
緩衝液 少量の酸(H⁺)や塩基(OH⁻)を加えてもpHがほぼ一定に保たれる水溶液.
このような作用を緩衝作用という.
弱酸とその塩の混合溶液 や 弱塩基とその塩の混合溶液 がこの作用をもつ.
例 弱酸 CH₃COOH とその塩 CH₃COONa の混合溶液.
例 弱塩基 NH₃ とその塩 NH₄Cl の混合溶液.
Cₐ [mol/L] の酢酸と Cₛ [mol/L] の酢酸ナトリウムの混合溶液の [H⁺]
酢酸ナトリウム CH₃COONa は塩であるから, 水溶液中では 100 % 電離する.
よって, Cₛ [mol/L] の CH₃COONa から Cₛ [mol/L] の CH₃COO⁻ が生成する.
CH₃COONa → CH₃COO⁻ + Na⁺
電離前 Cₛ 変化量 −Cₛ 電離後 0 CH₃COO⁻ = Cₛ
一方, 弱酸である CH₃COOH については電離平衡が成立する.
CH₃COOH が x [mol/L] 電離したとき, 平衡状態における各物質のモル濃度は以下となる.
CH₃COOH ⇄ CH₃COO⁻ + H⁺
混合時 Cₐ CH₃COO⁻ = Cₛ H⁺ = 0
変化量 −x CH₃COO⁻ + x H⁺ + x
平衡時 CH₃COOH = Cₐ−x CH₃COO⁻ = Cₛ+x H⁺ = x
弱酸である CH₃COOH の電離度は元々かなり小さい.
加えて, CH₃COONa の電離で生じた CH₃COO⁻ の影響で平衡は大きく左に偏り (共通イオン効果), ほとんど電離しないとみなせる状態になる.
結局, 水溶液中には CH₃COOH と CH₃COO⁻ が多量に存在し, 次のように近似できる.
x ≪ Cₐ, Cₛ より
[CH₃COOH] = Cₐ−x ≈ Cₐ, [CH₃COO⁻] = Cₛ+x ≈ Cₛ
したがって
Kₐ = ([CH₃COO⁻][H⁺]) / [CH₃COOH] = (Cₛ [H⁺]) / Cₐ
より [H⁺] = (Cₐ / Cₛ) Kₐ
緩衝液の体積 V [L], 酢酸の物質量 nₐ [mol], 酢酸ナトリウムの物質量 nₛ [mol] とすると
[H⁺] = (Cₐ / Cₛ) Kₐ = ((nₐ/V)/(nₛ/V)) Kₐ = (nₐ / nₛ) Kₐ
酢酸−酢酸ナトリウム水溶液の緩衝作用の仕組み
混合溶液に酸(H⁺)を加えると, 多量に存在する塩基 CH₃COO⁻ と中和反応する.
CH₃COO⁻ + H⁺ → CH₃COOH が起こり, H⁺ の増加が緩和される.
混合溶液に塩基(OH⁻)を加えると, 多量に存在する酸 CH₃COOH と中和反応する.
CH₃COOH + OH⁻ → CH₃COO⁻ + H₂O が起こり, OH⁻ の増加が緩和される.
弱酸の強塩基による滴定曲線と緩衝作用
文字設定を含め, [H⁺] の式の導出に至る全過程を自分で実行できるようにした上で暗記を推奨する.
Cₐ の a は酸(acid), Cₛ の s は塩(salt)を意味する.
共通イオン効果 電解質が電離平衡の状態にあるとき, その物質と同じイオン(共通イオン)を含む別の電解質を加えると, ルシャトリエの原理により平衡が移動し, 元の物質の電離度が減少する現象.
x が 0 に近いためではなく, x が Cₐ, Cₛ に対して相対的に小さいため, 近似が正当化される.
Cₐ−x ≈ Cₐ は, [混合後の CH₃COOH] = [混合前の CH₃COOH] とみなせることを意味する.
Cₛ+x ≈ Cₛ は, [混合後の CH₃COO⁻] = [混合前の CH₃COONa] とみなせることを意味する.
これを電離定数 Kₐ の式に代入して [H⁺] が導かれる.
ここで, 温度が一定ならば Kₐ は一定であった.
よって, 緩衝液の [H⁺] は, 混合前の CH₃COONa と CH₃COOH のモル濃度の比で決まるとわかる.
