
結合エネルギー 気体分子内の共有結合1 molを切断するのに必要なエネルギー.
必ず吸熱反応(ΔH>0)である.
例 H–Hの結合エネルギー 436 kJ/mol H₂(気)→2H(気) ΔH=436 kJ
(図の説明)
吸熱(結合切断)⇔発熱(結合生成)
H₂(気)→2H(気):ΔH=+436 kJ
2H(気)→H₂(気):ΔH=–436 kJ
解離エネルギー 気体分子内のすべての共有結合を切断するのに必要なエネルギー.
二原子分子(例 H–H)は結合エネルギーと解離エネルギーが一致する.
例 CH₄の解離エネルギー 1664 kJ/mol
CH₄(気)→C(気)+4H(気) ΔH=1664 kJ
C–Hの結合エネルギー 1664/4=416 kJ/mol (CH₄はC–H結合を4本もつ)
反応エンタルピーと結合エネルギーの関係(全物質が気体の場合に適用可)
(反応エンタルピー)=(反応物の結合エネルギーの総和)-(生成物の結合エネルギーの総和)
結合エネルギーは, 常にバラバラの原子の状態が基準になる.
よって, 反応物と生成物の結合エネルギーの差が反応エンタルピーとなる.
-a+x=-b より x=a-b [kJ]
高校化学では, (結合エネルギー)=(結合エンタルピー)と考えてよい.
また, 同じ結合でも, 実際には物質の種類や結合位置により結合エネルギーが異なる.
例 C–C(ダイヤモンド) 357 kJ/mol C–C(C₂H₆) 368 kJ/mol
しかし, 高校化学では同じと考えることが多く, 問題で指定されるはずである.
バラバラの原子は分子よりも遥かに大きいエネルギーをもつから, 結合切断は必ず吸熱反応である.
反応エンタルピーと結合エネルギーの関係は, 生成エンタルピーとの関係に似ているが同じではない.
結合エネルギーの公式と生成エンタルピーの公式は, 反応物と生成物が逆なので要注意!
(反応エンタルピー)=(生成物の生成エンタルピーの総和)-(反応物の生成エンタルピーの総和)
生成エンタルピーは基準(単体)からのエンタルピー変化だが, 結合エネルギーは基準(原子)へのエンタルピー変化だからである.
(1) N≡N, H–H, N–Hの結合エネルギーは945 kJ/mol, 436 kJ/mol, 391 kJ/molである.
アンモニアNH₃の生成エンタルピーを求めよ.
N₂(気)→2N(気) ΔH=945 kJ
H₂(気)→2H(気) ΔH=436 kJ
NH₃(気)→N(気)+3H(気) ΔH=391×3 kJ
アンモニアNH₃の生成エンタルピーをx[kJ/mol]とすると
1/2N₂(気)+3/2H₂(気)→NH₃(気) ΔH=x kJ
4式=1式×1/2+2式×3/2+3式×(-1) より
x=945×1/2+436×3/2+(391×3)×(-1)=-46.5 kJ ∴-46.5 kJ/mol
別法 反応エンタルピーと結合エネルギーの関係より
x=(945×1/2+436×3/2)-(391×3)=-46.5 kJ ∴-46.5 kJ/mol
(2) エタンC₂H₆とプロパンC₃H₈の生成エンタルピーはそれぞれ-84 kJ, -107 kJ,
炭素(黒鉛)の昇華エンタルピーは715 kJ/mol, 水素分子中のH–H結合の結合エネルギーは436 kJ/molである.
C–C結合とC–H結合の結合エネルギーを求めよ.
結合エネルギーは物質の種類によらず一定であるとする.
C₂H₆(気)→2C(気)+6H(気) ΔH=x+6y
C₃H₈(気)→3C(気)+8H(気) ΔH=2x+8y
x+6y=84+715×2+436×3=2822 kJ
2x+8y=107+715×3+436×4=3996 kJ
∴ C–C結合の結合エネルギー x=350 kJ/mol
C–H結合の結合エネルギー y=412 kJ/mol
黒鉛の昇華エンタルピーを718 kJ/mol,
黒鉛, ダイヤモンド, フラーレン分子C₆₀の燃焼エンタルピーをそれぞれ-394 kJ/mol, -396 kJ/mol, -26110 kJ/molとする.
(1) 黒鉛のC–C結合の結合エネルギーを求めよ.
C原子1 molあたり1.5 molのC–C結合をもつから, 718/1.5≈477 kJ/mol
(2) ダイヤモンドのC–C結合の結合エネルギーを求めよ.
ΔH=(-396)+(718)-(-394)=716 kJ
C原子1 molあたり2 molのC–C結合をもつから, 716/2=358 kJ/mol
(3) フラーレン分子C₆₀の単結合C–Cと二重結合C=Cはそれぞれ何本か.
C原子1個が3個のC原子と共有結合し, 共有結合1本をC原子2個が共有する.
C原子は60個あるから, 炭素間結合の総数は60×3×1/2=90本
C原子1個がもつ共有結合3本のうち, 2本が単結合, 1本が二重結合である.
∴ 単結合C–C:60本, 二重結合C=C:30本
(4) フラーレン分子C₆₀の炭素原子間結合の平均の結合エネルギーを求めよ.
フラーレンの昇華エンタルピーをxとすると
C₆₀(固)→60C(気) ΔH=x kJ
x=-26110+718×60-(-394)×60=40610 kJ/mol
C₆₀分子は90本の炭素原子間結合をもつから, 40610/90≈451 kJ/mol
炭素の同素体の代表である黒鉛, ダイヤモンド, フラーレンの立体構造の知識が前提となる.
黒鉛:正六角形の網目状の平面構造(共有結合結晶)
ダイヤモンド:正四面体の繰り返し構造(共有結合結晶)
フラーレン:六角形と五角形が組み合わさったサッカーボール型球状分子
黒鉛の昇華エンタルピーは, 黒鉛1 mol中のC–C結合の結合エネルギーの総和に等しい.
共有結合結晶を作る原子が気体になることは, 共有結合を全て切断することに等しい.
また, 黒鉛はC原子1個が他のC原子3個と共有結合する.
C–C結合1本をC原子2個が共有するから, C原子1個あたりのC–C結合は3/2本である.
つまり, 黒鉛はC原子1個あたり1.5本のC–C結合をもつ.
ダイヤモンドではC原子1個がC原子4個と共有結合するから, C原子1個あたり2本のC–C結合をもつ.
全ての頂点が対等なので (辺の総数)=(頂点の数)×(1個の頂点から出る辺の数)×1/2
Cは4個の不対電子をもつから, 3本の結合のうち, 2本が単結合, 1本が二重結合である.
フラーレンの昇華エンタルピーを求め, 炭素原子間結合の総数で割ればよい.
単結合と二重結合では結合エネルギーが異なるが, 平均の結合エネルギーならば求まる.
