混酸(塩酸+硫酸、塩酸+酢酸)の中和滴定

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0.010 mol/L の硫酸 100 mL と 0.010 mol/L の塩酸(体積不明)の混酸を 10 mL とり、0.010 mol/L の水酸化ナトリウム水溶液で滴定したところ、12.5 mL を要した。硫酸と混ぜた塩酸の体積は何 mL か。 求める塩酸の体積を V [mL] とする。 0.010 mol/L 硫酸 100 mL 中の H⁺ の物質量は 2 × 0.010 mol/L × (100/1000 L) = 0.0020 mol 0.010 mol/L 塩酸 V [mL] 中の H⁺ の物質量は 1 × 0.010 mol/L × (V/1000 L) = 1.0×10⁻⁵ × V mol 混合溶液全体の H⁺ のモル濃度は [H⁺] = (0.0020 + 1.0×10⁻⁵V) mol ÷ ((100 + V)/1000 L) [mol/L] 混酸 10 mL 中の H⁺ の物質量と NaOH 水 12.5 mL 中の OH⁻ の物質量は等しいから (0.0020 + 1.0×10⁻⁵V) ÷ ((100 + V)/1000) × (10/1000) = 1 × 0.010 × (12.5/1000) ∴ V = 300 mL 注意点 最も注意すべきは、混酸のモル濃度が各酸のモル濃度の和として求められない ことである。 直感的にも、次の 2 つの混酸がいずれも「0.010 + 0.020 = 0.030 mol/L」となるのはおかしい。 ① 0.010 mol/L の HCl 10 mL と 0.020 mol/L の H₂SO₄ 10 mL の混酸 ② 0.010 mol/L の HCl 10 mL と 0.020 mol/L の H₂SO₄ 100 mL の混酸 混酸のモル濃度は、物質量と体積を別々に考えて求める。 物質量は (価数) × (モル濃度 mol/L) × (体積 L) で求められる。 特に断りがない限り、混酸の体積は元の 2 種の酸の体積の和と考えてよい。 複数の酸や塩基があっても、結局は (酸の H⁺ の mol) = (塩基の OH⁻ の mol) が中和の根幹である。 濃度未知の塩酸と酢酸を含む水溶液 10 mL を、0.15 mol/L の水酸化バリウム水溶液で滴定したところ、次の滴定曲線が得られた。 (1) 塩酸に酢酸を加えると酢酸の電離度にどのような変化が起こるか。理由と共に示せ。 (2) 第1段階の中和と第2段階の中和の反応式をそれぞれ示せ。 (3) 第1中和点と第2中和点までに要した 0.15 mol/L 水酸化バリウム水溶液は、それぞれ 5 mL、15 mL であった。もとの水溶液中の酢酸のモル濃度を求めよ。 (4) 最初の水溶液の pH を求めよ。 log₁₀2=0.30、log₁₀3=0.48 (1) 塩酸(強酸)が出す H⁺ によって酢酸(弱酸)の電離平衡 CH₃COOH ⇄ CH₃COO⁻ + H⁺ が左に偏るため、電離度は小さくなる。 (2) 第1段階の中和: 2HCl + Ba(OH)₂ → BaCl₂ + 2H₂O 第2段階の中和: 2CH₃COOH + Ba(OH)₂ → (CH₃COO)₂Ba + 2H₂O (3) 最初の溶液中の酢酸の濃度を x [mol/L] とする。 1 × x × (10/1000) = 2 × 0.15 × ((15 − 5)/1000) ∴ x = 0.30 mol/L (4) 最初の溶液中の塩酸の濃度を y [mol/L] とする。 1 × y × (10/1000) = 2 × 0.15 × ((5 − 0)/1000) ∴ y = 0.15 mol/L 酢酸の電離は無視できるから、最初の水溶液の H⁺ のモル濃度は [H⁺] = y = 0.15 mol/L pH = −log₁₀[H⁺] = −log₁₀0.15 = −log₁₀(3/2 × 10⁻¹) = −log₁₀3 + log₁₀2 − log₁₀10⁻¹ = −0.48 + 0.30 + 1 = 0.82 解説・補足 (1) 酸・塩基の強弱の違いは電離度の違いであり、強酸・強塩基は100%電離する(電離度1)。 一方、弱酸・弱塩基は濃度が極端に薄くない限り、ごくわずかしか電離しない。 強酸から大量の H⁺ が出ると、ルシャトリエの原理(平衡は外部からの変化を妨げる方向に移動) により、ただでさえ小さい電離度がさらに小さくなる。 (2) よって、強酸が存在する間は弱酸の電離は無視できる。 つまり、塩酸の中和が完了した後で酢酸の中和が始まるため、pH の急変(ジャンプ)が2回起こる。 強酸同士など、同程度の電離度の酸の混酸ならば、2つの中和は同時に進行する。 (3) 第1中和点から第2中和点までの間が酢酸の中和であるから、滴下量は 15 − 5 = 10 mL である。 (4) 塩酸の中和に要した滴下量は第1中和点までの 5 − 0 = 5 mL である。