
【物質波(ド・ブロイ波)】
光は干渉・回折という波動性を示す一方、光電効果やコンプトン効果では粒子性を示す。
ド・ブロイは、光とは逆に、電子などの物質粒子も波動性をもつと考えた。
この波を物質波(ド・ブロイ波)といい、特に粒子が電子の場合の物質波を電子波という。
質量m [kg]、速さv [m/s]、運動量p [kg・m/s]の粒子の波長λ [m](ド・ブロイ波長)は、
λ=h/p=h/(mv)
で表される。ここで、h [J・s]はプランク定数である。
これは、光子の運動量
p=h/λ
と同じ関係である。
このように、光や電子などの微視的な対称は、粒子と波動の二重性をもつ。
【電子線の回折】
電子の物質波の波長は非常に短く、通常のスリットでは回折を観測しにくい。
そこで、原子が10⁻¹⁰ m程度の間隔で規則正しく並ぶ結晶を回折格子として利用する。
電子線を結晶に入射すると、結晶中の原子によって散乱された電子の物質波どうしが干渉し、特定の方向で強め合って電子線回折が起こる。
デヴィソンとガーマーらは、結晶による電子線回折を観測し、物質波の存在を実験的に確認した。
【問題】
質量m、電気量の大きさeの電子を、静止状態から電圧Vで加速した後、原子が規則正しく配列した結晶に入射させる。
電子の速さは光速に比べて十分小さく、運動エネルギーを(1/2)mv²としてよい。
結晶中の隣り合う格子面の間隔をdとし、電子線と格子面のなす角をθとする。結晶中の各格子面で散乱された電子の物質波は、特定の方向で互いに強め合う。
(1) 加速後の電子の物質波の波長λをm、e、V、プランク定数hを用いて表せ。
(2) 隣り合う2つの格子面で散乱された電子の物質波が強め合う条件をd、θ、λ、自然数nを用いて表せ。
(3) 電子を1.0×10² Vで加速したところ、物質波の波長はλ=1.2×10⁻¹⁰ mであった。この電子を、格子面の間隔d=1.2×10⁻¹⁰ mの結晶に入射させる。1次の回折(n=1)が起こる角θを求めよ。
(4) 電子線と格子面のなす角をθ=30°に保ったまま、加速電圧を1.0×10² Vから増やしていく。電子線の強度が次に極大となるときの回折次数nと加速電圧Vを求めよ。
(5) (4)で求めた加速電圧に保ったまま、電子線と格子面のなす角θを30°から90°まで徐々に大きくする。θ=30°の場合を除き、電子線の強度は何回極大となるか。
【解答】
(1)
電子が電圧Vで加速されて得る運動エネルギーは、
(1/2)mv²=eV
である。
運動量p=mvについて、
p²=m²v²=m・mv²=m・2eV
より、
p=√(2meV)
となる。
よって、
λ=h/p=h/√(2meV)
となる。
運動エネルギーの式から運動量pを求めるとき、p²=m²v²とするとvを直接求めずに済む。
もちろん、
v=√(2eV/m)
より、
p=mv=m√(2eV/m)=√(2meV)
としてもよい。
(2)
隣り合う2つの格子面で散乱された電子の物質波の経路差は、
2d sinθ
である。
よって、強め合う条件は、
2d sinθ=nλ (n=1、2、3、…)
となる。
電子の物質波も波として干渉するため、X線回折におけるブラッグの反射条件と全く同じである。
(3)
1次の回折(n=1)であるから、(2)より、
2d sinθ=λ
よって、
sinθ=λ/(2d)
=(1.2×10⁻¹⁰)/{2(1.2×10⁻¹⁰)}
=1/2
したがって、
θ=30°
(4)
θ=30°とdが一定であるから、
2d sin30°=nλ
より、
nλ=一定
である。
(1)より、加速電圧Vを大きくすると物質波の波長λは小さくなる。
一方、nλは一定であるから、λが小さくなるにつれて回折次数nは大きくなる必要がある。
(3)より、V=1.0×10² Vではn=1で極大となっているので、次はn=2で極大となる。
次数nのときの波長をλₙ、加速電圧をVₙとする。
2λ₂=1λ₁
より、
λ₂=λ₁/2
となる。
(1)より、λは1/√Vに比例するから、
λ₂/λ₁=√(V₁/V₂)=1/2
となる。
λが1/2倍ならVは4倍である。
したがって、求める加速電圧は、
V=V₂=4V₁
=4(1.0×10²)
=4.0×10² V
(5)
(4)より、物質波の波長は、
λ=(1/2)(1.2×10⁻¹⁰)
=6.0×10⁻¹¹ m
である。
強め合う条件
2(1.2×10⁻¹⁰)sinθ=n(6.0×10⁻¹¹)
より、
sinθ=n/4
となる。
n=2でsinθ=1/2よりθ=30°であり、これは最初のなす角θ=30°に対応する。
n=5以上ではsinθ>1となるため、これを満たすθは存在しない。
よって、電子線の強度はn=3、4のときに極大となり、極大となるのは2回である。
n=1のときsinθ=1/4よりθ<30°、n=4のときsinθ=1よりθ=90°である。
