
重水素原子核²₁Hと三重水素原子核³₁Hの核融合反応
²₁H + ³₁H → ⁴₂He + ¹₀n
を考える。
核反応の前後でエネルギーと運動量は保存され、すべての粒子は同一直線上を運動し、その速さは光速に比べて十分小さい。速度は向きを考慮して正負の符号をつけて表す。
核反応前の静止質量の総和から反応後の静止質量の総和を引いた値をΔmとし、核反応のQ値をQ = Δmc²で定義する。
静止中の三重水素原子核に、運動エネルギーK₀ = 2.00 MeVの重水素原子核を衝突させる。重水素原子核、三重水素原子核、ヘリウム原子核、中性子の質量をm₁、m₂、m₃、m₄とし、運動学的な計算ではm₁ = 2 u、m₂ = 3 u、m₃ = 4 u、m₄ = 1 uと近似する。
重心系とは、粒子系全体の重心が静止している座標系である。衝突前の重水素原子核と三重水素原子核の速度をそれぞれv₁、v₂、重心速度をV、相対速度をv = v₁ − v₂とする。また、質量欠損による全質量の変化は、重心運動の計算では無視する。
統一原子質量単位uに対して1 u·c² = 931.5 MeVとする。有効数字3桁で答えよ。
(1) 核反応のQ値Qをm₁、m₂、m₃、m₄、cを用いて表せ。また、Q > 0とQ < 0の反応をそれぞれ何というか。
(2) この核融合反応のQ値を求めよ。
²₁H:2.014102 u ³₁H:3.016049 u ⁴₂He:4.002603 u ¹₀n:1.008665 u
(3) 核反応前後の運動エネルギーの総和をそれぞれK、K′とする。K′ − KをQで表し、この反応でK′を求めよ。
(4) 衝突前の重心速度Vをm₁、m₂、v₁、v₂を用いて表せ。また、重心系における2粒子の運動量の和が0となることを示せ。
(5) 衝突前の運動エネルギーの総和がK = K_G + K_Rと表されることを示せ。ただし、K_G = ½(m₁ + m₂)V²は重心運動、K_R = ½μv²は相対運動の運動エネルギーであり、μ = m₁m₂/(m₁ + m₂)を換算質量という。
(6) この反応の相対運動の運動エネルギーK_RをK₀、m₁、m₂を用いて表せ。また、K_G、K_Rの値をそれぞれ求めよ。
(7) 核反応の前後で重心運動の運動エネルギーK_Gが変化しないことを説明せよ。また、エネルギー保存則から、核反応による相対運動の運動エネルギーの増加分をQで表し、核反応後の重心系における運動エネルギーの総和を求めよ。
(8) 静止している原子核が質量m_A、m_Bの2粒子A、Bに分裂するとき、2粒子の運動エネルギーの比が質量の逆比となることを示せ。また、この関係が重心系でも成り立つことを利用して、核反応後のヘリウム原子核と中性子の重心系における運動エネルギーを求めよ。
【解答】
(1) 核反応のQ値は
Q = Δmc² = (m₁ + m₂ − m₃ − m₄)c²
Q > 0の反応を発熱反応、Q < 0の反応を吸熱反応という。
(2) 反応前後の静止質量の差は
Δm = (2.014102 + 3.016049) − (4.002603 + 1.008665) = 0.018883 u
よって
Q = Δmc² = 0.018883 × 931.5 MeV ≈ 17.59 MeV ≈ 17.6 MeV
(3) エネルギー保存則より
K + (m₁ + m₂)c² = K′ + (m₃ + m₄)c²
整理すると
K′ − K = Q
反応前の運動エネルギーの総和はK = K₀ = 2.00 MeVであるから、
K′ = K₀ + Q ≈ 2.00 + 17.59 = 19.59 ≈ 19.6 MeV
(4) 重心速度は、全運動量を全質量で割ったものであるから
V = (m₁v₁ + m₂v₂)/(m₁ + m₂)
重心系における各粒子の速度はv₁ − V、v₂ − Vである。
よって、重心系における2粒子の運動量の和は
m₁(v₁ − V) + m₂(v₂ − V)
= m₁v₁ + m₂v₂ − (m₁ + m₂)V
= m₁v₁ + m₂v₂ − (m₁ + m₂) × (m₁v₁ + m₂v₂)/(m₁ + m₂)
= 0
〔補足:重心速度と重心系〕
2粒子の位置をx₁、x₂とすると、重心の位置Xは
X = (m₁x₁ + m₂x₂)/(m₁ + m₂)(重心の公式)
両辺を時間tで微分すると
V = dX/dt = {m₁(dx₁/dt) + m₂(dx₂/dt)}/(m₁ + m₂) = (m₁v₁ + m₂v₂)/(m₁ + m₂)
