
中和滴定 中和反応の量的関係を利用して, 不明な酸や塩基の濃度を求める操作.
中和点 酸と塩基が過不足なく中和する点.
中和点付近に変色域をもつ指示薬の色の変化でわかる.
標準溶液 中和滴定などに用いる濃度が正確にわかっている溶液.
NaOH水の標準溶液の調製方法
NaOH(固)は, 空気中の水分を吸収する性質(潮解性)や空気中のCO₂と反応する性質をもつため, 正確な濃度の溶液の調製が難しい.
NaOH水を用いた中和滴定を行うとき, 直前に酸の標準溶液で濃度不明のNaOH水を滴定し, NaOH水の正確な濃度を求めておく.
酸の標準溶液は, シュウ酸二水和物(COOH)₂·2H₂O(固;空気中で安定)の水溶液を用いる.
滴定における実験器具と実験操作
器具 特徴・用途 加熱乾燥 洗浄方法
コニカルビーカー 振っても液体がこぼれないよう上部を細めたビーカー(三角フラスコで代用可) ○ 純水で洗い, 濡れたまま使用
メスフラスコ 溶液を薄め, 正確な濃度の溶液を調製 ×
ホールピペット 一定体積の溶液を正確に量り取り, 他へ移動させる × 共洗いし, 濡れたまま使用
ビュレット 溶液を少量ずつ滴下し, 滴下した溶液の体積を正確に量る × 濡れたまま使用
NaOHとCO₂の反応式(塩基と酸性酸化物の中和反応)
2NaOH + CO₂ → Na₂CO₃ + H₂O
HClには揮発性(蒸発しやすい), H₂SO₄には吸湿性(空気中の水分を吸収)がある.
濃度が変化しやすいため, 塩酸や硫酸を酸の標準溶液にすることはできない.
吸湿性は固体が多少湿っぽくなる程度の吸収だが, 潮解性は固体が液体になるまで水分を吸収する.
ビュレットは, 滴下前の目盛りと滴下後の目盛りの差から滴下量を求める.
目線を目盛りと水平にして, メニスカス(液面)の最下部を最小目盛りの1/10まで目分量で読み取る.
体積を正確に量る用途のガラス器具は, 変形の恐れがあるため加熱乾燥してはならない.
よって, ホールピペット・ビュレット・メスフラスコは加熱乾燥できない. コニカルビーカーはOK.
自然乾燥させる時間がない場合の洗浄方法は, その理由も理解しておく必要がある.
コニカルビーカーに入れた溶液の濃度が薄まっても溶質の物質量は変化せず, 滴下量に影響しない.
メスフラスコは, どうせ後から純水を入れて溶液を調製するので, 最初に水で濡れていても問題ない.
ホールピペット・ビュレットは共洗い(これから滴定で使用する溶液で洗う)してそのまま使用する.
純水で洗ってそのまま使うと, せっかく判明している標準溶液の濃度が薄まってしまう.
なお, 後に学習する酸化還元滴定でも同じ実験器具を使用する.
また, メスシリンダーや駒込ピペットは精度が低いので, 普通滴定では使用せず, 出題もされない.
pH指示薬の変色域(メチルオレンジとフェノールフタレインが特に重要)
メチルオレンジ(MO) pH3.1〜4.4(赤→黄)
メチルレッド(MR) pH4.4〜6.2(赤→黄)
ブロモチモールブルー(BTB) pH6.0〜7.6(黄→青)
フェノールフタレイン(PP) pH8.0〜9.8(無色→赤紫)
酸性側 ←→ 塩基性側
中和の滴定曲線
加えた酸や塩基の体積とpHの関係を表した曲線.
中和点は酸・塩基の強い方に片寄る(塩の加水分解による).
強酸と強塩基の中和:
0.10 mol/L塩酸10 mLに 0.10 mol/L NaOH水を滴下
中和点はpH7, メチルオレンジもフェノールフタレインも可.
