
反射による位相変化
屈折率 小→大 の反射では, 位相がπだけ(半波長分)ずれる(固定端反射).
屈折率 大→小 の反射では, 位相は変化しない(自由端反射).
光の速さはv=c/nであり, 屈折率nの大きい媒質ほど光にとって進みにくい媒質である.
よって, 小さい屈折率から大きい屈折率の境界での反射は固定端反射とみなせ, 位相がπずれる.
逆に, 大きい屈折率から小さい屈折率の境界での反射は自由端反射とみなせ, 位相は変化しない.
光路長(光学距離) 屈折率nの媒質中を実際の距離lだけ進んだときのnl
光路差 2つの光が異なる経路を進むときの光路長の差.
波の干渉の本質は, 2つの波が進んだ距離の差ではなく, 位相差を考えることにある.
到達点で2つの波が同位相ならば強め合い, 逆位相ならば弱め合う.
ただし, 単純な経路差から位相差を求められるのは, 2つの光が同じ波長で進む場合である.
光は媒質中に入ると波長が変化するため, 異なる媒質を通る経路では実際の距離をそのまま比較できない.
そこで, 各媒質中を進んだ距離を真空中を進んだ場合の等価な距離に換算した光路長を考え,
その差である光路差から位相差を求める.
真空中での光速をcとすると, 屈折率nの媒質中での光速はc/nとなる.
光が媒質に入っても振動数fは変化しないので, v=fλより, 媒質中での波長はλ/nとなる.
よって, 屈折率nの媒質中の距離lの中に含まれる波の個数は l/(λ/n)=nl/λ
一方で, 屈折率nの媒質中を距離l進むのに要する時間は l/(c/n)=nl/c
これは, 真空中で波長λ, 速さcの光が距離nlだけ進むときの波の個数nl/λと通過時間nl/cに等しい.
よって, 屈折率nの媒質中を距離l進むことは, 位相変化と通過時間の両方について,
真空中を距離nl進むことに相当する.
屈折率n (n>1)の透明な薄膜が屈折率1の空気中にあり, 薄膜の厚さをdとする.
この薄膜に, 空気中から波長λの単色平面波を入射角iで入射させる.
薄膜中での屈折角をrとし, 薄膜の上面で反射する光①と, 薄膜内を通過して下面で
反射し, 再び上面から空気中へ出る光②の干渉を考える.
(1) 反射光が強め合う条件と弱め合う条件を, n, d, r, λ, および0以上の整数mを
用いて表せ.
(2) 光を薄膜に垂直に入射させるとき, 反射光が強め合う条件と弱め合う条件を
n, d, λを用いて表せ.
(3) 屈折率1.50の薄膜に, 空気中から波長600 nmの単色光を垂直に入射させる.
反射光が強め合う薄膜の厚さdのうち, 正の最小値を求めよ.
反射光が弱め合う薄膜の厚さdのうち, 正の最小値を求めよ.
(4) 屈折率1.50, 厚さ300 nmの薄膜に白色光を垂直に入射させる.
可視光の波長範囲を400 nm≤λ≤800 nmとするとき,
反射光のうち強め合う可視光の波長をすべて求めよ.
さらに, 入射角を膜面の法線方向から傾けると, 強め合う光の波長が
長波長側と短波長側のどちらへ移るかを説明せよ.
(5) 屈折率1.50の薄膜に白色光を垂直に入射させたところ,
可視光の範囲400 nm≤λ≤800 nmでは, 反射光が強め合う波長は2つだけであり,
そのうち長い方の波長は630 nmであった. 薄膜の厚さdと短い方の波長を求めよ.
(6) 屈折率1.50, 厚さ5.25 μmの薄膜に白色光を垂直に入射させるとき,
400 nm≤λ≤800 nmの範囲で反射光が強め合う波長はいくつ存在するか.
また, 膜が十分に厚くなると特定の色が鮮やかに見えにくくなる理由を説明せよ.
次に, 薄膜干渉の応用として反射防止膜について考える.
屈折率n₁の薄膜を, それより屈折率の大きいn₂のガラス表面に形成し, 空気中から
波長λの光を垂直に入射させる.
(7) 膜の上面および下面で反射する2つの光が強め合う条件と弱め合う条件を
n₁, d, λ, および0以上の整数mを用いて表せ.
また, 波長550 nmの光の反射を最も薄い膜で弱めるため, 屈折率1.38の薄膜を用い
るとき, 必要な薄膜の厚さdを求めよ. ただし, 2つの反射光の振幅の違いは考えない.
(1) 光①の反射点をBとし, Bの薄膜下面に関する対称点をB’とする.
また, 光②の屈折点をA, 薄膜下面での反射点をCとする.
点Aから光①の入射光線に下ろした垂線の足をP,
点Bから直線AB’に下ろした垂線の足をHとする.
APは入射光の波面であり, BP=AB sin i, AH=AB sin rである.
屈折の法則sin i=n sin rより BP=nAH
よって, 空気中のBPの光路長と, 薄膜中のAHの光路長は等しい.
光路差を求めるときに実質的に残る経路差は, 薄膜中のHC+CBの部分である.
CB=CB’より HC+CB=HC+CB’=HB’
直角三角形BB’Hより, 経路差は HB’=BB’cos r=2d cos r
よって, 光①と光②の光路差は n·HB’=2nd cos r
光①は空気からより屈折率の大きい薄膜へ向かって反射するため, 位相がπずれるが,
光②は薄膜からより屈折率の小さい空気へ向かって反射するため, 位相は変化しない.
強め合う条件 2nd cos r=(m+1/2)λ (m=0, 1, 2, …)
弱め合う条件 2nd cos r=mλ (m=0, 1, 2, …)
波の進行方向と波面は常に垂直であるから, 同じ波面 AP上にある①の Pと②の Aは同位相である.
