
【核反応】
原子核が他の原子核や粒子と衝突するなどして、別の原子核に変化する現象。
【核反応式】
核反応の前後の原子核や粒子を元素記号で表した式。
例:窒素原子核にα粒子を衝突させる核反応
¹⁴₇N + ⁴₂He → ¹⁷₈O + ¹₁H
核反応の前後では、質量数の総和と電荷の総和がそれぞれ保存される。
質量数:14 + 4 = 17 + 1
電荷:7 + 2 = 8 + 1
核反応式には、原子核のほか、陽子・中性子・電子・陽電子・ニュートリノ・光子なども登場する。陽子・中性子・電子・陽電子は、左上に質量数、左下に電荷を素電荷 e を単位として表した値を付けることがある。
陽子:¹₁p(¹₁H、p⁺)
中性子:¹₀n
電子:⁰₋₁e(e⁻)
陽電子:⁰₊₁e(e⁺)
ニュートリノ:νₑ、ν̄ₑ
γ線の光子:γ
[補足]
化学反応では、原子核は変化せず、電子のやり取りや結合の組み替えによって物質が変化する。
原子核の左下の数は原子番号(陽子数)を表し、電荷を e を単位として表した値に等しい。
元の粒子と質量が等しく、電荷などの性質が反対の粒子を反粒子という。
陽電子 e⁺ は電子の反粒子で、電子と質量が等しく、電荷が +e である。
ニュートリノは、電荷をもたず、質量が極めて小さく、物質との相互作用が極めて弱い粒子である。
νₑ は電子ニュートリノ、ν̄ₑ は反電子ニュートリノを表す。
【質量とエネルギーの等価性】
質量とエネルギーは互いに等価であり、質量の変化に相当するエネルギーが放出・吸収される。
アインシュタインの特殊相対性理論によると、質量 m[kg]の物体は、静止状態でもエネルギー E₀[J]をもっている。
静止エネルギー:E₀ = mc²
c[m/s]:真空中の光速
質量 1 u(u:統一原子質量単位)に相当するエネルギーは、約 931 MeV である。
【質量欠損 Δm】
原子核の質量は、それを構成する陽子と中性子の質量の総和より小さい。
質量 mₚ の陽子 Z 個、質量 mₙ の中性子 N = A − Z 個からなる原子核 ᴬ_ZX の質量を M とすると、核子の質量の総和と原子核の質量の差である質量欠損 Δm は、
Δm = Zmₚ + Nmₙ − M > 0
である。
【原子核の結合エネルギー B】
原子核を構成するすべての陽子と中性子を、完全に分離するために必要なエネルギー。
その大きさは、質量欠損 Δm に相当するエネルギー Δmc² に等しい。
逆に、陽子と中性子が結合して原子核を作るとき、同じ大きさのエネルギーが放出される。
結合エネルギー:B = Δmc² = (Zmₚ + Nmₙ − M)c²
核子1個当たりの結合エネルギー B/A = Δmc²/A(A:質量数)の値が大きいほど、核子は強く結びついており、エネルギー的に安定な傾向がある。
この値は、質量数50~60程度の鉄 Fe 付近の原子核で最大となる。
[補足:化学結合との比較]
化学結合の結合エネルギーは、原子間の結合を切るために必要なエネルギーであり、数 eV 程度である。
一方、原子核の結合エネルギーは、核子1個当たり数 MeV 程度であり、桁違いに大きい。
例えば、水素分子 H₂ を2個の水素原子に分離するには約4.5 eVが必要であるが、ヘリウム4原子核 ⁴₂He を2個の陽子と2個の中性子に分離するには約28.3 MeVが必要である。
1 MeV = 10⁶ eV より、原子核の結合エネルギーは、化学結合の結合エネルギーよりも約百万倍大きい。
【核エネルギー】
核反応に伴って放出・吸収されるエネルギー。
【核反応のQ値】
核反応前後の粒子の質量の総和をそれぞれ M₍前₎、M₍後₎ とすると、核反応前後の静止エネルギーの総和の差をQ値といい、次式で表される。
Q = (M₍前₎ − M₍後₎)c² = ΔMc²
Q > 0:発熱反応(エネルギーを放出する反応)
Q < 0:吸熱反応(エネルギーを吸収する反応)
[補足:核エネルギーと化学エネルギー]
核反応で生じる核エネルギーは、化学反応で生じる化学エネルギーよりも桁違いに大きい。
例えば、2個の H₂ と1個の O₂ から2個の H₂O(液)が生成される化学反応では約5.9 eV、重水素 ²₁H と三重水素 ³₁H が核融合する核反応では約17.6 MeVのエネルギーが放出される。
