多重スリット干渉

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当項目は上級者向けです。

上級者用に、2スリット干渉(ヤングの実験)の発展として、スリットが3つ以上の場合も扱う。 多重スリット干渉では、波の重ね合わせを物理的に理解するとともに、数式による数学的な理解や、位相ベクトルを用いた図形的な理解も必要となる。 本項では、まず3スリット干渉を詳しく考察し、さらに4スリット干渉を経て、一般のnスリット干渉へと拡張する。 2スリット干渉 準備として、まず2スリット干渉において、m=1, 2で強め合う場合を図で確認する。 d sinθ=mλ(m=0, 1, 2, …)のとき、S₁とHでは2つの光の位相がそろい、その後も同位相のまま進むから、S₁からの光とS₂からの光は強め合う。 2つの光波の振幅がともにaのとき、強め合って観測される合成波の振幅は2aとなる。 3スリット干渉 2スリットS₁S₂の中央に新たなスリットを加え、3つのスリットを順にS₁, S₂, S₃とする。 S₃H=λ(左図)のときS₂K=λ/2より、S₁からの光とS₂からの光、およびS₂からの光とS₃からの光は、光路差がλ/2(位相差がπ)となり、弱め合う。 その結果、3つの光のうち2つが互いに打ち消し合い、観測される合成波の振幅はaとなる。 このように、一部の光が打ち消し合いながらも振幅が極大となる位置を副極大という。 図にはないが、S₃H=(2/3)λ, (4/3)λのとき、S₂K=(1/3)λ, (2/3)λより、隣り合う光の光路差はそれぞれ(1/3)λ, (2/3)λ(位相差は2π/3, 4π/3)となる。 3つの光を表す位相ベクトルの向きは2π/3ずつずれており、3本を合成すると打ち消し合うため、合成波の振幅は0となり、副極大の両側には、光が完全に弱め合う位置が1つずつある。 一方、S₃H=2λ(右図)のときS₂K=λより、3つの光の位相がすべてそろって強め合い、観測される合成波の振幅は3aとなる。 このように、すべての光が同位相で強め合って生じる最も強い極大を主極大という。 このように、3スリット干渉では、隣り合う主極大の間に2つの極小と1つの副極大が現れる。 2スリット干渉には現れない副極大が生じるため、より複雑な明暗の分布となる。 位相ベクトルによる3スリット干渉の合成波の振幅 3つのスリットから届く光波を、それぞれ同じ長さaの位相ベクトルで表すことができる。 位相ベクトルの長さは各光波の振幅を、向きは各光波の位相を表す。 よって、3本の位相ベクトルの和の長さが、観測される合成波の振幅となる。 光の干渉の明暗を直接決めるのは、光路差ではなく、光が重なるときの位相関係である。 光路差が1波長λ増えることは、位相差(角度差)が2π増えることに対応する。 光路差Δlに対応する位相差をΔφとすると、 λ:2π=Δl:Δφ ∴ Δφ=(2π/λ)Δl よって、位相ベクトルでは、隣り合う光を表すベクトルの向きをΔφずつ回転させて表せばよい。 位相ベクトルによる4スリット干渉の合成波の振幅 位相ベクトルを用いた合成の考え方は、4スリットの場合にもそのまま拡張できる。 【問題】 波長λの単色光を、間隔dで平行に並んだ3つの細いスリットS₁, S₂, S₃に垂直に入射させる。 入射光は平面波であり、S₁, S₂, S₃には同位相の光が入射するものとする。 3つのスリットから距離Lだけ離れた位置にスクリーンを置き、S₂の正面をOとする。 スクリーン上の点PはOから距離xの位置にあり、S₂からPへ向かう方向がスリットの正面方向となす角をθとする。 ただし、Lはdに対して十分に大きく、各スリットからPに向かう光は互いに平行であるとみなしてよい。 また、各スリットからPに到達する光の振幅は等しく、その振幅をaとする。 光の強度は光波の振幅の2乗に比例するものとする。 (1) 隣り合うスリットからPに到達する光の光路差をΔlとするとき、位相差Δφをd, λ, θを用いて表せ。 (2) S₁からPに到達する光の振動をa sinωtとするとき、S₂, S₃からPに到達する光の振動はそれぞれa sin(ωt+Δφ), a sin(ωt+2Δφ)と表せる。 これら3つの光を重ね合わせ、合成波の振幅Aをa, Δφを用いて表せ。 (3) 0≤Δφ≤2πにおいて、合成波の振幅Aが0となるΔφをすべて求めよ。 また、Aが最大となる場合とその間に現れる極大について、それぞれのΔφと振幅を求めよ。 (4) 横軸を位相差Δφ(0≤Δφ≤2π)として、合成波の振幅Aおよび光の強度Iの変化を表すグラフの概形をそれぞれ描け。 ただし、1つのスリットだけを開いたときの光の強度をI₀とする。 (5) 一般に、等間隔dで並んだn個のスリットからPに到達する光の振幅がすべてaで、隣り合う光の位相差がΔφである場合を考える。 n本の位相ベクトルを順につないで考えることにより、合成波の振幅Aₙをa, n, Δφを用いて表せ。 