外力がなければ全運動量m₁v₁ + m₂v₂は保存されるから、全質量が一定なら重心速度Vも一定となる。
つまり、外力が働かない粒子系の重心は静止するか等速直線運動する。
重心とともに速度Vで動く座標系を重心系といい、この座標系では重心速度が0となる。
重心速度は全運動量を全質量で割ったものであるから、重心速度が0ならば全運動量も0となる。
よって、重心系では各粒子の運動量が互いに打ち消し合う。
(5) 衝突前の運動エネルギーの総和は
K = ½m₁v₁² + ½m₂v₂²
重心速度V = (m₁v₁ + m₂v₂)/(m₁ + m₂)と相対速度v = v₁ − v₂より
K_G + K_R = ½(m₁ + m₂)V² + ½μv²
= ½(m₁ + m₂){(m₁v₁ + m₂v₂)/(m₁ + m₂)}² + ½{m₁m₂/(m₁ + m₂)}(v₁ − v₂)²
= {(m₁v₁ + m₂v₂)² + m₁m₂(v₁ − v₂)²}/{2(m₁ + m₂)}
= {m₁²v₁² + m₂²v₂² + m₁m₂v₁² + m₁m₂v₂²}/{2(m₁ + m₂)}
= {m₁v₁²(m₁ + m₂) + m₂v₂²(m₂ + m₁)}/{2(m₁ + m₂)}
= ½m₁v₁² + ½m₂v₂² = K
したがってK = K_G + K_R。
(6) 標的核は静止中なのでv₂ = 0、v = v₁ − v₂ = v₁である。また、K₀ = ½m₁v₁²である。
K_R = ½μv² = ½{m₁m₂/(m₁ + m₂)}v₁²
= {m₂/(m₁ + m₂)} × ½m₁v₁²
= {m₂/(m₁ + m₂)}K₀
数値を代入すると
K_R = {3 u/(2 u + 3 u)} × 2.00 MeV = (3/5) × 2.00 MeV = 1.20 MeV
また、(5)より
K_G = K − K_R = K₀ − K_R = 2.00 − 1.20 = 0.800 MeV
(7) 外力が働かないから、核反応の前後で全運動量は保存される。
全質量の変化を無視すると重心速度Vは一定であるから、重心運動の運動エネルギーK_Gも変化しない。
(3)のK′ − K = Q、(5)のK = K_G + K_Rより
(K_G + K_R′) − (K_G + K_R) = Q
よって
K_R′ − K_R = Q
つまり、核反応による相対運動の運動エネルギーの増加分はQである。
重心系では重心が静止しているため、重心運動の運動エネルギーは0である。
よって、核反応後の重心系における運動エネルギーの総和は
K_R′ = K_R + Q = 1.20 + 17.6 = 18.8 MeV
(8) 分裂後の2粒子の速さをv_A、v_B、運動エネルギーをK_A、K_Bとする。
分裂前の原子核は静止しているから、運動量保存則より
0 = m_Av_A + m_B(−v_B)
したがって
v_A/v_B = m_B/m_A
K_A/K_B = (½m_Av_A²)/(½m_Bv_B²)
= (m_A/m_B)(v_A/v_B)²
= (m_A/m_B)(m_B/m_A)²
= m_B/m_A
(4)より、重心系でも全運動量は0なので、同様に運動エネルギーの比は質量の逆比となる。
核反応後のヘリウム原子核と中性子の運動エネルギーの比は
K_He/K_n = m_n/m_He = (1 u)/(4 u) = 1/4
(7)より、重心系における運動エネルギーの総和はK_He + K_n = 18.8 MeVであるから、
ヘリウム原子核の重心系における運動エネルギー:K_He = (1/5) × 18.8 = 3.76 MeV
中性子の重心系における運動エネルギー:K_n = (4/5) × 18.8 = 15.0 MeV
〔補足:分裂時の速度の符号〕
静止していた1つの原子核が2粒子に分裂するとき、運動量保存則より2粒子は逆向きに運動する。
速さをv_A、v_Bとし、Aの進行方向を正とすると、Bの速度は−v_Bとなる。
なお、v_A、v_Bを符号付きの速度とすると、0 = m_Av_A + m_Bv_Bとなる。
〔補足:重心運動と相対運動に分けるメリット〕
全質量の変化を無視すると、核反応のQ値は相対運動のエネルギーの増加分となる。
また、重心系では全運動量が0となり、反応後の2粒子の運動エネルギーは質量の逆比に分配される。
よって、各粒子の速度を求めることなく、運動エネルギーを簡単に計算できる。
