
炭酸ナトリウム Na₂CO₃ 水溶液では, 次の電離平衡①, ②が成立している.
① CO₃²⁻ + H₂O ⇄ HCO₃⁻ + OH⁻
② HCO₃⁻ + H₂O ⇄ H₂CO₃ + OH⁻
また, 弱酸である炭酸は水溶液中で2段階で電離して, 以下の電離平衡が成り立つ.
第1電離 H₂CO₃ ⇄ H⁺ + HCO₃⁻ K₁=4.0×10⁻⁷ mol/L
第2電離 HCO₃⁻ ⇄ H⁺ + CO₃²⁻ K₂=4.0×10⁻¹¹ mol/L
水のイオン積を Kw=[H⁺][OH⁻]=1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)² とする.
(1) ①, ② の電離定数 Kh₁, Kh₂ の値を求め, 単位と共に示せ.
(2) 0.40 mol/L の炭酸ナトリウム水溶液の pH を求めよ.
(1)
K₁=[H⁺][HCO₃⁻]/[H₂CO₃], K₂=[H⁺][CO₃²⁻]/[HCO₃⁻]
Kh₁=[HCO₃⁻][OH⁻]/[CO₃²⁻]
= [HCO₃⁻][OH⁻][H⁺]/([CO₃²⁻][H⁺]) = Kw/K₂
= (1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)²) / (4.0×10⁻¹¹ mol/L) = 2.5×10⁻⁴ mol/L
Kh₂=[H₂CO₃][OH⁻]/[HCO₃⁻]
= [H₂CO₃][OH⁻][H⁺]/([HCO₃⁻][H⁺]) = Kw/K₁
= (1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)²) / (4.0×10⁻⁷ mol/L) = 2.5×10⁻⁸ mol/L
(2)
Kh₁≫Kh₂ より, ② の電離は無視できる.
炭酸ナトリウム Na₂CO₃ のモル濃度を c [mol/L], ① の電離度を α とする.
CO₃²⁻ + H₂O ⇄ HCO₃⁻ + OH⁻
電離前 c 多量 0 0
変化量 −cα 多量 +cα +cα
電離後 c(1−α) 多量 cα cα
α<0.05 と仮定すると
Kh₁=[HCO₃⁻][OH⁻]/[CO₃²⁻]=cα×cα / c(1−α)=cα²/(1−α) ≈ cα²
α=√(Kh₁/c)=√(2.5×10⁻⁴ mol/L / 0.40 mol/L)=0.025 (α<0.05 を満たす)
[OH⁻]=cα=0.40 mol/L×0.025=1.0×10⁻² mol/L
[H⁺]=Kw/[OH⁻]=1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)² / 1.0×10⁻² mol/L=1.0×10⁻¹² mol/L
pH=−log₁₀[H⁺]=−log₁₀(1.0×10⁻¹²)=12
(1) Na₂CO₃ は塩なので, 水溶液中で100%電離する. Na₂CO₃ → 2Na⁺ + CO₃²⁻
電離で生じた炭酸イオン CO₃²⁻ は弱酸 H₂CO₃ の陰イオンである.
H⁺ を2個受け取ることができるから, 2価の弱塩基といえる(ブレンステッドの定義).
Na₂CO₃ は弱酸 H₂CO₃ と強塩基 NaOH からなる正塩なので, 加水分解して塩基性を示す.
加水分解定数は, 酸の電離定数と水のイオン積 Kw を用いて表されるのであった.
(2) 加水分解は, 加水分解定数さえ求まれば, 後は弱酸・弱塩基の電離平衡と同じ扱いであった.
① と ② の加水分解定数の差が大きいことも考慮すると, 結局は1価の弱塩基の扱いである.
炭酸水素ナトリウム NaHCO₃ 水溶液では, 次の電離平衡①, ②が成立している.
① 2HCO₃⁻ ⇄ CO₃²⁻ + H₂CO₃ (HCO₃⁻同士の不均化反応)
② HCO₃⁻ + H₂O ⇄ H₂CO₃ + OH⁻ (HCO₃⁻の加水分解)
また, 弱酸である炭酸は水溶液中で2段階で電離して, 以下の電離平衡が成り立つ.
第1電離 H₂CO₃ ⇄ H⁺ + HCO₃⁻ K₁=4.0×10⁻⁷ mol/L
第2電離 HCO₃⁻ ⇄ H⁺ + CO₃²⁻ K₂=4.0×10⁻¹¹ mol/L
(1) ①, ② の電離定数 K, Kh の値を求め, 単位と共に示せ.
(2) [Na⁺], [H₂CO₃], [HCO₃⁻], [CO₃²⁻] の関係式を示せ (物質収支の条件).
