当ページは、極限カテゴリと微分カテゴリの両方に属しています。
当ページの内容は、数Ⅲ微分法の基本計算を学習済みであることが前提となります。

数十年も前から多くの受験生に愛されてきた受験数学最大最強の裏技ロピタルの定理.
裏技といえばロピタル. ああ, 愛しのロピタル, あなたはどうしてロピタルなの?
lim f(x)/g(x)=lim f′(x)/g′(x)
この定理?は, 分母と分子をそれぞれ微分してから極限にとばしてよいことを意味している.
多くの参考書でも取り上げられており, 知っている学生も多いことだろう.
次のような極限をあっさりと求めることを可能にする極めて強力な定理?である.
しかし, 残念ながら証明が高校範囲を超えるので大学入試では裏技扱いとなる.
その結果, 次のような質問や噂が後を絶たない.
「ロピタルの定理は記述試験で無断使用できますか?」「ロピタルの定理を使うと減点」
以下に, 個人的な見解を理由も含めて示す.
まず, すべての大学・学部に共通する一律の採点基準など存在しない.
絶対評価が主な定期試験や模試とは異なり, 選抜試験である実際の入試は相対評価になる.
同じ解答であっても, 他の受験生の出来次第で評価・点数が変わってくる可能性がある.
故に, 採点基準に関するどんな質問にも「わからない. 場合による」としか答えようがない.
当然, 「ロピタルの定理は無断使用できますか?」という質問にも同じ答えとなる.
それでも気になって仕方がない人のため, わからないなりに考えてみることにする.
大学入試の採点はプロの数学者が行う. 彼らが次のような立場をとるとは考えにくい.
「大学で習う定理を勝手に使いやがって!生意気だ!減点してやれ!」
むしろ, 「高校生なのにスゴイ!是非ウチの大学に!」となるのが普通ではないか.
ましてや, 一旦別の大学を出てから再び大学に入り直そうとする人も存在する.
そのような受験生に対して, 次のような要求をするのはあまりにも馬鹿げている.
「大学入試では別の大学で習ったことは忘れて高校範囲内で記述せよ」
以上から, 高校範囲外の知識を用いたという理由だけで減点される可能性は低いと考える.
しかし, 多くの教師や書籍が「高校範囲外の知識を記述試験で使うな」と主張する.
なぜだろうか. 1つは,高校範囲外の知識は正しく使うことが思いの外難しいからである.
一般に,適用条件がある定理・法則は, その確認なしに用いると減点対象になる.
例えば, 次のような答案は減点される可能性がある.
] {教科書等にはと書いてあるはずである.}
太字にもなっておらず目立たないかもしれないが, 絶対に書いてあるはずである.
記述試験では と書くべきなのである.
高校で学習する公式や定理には, このように適用条件があるものが以外と多い.
a≠0, b≠0 については, 明らかな場合は記述なしでも許されるかもしれない.
しかし, 例えば a+b/2≧√(ab) は, a>0, b>0 の確認なしに用いるとほぼ100%減点だろう.
今まで適用条件を軽視していた人は, 本番までにすべての公式や定理を見直す必要がある.
実は, 最初に示したのはロピタルの定理ではない. 以下に示すのがロピタルの定理である.
{関数 f(x), g(x) が x=a を含むある区間 I で連続である.}
{区間 I の x≠a で微分可能かつ g′(x)≠0 である.}
③ lim(x→a) f(x)=lim(x→a) g(x)=0 または ±∞. 00 または ∞/∞ の不定形である.
④ lim(x→a) f′(x)/g′(x)=A (−∞≦A≦∞) が存在する.
maru1〜④を満たすとき
lim(x→a) f(x)/g(x)=lim(x→a) f′(x)/g′(x)=A
※ lim(x→±∞), lim(x→a±0) の場合にも成り立つ.
※ ④を満たす限り, 不定形が解消されるまで繰り返し適用することができる.
他の定理と同様, ロピタルの定理も適用条件の確認なしに用いると減点は免れないだろう.