さらに, 物質量と体積を用いて表すと必ず体積が約分されて消えるから, 結局物質量の比で決まる.
CH₃COO⁻ + H⁺ ⇄ CH₃COOH において, CH₃COO⁻ は塩基である(ブレンステッドの定義).
ブレンステッドの定義では, 酸は H⁺ を与える物質, 塩基は H⁺ を受け取る物質であった.
つまり, 混合溶液中には, 互いに対をなす多量の酸 CH₃COOH と多量の塩基 CH₃COO⁻ が共存する.
H⁺ や OH⁻ を加えたとき, 対の他方に変化して加えた酸・塩基の影響を緩和するのが緩衝液の原理.
酢酸−酢酸ナトリウム水溶液の場合の丸暗記では応用が利かない. 一般化して原理を理解しておく.
弱酸 HA の電離平衡 HA ⇄ H⁺ + A⁻ において, A⁻ を弱酸 HA の共役塩基という.
弱酸 HA とその共役塩基 A⁻ が共存するとき, 緩衝作用が生じる.
H⁺ を加えると, H⁺ + A⁻ → HA の方向に平衡が移動(塩基 A⁻ と中和)して H⁺ 増加が抑制される.
OH⁻ を加えると, 弱酸 HA と中和して OH⁻ 増加が抑制される.
中和 HA + OH⁻ → A⁻ + H₂O は, HA → H⁺ + A⁻ の方向に平衡が移動したことに相当する.
中和滴定の項で学習した中和滴定曲線を, 緩衝作用の観点から理解することも重要である.
酢酸と水酸化ナトリウムの中和反応 CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O
主に中和反応完了までの間, 弱酸 CH₃COOH とその塩 CH₃COONa が共存し, 緩衝作用を示す.
ちょうど半分が中和したとき, [CH₃COOH] = [CH₃COONa] となり, 最大の緩衝作用を示す.
数学的には, 滴定曲線の傾きが最小になる点として求められる.
CH₃COONa は弱酸と強塩基由来の塩なので, 加水分解して水溶液が塩基性を示す(中和点が塩基性側).
CH₃COO⁻ + H₂O ⇄ CH₃COOH + OH⁻
Cᵦ [mol/L] のアンモニアと Cₛ [mol/L] の塩化アンモニウムの混合溶液の [OH⁻]
塩化アンモニウム NH₄Cl は塩であるから, 水溶液中では 100% 電離する.
よって, Cₛ [mol/L] の NH₄Cl から Cₛ [mol/L] の NH₄⁺ が生成する.
NH₄Cl → NH₄⁺ + Cl⁻
電離前 Cₛ, 変化量 −Cₛ, 電離後 NH₄⁺ = Cₛ
一方, 弱塩基であるアンモニア NH₃ については電離平衡が成立する.
NH₃ が x [mol/L] 電離したとき, 平衡状態における各物質のモル濃度は以下となる.
NH₃ + H₂O ⇄ NH₄⁺ + OH⁻
電離前 Cᵦ, 水 多量, NH₄⁺ = Cₛ, OH⁻ = 0
変化量 −x, 水 多量, NH₄⁺ +x, OH⁻ +x
平衡時 NH₃ = Cᵦ−x, NH₄⁺ = Cₛ+x, OH⁻ = x
弱塩基である NH₃ の電離度は元々かなり小さい.
加えて, NH₄Cl の電離で生じた NH₄⁺ の影響で平衡は大きく左に偏り (共通イオン効果),
ほとんど電離しないとみなせる状態になる.
結局, 水溶液中には NH₃ と NH₄⁺ が多量に存在し, 次のように近似できる.
x ≪ Cᵦ, Cₛ より
[NH₃] = Cᵦ−x ≈ Cᵦ, [NH₄⁺] = Cₛ+x ≈ Cₛ
したがって
Kᵦ = ([NH₄⁺][OH⁻]) / [NH₃] = (Cₛ[OH⁻]) / Cᵦ
より [OH⁻] = (Cᵦ / Cₛ) Kᵦ
緩衝液の体積 V [L], NH₃ の物質量 nᵦ [mol], NH₄Cl の物質量 nₛ [mol] とすると
[OH⁻] = (Cᵦ / Cₛ) Kᵦ = ((nᵦ/V)/(nₛ/V)) Kᵦ = (nᵦ / nₛ) Kᵦ
アンモニア−塩化アンモニウム水溶液の緩衝作用の仕組み
混合溶液に酸(H⁺)を加えると, 多量に存在する塩基 NH₃ と中和反応する.