核反応1回当たりのエネルギーは、化学反応1回当たりのエネルギーよりも約百万倍大きい。
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問題
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陽子の質量を mₚ、中性子の質量を mₙ、光速を c、統一原子質量単位を u とする。また、以下の質量を用い、u単位の質量は丸めず、エネルギーは有効数字3桁で答えよ。
陽子の質量:mₚ = 1.00728 u
中性子の質量:mₙ = 1.00866 u
ヘリウム4原子核の質量:M₍He₎ = 4.00151 u
リチウム7原子核の質量:M₍Li₎ = 7.01436 u
(1) 次の核反応式の空欄Xに入る粒子の種類を、質量数と電荷を表す数を付した記号で表せ。
(a) ¹⁴₇N + ⁴₂He → ¹⁷₈O + X
(b) ⁹₄Be + ⁴₂He → ¹²₆C + X
(c) ²³⁸₉₂U → ²³⁴₉₀Th + X
(d) ¹⁴₆C → ¹⁴₇N + X + ν̄ₑ
(e) ²²₁₁Na → ²²₁₀Ne + X + νₑ
(f) ²³⁵₉₂U + ¹₀n → ¹⁴¹₅₆Ba + ⁹²₃₆Kr + 3X
(g) ²₁H + ³₁H → ⁴₂He + X
(h) ¹₀n → X + ⁰₋₁e + ν̄ₑ
(2) 1 u = 1.66 × 10⁻²⁷ kg に相当する静止エネルギー E₀ を J および MeV 単位で求めよ。ただし、光速を c = 3.00 × 10⁸ m/s、1 eV = 1.60 × 10⁻¹⁹ J とする。
以降の問題では、1 u に相当する静止エネルギーを931 MeVとする。
(3) ヘリウム4原子核の質量欠損 Δm₍He₎ を u 単位で求めよ。
(4) ヘリウム4原子核の結合エネルギー B₍He₎ を MeV 単位で求めよ。また、核子1個当たりの結合エネルギーを求めよ。
(5) ヘリウム4原子核とリチウム7原子核について、核子1個当たりの結合エネルギーを比較し、どちらの方が核子が強く結びついているか答えよ。
(6) 次の核反応について、反応前の粒子の静止エネルギーの総和から反応後の粒子の静止エネルギーの総和を引いた値 Q を MeV 単位で求めよ。また、この核反応はエネルギーを放出するか、吸収するか答えよ。
⁷₃Li + ¹₁H → 2 ⁴₂He
(7) (6)の核反応について、反応後の結合エネルギーの総和から反応前の結合エネルギーの総和を引いた値が、(6)で求めたQ値に等しいことを、陽子・中性子・原子核の質量を用いた文字計算によって示せ。
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解答
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(1) 核反応の前後では、質量数の総和と電荷の総和がそれぞれ保存される。
(a) 質量数:14 + 4 = 17 + A
電荷:7 + 2 = 8 + Z
A = 1、Z = 1 より、X = ¹₁H
(b) 質量数:9 + 4 = 12 + A
電荷:4 + 2 = 6 + Z
A = 1、Z = 0 より、X = ¹₀n
(c) 質量数:238 = 234 + A
電荷:92 = 90 + Z
A = 4、Z = 2 より、X = ⁴₂He
(d) 質量数:14 = 14 + A
電荷:6 = 7 + Z
A = 0、Z = −1 より、X = ⁰₋₁e
(e) 質量数:22 = 22 + A
電荷:11 = 10 + Z
A = 0、Z = 1 より、X = ⁰₊₁e
(f) 質量数:235 + 1 = 141 + 92 + 3A
電荷:92 = 56 + 36 + 3Z
A = 1、Z = 0 より、X = ¹₀n
(g) 質量数:2 + 3 = 4 + A
電荷:1 + 1 = 2 + Z
A = 1、Z = 0 より、X = ¹₀n
(h) 質量数:1 = A + 0
電荷:0 = Z − 1
A = 1、Z = 1 より、X = ¹₁p
[補足:粒子の判定]
質量数 A と電荷を表す数 Z から、核反応で生じる粒子の種類を判断できる。
A = 1、Z = 1:陽子 ¹₁p(¹₁H でもよい)
A = 1、Z = 0:中性子 ¹₀n