特に, 適用条件を満たさない極限に適用してしまった場合には減点では済まない.
試験で登場する関数はほぼ①と②の条件を満たすので, 注意すべきなのは③と④である.
ロピタルの定理より
lim(x→∞) sin x/x = lim(x→∞) (sin x)′/(x)′ = lim(x→∞) cos x/1 = (極限なし)
lim(x→∞) sin x/x は 00, ∞/∞ の不定形ではないので, ロピタルの定理を適用してはならない.
○ −1/x≦sin x/x≦1/x (x>0) であるから, はさみうちの原理より lim(x→∞) sin x/x =0.
lim(x→∞) (x+sin x)/x は, ∞/∞ の不定形であるから, 適用条件③を満たす.
× ロピタルの定理より
lim(x→∞) (x+sin x)/x = lim(x→∞) (x+sin x)′/(x)′ = lim(x→∞) (1+cos x)/1 = (極限なし)
○ lim(x→∞) (x+sin x)/x = lim(x→∞) (1+sin x/x) = 1+0 = 1
ロピタルの定理は, lim(x→∞) f′(x)/g′(x) が存在するならば, lim(x→∞) f(x)/g(x) も等しいことを主張する.
lim(x→∞) f′(x)/g′(x) が存在しない場合は判別不能なのである. ロピタルの定理の限界である.
lim(x→0) sin x/x は, 0/0 の不定形で, また, lim(x→0) f′(x)/g′(x)=lim(x→0) cos x/1=1 が存在する.
× ロピタルの定理より
lim(x→0) sin x/x = lim(x→0) (sin x)′/(x)′ = lim(x→0) cos x/1 = 1
(sin x)′=cos x は, lim(x→0) sin x/x = 1 を用いて導かれている.
よって, lim(x→0) sin x/x を求めるときに (sin x)′=cos x を用いると循環論法になってしまう.
lim(x→0) (sin x − tan x)/x³ は頻出の極限で, 0/0 の不定形である.
分母が x³ なので, 3 回ロピタルの定理を適用すると不定形が解消されそうである.
lim(x→0) (sin x − tan x)/x³
= lim(x→0) (sin x − tan x)′/(x³)′
= lim(x→0) (cos x − 1)/(3x² cos²x)
lim(x→0) (sin x − tan x)/x³
= lim(x→0) (cos x − 1)/(cos²x)′/(3x²)′
= lim(x→0) (−sin x − 2 sin x)/(cos³x·6x)
lim(x→0) (sin x − tan x)/x³
= lim(x→0) (−cos x − 2(1+2 sin²x))/(cos⁴x·6)
= −12
ロピタルの定理を適用しても常に簡単になるとは限らず, 実戦的に有効かは別問題である.
本問は少し工夫するとかなり楽になるが, それでも正攻法の方が楽である.
ロピタルの定理を紹介している参考書では, 例題として定理が有効な問題だけを載せている.
その結果, 多くの学生がロピタルの定理を過大評価してしまいがちである.
問題作成者は, 当然ながら全てを知っているはずである.
ロピタルの定理の全貌, その落とし穴・盲点・限界, 受験の裏技として有名なこと, etc.
そんな問題作成者が, 「分母分子の微分で瞬殺!満点!」みたいな問題を出題するだろうか.
淡い期待をしている暇があれば, 真っ当に高校数学を学習しておくべきなのは明らかである.
また, 採点官は通常, 「高校生だしこれくらいは大目に見よう」という姿勢で採点している.
そんな中で大学の知識を用いた答案を見かけた場合, 採点官にはどう映るだろうか.
「ほう…大学の知識か…ではこちらもそれなりの心構えで採点させてもらおう…」
大学の知識を使うことは, 自ら採点のハードルを上げかねない愚かな行為なのである.
かなり長くなったので, そろそろまとめに入ることにする.
大学の知識は, 無断使用であってもなくても, その使用リスクはあまりに甚大である.
とてもではないが記述試験での積極利用を推奨できるものではない.