NH₃ + H⁺ → NH₄⁺ が起こり, H⁺ の増加が緩和される.
混合溶液に塩基(OH⁻)を加えると, 多量に存在する酸 NH₄⁺ と中和反応する.
NH₄⁺ + OH⁻ → NH₃ + H₂O が起こり, OH⁻ の増加が緩和される.
弱塩基の強酸による滴定曲線と緩衝作用
Cᵦ の b は塩基(base)を意味する.
Cₐ−x ≈ Cₐ は, [混合後の NH₃] = [混合前の NH₃] とみなせることを意味する.
Cₛ+x ≈ Cₛ は, [混合後の NH₄⁺] = [混合前の NH₄Cl] とみなせることを意味する.
よって, 緩衝液の [OH⁻] は, 混合前の NH₄Cl と NH₃ のモル濃度の比で決まるとわかる.
さらに, 物質量と体積を用いて表すと必ず体積が約分されて消えるから, 結局物質量の比で決まる.
NH₄⁺ + OH⁻ → NH₃ + H₂O において, NH₄⁺ は酸である(ブレンステッドの定義).
つまり, 混合溶液中には, 互いに対をなす多量の酸 NH₄⁺ と多量の塩基 NH₃ が共存する.
弱塩基 B の電離平衡 B + H₂O ⇄ BH⁺ + OH⁻ において, BH⁺ を弱塩基 B の共役酸という.
弱塩基 B とその共役酸 BH⁺ が共存するとき, 緩衝作用が生じる.
OH⁻ を加えると, BH⁺ + OH⁻ → B + H₂O の方向に平衡が移動(酸 BH⁺ と中和)して OH⁻ 増加が抑制される.
H⁺ を加えると, 弱塩基 B と中和して H⁺ 増加が抑制される.
中和 B + H⁺ → BH⁺ は, B + H₂O → BH⁺ + OH⁻ の方向に平衡が移動したことに相当する.
アンモニアと塩酸の中和反応 NH₃ + HCl → NH₄Cl
主に中和反応完了までの間, 弱塩基 NH₃ とその塩 NH₄Cl が共存し, 緩衝作用を示す.
ちょうど半分が中和したとき, [NH₃] = [NH₄Cl] となり, 最大の緩衝作用を示す.
NH₄Cl は強酸と弱塩基由来の塩なので, 加水分解して水溶液が酸性を示す(中和点が酸性側).
NH₄⁺ + H₂O ⇄ NH₃ + H₃O⁺
0.20 mol/L の NH₃ 水溶液と 0.10 mol/L の NH₄Cl 水溶液を混合した溶液の pH を求めよ.
アンモニアの電離定数を K_b = 2.0×10⁻⁵ mol/L,
水のイオン積を K_w = 1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)², log₁₀2 = 0.30 とする.
混合前の NH₃ と NH₄Cl のモル濃度をそれぞれ Cᵦ, Cₛ とする.
混合後は緩衝液になるから,
[混合後の NH₃] ≈ Cᵦ, [混合後の NH₄⁺] ≈ Cₛ と近似できる.
K_b = ([NH₄⁺][OH⁻])/[NH₃] = (Cₛ[OH⁻])/Cᵦ
[OH⁻] = (Cᵦ/Cₛ)K_b
= (0.20 mol/L ÷ 0.10 mol/L) × 2.0×10⁻⁵ mol/L
= 4.0×10⁻⁵ mol/L
[H⁺] = K_w / [OH⁻]
= (1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)²) ÷ (4.0×10⁻⁵ mol/L)
= (1/4)×10⁻⁹ mol/L
pH = −log₁₀[H⁺]
= −log₁₀((1/4)×10⁻⁹)
= −(log₁₀10⁻⁹ − 2log₁₀2)
= 9 + 2·0.30
= 9.6
酢酸の電離定数を Kₐ = 2.0×10⁻⁵ mol/L, 水のイオン積を K_w = 1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)²,
log₁₀2 = 0.30, log₁₀3 = 0.48 とする.
