
n [mol] の理想気体を右図のようなサイクルで状態変化させた.
B→Cは断熱変化である. 状態A, B, Cの絶対温度をT_A, T_B, T_C,
定積モル比熱をC_v, 定圧モル比熱をC_pとする.
(1) 各過程における内部エネルギーの変化ΔU, 気体が
外部にした仕事W_out, 気体が吸収した熱量Q_inを
n, T_A, T_B, T_C, C_v, C_pを用いて表せ.
(2) このサイクルの熱効率eをγ(=C_p/C_v), T_A, T_B, T_Cを用いて表せ.
(3) 単原子分子理想気体の断熱変化ではPV^γが一定であることが知られている.
このときの熱効率eを求め, %(整数値)で答えよ. 必要なら2^(5/3)≈16/5を用いよ.
気体の熱サイクルと熱効率3
(1)
ΔU W_out Q_in
A→B nC_v(T_B−T_A) 0 nC_v(T_B−T_A)
B→C nC_v(T_C−T_B) −nC_v(T_C−T_B) 0
C→A nC_v(T_A−T_C) n(C_p−C_v)(T_A−T_C) nC_p(T_A−T_C)
(2)
e = W_all / Q_in = (W_A→B + W_B→C + W_C→A) / Q_A→B
= (0 − nC_v(T_C−T_B) + n(C_p−C_v)(T_A−T_C)) / (nC_v(T_B−T_A))
= (C_v(T_B−T_A) − C_p(T_C−T_A)) / (C_v(T_B−T_A))
= C_v(T_B−T_A)/(C_v(T_B−T_A)) − (C_p/C_v)·(T_C−T_A)/(T_B−T_A)
= 1 − γ·(T_C−T_A)/(T_B−T_A)
(3)
シャルルの法則より V_0/T_A = 2V_0/T_C より T_C = 2T_A
P_B·V_0^(5/3) = P_0·(2V_0)^(5/3) より
P_B = 2^(5/3)P_0 ≈ (16/5)P_0
ボイル・シャルルの法則より
( (16/5)P_0·V_0 ) / T_B = (P_0·2V_0)/T_C
∴ T_B = (8/5)T_C = (16/5)T_A
e = 1 − (5/3)·(2T_A−T_A)/( (16/5)T_A − T_A )
= 1 − 25/33
= 8/33
= 0.2424…
∴ 24%
(1) まず, 何変化でも ΔU = nC_vΔT であることを利用し, 直ちに ΔU を求められる.
単原子分子とは書いてないので, ΔU = 3/2 nRΔT としてはならないことに注意する.
次にQ_inを考える. 断熱変化のB→Cでは当然Q=0である.
定積変化ではQ = nC_vΔT, 定圧変化ではQ = nC_pΔTとなることを利用する.
最後にW_outを考える. 定積変化であるからW_A→B=0である.
ΔUとQ_inが既知なので, 残りは 熱力学第一法則 Q_in = ΔU + W_out によって求められる.
定圧変化のC→Aは, W = PΔV = nRΔT を用いてもよい.
しかし, 答えにRは使えないので, マイヤーの関係式 C_p − C_v = R で変換する必要が生じる.
(2) 熱効率の定義が e = (正味の仕事)/(実際に吸収した熱量) であることに注意して求める.
C→Aでは実際には放出しているので, これを分母に加えてはならない.
正味の仕事は, (実際に外部にした仕事) − (実際に外部からされた仕事) である.
言い換えると, 外部にした仕事を正のものも負のものもすべて足し合わせるということである.
W_all は一見複雑になるが, 一旦展開してC_v と C_p で整理し直すと割と簡潔になる.
+C_p(T_A−T_C)ではなく −C_p(T_C−T_A) としたのは, T_C > T_A だからである.
分数を分割すると, e が γ, T_A, T_B, T_C で簡潔に表される.
T_B > T_C > T_A より γ·(T_C−T_A)/(T_B−T_A) > 0 であるから, e < 1 である.
(3) 熱効率eの (T_C−T_A)/(T_B−T_A) は絶対温度の比である.
よって, T_A, T_B, T_C の具体的な値はわからなくても, 比さえわかればeの値が求められる.
まず, 定圧変化C→Aにおいてシャルルの法則を用いるとT_CとT_Aの比を求められる.
T_B を求めるには, 断熱変化B→Cにおいて ポアソンの式 PV^γ = (一定) を利用する.
高校物理では, ポアソンの式を使うべき場合は問題で与えられる.
単原子分子では C_p = 5/2 R, C_v = 3/2 R であるから, γ = C_p/C_v = 5/3 である.
P_B が求まるので, さらにボイル・シャルルの法則を用いるとT_B と T_A の比を求められる.
ポアソンの式にはTとVを用いた表現も存在し, 問題でこちらが与えられる場合もある.
状態方程式PV = nRTによって容易に変換できる.
PV^γ = (一定) に P = nRT/V を代入すると
PV^γ = (nRT/V)·V^γ = nRT·V^(γ − 1) = (一定)
つまり, T·V^(γ − 1) = (一定) である.
これを用いると直接T_B と T_A の比を求められる.
T_B·V_0^(2/3) = (2T_A)·(2V_0)^(2/3) より
T_B = 2^(5/3)T_A ≈ (16/5)T_A
最後に絶対温度の大小とPVグラフの関係を確認しておく.
等温ならばボイルの法則 PV = (一定) が成り立つ.
よって, PV図において等温の曲線は反比例のグラフとなる.
また, 定圧変化ではシャルルの法則 V/T = (一定) が成り立つ.
よって, Vが大きいほどTが大きくなる.
ゆえに, 原点から離れる曲線ほど高温の曲線になる.
本問の場合, T_B > T_C > T_A となることがわかる.
さらに, C_p − C_v = R > 0 より, γ = C_p/C_v > 1 である.
よって, 断熱曲線 PV^γ = (一定) は, 等温曲線 PV = (一定) よりも急になる.