弱酸と強塩基の中和:
0.10 mol/L酢酸10 mLに 0.10 mol/L NaOH水滴下
中和点はpH8.5付近(弱酸塩が加水分解して塩基性)
指示薬はフェノールフタレイン可, メチルオレンジ不可.
強酸と弱塩基の中和:
0.10 mol/L塩酸10 mLに 0.10 mol/L NH₃水滴下
中和点はpH5.5付近(弱塩基塩が加水分解して酸性)
指示薬はメチルオレンジ可, フェノールフタレイン不可.
強酸と強塩基の組合せでは, 滴下前は [H⁺] = 0.10 = 10⁻¹ より, pH = 1 である.
塩基 NaOH 水を滴下していくと H⁺ が中和して H₂O となり, pH は増えていく.
同じペースで滴下していても, 徐々に pH の変化量は大きくなってくる(理由は後述).
そして, pH が3付近から11付近まではわずか一滴程度の差で一気に変化する(pHジャンプ).
よって, 滴定曲線には垂直部分ができる. 厳密には垂直ではないが, 実用上垂直とみなしてよい.
垂直部分の中央が中和点(酸と塩基が過不足なく反応; H⁺ と OH⁻ の mol が一致する点)である.
NaOH 水の体積を V (mL) とすると, 1×0.10×(10/1000) = 1×0.10×(V/1000) より V = 10 mL.
ゆえに, NaOH 水を10 mL 滴下したところで pH ジャンプが起こる.
その後は, NaOH 水の pH ([OH⁻] = 10⁻¹ より pH = 13) に近づいていく.
中和滴定の目標は, 中和点における滴下量(体積)から試料(溶液)の濃度を逆算することである.
しかし, 真の中和点は, 強酸と強塩基ならば pH = 7 の瞬間のみである.
指示薬でこの瞬間を特定してそのときの体積を測定するのは難しい.
実際には, 垂直部分のどこかに変色域をもつ指示薬を用い, 変色したところで滴定操作を終える.
このように指示薬の変色から判断して滴定操作を終えた点を終点という.
当然, 終点において測定した滴下量と中和点における滴下量は厳密には一致しない.
しかし, 滴定曲線を垂直と考えると, 中和点と終点の滴下量は一致しているとみなすことができる.
強酸と強塩基の組合せならば, pH ジャンプの範囲が広いため, いずれの指示薬も使用可能である.
ただし, 普通は色の変化が最もわかりやすいフェノールフタレイン(無色→赤)を優先する.
一方が弱酸や弱塩基なら, 塩の加水分解により, 中和点は塩基性側または酸性側に片寄る.
また, pH ジャンプの範囲がせまくなる.
よって, pH ジャンプの部分に変色域をもつような適切な指示薬を選択する必要がある.
中和滴定に酸・塩基の強弱は無関係であった. すべて1価なので中和点における滴下量は同じである.
頻出のPP, MO, MRの色は外側(pH=7から遠いほう)が赤になると覚えておくとよい.
なお, 弱酸と弱塩基の組合せの場合は pH ジャンプの幅が小さく, いずれの指示薬も適さない.
中和点付近において急激に pH が変化するのは次のような理由による.
pH が1→2のとき, H⁺ のモル濃度は0.1→0.01で, 変化量は−0.09 mol/L である.
pH が5→6のとき, H⁺ のモル濃度は0.00001→0.000001で, 変化量は−0.000009 mol/L である.
1 L あたりで考えると, pH を1→2にするには 0.09 mol の OH⁻ を加える必要がある.
0.1 mol/L の NaOH であれば, 必要な体積量は0.9 L (900 mL)にもなる.
一方, pH を5→6にするのに必要な体積量はわずか 0.00009 L (0.09 mL)にすぎない.
NaOH 水の必要体積量は pH 1→2 に比べて 5→6 は1万分の1となり, 一滴の差で一気に変化する.
価数と滴下量 (濃度はすべて0.10 mol/L)
① 1価の強酸 HCl 10 mL を 1価の強塩基 NaOH で滴定.