A = 4、Z = 2:α粒子 ⁴₂He
A = 0、Z = −1:電子 e⁻
A = 0、Z = 1:陽電子 e⁺
厳密にはAとZだけでは粒子が決まらない場合もあるが、高校物理では代表的な粒子で考えればよい。
核反応は様々な粒子の組合せで無条件に起こるわけではなく、エネルギーなどの条件を満たす必要がある。入試で出題される核反応の多くは、物理的な重要性や歴史的な意義をもつ。
(a) ラザフォードの人工核変換(1919年):窒素原子核にα粒子を衝突させ、酸素原子核と陽子を生成する。
(b) チャドウィックの中性子発見(1932年):ベリリウムにα粒子を衝突させ、中性子を生成する。
(c) α崩壊:ウラン238がα粒子を放出し、トリウム234に変化する。
(d) β⁻崩壊:炭素14が電子と反電子ニュートリノを放出し、窒素14に変化する。
(e) β⁺崩壊:ナトリウム22が陽電子と電子ニュートリノを放出し、ネオン22に変化する。
(f) 核分裂:ウラン235が中性子を吸収して分裂し、2つの原子核と中性子3個を生成する。
(g) 核融合:重水素と三重水素が融合し、ヘリウム4と中性子を生成する。
(h) 自由中性子のβ⁻崩壊:自由な中性子が陽子・電子・反電子ニュートリノに崩壊する。
(2) E₀ = mc²
= 1.66 × 10⁻²⁷ × (3.00 × 10⁸)²
≈ 1.49 × 10⁻¹⁰ J
1 eV = 1.60 × 10⁻¹⁹ J より、
E₀ = (1.494 × 10⁻¹⁰)/(1.60 × 10⁻¹⁹) eV
= 9.3375 × 10⁸ eV
≈ 934 MeV
(3) ⁴₂He は質量数4、原子番号2であるから、陽子数は2、中性子数は4 − 2 = 2である。
Δm₍He₎ = 2mₚ + 2mₙ − M₍He₎
= 2 × 1.00728 + 2 × 1.00866 − 4.00151
= 0.03037 u
(4) B₍He₎ = Δm₍He₎c²
= 0.03037 × 931
≈ 28.3 MeV
核子1個当たりの結合エネルギーは、
B₍He₎/4 = (0.03037 × 931)/4 ≈ 7.07 MeV
[補足]
B₍He₎ はMeV単位で求めるため、質量欠損 Δm₍He₎ をkg単位に換算する必要はない。
1 uに相当する静止エネルギーが931 MeVであることを利用し、Δm₍He₎(u単位)の数値に931を掛ける。
(5) ⁷₃Li は陽子3個、中性子7 − 3 = 4個からなるから、質量欠損は、
Δm₍Li₎ = 3mₚ + 4mₙ − M₍Li₎
= 3 × 1.00728 + 4 × 1.00866 − 7.01436
= 0.04212 u
核子1個当たりの結合エネルギーは、
B₍Li₎/7 = Δm₍Li₎c²/7
= (0.04212 × 931)/7
≈ 5.60 MeV
核子1個当たりの結合エネルギーを比較すると、
⁴₂He:7.07 MeV > ⁷₃Li:5.60 MeV
よって、ヘリウム4原子核の方が核子が強く結びついている。
(6) 核反応 ⁷₃Li + ¹₁H → 2 ⁴₂He における反応前後の質量の差 ΔM は、
ΔM = (M₍Li₎ + mₚ) − 2M₍He₎
= (7.01436 + 1.00728) − 2 × 4.00151
= 0.01862 u
よって、
Q = ΔMc² = 0.01862 × 931 ≈ 17.3 MeV
Q > 0 より、エネルギーを放出する(発熱反応)。
(7) 核反応 ⁷₃Li + ¹₁H → 2 ⁴₂He の反応後の結合エネルギーの総和から反応前の総和を引くと、
2B₍He₎ − B₍Li₎
= 2Δm₍He₎c² − Δm₍Li₎c²
= {2(2mₚ + 2mₙ − M₍He₎) − (3mₚ + 4mₙ − M₍Li₎)}c²
= (M₍Li₎ + mₚ − 2M₍He₎)c²
これは、(6)の放出エネルギー Q = ΔMc² に等しい。
[補足]
本問は、核反応のQ値が、反応後と反応前の結合エネルギーの総和の差 B₍後₎ − B₍前₎ に等しいことを示す。
つまり、核反応で結合エネルギーの総和が増加すると、その差に相当するエネルギーが放出される。
なお、¹₁H は陽子1個からなる原子核であり、核子同士の結合がないため、結合エネルギーは0である。
