数の世界の探求、虚数と複素数の定義

スポンサーリンク
かつて,\ 数の種類として自然数($1,\ 2,\ ・・・$)しか認知されていない時代があった.  このとき,\ $x+2=3$の解は$x=1$となるが,\ $x+2=2$は「解なし」となる.  もし人類がここで思考停止していたならば,\ 現在までの数学の発展はなかったであろう.  幸いなことに,\ 勇気を出して新たな一歩を踏み出した人達がいた.\ 「\,$0$\,」の導入である.  この功績により,\ $x+2=2$の解を$x=0$と答えられるようになったわけである.  自然数と0を認知したところで,\ $x+2=1$や$2x=1$は「解なし」のままである.  負数の導入で整数の集合が完成し,\ さらに分数も導入して有理数の集合が完成する.  これでも$x^2=2$は「解なし」である.\ 無理数を導入してようやく実数の集合が完成する.  さて,\ 中学数学以来長らく$x^2=-\,2$は「解なし」とされてきた.  しかし,\ これ以上ここで足踏みするわけにはいかない.\ 次の段階に進むべき時が来たのだ.  $x^2=2$の解が$x=±√2$ならば,\ $x^2=-\,2$の解を$x=±√{-\,2}$と考えるのは自然である.  根号内を0以上に限定せず,\ 根号内が負数の場合を新たな数として認めようではないか.  このような数を「虚数\,(imaginary number)」という.\ 直訳すると「想像上の数」である.  名称のせいで虚数を「実際には存在しない数なんでしょ?」などと考えてしまう学生が多い.  長々と述べたように,\ 単に数の種類が1つ増えただけである.\ 名称に惑わされてはならない.  最初は違和感を感じたとしても,\ 大事なのは「慣れ」である.  負数や無理数を最初に教えられたときも多くの人は「!?」と思ったはずなのである.  しかし,\ 既に当然のものとして定着しており,\ 今更誰も疑問をもたない.\ そういうことである.  さて,\ $√{負数}$も$√{正数}$と同様に扱えるようになるかと思いきや,\ そう簡単ではない.  $-\,2$の正の平方根を$√{-\,2}$とするならば,\ 当然$(√{-\,2}\,)^2=-\,2$とならなければならない.  しかし,\ 従来通りに扱うと$√{-\,2}√{-\,2}=√{(-\,2)(-\,2)}=√4=2$となってしまう.  このような問題を解決するため,\ 2乗すると$-\,1}$になる数$i$を導入する.  つまり,\ $i^2=-\,1}\ (i=√{-\,1}\,)}$である.\ この$i$を虚数単位という.  また,\ $a>0$のとき,\ \.{直}\.{ち}\.{に$と変形すると定める.  すると,\ ,i=2i^2=2(-\,1)=-\,2$となる.  「直ちに」なので,\ $i$で表してから掛けるわけである.\ こうすると矛盾しない.  虚数単位$i$を用いると,\ $x^2=-\,2$の解は$x=±√2\,i$ということになる.  さらに,\ {a}+{b}\ (a,\ b:実数)$という数を考えることにより,\ 実数と虚数を一体的に扱える.  この数を複素数(complex number)といい,\ $a$を実部,\ $b$を虚部という.\ 直訳は複合数である.  $\Cnum{a}+{b}$は,\ $b=0}$のとき$a}$\,(実数),\ \ $b≠0}$のとき虚数となる.  実数(real number)も複素数に含まれることに注意しよう.\ 実数でない複素数が虚数である.  特に,\ $a=0\ かつ\ b≠0$のとき$bi$となるが,\ これを純虚数という.  代数方程式の解を探求する人類の挑戦は,\ 自然数から始まり複素数にまで範囲を広げてきた.  そして,\ この挑戦は複素数の導入によってついに完結する.  $n}$次方程式がもつ$n}$個すべての解は複素数の中から見つけることができるからである.  これは,\ 代数学の基本定理「\,$n}$次方程式は常に$n}$個の\.{複}\.{素}\.{数}解をもつ」により保証される.  証明は高校範囲外なので,\ 高校数学においてこの定理は常識的知識の扱いとなる. \\  改めて数の世界の構成を示すと以下のようになる.  最後に虚数の意外な盲点を挙げておく.\ 「虚数の大小関係は考えない」である.  実数の場合,\ 任意の実数$a,\ b$に対し,\ $a>b,\ a=b,\ a0,\ i=0,\ i<0$のいずれか1つが必ず成り立つはずである.   $i=√{-\,1}$であるから,\ 明らかに$i≠0$である.   $i>0$と仮定する.\ 両辺に$i\ (>0)$を掛けると $i^2>0$   $-\,1>0$となるから,\ これは矛盾である.   $i<0$と仮定する.\ 両辺に$i\ (<0)$を掛けると $i^2>0$ (不等号の向きが逆転)   $-\,1>0$となるから,\ これは矛盾である.  このように,\ 虚数は大小関係を定めることができない.  もし問題の条件に「\,$a>0}$とする」とあった場合,\ $a}$は実数と考えて解くことになる.