
X線の波動性とブラッグの反射条件
【X線の発見】
1895年、レントゲンは、陰極線の実験中、陰極線管から離れた蛍光板が光ることを発見した。
彼は、陰極線が物質に衝突したときに未知の放射線が発生していると考え、X線と名付けた。
X線は波長が非常に短い電磁波であり、可視光や紫外線と同じく電磁波の一種である。
波長は10^-12~10^-8 m程度であり、可視光(3.8~7.7×10^-7 m)に比べて非常に短い。
【X線の性質】
① 直進性をもち、電場や磁場では曲げられない(荷電粒子ではない)。
② 物質を透過する力が強い。医療診断などに利用される。
③ 蛍光物質を光らせる(蛍光作用)。また、フィルムを感光させる(写真作用)。
④ 原子や分子から電子をはじき飛ばし、イオンにする(電離作用)。
【X線の発生とX線スペクトル】
X線管を用いて、熱せられた陰極から放出された電子(熱電子)を高い電圧Vで加速し、金属製の陽極(ターゲット)に高速で衝突させると、X線が発生する。
発生したX線の強度と波長の関係を表すグラフをX線スペクトルという。
このうち、広い波長範囲にわたって連続的に分布する部分を連続X線という。
特定の波長に現れる鋭いピークを固有X線(特性X線)といい、元素に固有の波長をもつ。
【連続X線の最短波長】
eは電気素量、Vは加速電圧、hはプランク定数、cは真空中の光速、λはX線の波長とする。
電位差Vで加速された電子1個が得る運動エネルギーはeVである。
電子の衝突時、この運動エネルギーのすべてが1個の光子のエネルギーに変換される場合、発生するX線光子のエネルギー(振動数ν)は最大、すなわち波長は最短となる。
光子のエネルギー
E=hν=hc/λ
より、
eV=hc/λmin
したがって、連続X線の最短波長は
λmin=hc/(eV)
となる。
最短波長は、陽極物質の種類によらず、電子の加速電圧Vに反比例する。
連続X線は、高速の電子がターゲット原子の原子核などの電場によって急速に減速し、その運動エネルギーの一部または全部を電磁波として放出することで生じる。
電子ごとに失うエネルギーが異なるため、様々なエネルギー(波長)のX線が生じる。
固有X線(特性X線)は、入射電子によってターゲット原子の内殻電子がはじき出され、外側のエネルギー準位にある電子がその空いた状態へ遷移するときに発生する。
原子内の電子のエネルギーはとびとびの値をとり、その差に相当するエネルギーを放出するため、固有X線のエネルギーも特定の値となる。
【X線回折とラウエ斑点】
X線の波長は結晶中の原子間隔と同程度で、可視光よりはるかに短い10^-10 m程度である。
よって、結晶にX線を入射すると、規則正しく並んだ原子が立体的な回折格子として作用し、散乱されたX線どうしが干渉する現象(X線回折)が起こる。
ラウエらは結晶にX線を照射し、多数の規則的な斑点(ラウエ斑点)からなる写真を得て、X線が波として干渉・回折すること、結晶中の原子が規則正しく配列していることを確認した。
【ブラッグの反射条件】
原子が規則正しく並ぶ結晶中では、原子が作る互いに平行な面を格子面として考えられる。
隣り合う格子面の間隔をdとし、格子面となす角θで波長λのX線を入射させる。
各格子面で散乱されたX線のうち、反射の法則を満たす方向に進むX線どうしの干渉を考える。
隣り合う2つの格子面で反射された2つのX線の経路差は
2d sinθ
である。
よって、散乱X線が強め合う条件(ブラッグの反射条件)は
2d sinθ=mλ
(m=1、2、3、…)
となる。
ブラッグ条件を満たす角度では、各格子面からの散乱X線が同位相となって強め合う。
ブラッグ条件を満たさない角度では、各格子面からの散乱X線の位相がそろわず互いに打ち消し合う。
ブラッグ条件のθは、通常の反射の入射角・反射角とは異なり、法線ではなく格子面となす角である。
【問題】
結晶中の隣り合う格子面の間隔をdとする。この結晶に波長λの単色X線を入射させる。
X線は各格子面で散乱され、特定の方向では異なる格子面からの散乱波が強め合う。
