体積$4V$の容器Aと体積$2V$の容器Bがコックのついた体積を無視できる細い管で
つながれている.\ 最初コックは閉められており,\ 容器Aに単原子分子理想気体$n$\,[mol]\,
が絶対温度$T$の状態で入っている.\ 容器B内は真空である.\ 気体定数を$R$とする.
(1)\ \ 全体を断熱材で覆ってからコックを開いた.\ 十分時間が経過したときの気体の圧
\ \ 力$P$と容器A,\ B内の気体の物質量$n_{ A},\ n_{ B}$を求めよ.
(2)\ \ 続いて,\ 断熱材をはずし,\ 容器Aを絶対温度$T$,\ 容器Bを絶対温度$3T$の恒温槽
\ \ につけた.\ 十分時間が経過したときの圧力$P’$と容器A,\ B内の気体の物質量${n_{ A’,$
\ \ ${n_{ B’$を求めよ.
(3)\ \ 続いて,\ コックを閉じ,\ 容器Bの恒温槽を絶対温度$4T$にした.\ その後容器A,\ B
\ \ を恒温槽から取り出し,\ 全体を断熱材で覆ってからコックを開いた.\ 十分時間が
\ \ 経過したときの圧力$P”$,\ 絶対温度$T”$を求めよ. \\
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\end{tabular}
断熱自由膨張と気体の混合 \\
(1)\ \ 断熱自由膨張}であるから,\ 十分時間が経過したときの絶対温度は$T$である.
気体の状態方程式は $P(4V+2V)=nRT}$ ∴\ \ P=nRT}{6V$
圧力と絶対温度が同じなら物質量は体積に比例する}から
断熱状態で気体が真空へ拡散する変化を断熱自由膨張}という.\ 断熱なので,\ 当然Q=0}である.
さて,\ 通常気体の体積が増加するとき,\ 気体は外部に対して仕事をする.
しかし,\ 真空への拡散の場合,\ 気体は外部に対して仕事をしない(W_{out=0).}
外部(真空)から全く圧力を受けておらず,\ 外部へ仕事をしなくても体積が増加できるのである.
Q=W=0であるから,\ 熱力学第一法則\ Q_{in=\Delta U+W_{out\ より,\ \Delta U=nC_v\Delta T=0となる.
よって\,\Delta T=0であり,\ 断熱自由膨張において絶対温度Tは変化しない.}
これは,\ 通常の断熱変化で成り立つポアソンの式TV^{γ-1}=(一定)\,が成り立たないことを意味する.
もしポアソンの式が成り立つならば,\ Vが増加するときTは減少するはずだからである.
ポアソンの式は,\ 準静的過程(熱平衡を保ちながらゆっくりと変化する過程)で成り立つ式である.
自由膨張のように急激に変化する場合には,\ 断熱変化であっても成り立たない.
気体の混合の問題における根幹事項は次の2点である.
①\ \ 混合の前後で物質量の総和は保存する.}
②\ \ コックが開いているとき,\ 両容器内の気体の圧力が等しくなる.}
この2点に注意して容器全体で気体の状態方程式を立式すると,\ 気体の圧力Pを求められる.
容器A,\ B}の体積が2:1なので,\ 中の気体の物質量比も2:1になる.
容器 A内の気体の状態方程式P・4V=n_{ A}RTにP=nRT}{6V}\,を代入して\,n_{ A}\,を求めてもよい.
コックが開いてるとき,\ 両容器内の気体の絶対温度が等しくなるとは限らない}ことに注意する.
冬に部屋のドアが空いていたとしても,\ 暖房がある部屋の方が暖かいことを体感できるはずである.
容器 Aと容器 Bで絶対温度が違うので,\ 全体の状態方程式は作成できない.
各容器内の気体の状態方程式を立式し,\ 物質量保存の式と連立する}ことになる.
同じような積の形の連立方程式は,\ 一方の式の両辺を他方の式の両辺で割ると速い.
{内部エネルギーの和は保存する}から
全体で考えると当然Q=0,\ また,\ 体積が変わらないのでW=0である.
よって,\ 熱力学第一法則より\,\Delta U=0である.
つまり,\ 断熱状態で気体を混合するとき,\ 混合の前後で内部エネルギーの総和は変化しない.}
これを立式すると,\ 混合後の絶対温度が容易に求められる.\ 圧力も状態方程式により直ちに求まる.
コックを閉じているから,\ 4Tにしても容器A,\ B}内の物質量は\,67n,\ 17n\,のままである.