(1) 0.20 mol/L の酢酸水溶液 100 mL を 0.20 mol/L の NaOH 水溶液で滴定したところ, 下の中和滴定曲線が得られた.
図の A, B, C, D 点の pH を求めよ.
(2) B点の溶液を10倍に薄めた溶液の pH を求めよ.
(3) B点の溶液に 1.0 mol/L の HCl 水溶液 5.0 mL を加えた溶液の pH を求めよ.
(4) B点の溶液に 1.0 mol/L の NaOH 水溶液 6.0 mL を加えた溶液の pH を求めよ.
(1) A点
酢酸のモル濃度を c [mol/L], 電離度を α とする.
CH₃COOH ⇄ CH₃COO⁻ + H⁺
電離前: CH₃COOH = c, CH₃COO⁻ = 0, H⁺ = 0
変化量: CH₃COOH −cα, CH₃COO⁻ +cα, H⁺ +cα
電離後: CH₃COOH = c(1−α), CH₃COO⁻ = cα, H⁺ = cα
α < 0.05 と仮定すると
Kₐ = ([CH₃COO⁻][H⁺])/[CH₃COOH]
= (cα × cα) / (c(1−α))
= (cα²)/(1−α)
≈ cα²
α = √(Kₐ / c)
= √((2.0×10⁻⁵ mol/L)/(0.20 mol/L))
= 0.010 (α < 0.05 を満たす)
[H⁺] = cα
= 0.20 mol/L × 0.010
= 2.0×10⁻³ mol/L
pH = −log₁₀[H⁺]
= −log₁₀(2.0×10⁻³)
= −log₁₀2 − log₁₀10⁻³
= −0.30 + 3
= 2.7
補足
(1)はこれまでの学習の総復習である. まず, A点は弱酸 CH₃COOH の pH を求める問題である.
詳細は弱酸・弱塩基の電離平衡の項で説明済みなので, ここでは簡潔な解説に留める.
強酸とは違って弱酸は 100 % 電離しないから, 電離度 α を考慮して [H⁺] を求める必要がある.
このとき, α < 0.05 ならば近似 1−α ≈ 1 を利用できるが, そもそもその α が不明である.
この場合, α < 0.05 と仮定して近似を利用し, 求まった α が近似条件を満たすかを確認する.
B点
最初の CH₃COOH の物質量は
0.20 mol/L × (100/1000) L = 0.020 mol
加えた NaOH の物質量は
0.20 mol/L × (50/1000) L = 0.010 mol
中和反応
CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O
中和前: CH₃COOH 0.020 mol, NaOH 0.010 mol, CH₃COONa 0 mol
変化量: CH₃COOH −0.010, NaOH −0.010, CH₃COONa +0.010
中和後: CH₃COOH 0.010 mol, NaOH 0 mol, CH₃COONa 0.010 mol
滴定後は緩衝液となるから
[電離後の CH₃COOH] ≈ [中和後の CH₃COOH]
= 0.010 mol ÷ ((100+50)/1000 L)
= 1/15 mol/L
[電離後の CH₃COO⁻] ≈ [中和後の CH₃COONa]
= 0.010 mol ÷ ((100+50)/1000 L)
= 1/15 mol/L
[H⁺] = ((1/15) mol/L)/((1/15) mol/L) × 2.0×10⁻⁵ mol/L
= 2.0×10⁻⁵ mol/L
pH = −log₁₀[H⁺]
= −log₁₀(2.0×10⁻⁵)
= −(0.30 − 5)
= 4.7
解説:
物質量を考慮すると, 中和後は CH₃COOH と CH₃COONa の混合溶液(緩衝液)になっている.
よって, 緩衝液の電離を考慮した近似公式
[H⁺] = (Cₐ/Cₛ)Kₐ = ([CH₃COOH]/[CH₃COO⁻])Kₐ
に代入すればよい.
体積は結局約分されて消えるから, モル濃度に変換せずとも物質量のまま計算した方が楽である.
[H⁺] = (nₐ/nₛ)Kₐ
= (0.010 mol / 0.010 mol) × 2.0×10⁻⁵ mol/L
= 2.0×10⁻⁵ mol/L
本問のように Cₐ = Cₛ (nₐ = nₛ) であるとき, 結局 [H⁺] = Kₐ となる.
pKₐ = −log₁₀Kₐ より, このときの緩衝液の pH は, 酢酸の酸解離指数 pKₐ に等しくなる.