リスクを回避して記述できるくらいの受験生ならば, 正攻法で解くこともできるだろう.
そのような受験生がわざわざリスクを背負ってまで大学の知識を用いる必要性は全くない.
ロピタルの定理を含め, 裏技は所詮裏技でしかなく, 表技にはなり得ないのである.
最後に, 裏技としてのロピタルの定理の位置づけも考えておく.
まず, なんだかんだでロピタルの定理の適用範囲はかなり広い.
試験で出題される多くの極限が 0/0, ∞/∞ の不定形である.
それ以外の不定形も, 以下のように変形するとロピタルの定理を適用できる.
0×∞ = (1/0)×∞ = (1/∞)×∞ = ∞/∞
or
0×∞ = 0×(1/∞) = 0×0 = 0/0
∞₁−∞₂ = (1/1/∞₁) − (1/1/∞₂) = (1/∞₂) − (1/∞₁)
= (1/∞₁)·(1/∞₂) = 0−0 = 0/0
∞⁰ は log をとると
log(∞⁰)=0×log∞=0×∞=…=∞/∞ or 0/0
0⁰, 1^∞ も同様.
入試では, 白紙だけは死んでも避けなければならない.
よって, 白紙を防ぐ最終手段としてならば, ロピタルの定理はかなり有効である.
もちろん, マーク式試験や検算では利用し放題である.
正攻法で求めるにしても, あらかじめ見当がついているか否かの差は大きい.
その他, 漸近線を求める場合には途中過程の記述が必要ない場合もある.
これらを総合的に考慮すると, 受験数学最強の裏技という位置づけはやはり揺るぎない.
受験生は, ロピタルの定理を知識として持っておくべきであると考える.
記述試験で使わざるを得ない場合は, 丁寧に記述し, 減点のリスクを最小限に留める.
}次の極限値を求めよ
(1) lim(x→0) sin2x/(x+sin x)
(2) lim(x→0) (e^x − e^(−x))/x
(3) lim(x→0) (cos5x − cos2x)/x²
(4) lim(x→∞) x²/e^(2x)
(5) lim(x→∞) log(2x+3)/log(3x+1)
(6) lim(x→+0) x² log x
(7) lim(x→0) (sin x − tan x)/x³
(1) f(x)=sin2x, g(x)=x+sin x とすると, f(x), g(x) は微分可能な関数である.
(1) f′(x)=2cos2x, g′(x)=1+cos x であり, x=0 の近くで g′(x)≠0 である.
(1) lim(x→0) f(x)=lim(x→0) sin2x=0, lim(x→0) g(x)=lim(x→0) (x+sin x)=0
(1) また lim(x→0) f′(x)/g′(x)=lim(x→0) 2cos2x/(1+cos x)=2·1/(1+1)=1
∴ ロピタルの定理より lim(x→0) sin2x/(x+sin x)=lim(x→0) 2cos2x/(1+cos x)=1
f(x)=sin2x, g(x)=x+sin x とすると f′(x)=2cos2x, g′(x)=1+cos x
また f(0)=0, g(0)=0 より f(x)=f(x)−f(0), g(x)=g(x)−g(0)
∴ g′(0)≠0 より lim(x→0) sin2x/(x+sin x)=lim(x→0) {f(x)−f(0)}/{x−0} · {x−0}/{g(x)−g(0)}=f′(0)/g′(0)=2·1/(1+1)=1
lim(x→0) sin2x/(x+sin x)=lim(x→0) {2sin x cos x}/{x+sin x}=lim(x→0) {2·(sin x/x)·cos x}/{1+ (sin x/x)}=2·1·1/(1+1)=1
定理の適用条件に沿って, 丁寧に解答を作ると本解のようになる.
初等関数がすべての x で連続・微分可能であることは自明としてもよいだろう.
分子と分母の極限が 0/0 の不定形であることと, lim(x→0) f′(x)/g′(x) の存在を確認してから適用する.