X線と格子面のなす角をθとし、反射前後でX線と格子面のなす角は等しいものとする。
(1)
隣り合う2つの格子面で散乱される2本のX線が強め合う条件を求めよ。
ただし、強め合いの次数をm=1、2、3、…とする。
ある結晶に波長λ=1.5×10^-10 mの単色X線を入射したところ、1次の強い反射がθ=30°で観測された。
(2)
この結晶の格子面間隔dを求めよ。
(3)
同じ格子面について、このX線による2次の強い反射が観測される角θ2を求めよ。
また、3次の強い反射が観測されるかどうかを理由とともに答えよ。
次に、格子面間隔d=2.0×10^-10 mの結晶に未知の波長λ’の単色X線を入射させたところ、θ=20°で1次の強い反射が観測された。
(4)
X線の波長λ’を求めよ。
ただし、sin20°=0.34としてよい。
(5)
(4)のX線について、この結晶で強い反射が生じうる最大の次数mmaxを求めよ。
(6)
同じ結晶に、波長の異なる2種類の単色X線A、Bをそれぞれ入射させたところ、1次の強い反射がX線AではθA、X線BではθBで観測され、θA<θBであった。
X線A、Bの波長λA、λBの大小関係を答えよ。
(7)
次に、電位差Vで加速した電子を金属製の陽極に衝突させてX線を発生させる。
電子1個が得た運動エネルギーのすべてが1個のX線光子のエネルギーに変換される場合を考え、連続X線の最短波長λminをh、c、e、Vを用いて表せ。
(8)
加速電圧をV=8.25×10^3 V、h=6.6×10^-34 J・s、c=3.0×10^8 m/s、e=1.6×10^-19 Cとして、連続X線の最短波長λminを求めよ。
さらに、この最短波長のX線を(2)の結晶に入射させるとき、1次の強い反射が観測される角θを求めよ。
【解答】
(1)
隣り合う格子面で散乱される2本のX線の経路差は
2d sinθ
である。
強め合う条件は
2d sinθ=mλ
(m=1、2、3、…)
(2)
m=1、θ=30°より、
2d sin30°=1×1.5×10^-10
したがって、
d=1.5×10^-10 m
(3)
2次の強い反射では、
2d sinθ2=2λ
d=1.5×10^-10 m、λ=1.5×10^-10 mより、
sinθ2=1
したがって、
θ2=90°
3次の強い反射では、
2d sinθ3=3λ
d=λより、
sinθ3=3λ/(2d)=3/2>1
となる。
これを満たすθ3は存在しないから、3次の強い反射は観測されない。
(4)
1次の強い反射であるから、
λ’=2d sin20°
=2×2.0×10^-10×0.34
=1.36×10^-10
≒1.4×10^-10 m
(5)
ブラッグの反射条件より、
2d sinθ=mλ’
sinθ≦1より、
m≦2d/λ’
d=2.0×10^-10 m、λ’=1.36×10^-10 mより、
m≦2×(2.0×10^-10)/(1.36×10^-10)
≒2.94
mは正の整数であるから、
mmax=2
(6)
1次の強い反射であるから、
2d sinθA=λA
2d sinθB=λB
0°<θ<90°、θA<θBより、
sinθA<sinθB
したがって、
λA/(2d)<λB/(2d)
よって、
λA<λB
(7)
電位差Vで加速された電子1個が得る運動エネルギーはeVである。
このすべてが1個のX線光子のエネルギーに変換されるとき、光子のエネルギーは最大、すなわち連続X線の波長は最短となるから、
eV=hc/λmin
よって、
λmin=hc/(eV)
(8)
λmin=hc/(eV)
=(6.6×10^-34)(3.0×10^8)
/{(1.6×10^-19)(8.25×10^3)}
=1.5×10^-10 m
1次のブラッグ反射では、
2d sinθ=λmin
(2)より、
d=1.5×10^-10 m
したがって、
sinθ=λmin/(2d)
=(1.5×10^-10)/(2×1.5×10^-10)
=1/2
よって、
θ=30°
