
発熱反応(ΔH<0)は, エネルギーの低い安定状態になるため, 自発的に進むことが多い.
一方で, 吸熱反応(ΔH>0)であるにもかかわらず, 自発的に進む場合もある.
よって, 反応が自発的に進むか否かは, エンタルピーHの増減だけでは説明できない.
反応の自発性は, エンタルピーHに加え, エントロピーSの増減にも支配される.
エントロピー S [J/K]
物質の乱雑さ(秩序の乱れ)の指標. 単位は [J/K]. 変化量を ΔS で表す.
エントロピーが大きい状態が安定であり, 反応は ΔS>0 となる向きに進みやすい.
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
エントロピーが増加する例 (ΔS>0) エントロピーが減少する例 (ΔS<0)
固体 → 液体 → 気体(融解, 蒸発, 昇華) 気体 → 液体 → 固体(凝縮, 凝固, 凝華)
化学反応による分子数の増加 化学反応による分子数の減少
拡散, 気体の生成 沈殿の生成
物質の混合 物質の分離
固体が液体に溶解 気体が液体に溶解
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ギブズエネルギー G [J]
一般に, 反応が自発的に進む向きは, ΔH と ΔS の兼ね合いで決まる.
2つの指標を統一的に扱って反応の自発性を考えるため, ギブズエネルギーGを定義する.
G = H - T S 圧力・温度T一定ならば ΔG = ΔH - TΔS
TΔSの項があるから, 温度Tが高くなるにつれてΔHよりもΔSの影響が大きくなる.
ΔG = ΔH - TΔS < 0 → 自発的に反応が進む
ΔG = ΔH - TΔS = 0 → 平衡状態
ΔG = ΔH - TΔS > 0 → 自発的に反応が進まない
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ギブズエネルギー | エンタルピー | エントロピー | 反応の自発性
必ず ΔG<0 | 減少(ΔH<0) | 増加(ΔS>0) | 自発的に進む
必ず ΔG>0 | 増加(ΔH>0) | 減少(ΔS<0) | 自発的に進まない
増減はTによる | 減少(ΔH<0) | 減少(ΔS<0) | 低温で進みやすい
増減はTによる | 増加(ΔH>0) | 増加(ΔS>0) | 高温で進みやすい
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
エントロピー変化 ΔS の単位は [J/K] なので, 絶対温度 T [K] を掛けた TΔS の単位は [J] である.
必ず絶対温度 T > 0 であるから, ΔS の符号と TΔS の符号は一致する.
ΔH<0 かつ ΔS>0 (TΔS>0) のとき, 反応が自発的に進む.
単位が同じ ΔH と TΔS は和をとれるが, 反応が自発的に進むときの正負が逆なのが紛らわしい.
そのときの正負をそろえるため, G = H + (-TS) と定義したわけである.
結局, 反応が自発的に進む条件は, ΔH<0 かつ -TΔS<0, つまり ΔG<0 となる.
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次の変化について, 最も適切な説明を選べ.
(1) H₂O(気) → H₂O(液) ΔH = -44 kJ
(2) 2CH₃OH(液) + 3O₂(気) → 2CO₂(気) + 4H₂O(気) ΔH = -1277 kJ
(3) CaCO₃(固) → CaO(固) + CO₂(気) ΔH = 178 kJ
(4) N₂(気) + 2H₂(気) → N₂H₄(気) ΔH = 50 kJ
(5) NaOH(固) + 水溶液 → Na⁺(aq) + OH⁻(aq) ΔH = -44 kJ
(ア) 右向きに自発的に進む
(イ) 条件により自発的に進む可能性がある
(ウ) 右向きに自発的に進まない
(1) (イ) ΔH<0, ΔS<0 (気体から液体への状態変化)
(2) (ア) ΔH<0, ΔS>0 (液体から気体が生成, 分子数が5個から6個に増加)
(3) (イ) ΔH>0, ΔS>0 (固体から気体が生成, 分子数が1個から2個に増加)
(4) (ウ) ΔH>0, ΔS<0 (分子数が3個から1個に減少)
(5) (ア) ΔH<0, ΔS>0 (固体が液体に溶解)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
室温では正反応が進むアンモニアの合成反応が次である.
½N₂(気) + 3/2H₂(気) → NH₃(気) ΔH = -46.1 kJ ΔS = -99.4 J/K
アンモニアの分解が進むのは何℃以上か. 整数値で答えよ.
逆反応が自発的に進む条件は
ΔG = ΔH – TΔS = (-46.1×10³ J) – T×(-99.4 J/K) > 0
よって T > (46.1×10³ J) / (99.4 J/K) = 463.7 K
したがって 463.7 – 273 = 190.7 ≒ 191 ℃
正反応が ΔG>0 のとき, 逆反応が ΔG<0 となり自発的に進む.
計算するとき, ΔH と ΔS の単位を kJ または J に統一する必要がある.