①は P通過後も空気中を進むが, ②は薄膜中を進むため, 同じ時間に②が進む距離は①の1/nとなる.
波面が波の進行方向に垂直であることに基づくと,①がPからBまで進む間に,②はAからHまで進む.
よって, ①のB(反射前)と②のHも同位相である.
数学的には, 直角三角形ABPとABHに着目すると,
屈折の法則よりBP=nAHが導かれ, BPとAHの光路長が等しいことがわかる.
結局, 光路差を求めるときに実質的に残る経路差は, 薄膜中のHC+CBの部分である.
折れ線の長さを求めるとき, 一方の点を対称移動することで, 折れ線を1本の線分として扱える.
本問では, Bを薄膜下面に関して対称移動した B’を考えることで, HB’を求めることに帰着する.
この部分は屈折率nの薄膜中にあるため, 光路差は幾何学的な経路差HB’のn倍になる.
さらに, 強め合い・弱め合いの条件では, 反射するときに生じる位相変化も考慮する必要がある.
本問では, ①のみ反射によって位相がπずれるため, 通常とは強め合い・弱め合いの条件が逆になる.
なお, 高校物理では, 位相の変化を別途考慮する必要があるのは基本的に「反射」の場合である.
(2) 垂直入射ではr=0, つまりcos r=1であるから, (1)より
強め合う条件 2nd=(m+1/2)λ (m=0, 1, 2, …)
弱め合う条件 2nd=mλ (m=0, 1, 2, …)
本問では(1)の結果を利用したが, (2)だけを考えるならば,
経路差が2dとなることは右図から明らかである.
(3) 強め合う条件2nd=(m+1/2)λより, dが正で最小となるのはm=0のときである.
よって d=λ/(4n)=600/(4·1.50)=100 nm
弱め合う条件2nd=mλより, dが正で最小となるのはm=1のときである.
よって d=λ/(2n)=600/(2·1.50)=200 nm
(4) 強め合う条件 2nd=(m+1/2)λ, n=1.50, d=300 nmより λ=900/(m+1/2) nm
400≤λ≤800より 400≤900/(m+1/2)≤800 よって 0.625≤ m≤1.75
これを満たす0以上の整数mはm=1であるから λ=900/(1+1/2)=600 nm
斜め入射では, 強め合う条件2nd cos r=(m+1/2)λより λ=(2nd cos r)/(m+1/2)
屈折の法則sin i=n sin rより, 入射角iを大きくすると屈折角rも大きくなり,
cos rは小さくなる.
同じ次数mについてλ=(2nd cos r)/(m+1/2)も小さくなり, 強め合う光の波長は短波長側へ移る.
(5) 反射光が強め合う長い方の波長630 nmに対応する次数をmとする.
強め合う条件2·1.5· d=(m+1/2)·630 nmより d=210(m+1/2) nm
λ=2nd/(m+1/2)より, n, dが一定のとき, mが大きいほど強め合う光の波長λは短くなる.
m次の630 nmが2つの光のうち長い方なので, m+1次の波長λₘ₊₁は可視光である.
2·1.5· d=(m+1+1/2)λₘ₊₁より λₘ₊₁=3d/(m+3/2)=(3·210(m+1/2))/(m+3/2)≥400
よって 630m+315≥400m+600より m≥285/230=57/46≒1.24 ……①
一方, 可視光は2つだけであるから, m+2次の波長λₘ₊₂は400 nm未満である.
2·1.5· d=(m+2+1/2)λₘ₊₂より λₘ₊₂=3d/(m+5/2)=(3·210(m+1/2))/(m+5/2)<400
よって 630m+315<400m+1000より m<685/230=137/46≒2.98 ……②
①, ②より m=2 薄膜の厚さ d=210(2+1/2)=525 nm
短い方の波長 λₘ₊₁=3d/(m+3/2)=(3·525)/(2+3/2)=450 nm
「強め合う可視光は2つのみ」「長い方が630 nm」という2つの条件から次数mを特定する
必要がある難易度が高めの問題である.
鍵となるのは, 次数mが大きくなるほど, 対応する光の波長λが短くなることである.
よって, 長い方の波長をm次とすると, 短い方の波長はm+1次である(m-1次ではない).
このm+1次の波長も可視光でなければならないから λₘ₊₁≥400
一方, 次のm+2次の波長は可視光より短くなければならず λₘ₊₂<400
(6) 強め合う条件 2nd=(m+1/2)λ, n=1.50, d=5250 nmより λ=15750/(m+1/2) nm
400≤λ≤800より 400≤15750/(m+1/2)≤800 よって 19.1875≤ m≤38.875
0以上の整数mはm=20, 21, …, 38なので, 強め合う波長は 38-20+1=19個
膜が厚くなるほど, 可視光範囲で強め合う条件を満たす次数mが多くなる.
そのため, 多くの波長の光が同時に強められ, 特定の色だけが鮮やかに見えにくくなる.
(7) 膜の上面では空気(1)からより屈折率の大きい薄膜(n₁)との境界面で反射し,
下面では薄膜(n₁)からより屈折率の大きいガラス(n₂)との境界面で反射するため,
2つの光はともに反射によって位相がπずれる.
よって, 反射による相対的な位相差は生じない.
強め合う条件
2n₁d=mλ (m=0, 1, 2, …)
弱め合う条件
2n₁d=(m+1/2)λ (m=0, 1, 2, …)
弱め合う条件 2n₁d=(m+1/2)λにおいて,
膜厚が最小となるのはm=0のときであるから
d=λ/(4n₁)=550/(4·1.38)=99.6… nm≒100 nm