(3) [Na⁺], [H⁺], [OH⁻], [HCO₃⁻], [CO₃²⁻] の関係式を示せ (電気的中性の条件).
(4) NaHCO₃ は弱塩基性を示すため, [H⁺], [OH⁻] は [Na⁺] に対して十分小さいとする.
0.10 mol/L の炭酸水素ナトリウム水溶液の pH を求めよ. log₁₀2=0.30
(1)
K₁=[H⁺][HCO₃⁻]/[H₂CO₃], K₂=[H⁺][CO₃²⁻]/[HCO₃⁻]
K=[CO₃²⁻][H₂CO₃]/[HCO₃⁻]² = ( [H⁺][CO₃²⁻]/[HCO₃⁻] ) × ( [H₂CO₃]/[H⁺][HCO₃⁻] ) = K₂/K₁
= (4.0×10⁻¹¹ mol/L) / (4.0×10⁻⁷ mol/L) = 1.0×10⁻⁴ (単位なし)
Kh=[H₂CO₃][OH⁻]/[HCO₃⁻] = [H₂CO₃][OH⁻][H⁺]/([HCO₃⁻][H⁺]) = Kw/K₁
= (1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)²)/(4.0×10⁻⁷ mol/L) = 2.5×10⁻⁸ mol/L
(2) C原子の物質量に着目して
[Na⁺]=[H₂CO₃]+[HCO₃⁻]+[CO₃²⁻]
(3) NaHCO₃ は電気的に中性なので
[Na⁺]+[H⁺]=[OH⁻]+[HCO₃⁻]+2[CO₃²⁻]
(4) [Na⁺]≫[H⁺], [Na⁺]≫[OH⁻] であるから, (3) より [Na⁺]=[HCO₃⁻]+2[CO₃²⁻]
(2) の式と連立すると [H₂CO₃]=[CO₃²⁻]
K₁K₂=[H⁺][HCO₃⁻]/[H₂CO₃] × [H⁺][CO₃²⁻]/[HCO₃⁻] = [H⁺]² = 16×10⁻¹⁸ (mol/L)²
pH=−log₁₀[H⁺]=−log₁₀(4.0×10⁻⁹)=−2log₁₀2−log₁₀10⁻⁹
= −2×0.30+9=8.4
(1) NaHCO₃ は塩なので, 水溶液中で100%電離する. NaHCO₃ → Na⁺ + HCO₃⁻
電離で生じた HCO₃⁻ は, H⁺ を放出することも受け取ることもできる.
つまり, ブレンステッドの定義において酸としても塩基としてもはたらく両性物質である.
① はそのときの第1電離の逆反応と第2電離が合体した反応なので, 必然的に K=K₂/K₁ となる.
(2) 電離平衡は, 物質収支の条件, 電気的中性の条件, 電離平衡の式を連立すると厳密に扱える.
ある元素に着目すると, その元素の物質量はどんな化学変化が起こっても不変である.
C原子に着目すると, 電離前は HCO₃⁻ として存在していた.
電離度は100%であるから, [電離前の HCO₃⁻]=[Na⁺] が成り立つ.
電離後 C原子は HCO₃⁻ か H₂CO₃ か CO₃²⁻ の形で存在しているが, 物質量の総量は変わらない.
(3) NaHCO₃, H₂O は電気的に中性の分子なので, 電離後も全体として電気的中性が保たれる.
(陽イオンの正電荷の総モル濃度)=(陰イオンの負電荷の総モル濃度)
(4) Kh≫K₂ より, 第2電離よりも② の電離(HCO₃⁻の加水分解)の方がはるかに起こりやすい.
そのため, NaHCO₃ 水溶液は弱塩基性を示す.
仮に pH=8 とすれば [H⁺]=10⁻⁸ mol/L, 水のイオン積より [OH⁻]=10⁻⁶ mol/L である.
これらは, [Na⁺]=0.10 mol/L に比べると無視できるほど小さい.
この近似により, [H₂CO₃]=[CO₃²⁻], そして [H⁺]=√(K₁K₂) が導かれる.
両性物質は, 濃度が極端に低くない限り, 濃度に関係なく [H⁺]=√(K₁K₂) となる.
pH=−log₁₀√(K₁K₂)=−(log₁₀K₁+log₁₀K₂)/2=(pK₁+pK₂)/2 (pK₁ と pK₂ の中点)
アミノ酸の等電点が [H⁺]=√(K₁K₂) となるのと本質的に同じである(後に高分子化合物で学習).
邪道だが, 前項でも示した下図とともに公式として覚えておくといざというときに役立つ.