C点
加えた NaOH の物質量は
0.20 mol/L × (100/1000) L = 0.020 mol
中和反応
CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O
中和前: CH₃COOH 0.020 mol, NaOH 0.020 mol, CH₃COONa 0 mol
変化量: CH₃COOH −0.020, NaOH −0.020, CH₃COONa +0.020
中和後: CH₃COOH 0, NaOH 0, CH₃COONa 0.020 mol
CH₃COONa のモル濃度を c [mol/L], 加水分解度(加水分解する割合)を h とすると
CH₃COO⁻ + H₂O ⇄ CH₃COOH + OH⁻
加水分解前: CH₃COO⁻ = c, 水 多量, CH₃COOH = 0, OH⁻ = 0
変化量: CH₃COO⁻ −ch, 水 多量, CH₃COOH +ch, OH⁻ +ch
加水分解後: CH₃COO⁻ = c(1−h), CH₃COOH = ch, OH⁻ = ch
h ≪ 1 であるから
K_h = ([CH₃COOH][OH⁻])/[CH₃COO⁻]
= (ch × ch)/(c(1−h))
= (ch²)/(1−h)
≈ ch²
h = √(K_h / c)
より
[OH⁻] = ch = √(c K_h)
ここで
Kₐ K_h = ([CH₃COO⁻] [H⁺]/[CH₃COOH]) × ([CH₃COOH][OH⁻]/[CH₃COO⁻])
= [H⁺][OH⁻]
= K_w
[H⁺] = K_w / [OH⁻]
= K_w / √(c K_h)
= K_w / √(c · (K_w / Kₐ))
= √((Kₐ K_w)/c)
[H⁺]
= √((2.0×10⁻⁵ mol/L × 1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)²) / (0.020 mol ÷ ((100+100)/1000 L)))
= √(2) × 10⁻⁹ mol/L
pH = −log₁₀[H⁺]
= −log₁₀( (√2)×10⁻⁹ )
= −( (1/2)log₁₀2 + log₁₀10⁻⁹ )
= −(0.15 − 9)
= 8.85
解説:
弱酸 CH₃COOH と強塩基 NaOH からなる正塩 CH₃COONa の水溶液なので, 加水分解を考慮する.
pH には有効数字の考え方は適用されないから, 8.85 ≈ 8.9 などとする必要はない.
D点
加えた NaOH の物質量は
0.20 mol/L × (150/1000) L = 0.030 mol
中和反応
CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O
中和前: CH₃COOH 0.020 mol, NaOH 0.030 mol, CH₃COONa 0 mol
変化量: CH₃COOH −0.020, NaOH −0.020, CH₃COONa +0.020
中和後: CH₃COOH 0, NaOH 0.010 mol, CH₃COONa 0.020 mol
[OH⁻]
= 0.010 mol ÷ ((100+150)/1000 L)
= 0.040 mol/L
[H⁺]
= K_w / [OH⁻]
= (1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)²) ÷ (0.040 mol/L)
= (1/4)×10⁻¹² mol/L
pH
= −log₁₀[H⁺]
= −log₁₀((1/4)×10⁻¹²)
= 2log₁₀2 − log₁₀10⁻¹²
= 2×0.30 + 12
= 12.6
中和点以降は, NaOH と CH₃COONa の混合溶液となる.
強塩基 NaOH は 100 % 電離するため, [NaOH] = [OH⁻] である.
NaOH から生じる OH⁻ が多量に存在するため, CH₃COONa の加水分解で生じる OH⁻ は無視できる.
(2)
緩衝液の [H⁺] は CH₃COOH と CH₃COONa の物質量の比で決まる.
