
原子番号Zの原子核(電気量+Ze)と電子1個からなる水素様原子・イオンを考える。
原子核の周囲を、質量m、電気量−eの電子が速さv、半径rの円軌道上で等速円運動しているものとする。原子核は静止しているものとし、その反跳は無視する。
クーロンの法則の比例定数をk、プランク定数をh、光速をc、光子の波長をλとする。
また、原子核から無限に離れた位置での電子の電気的位置エネルギーを0とする。
(1) 量子数nの円軌道の半径rₙと電子の速さvₙをk、Z、e、m、h、nで表せ。
(2) 量子数nの軌道上にある電子の全エネルギーEₙをk、Z、e、m、h、nで表せ。
(3) 水素原子(Z=1)とヘリウムイオンHe⁺(Z=2)について、同じ量子数nでの軌道半径rₙ、電子の速さvₙ、全エネルギーEₙは、水素原子の何倍になるか。
(4) 水素原子のn=2の軌道と、He⁺のn=4の軌道について、軌道半径、電子の速さ、全エネルギーは、水素原子のn=2の値の何倍になるか。
(5) 水素原子の基底状態における軌道半径をa₀とする。
リチウムイオンLi²⁺(Z=3)の軌道半径が3a₀となる量子数nを求めよ。
(6) 水素原子のエネルギー準位が
Eₙ = −13.6/n² eV
であることを用いて、原子番号Zの水素様イオンのエネルギー準位をZ、nを用いて表せ。
(7) 水素原子のn=4→2の遷移と、He⁺のn=4→2の遷移で放出される光子の波長をそれぞれλ_H、λ_Heとする。
λ_He/λ_Hを求めよ。
(8) 水素原子のn=4→2の遷移と、He⁺のn=4→3の遷移で放出される光子の波長をそれぞれλ_H、λ′_Heとする。
λ′_He/λ_Hを求めよ。
(9) ある水素様イオンについて、電子がn=3からn=2へ遷移したところ、エネルギー17.0 eVの光子が放出された。
この水素様イオンの原子番号Zを求め、元素名とイオンを答えよ。
【水素様原子・水素様イオン】
原子核のまわりに電子が1個だけ存在する原子やイオンを水素様原子といい、特にイオンであるものを水素様イオンという。
例えば、水素原子H、ヘリウムイオンHe⁺、リチウムイオンLi²⁺は電子を1個だけもつ。
水素様イオンは、原子核の電気量が+eから+Zeとなる点を除けば、前項の水素原子とほとんど同じように扱うことができる。
【解答】
(1)
電子に働くクーロン力が円運動の向心力となるから、運動方程式は
mvₙ²/rₙ = kZe²/rₙ²
また、量子条件より
2πrₙ = n・h/(mvₙ)
よって
vₙ = nh/(2πmrₙ)
これを運動方程式に代入すると
n²h²/(4π²mrₙ) = kZe²
したがって、軌道半径は
rₙ = h²/(4π²kme²)・n²/Z
量子条件に代入して、電子の速さは
vₙ = 2πkZe²/(nh)
(2)
運動方程式より、電子の運動エネルギーは
Kₙ = 1/2 mvₙ²
= 1/2・kZe²/rₙ
= kZe²/(2rₙ)
電気的位置エネルギーは
Uₙ = −kZe²/rₙ
よって、全エネルギーは
Eₙ = Kₙ + Uₙ
= kZe²/(2rₙ) − kZe²/rₙ
= −kZe²/(2rₙ)
(1)のrₙを代入すると
Eₙ = −2π²k²me⁴/h²・Z²/n²
(3)
(1)、(2)より、同じ量子数nでは
rₙ ∝ 1/Z
vₙ ∝ Z
Eₙ ∝ Z²
「∝」は比例を表す。
軌道半径
r_He/r_H = (1/2)/(1/1) = 1/2倍
電子の速さ
v_He/v_H = 2/1 = 2倍
全エネルギー
E_He/E_H = 2²/1² = 4倍
全エネルギーは負であるから、同じ量子数nでは、He⁺の方が全エネルギーが低く、電子はより強く束縛された安定な状態にある。
あくまでも同じnの1電子状態どうしの比較であり、He⁺自体が化学的に水素原子より安定であることを意味しない。
(4)
(1)、(2)より
rₙ ∝ n²/Z
vₙ ∝ Z/n
Eₙ ∝ Z²/n²
軌道半径
r_He/r_H = (4²/2)/(2²/1) = 2倍
電子の速さ
v_He/v_H = (2/4)/(1/2) = 1倍
全エネルギー
E_He/E_H = (2²/4²)/(1²/2²) = 1倍
(5)
水素原子(Z=1)の基底状態(n=1)の軌道半径であるから、(1)より
a₀ = h²/(4π²kme²)・1²/1
よって
rₙ = n²/Z・a₀
Li²⁺ではZ=3であるから
3a₀ = n²/3・a₀
n² = 9
よって
n = 3
(6)
(2)より、水素原子(Z=1)のエネルギー準位は
Eₙ = −2π²k²me⁴/h²・1²/n²
= −13.6/n² eV
よって、原子番号Zの水素様イオンのエネルギー準位は
Eₙ = −2π²k²me⁴/h²・Z²/n²
= −13.6Z²/n² eV
(7)
放出される光子のエネルギーは、遷移前後のエネルギー差に等しいから
E₄ − E₂ = hc/λ
(6)よりEₙ ∝ Z²であるから、同じn=4→2の遷移では
E₄ − E₂ ∝ Z²
よって
λ ∝ 1/Z²
したがって
λ_He/λ_H
= (1/2²)/(1/1²)
= 1/4
(8)
原子番号Zの水素様イオンで、n₂→n₁の遷移によって放出される光子のエネルギーは
Eₙ₂ − Eₙ₁
= −13.6Z²/n₂² − (−13.6Z²/n₁²)
= 13.6Z²(1/n₁² − 1/n₂²) eV
ただし、n₂ > n₁である。
水素原子(4→2)では
ΔE_H
= 13.6・1²(1/2² − 1/4²)
= 13.6・3/16 eV
He⁺(4→3)では
ΔE_He
= 13.6・2²(1/3² − 1/4²)
= 13.6・7/36 eV
ΔE = hc/λより
λ ∝ 1/ΔE
であるから
λ′_He/λ_H
= ΔE_H/ΔE_He
= (13.6・3/16)/(13.6・7/36)
= 27/28
(9)
原子番号Zの水素様イオンで、n=3→2の遷移によって放出される光子のエネルギーは
E₃ − E₂
= 13.6Z²(1/2² − 1/3²)
= 13.6Z²・5/36
= 17/9 Z² eV
これが17.0 eVであるから
17/9 Z² = 17.0
よって
Z² = 9
Z = 3
原子番号3の元素はリチウムであり、電子が1個の水素様イオンなので
Li²⁺
高校化学で通常扱うLi⁺は電子を2個もつが、Li²⁺は電子を1個だけもつため水素様イオンである。
