前項では,\ 以下のコーシー・シュワルツの不等式の証明を示した.
[1]\ \ $(a^2+b^2)(x^2+y^2)≧(ax+by)^2$ 等号成立条件\ $a:b=x:y$
[2]\ \ $(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)≧(ax+by+cz)^2$
等号成立条件\ $a:b:c=x:y:z$
本項では,\ このコーシー・シュワルツの不等式が役立つ問題を紹介する.
相加平均と相乗平均の関係と同様に,\ 主に不等式の証明や最大・最小問題で役立つ.
ただし,\ 相加相乗とは異なり,\ 記述試験で無断使用してよいかは微妙である.
a,\ b,\ c$を実数とするとき,\ 次の不等式が成り立つことを示せ.
(1)\ \ $3(a^2+b^2+c^2)≧(a+b+c)^2$
(1)\ \ コーシー・シュワルツの不等式より \$3(a^2+b^2+c^2)-(a+b+c)^2$
$=3a^2+3b^2+3c^2-(a^2+b^2+c^2+2ab+2bc+2ca)$
$=(a^2-2ab+b^2)+(b^2-2bc+c^2)+(c^2-2ca+a^2)$
$=(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2≧0}$
∴\ \ 3(a^2+b^2+c^2)≧(a+b+c)^2}$}
よって $(a^2+b^2+c^2)^2≧(ab+bc+ca)^2$
$a^2+b^2+c^2≧0$より $a^2+b^2+c^2≧ab+bc+ca}$
ここで $ab+bc+ca}≧ ab+bc+ca$
∴\ \ a^2+b^2+c^2≧ ab+bc+ca}$} \\
$(a^2+b^2+c^2)-(ab+bc+ca)$
$=12\{(2a^2+2b^2+2c^2)-(2ab+2bc+2ca)\}$
$=12\{(a^2-2ab+b^2)+(b^2-2bc+c^2)+(c^2-2ca+a^2)\}$
$=12\{(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2\}≧0}$
∴\ \ a^2+b^2+c^2≧ ab+bc+ca}$} \\
コーシー・シュワルツの不等式(以下CS}不等式)の本質は,\
よって,\ 式中に2乗の和や内積\,→a・→b\,とみなせる部分があることがCS}不等式利用の目安}になる.
(1)\ \ これまでにも別項で繰り返し扱ってきた有名不等式である.
\ \ a+b+cを\,→a=(a,\ b,\ c)と→b=(1,\ 1,\ 1)の内積}とみなせば,\ CS}不等式そのものである.
\ \ 等号成立条件はa:b:c=1:1:1},\ つまりa=b=c}である.
\ \ 和はすべて内積とみなせるが,\ 何と何の内積とみなすべきかは一定の経験が必要だろう.
\ \ CS}不等式の利用以外でも,\ 和を内積とみなすことが効果的である場面は思いの外多い.
\ \ 例えば,\ 直線の式2x+3y=0は,\ →a=(2,\ 3),\ →b=(x,\ y)とすると,\ →a・→b=0と表せる.
\ \ ベクトルを学習すると,\ この視点がいかに重要であるかを理解できる.
\ \ 内積を知らなくてもCS}不等式を適用できるが,\ 記述試験で無断使用するのは少し怖い.
\ \ 内積の認識があれば,\ 以下のように記述してCS}不等式の無断使用というリスクを避けられる.
\ \ CS}不等式は,\ 以下のように差を計算して証明することができた.
\ \ (a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)-(ax+by+cz)^2=(ay-bx)^2+(bz-cy)^2+(cx-az)^2≧0
\ \ よって,\ CS}不等式を利用して証明できるならば,\ 差を計算して証明することもできる(別解).
(2)\ \ 別解からわかるように,\ (1)と本質的に同じ問題である.
\ \ →a=(a,\ b,\ c),\ →b=(b,\ c,\ a)}としてCS}不等式を適用すると導かれる.