[H⁺] = (nₐ/nₛ)Kₐ
10倍に薄めても物質量の比は変化しないから
pH = 4.7
(3)
加えた HCl の物質量は
1.0 mol/L × (5.0/1000) L = 0.0050 mol
反応
CH₃COO⁻ + H⁺ → CH₃COOH
緩衝前: CH₃COO⁻ 0.010 mol, H⁺ 0.0050 mol, CH₃COOH 0.010 mol
変化量: CH₃COO⁻ −0.0050, H⁺ −0.0050, CH₃COOH +0.0050
緩衝後: CH₃COO⁻ 0.0050 mol, H⁺ 0, CH₃COOH 0.0150 mol
[H⁺]
= (nₐ/nₛ)Kₐ
= (0.0150 mol / 0.0050 mol) × 2.0×10⁻⁵ mol/L
= 6.0×10⁻⁵ mol/L
pH
= −log₁₀[H⁺]
= −(log₁₀6.0×10⁻⁵)
= −log₁₀2 − log₁₀3 − log₁₀10⁻⁵
= −0.30 − 0.48 + 5
= 4.22
解説:
酸(H⁺)を加えると, 塩基 CH₃COO⁻ と中和反応することで緩衝作用を示すのであった.
(1)で求めたとおり, B点では [H⁺] = 2.0×10⁻⁵ mol/L (pH=4.7) の緩衝液となっている.
体積は 150 mL であるから, H⁺ の物質量は
2.0×10⁻⁵ mol/L × (150/1000) L = 3.0×10⁻⁶ mol である.
3.0×10⁻⁶ ≪ 0.0050 より, 緩衝前の H⁺ の物質量は
3.0×10⁻⁶ + 0.0050 ≈ 0.0050 mol とできる.
緩衝作用による平衡移動で H⁺ の物質量が x mol になるとすると
緩衝前: CH₃COO⁻ 0.010, H⁺ 0.0050, CH₃COOH 0.010
変化量: CH₃COO⁻ −0.0050+x, H⁺ −0.0050+x, CH₃COOH +0.0050−x
緩衝後: CH₃COO⁻ 0.0050+x, H⁺ x, CH₃COOH 0.0150−x
緩衝液の [H⁺] は CH₃COOH の物質量 nₐ と CH₃COO⁻ (CH₃COONa) の物質量 nₛ の比で決まる.
当然, 緩衝後の H⁺ の物質量は, HCl を加える前の 3.0×10⁻⁶ mol から大きく変化しない.
0.0050 ≫ x と仮定すると,
0.0050+x ≈ 0.0050, 0.0150−x ≈ 0.0150 と近似できる.
結局, 加えた分の H⁺ が全て消えるとみなして CH₃COOH と CH₃COO⁻ の物質量比を求めればよい.
実際, 緩衝後の H⁺ の物質量は
6.0×10⁻⁵ mol/L × (150/1000) L = 9.0×10⁻⁶ mol である.
これは 0.0050 に比べて十分小さく, 近似は妥当であった.
試しに, 150 mL の水(pH=7)に 1.0 mol/L の HCl 水溶液 1.0 mL を加えた溶液の pH を求めてみる.
[H⁺] = (1.0 mol/L × (1.0/1000) L) / 0.151 L
≈ 1/150 mol/L
より pH = −log₁₀(1/150) ≈ 2.2
このように, わずか 1.0 mL 追加するだけで pH は 7.0 → 2.2 と変化する.
本問の緩衝液では 5.0 mL の追加で 4.7 → 4.22 であり, 緩衝作用が働いていることがわかる.
(4)
加えた NaOH の物質量は
1.0 mol/L × (6.0/1000) L = 0.0060 mol
反応
CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O
緩衝前: CH₃COOH 0.010 mol, NaOH 0.0060 mol, CH₃COONa 0.010 mol
変化量: CH₃COOH −0.0060, NaOH −0.0060, CH₃COONa +0.0060
緩衝後: CH₃COOH 0.0040 mol, NaOH 0, CH₃COONa 0.0160 mol
[H⁺] = (nₐ/nₛ)Kₐ
= (0.0040 mol / 0.0160 mol) × 2.0×10⁻⁵ mol/L
= (1/2)×10⁻⁵ mol/L
pH
= −log₁₀[H⁺]
= −log₁₀( (1/2)×10⁻⁵ )
= log₁₀2 − log₁₀10⁻⁵
= 0.30 + 5
= 5.3
ヒトの血液には CO₂ が溶けていて, 一部は H₂O と反応して次の化学平衡が成立する.
CO₂ + H₂O ⇄ H₂CO₃
水に溶けた CO₂ がすべて H₂CO₃ になると仮定すると, 次の電離平衡が成立する.
H₂CO₃ ⇄(Kₐ) H⁺ + HCO₃⁻
ヒトの血液は H₂CO₃ と HCO₃⁻ の緩衝液となっており, pH は緩衝作用によって中性に近い 7.4 に保たれている.