② 1価の強酸 HCl 10 mL を 2価の強塩基 Ca(OH)₂ で滴定.
③ 2価の強酸 H₂SO₄ 10 mL を 1価の強塩基 NaOH で滴定.
滴定曲線は, 酸・塩基の価数によっても変化する. 中和点までの滴下量が変わるからである.
0.10 mol/L の強酸 HCl(1価) と 0.10 mol/L の強塩基 NaOH(1価) の滴定曲線①を基準とする.
①の場合は酸と塩基の価数もモル濃度も等しいから, HCl 10 mL に対し, NaOH も10 mL 必要である.
中和の量的関係 acV = bc′V′ において a=b=1, c=c′=0.10, V=10/1000 より V′=10 mL.
② 2価の塩基に変更すると(a=1, b=2), 必要な塩基の体積 V′ は半分の5 mLになる.
③ 2価の酸に変更すると(a=2, b=1), 必要な1価の塩基の体積 V′ は2倍の20 mLになる.
市販の食酢中の酢酸の濃度を調べるために次の実験を行った. 有効数字2桁で答えよ.
[操作1] ある質量のシュウ酸二水和物(COOH)₂·2H₂Oの結晶を少量の水に溶かし, 器具Aに移して正確に0.050 mol/Lのシュウ酸標準溶液100 mLを調製した.
[操作2] 操作1の標準溶液10 mLを器具Bで量り取って器具Cに入れ, 指示薬(a)を2,3滴加えた.
器具Dに入れた濃度未知の水酸化ナトリウム水溶液を滴下したところ, 終点までに11.3 mLを要した.
[操作3] 市販の食酢を水で10倍に薄めた水溶液10 mLに指示薬(b)を加えて操作2の水酸化ナトリウム水溶液で4回の滴定を行い, 下表の結果を得た.
滴定前の目盛り[mL]: 0.20, 8.39, 16.59, 24.94
滴定後の目盛り[mL]: 8.39, 16.59, 24.94, 33.15
(1) 器具A〜Dの名称を示せ. 共洗いが必要な器具とその理由も示せ.
(2) 操作1で必要なシュウ酸二水和物の結晶は何gか. (COOH)₂·2H₂O = 126
(3) 操作2を行う理由を NaOH の2つの性質の観点から示せ.
(4) 指示薬(a)と(b)は何か. その指示薬を用いる理由と終点の判断方法も示せ.
(5) 操作2の中和反応式を示し, 水酸化ナトリウム水溶液のモル濃度を求めよ.
(6) 食酢中の酸はすべて酢酸であるとして, その酢酸のモル濃度を求めよ.
(7) 食酢の密度を1.05 g/cm³とするとき, 食酢中の酢酸の質量パーセント濃度を求めよ. (CH₃COOH=60)
(1) A:メスフラスコ C:コニカルビーカー
共洗いが必要な器具:B:ホールピペット D:ビュレット
理由:純水で洗って濡れたまま使うと, 標準溶液の濃度が薄まってしまうから.
(2) 必要なシュウ酸二水和物の物質量は 0.050 mol/L × 100/1000 L = 0.0050 mol
質量は 126 g/mol × 0.0050 mol = 0.63 g
(3) NaOH の結晶は, 空気中の水分を吸収する性質(潮解性)と空気中の CO₂ と反応する性質をもつため, 正確な濃度の溶液の調製が難しい. NaOH 水を用いた滴定の直前に, 酸の標準溶液を用いて中和滴定して NaOH 水の正確な濃度を求めておく必要がある.
(4) (a),(b)どちらもフェノールフタレイン.
理由:弱酸を強塩基で滴定すると中和点が弱塩基性になるため, 塩基性側に変色域をもつ指示薬を用いる.
コニカルビーカー内の無色溶液が薄い赤色に呈色し, 振り混ぜても消えなくなったところを終点とする.