\ \ 2乗をはずすとき,\ X≧0,\ Y≧0のとき\ X^2≧ Y^2\ ⇔\ X≧ Y\ に注意が必要である.
\ \ X≧0,\ Y≧0の保証がない場合,\ X^2≧ Y^2\ ⇔\ X≧ Y}\ となる.
\ \ 常に\, A≧ A}であることも利用すると証明できる(Aが何であれ\, A0であるから,\ 両辺に掛けたり割ったりしても不等号の向きが変わらない.
「x,\ y,\ zは正数」という条件があるので,\ √ x,\ √ y,\ √ z\,としてよいわけである.
等号成立条件は$a,\ b,\ c,\ x,\ y,\ zは正数とする.$ $a+b+c=1のとき,\ √{ax+by+cz}≧ a√ x+b√ y+c√ z$が成り立つことを示せ.
コーシー・シュワルツの不等式より
√{和}≧√{ }の和}\ を考えるときにもCS}不等式が有効であることが多く,\ 適用の1つの目安である. としてCS}不等式を適用する.
その後,\ X≧0,\ Y≧0のとき\ X^2≧ Y^2\ ⇔\ X≧ Y}\ を利用する.
等号成立条件は{x=y=z}
特にa=b=c=13\,とすると √{3(x+y+z)}≧√ x+√ y+√ z
さらに\,√ x=X,\ √ y=Y,\ √ z=Z\,とおいて両辺を3で割ると √{X^2+Y^2+Z^2}{3≧X+Y+Z}{3}
これは,\ 3変数の\ (2乗平均)≧(相加平均)\ である.
根号を含む不等式であるから,\ 両辺の2乗の差を計算して証明することもできる(別解).
ここで,\ 等式条件つきの不等式の証明では,\ 同次化}の考え方が有効なのであった.
(√{ax+by+cz}\,)^2=ax+・・・\,は2次式,\ (a√ x+b√ y+c√ z\,)^2=a^2x+・・・\,は3次式である.
2次式(√{ax+by+cz}\,)^2\,に1次式a+b+c=1をかけることで,\ すべての項が3次になる.}
すると,\ 対称性を生かして平方完成することができる.
$x,\ y,\ zは実数,\ x+2y+3z=1\ のとき,\ x^2+y^2+z^2\ の最小値を求めよ.$ \\
1乗の和が一定のもとで2乗の和の最小値を求める}ときはCS}不等式の出番である.
→a=(x,\ y,\ z),\ →b=(1,\ 2,\ 3)}\ としてCS}不等式を適用する.
x^2+y^2+z^2≧1}{14}\,となるが,\ 直ちに最小値\,1}{14}\,と答えてはならない.
「1}{14}\,以上」は「最小値\,1}{14}」をも意味するわけではないからである.
仮に最小値2であったとしても,\ それは「1}{14}\,以上」である.
「1}{14}\,以上\ かつ\ =1}{14}\,になりうる実数x,\ y,\ zが存在する」}で初めて「最小値\,1}{14}」とできる.
最大・最小問題でCS}不等式を利用するとき,\ 等号成立条件の確認が必須}なのである.
x:y:z=1:2:3よりx=k,\ y=2k,\ z=3kとおけ,\ k+4k+9k=1より\ \ k=1}{14}
x,\ y,\ zは実数,\ x^2+2y^2+4z^2=1\ のとき,\ x+2y+3z\ の最大値と最小値を求めよ
2乗の和が一定のもとで1乗の和の最大・最小を求める}ときもCS}不等式の出番である.
少し難しいが,\ まずx^2+2y^2+4z^2=1をx^2+(√2y)^2+(2z)^2=1}とみなして\,→a\,が決まる.
→a\,との内積がx+2y+3zになるように,\ つまり積が(x,\ 2y,\ 3z)}になるように\,→b\,を定めればよい.