また、1つのスリットだけを開いたときの光の強度をI₀として、n個のスリットをすべて開いたときの光の強度Iₙを表せ。 さらに、0<Δφ<2πにおいてIₙ=0となるΔφをすべて求め、隣り合う主極大の間に現れる極小の数を答えよ。 【解答】 (1) 隣り合うスリットからPに到達する光の光路差は Δl=d sinθ 光路差λが位相差2πに対応するから、 λ:2π=Δl:Δφ よって、 Δφ=(2π/λ)Δl=(2π/λ)d sinθ (2) 3つの光の振動の和をyとする。 y=a sinωt+a sin(ωt+Δφ)+a sin(ωt+2Δφ) =2a sin(ωt+Δφ)cosΔφ+a sin(ωt+Δφ) =a(1+2cosΔφ)sin(ωt+Δφ) 合成波の振幅は A=a|1+2cosΔφ| 3つのsin関数を合成するには、和積公式 sin A+sin B=2sin((A+B)/2)cos((A-B)/2) を利用する。 このとき、3つのsin関数のうち、公式適用後に残りの1つと同じsin関数となってくくり出せる2つを組み合わせるのがポイントである。 例 sinα+sin2α+sin3α =(sinα+sin3α)+sin2α =2sin2α cosα+sin2α =(1+2cosα)sin2α 上式では、時刻tによって振動する部分がsin(ωt+Δφ)であり、その係数はa(1+2cosΔφ)である。 Δφの値次第で負になるが、負号は位相がπずれることを意味し、振幅はその大きさなので絶対値をとる。 (3) 振幅が0となる条件 1+2cosΔφ=0より、 cosΔφ=-1/2 0≤Δφ≤2πより、 Δφ=2π/3, 4π/3 振幅が最大となる場合(主極大) |1+2cosΔφ|は、cosΔφ=1のときに最大値3をとる。 Δφ=0, 2πのとき A=3a その間に現れる極大(副極大) 1+2cosΔφは、cosΔφ=-1のときに最小値-1をとるため、|1+2cosΔφ|はこの位置で極大値1をとる。 Δφ=πのとき A=a (4) (2)より、合成波の振幅は A=a|1+2cosΔφ| 光の強度は振幅の2乗に比例するから、 I/I₀=A²/a² より、 I=I₀(1+2cosΔφ)² y=1+2cosθは、cosθのグラフを縦方向に2倍し、さらに上方向に1だけ平行移動したものである。 全体に絶対値をつけたグラフは、θ軸より下側にある部分をθ軸に関して折り返したものである。 光の強度Iは合成波の振幅Aの2乗に比例し、1つのスリットだけを開いたときの光の強度I₀は振幅aの2乗に比例する。 比例定数をkとすると、 I=kA², I₀=ka² よって、 I/I₀=kA²/ka²=A²/a² 数学的には、絶対値をつけたことで生じる尖った部分も、2乗すると滑らかになることを覚えておく。 グラフの増減や極値を数式から厳密に調べようとすると、数IIIの微分が必要になる。 (5) n本の位相ベクトルを、前のベクトルの終点に次のベクトルの始点を重ねて順につなぐ。 各位相ベクトルの長さは等しく、隣り合う位相ベクトルの向きの変化角はΔφ(0<Δφ<2π)なので、これらを同一円周上の等しい弦として表すことができる。 右図の直角三角形CMP₁において、 CP₁=r, MP₁=a/2, ∠MCP₁=Δφ/2 より、 sin(Δφ/2)=(a/2)/r よって、 a=2r sin(Δφ/2) 一方、n本の位相ベクトルの和は、最初の始点から最後の終点までのベクトルである。 このベクトルに対応する中心角はnΔφであるから、その長さは Aₙ=2r|sin(nΔφ/2)| rを消去すると、 Aₙ=a|sin(nΔφ/2)/sin(Δφ/2)| Iₙ/I₀=Aₙ²/a² より、 Iₙ=I₀{sin(nΔφ/2)/sin(Δφ/2)}² 光の強度が0となる条件 sin(Δφ/2)≠0(0<Δφ<2π)より、Iₙ=0となるのは sin(nΔφ/2)=0 のときである。 よって、 nΔφ/2=kπ Δφ=2kπ/n (k=1, 2, …, n-1) Δφ=0とΔφ=2πにある主極大の間には、n-1個の極小が現れる。 中心CのまわりにΔφだけ回転すると、1本の位相ベクトルは次の位相ベクトルに重なる。 よって、隣り合う位相ベクトルの向きの変化角もΔφである。 また、CP₀P₁, CP₁P₂は二等辺三角形であるから、 ∠CP₁P₀=∠CP₁P₂=90°-Δφ/2 である。 P₀P₁の延長線とP₁P₂とのなす角は 180°-2(90°-Δφ/2)=Δφ 二等辺三角形の底辺の長さは、頂角から垂線を下ろすと、三角比で容易に求められる。 Aₙは合成波の振幅の大きさなので、必ず0以上である。 sin(nΔφ/2)<0は、合成ベクトルが反対向きになることを表すだけであり、振幅が負になるわけではない。 よって、合成波の振幅には、絶対値をつけて表す。 Δφ=0, 2πではAₙは形式上0/0となるが、このときn本の位相ベクトルはすべて同じ向きなので、 Aₙ=na, Iₙ=n²I₀ である。
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