(5) (COOH)₂ + 2NaOH → (COONa)₂ + 2H₂O
H₂C₂O₄ + 2NaOH → Na₂C₂O₄ + 2H₂O
水酸化ナトリウム水溶液のモル濃度を x [mol/L] とすると,
2×0.050 mol/L×10/1000 L = 1×x mol/L×11.3/1000 L
x = 1.0/11.3 ≒ 0.088 = 8.8×10⁻² mol/L
(6) 滴定量は1回目8.19 mL, 2回目8.20 mL, 3回目8.35 mL, 4回目8.21 mLである.
1回目,2回目,4回目の平均は (8.19+8.20+8.21)/3 = 8.20 mL.
酢酸のモル濃度を y [mol/L] とすると,
1×y mol/L×10/1000 L = 1×(1.0/11.3 mol/L)×8.20/1000 L
酢酸のモル濃度は y×10 = (8.20/(11.3×10))×10 ≒ 0.73 mol/L
(7) 1 L の食酢の質量は 1.05 g/cm³ × 1000 cm³ = 1050 g.
1 L の食酢に含まれる酢酸の質量は 60 g/mol × (8.2/11.3) mol.
(60×8.2/11.3)/1050×100 ≒ 4.1%.
「食酢中の酢酸の濃度」は, 中和滴定の中でトップクラスの出題率を誇るパターンである.
計算が適度な難易度で, 実験器具・実験理由・指示薬などについて総合的に問えるからである.
最初に調製したシュウ酸標準溶液を一次標準溶液という.
このシュウ酸標準溶液で中和滴定して濃度を決定したNaOH水溶液を二次標準溶液という.
(1) ビュレットを使うとき, コックの先端部分に残っている空気を完全に追い出す必要がある.
コックを開けてNaOH水を少し流し出した後, コックを閉じる.
(2) 溶液の調製に必要な溶質の物質量(mol)を考えると, 質量もわかる.
0.050 mol/Lを100 mL作るから, 必要な溶質(シュウ酸二水和物)は 0.050×(100/1000) molである.
規定体積100 mLのメスフラスコなら, 後から標線まで純水を加えれば100 mLの溶液になる.
(3) [操作2]と[操作3]では, 酸をコニカルビーカーに入れ, NaOH水をビュレットから滴下している.
CO₂と反応しないようNaOH水と空気の接触面積をできる限り小さくするためである.
(5) シュウ酸(COOH)₂はH₂C₂O₄とも表す. C₂O₄²⁻がシュウ酸イオンである.
単純な中和滴定の計算であり, 公式 acV=bc’V’ が使える. シュウ酸は2価の酸なので注意.
(6) ビュレットの目盛りは下に行くほど大きくなる. 滴定前後の目盛りの差が毎回の滴定量である.
1滴は0.03 mL程度なので, 3回目の滴定量は測定誤差が大きく, 無視する.
題意は元の食酢中の酢酸のモル濃度であるから, 実験結果を10倍にして答える.
10倍に薄めなかった場合, 必要なNaOH水が82 mLになってしまう.
(7) 質量パーセント濃度は, (溶質の質量[g]/溶液の質量[g]×100) である.
1 Lを基準にして考える.
1 L=1000 cm³より, 1 Lの溶液(食酢)の質量は1050 gである.
また, (6)より1 Lの溶液(食酢)中の溶質(酢酸)の物質量は 8.20/11.3 (≒0.73) molである.
計算誤差を少なくするため, 0.73ではなく分数の形にしておく.
これにモル質量60 g/molを掛けると溶質(酢酸)の質量が求まる. まだ計算は実行しない.
質量パーセント濃度を求める式を立てた後, 一気に計算する.
このとき, 先に約分とすべての積の計算を行い, 割り算は最後の1回にすると誤差が少なくなる.
(60×(8.20/11.3))/1050×100 = (60×8.20×100)/(1050×11.3) = (2×8.20×100)/(35×11.3) = (2×8.20×20)/(7×11.3) = 328/79.1 = 4.14…
