2021年 近畿大学(医) PCR検査は正確?検査陽性のパラドックス

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2021年 近畿大学(医) PCR検査は正確?検査陽性のパラドックス

2020年、人類の前に突如現れた新型コロナウイルスによって世界は一変した。

100年に1回とも言われ、ほとんどの人が生まれて初めて経験する疫病の世界的大流行、いわゆる「パンデミック」である。

日々爆発的に増加する感染者と死者に世界中が大パニックに陥り、日本でも緊急事態宣言が発令される事態となった。

そんな新型コロナ第3波の最中の2020年11月に実施された近畿大学医学部の2021年度推薦入試において出題された問題が以下である。

これは、2013年の新高校1年生から数Aで確実に学習するようになった「条件付き確率」の有名パターン問題である。条件付き確率はそれ以前も高校数学の片隅に存在してはいたが、選択者が少ない分野であったためにほとんどの高校生は素通りしていた。

ついに、今では普通に教科書にも載っているような有名問題が伝説の入試問題として脚光を浴びるときがやってきたのだ。

コロナ禍の中で実施された2021年度の入試では、ソーシャルディスタンスを題材とした場合の数の問題や感染者数を予測する数列(漸化式)の問題など、コロナに関連する出題が多数見受けられた。

これらはいずれも伝説の入試問題に値するのだが、やはり重要度においてこの検査陽性の問題が別格である。複数の大学で検査陽性の問題の出題があったが、ここでは近畿大学医学部の問題を扱うことにした。

近畿大学の問題を選定したのは、設定が「PCR検査の精度は70%」などと報道されているものと一致しており、名指しこそ避けているもののあからさまにPCR検査を念頭に置いた作問だからである。医学部での出題というのもポイントが高い。

医学部の第1問の(1)で出題してきたということは、「今の社会情勢を鑑みれば、医学部受験生ならばこの問題はできて当たり前だよね?」というメッセージであろう。

1点を争う熾烈な医学部受験において、容易に出題が予想できたこの有名問題で点を落とすようなことがあってはならない。

本問は、ここで間違えると合格が絶望的になるという意味で、医師国家試験の禁忌肢(地雷選択肢)に近い効力をもつ出題であったかもしれない。

医師国家試験は、2月初旬に2日間に渡って行われ、合計13時間40分をかけて400問の選択問題に解答する。年によって変わるが、400問のうちの10問程度に禁忌肢(患者の命を危険に晒すものや法律違反であるものなど医師として絶対に許されない行為で一定数選ぶと問答無用OUT)が紛れ込んでいる。かなり判断が難しいものもあるようで、5割近くの受験生が少なくとも1つの禁忌肢を選んでしまっていた年もあるという。

見る人が見ると背筋が凍る恐怖画像が以下である。

他の2つの点数の条件をクリアできていたにもかかわらず、3つまでしか許されていない地雷選択肢を4つ踏んでしまっていた受験生に届いた不合格通知である。

2021年度の近畿大学医学部入試の第1問(1)で点を落とすこと禁忌だったのだ(必死に考えたダジャレ)。

検査とは何か

コロナ禍の初期に大論争が巻き起こったのは、「PCR検査を積極的に行うべきか否か」ということであった。

中には、以下のような誤った認識や考えに基づいて医師や専門家や政治家に対して罵詈雑言を並べ立てるものもいた。

「精度が50~70%ならPCR検査はほとんど意味がない」

「無症状者も徹底的にPCR検査して危険な陽性者を隔離すべきだ」

それは、長い間「条件付き確率」を高校で必修にしてこなかった日本の数学教育の失敗を物語る凄惨な光景であった。

そんな中、医学部入試で検査陽性についての理解を問う有名問題が出題されたのも当然のことだったわけである。

コロナに関係なく、「そもそも検査がどういうものなのか」を理解しておくことは重要である。体調を崩して検査を受けることがあるだろうし、健康であったとしても健康診断を受けるだろう。

この検査陽性の問題は、高校数学・受験数学の中でもトップクラスに実生活と関わりが深い問題なのである。

条件付き確率とは

検査陽性の問題について解説しているサイトは数あれど、そもそも条件付き確率が何かという根本的な説明が欠けているために、条件付き確率を未学習の人が完全に納得するのは難しいことが多い。

簡単にではあるが、条件付き確率について具体的な問題を用いて解説しておく。条件付き確率をすでに知っている場合は読み飛ばしてもらって構わない。

2021年近畿大学医学部第1問解答

問題を再掲。

とりあえず、普通に解答を示す。条件付き確率の教科書レベルの問題である。

有病率0.01%の場合

70%の精度とされる検査で陽性であったにもかかわらず、実際に感染している確率はわずか6.5%、直感に反した驚くべき結果である。これこそが

検査陽性のパラドックス

 

