
大阪大学では、2013年から前期日程を「一般枠」と「挑戦枠」に分けて募集している。「挑戦枠」では、1日目に「一般枠」と同じ試験、2日目に専門数学の試験が行われる。そして、初めての「挑戦枠」の専門数学の試験では、挑戦枠にふさわしい問題が出題された。
「円周率を小数第3位まで特定しよう」という趣旨はわかりやすいが、10年前の東大の問題と比べて非常に厳しい評価が要求されており、問題の√3の小数第7位までの評価をみた時点ですでに嫌な予感しかしない。
下に解答を簡単に示した。は、ライプニッツ級数に関する頻出パターン問題を学習していれば方針を迷うことはないだろう。
問題はである。不等式で評価するだけなので、発想や手順が難しいわけでは決してない。しかし、案の定嫌な予感が的中することになる。

「もうやめて・・・」と言いたくなる数値計算である。非常にシビアな評価になるため、少しでも途中計算を間違えると正しい結果が得られない。まあ、自分は電卓の力を借りたわけだが(笑)。
思考力などよりも、「精神力」「持久力」「忍耐力」が問われている。もちろん、単純な計算力やうまく工夫して見通しをよくする先見性や正確さなども必要である。ただ、割と時間には余裕があるので、落ち着いて一歩ずつ確実に歩んでいけば答案を完成させることは難しくない。
数学者ルドルフの伝説的偉業
人類は円周率の小数以下を求め続けてきた。
長い間、円周と内接・外接する正多角形の周の長さを比較することで円周率を評価してきた。しかし、この方法で高い精度の円周率を得ることは容易ではない。この問題と同じレベル、たった小数第3位までの評価であっても正160角形が必要である。
紀元前3世紀頃、アルキメデスは正96角形を用いて 3.14084<π<3.14286 を示した。これは3.14までを正しく評価したことを意味する。
この方法は1600年頃の数学者ルドルフ(ドイツ)まで続いた。ルドルフは、正262角形(正461京1686兆184億2738万7904角形)を用いて、一生をかけて小数以下35桁を正しく評価した。ドイツでは円周率のことをルドルフ数とも呼ぶという。
17世紀頃になると、微分積分が登場したことで収束が速い無限級数を用いた評価が主流となる。
本問は、無限級数を用いると手計算でも小数第3位程度までならば割と容易に評価できることを示している。手計算による方法は1946年の電子計算機による方法が登場するまで続いた。
以降、計算機の発達に伴って飛躍的に記録が伸び続けている。
計算機のない時代、数学者達は想像を絶する量の計算を強いられた。それに比べればこの問題の計算はお遊びにもならない。数学研究にはセンスだけではなく「精神力」「持久力」「忍耐力」も必要であるが故、受験生に対してもそれを求めたいということのなのだろう。
おはようございmath!今日は6月2日、「62」といえば…ルドルフ・ファン・コーレンは1610年頃に円周率を35桁めまでを正確に計算しましたが、このとき用いられたのは正2^62角形です。彼の墓石には、円周率の値が刻まれています(2000年に再興)。 pic.twitter.com/WjPt6SBRUl
— 実用数学技能検定(数学検定・算数検定) (@sugaku_net) 2017年6月1日
歴史に関しては、円周率の歴史(Wikipedia)他、いくつかのサイトを参考にさせてもらった。