明する.
$bc(b+c)+ca(c+a)+ab(a+b)-6abc$
$=b^2c+bc^2+c^2a+ca^2+a^2b+ab^2-6abc}$
右辺が定数になるように上手く組み合わせて相加相乗を適用し,\ 辺々を足す.}
本解 ab= ba\ かつ\ bc= cb\ かつ\ ca= ac,\ つまりa=b=c}のとき等号が成立する.
別解1 ab= bc= ca\ かつ\ ba= cb= ac,\ つまりa=b=c}のとき等号が成立する.
分母をはらって展開すると[2,\ 1,\ 0]≧[1,\ 1,\ 1]の証明に帰着}する(別解2).
勘のいい学生は「もしかして」と思ったかもしれないがその通りである.
実は,\ (1)から(5)は同じ不等式の別表現である.
入試では(1)の表現で出題されることはほぼなく,\ (2)~(5)の表現で登場し,\ 相加相乗で証明する.
コーシー・シュワルツの不等式より
分数のまま展開すると(3),\ 展開せずに分母をはらうと(5),\ 展開して分母をはらうと(1)に帰着する.
ここでは,\ 元の表現のままで証明する方法を示した.
a=b=c\ かつ\ 1a=1b=1c,\ つまりa=b=c}のとき等号が成立する.
コーシー・シュワルツの不等式を利用することも可能である(別解).
→a=(a,\ b,\ c),\ →b=(x,\ y,\ z)とすると,\ →a}^2→b}^2≧(→a・→b)^2\ であるから
(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)≧(ax+by+cz)^2}
→a∥→b,\ つまりa:b:c=x:y:z}のとき等号が成立する.
a:b:c=1:1:1
展開すると(1)に帰着するが,\ 元の表現のままで証明する方法を示した.
a=b=c\ かつ\ ab=bc=ca,\ つまりa=b=c}のとき等号が成立する.
コーシー・シュワルツの不等式を適用する場合,\ 積がabcになるように組み合わせる}必要がある. 三角形の3辺の長さを$a,\ b,\ c$とするとき,\ 次の不等式が成り立つことを示せ.
$abc≧(-\,a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)$ (レムスの不等式)
三角形の成立条件は {b+c>a,\ \ c+a>b,\ \ a+b>c}$
よって $-\,a+b+c>0,\ \ a-b+c>0,\ \ a+b-c>0$
$-\,a+b+c=2x},\ a-b+c=2y},\ a+b-c=2z}$とおくと
$x+y=c,\ y+z=a,\ z+x=b$なので $(y+z)(z+x)(x+y)≧2x}・2y}・2z}=8xyz$
「三角形の3辺の長さがa,\ b,\ c」という条件をどのように扱うかが本問の肝である.
この条件は,\ 三角形の成立条件として数式で表現することができる.}
すると,\ 3つの不等式条件のもとで与不等式を証明すればよいということになる.
しかし,\ 3つの不等式条件が複雑すぎてこのままでは非常に扱いづらい.
そこで,\ 置き換えによってx>0,\ y>0,\ z>0という扱いやすい条件に変換する.}
結果として,\ a=y+z,\ b=z+x,\ c=x+y}とおいたことになる.\ これをRavi変換}という.
-\,a+b+c=xのようにおいても本質的に同じである.\ この場合はx+y=2cとなる.
結局,\ (a+b)(b+c)(c+a)≧8abc}の証明に帰着する.
等号成立条件はx=y=z,\ つまり-a+b+c=a-b+c=a+b-cよりa=b=c}である.
余力のある学生は以下も確認しておいてほしい.
三角形の3辺の長さを$a,\ b,\ c$,\ 面積を$S$,\ 外接円の半径を$R$,\ 内接円の半径を$r$とする.
レムスの不等式の応用として,\ 幾何の重要不等式オイラーの不等式)を導く.三角形の複数の面積公式}を駆使することになる.
正弦定理より$c}{\sin C}=2R$なので\ \
よって $S^2=(a+b+c)(-\,a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)}{16}$
ゆえに $16S^2}{a+b+c}=(-\,a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)$ {abc≧(-\,a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)}$を証明すればよい.
すなわち,\ レムスの不等式の証明に帰着する.