(1) 血液内に H⁺ や OH⁻ が流入したとき, どのような反応が起こるか.
(2) pH を pKₐ( = −log₁₀Kₐ ), [H₂CO₃], [HCO₃⁻] を用いて表せ.
(3) pKₐ = 6.1 であるとき, 血液の [H₂CO₃] : [HCO₃⁻] を求めよ. log₁₀2 = 0.3
(4) [H₂CO₃] = 1.2×10⁻³ mol/L である血液に HCl を血液 1 L あたり 1.1×10⁻³ mol となるように加えたときの血液の pH を求めよ.
血液の重炭酸緩衝系
(1)
H⁺ が流入すると
H⁺ + HCO₃⁻ → H₂CO₃
OH⁻ が流入すると
H₂CO₃ + OH⁻ → HCO₃⁻ + H₂O
(2)
Kₐ = ([H⁺][HCO₃⁻]) / [H₂CO₃]
pH = −log₁₀[H⁺]
= −log₁₀( Kₐ × ([H₂CO₃]/[HCO₃⁻]) )
= −log₁₀Kₐ − log₁₀( [H₂CO₃]/[HCO₃⁻] )
= pKₐ − log₁₀( [H₂CO₃]/[HCO₃⁻] )
= pKₐ + log₁₀( [HCO₃⁻]/[H₂CO₃] )
(3)
7.4 = 6.1 − log₁₀( [H₂CO₃]/[HCO₃⁻] )
より
log₁₀( [H₂CO₃]/[HCO₃⁻] ) = −1.3
[H₂CO₃]/[HCO₃⁻] = 10⁻¹⋅³
= 1 / 10¹⋅³
= 1 / (10¹ × 10⁰⋅³)
= 1 / (10 × 2)
= 1 / 20
∴ [H₂CO₃] : [HCO₃⁻] = 1 : 20
(4)
血液の [HCO₃⁻] は
[HCO₃⁻] = [H₂CO₃] × 20
= 2.4×10⁻² mol/L
血液 1 L あたりで考えると
H₂CO₃ ⇄ H⁺ + HCO₃⁻
緩衝前:
H₂CO₃ 1.2×10⁻³ mol
H⁺ 1.1×10⁻³ mol
HCO₃⁻ 2.4×10⁻² mol
変化量:
H₂CO₃ +1.1×10⁻³
H⁺ −1.1×10⁻³
HCO₃⁻ −1.1×10⁻³
緩衝後:
H₂CO₃ 2.3×10⁻³ mol
H⁺ 0
HCO₃⁻ 2.29×10⁻² mol
pH = 6.1 − log₁₀( (2.3×10⁻³ mol/L) / (2.29×10⁻² mol/L) )
≈ 6.1 − log₁₀(1/10)
= 6.1 + 1
= 7.1
炭酸水素イオン HCO₃⁻ は重炭酸イオンとも呼ばれる.
緩衝液の pH を求めるときに使われる (2) の関係式をヘンダーソン−ハッセルバルヒの式という.
本項序盤で述べたように, 緩衝液の pH は弱酸と共役塩基のモル濃度比(物質量比)で決まる.
一般化すると
HA ⇄(Kₐ) H⁺ + A⁻
より
Kₐ = ([H⁺][A⁻])/[HA]
pH = −log₁₀[H⁺]
= −log₁₀( Kₐ × ([HA]/[A⁻]) )
= pKₐ − log₁₀( [HA]/[A⁻] )
一般に,
0.1 < [HA]/[A⁻] < 10
(すなわち −1 < log₁₀([HA]/[A⁻]) < 1)
で緩衝作用が働き,
[HA]/[A⁻] = 1 で最大になる.
つまり, pKₐ ± 1 の範囲で緩衝作用が働き, pKₐ で最大になる.
ヒトの血液の pH の正常範囲は 7.35 ~ 7.45 で, 7.4 からわずか 0.2 変化するだけで死亡の危険がある.
炭酸 H₂CO₃ は pKₐ = 6.1 なので, 独立した環境では pH が 5.1 ~ 7.1 の緩衝液しか作れない.
呼吸による CO₂ 濃度の調節や腎臓機能により, pH 7.4 ([HCO₃⁻] が [H₂CO₃] の 20 倍) に保っている.