なぜこんなことになってしまうのだろうか。

最も理解しやすい説明は、具体的な人数で考えてみることである。全体の0.01%が感染している1千万人を検査したとして、陽性判定と陰性判定が何人ずつ出るかを求めてみよう。

全体の0.01%が感染しているならば、実際に感染している人は1千万人中1千人、逆に感染していない人は999万9千人いることになる。

実際に感染している1千人中、正しく陽性と判定されるのはその70%の700人である。逆に、残りの300人は間違って陰性と判定されてしまう(偽陰性)。

一方、実際には感染していない999万9千人中、正しく陰性と判定されるのは999万9千人の99.9%、つまり9989001人である。逆に、残りの9999人は間違って陽性と判定されてしまう(偽陽性)。

以上をまとめると表のようになる。

感染非感染合計
陽性700人9999人10699人
陰性300人9989001人 9989301人
合計1000人9999000人1千万人
1千万人のうち0.01%がウイルス感染している場合

陽性判定が出る人は合計で10699人であるが、このうち実際に感染している人は700人にすぎない。

つまり、陽性となったときに実際に感染している条件付き確率 700/10699≒6.5% (陽性的中率)となる。

感染かつ陽性の人が少ない場合、陽性者全体の中で埋もれてしまうわけである。

表を元に、陰性となったときに実際に感染していない条件付き確率(陰性的中率)も求めておこう。

9989001/9989301≒99.99% となる。

有病率1%の場合

有病率(検査前確率)が変わるとさらに驚くべきことが起こる。

何と、陽性的中率は87.6%に達する。

上と同様に表を作成すると以下となる。

感染非感染合計
陽性70000人9900人79900人
陰性30000人9890100人 9920100人
合計100000人9900000人1千万人
1千万人のうち1%がウイルス感染している場合

陽性となったときに実際に感染している条件付き確率(陽性的中率)70000/79900≒87.6% となる。

陰性となったときに実際に感染していない条件付き確率(陰性的中率)9890100/9920100≒99.7% となる。

まとめ

そもそも検査の精度は、感度と特異度という概念で表される。感度は感染者に正しく陽性判定を出す確率、特異度は非感染者に正しく陰性判定を出す確率で、検査法によって固有である。

近畿大学の問題の検査は「感度70%、特異度99.9%」となる。

感度100%、特異度100%が理想だが、感度と特異度はトレードオフの関係にあるのでそのような検査は存在しない。偽陽性が少なくなるように基準値を設定すると偽陰性が増えてしまうし、その逆もまた然りである。

そして、最も厄介なことは、陽性的中率や陰性的中率が検査法に固有なわけではなく、有病率によって大きく変動する点である。

有病率0.01%のように検査前確率が低すぎる場合、検査陽性という情報を得て確率を更新したとしても、結局6.5%のような低い確率にしかならない。

一方、有病率1%のように検査前確率が高ければ、検査陽性という情報を得て確率を更新すると87.6%にまで高くなる。

検査は検査前確率が高い人にすることが効果的というわけである。新型コロナでいえば、最も手堅いのは濃厚接触者に検査することである。濃厚接触があったとなればその検査前確率は相当に高いと考えられ、その上で検査陽性だったならば感染はほぼ確実である。

無駄な検査は、患者にとって体力的・精神的・経済的に恐ろしい負担となる。よって、通常は医師が検査前確率を高めてから検査を行う。患者を診察してウイルス感染が疑われるような症状や身体所見があったり、ハイリスクな行動歴があったりした場合には検査前確率が高くなり、検査する意義が出てくる。

もっとも、検査前確率が低い場合でも検査に全く意味がないわけではない。陰性的中率は高いので、検査の時点で感染していないことの証明になる。もちろん、その後に感染する可能性もあるから感染対策を怠ってよいことにはならない。

ただし、現実はより複雑である。検査を正しく行い、検査結果を正しく解釈し、確定診断を下すというのは簡単なことではないのである。

そんな検査を行い、目立たないながらも医療現場を支えているのは、PCR検査でも注目された臨床検査技師(国家資格)の方々である。学生は将来の選択肢の1つにしてみてはどうだろうか。

 

ということで、近畿大学医学部の問題を元に長々と述べてきたが、個人レベルで何よりも大事なことは以下の1つに集約される。

体調に異変を感じたなら医師診察を受けるべし。

応用問題にチャレンジ

検査陽性の問題は普通に出題するとありきたりすぎるので、少し難しくして出題されることも多い。

最後に2021年上智大学の問題をおいておくのでチャレンジしてみるとよい。

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