実は, lim(x→a) f(x)/g(x) が 0/0 の不定形かつ g′(a)≠0 を満たす場合, 強力な記述法が存在する (別解1).
ロピタルの定理の特殊な場合であるが, この場合に限ると次のように容易に証明できる.
f(a)=g(a)=0 より lim(x→a) f(x)/g(x)=lim(x→a) {f(x)−f(a)}/{g(x)−g(a)}
= lim(x→a) {f(x)−f(a)}/{x−a} · {x−a}/{g(x)−g(a)}=lim(x→a) f′(x)/g′(x)=f′(a)/g′(a)
この証明に沿って記述することで, 高校範囲の記述で事実上ロピタルの定理を使うことが可能になる.
同じ適用条件でどうしてもロピタルの定理を使いたい場合, この記述が圧倒的にオススメである.
2 つ目の別解が正攻法である. 繰り返すが, 真に最強なのは真っ当な学習である.
以下, 答えのみでよい場合の解答を示す.
(2) lim(x→0) (e^x−e^(−x))/x=lim(x→0) (e^x+e^(−x))/1=2e^0=2
(3) lim(x→0) (cos5x−cos2x)/x²=lim(x→0) (−5sin5x+2sin2x)/(2x)=lim(x→0) (−25cos5x+4cos2x)/2
(1) lim(x→0) (cos5x−cos2x)/x²=−21/2 [0/0 の不定形]
(4) lim(x→∞) x²/e^(2x)=lim(x→∞) 2x/(2e^(2x))=lim(x→∞) 2/(4e^(2x))=0
∞/∞ の不定形である. 一度微分してもまだ ∞/∞ の不定形なので, もう一度微分する.
なお, 関数の発散速度が log x≪x^n≪a^x であることは暗記しておくべきである.
すると, lim(x→∞) log x/x^n=0, lim(x→∞) x^n/a^x=0 などの極限は瞬時にわかる.
つまり, 答えだけでよいのならば, そもそもロピタルの定理の出る幕ではない.
(5) lim(x→∞) log(2x+3)/log(3x+1)=lim(x→∞) {2/(2x+3)}/{3/(3x+1)}=lim(x→∞) (2/3)·{3x+1}/{2x+3}
= (2/3)·(3/2)=1 [∞/∞ の不定形]
(6) lim(x→+0) x² log x=lim(x→+0) {log x}/{1/x²}=lim(x→+0) {(1/x)}/{−2/x³}=lim(x→+0) (−1/2) x²=0
0×∞ の不定形なので, 0×∞=(1/0)×∞=(1/∞)×∞=∞/∞ と変形した.
もっとも, 発散速度 log x≪x² より, lim(x→+0) x²=0 が lim(x→+0) log x=−∞ に勝つ.
つまり, 答えだけでよいのならば, そもそもロピタルの定理の出る幕ではない.
(7) lim(x→0) (sin x−tan x)/x³=lim(x→0) {(cos x−1)}/{cos²x·3x²}=lim(x→0) {(cos³x−1)}/{3x²} · lim(x→0) 1/cos²x
(7) lim(x→0) (sin x−tan x)/x³=lim(x→0) {−3cos²x sin x}/{6x} · 1=lim(x→0) (−1/2) cos²x · lim(x→0) (sin x)/x
(7) lim(x→0) (sin x−tan x)/x³=(−1/2)·1·1=−1/2
lim(x→0) (sin x−tan x)/x³=lim(x→0) {sin x−sin x/cos x}/x³=lim(x→0) {sin x(cos x−1)}/{x³ cos x}
(7) lim(x→0) (sin x−tan x)/x³=lim(x→0) (sin x)/x · {−1−cos x}/x² · 1/cos x=1 · (−1/2) · 1=−1/2
すでに述べたように, 単純に分母分子の微分を繰り返すだけでは面倒になる.
不定形ではない部分は分離してから微分する. また, lim(x→0) (sin x)/x=1 も適用する.
別解は正攻法であり, lim(x→0) (1−cos x)/x²=1/2 を公式として用いている.
