1価の弱酸・弱塩基の電離平衡、電離定数Ka・Kb、解離指数pKa・pKb、近似の扱い方

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ionization-equilibrium
弱酸や弱塩基は, 水溶液中で完全に電離せず, 電離平衡に達する. 電離平衡における平衡定数を電離定数という. 温度が一定ならば電離定数は一定である. 例 酢酸の電離平衡 CH₃COOH + H₂O ⇄ CH₃COO⁻ + H₃O⁺ 化学平衡の法則より K = [CH₃COO⁻][H₃O⁺]/([CH₃COOH][H₂O]) = (一定) [H₂O]を一定とみなすと K[H₂O] = [CH₃COO⁻][H₃O⁺]/[CH₃COOH] = (一定) K[H₂O] = Ka とおき, [H₃O⁺]を[H⁺]と表す. 酸の電離定数   Ka = [CH₃COO⁻][H⁺]/[CH₃COOH] 例 アンモニア水の電離平衡 NH₃ + H₂O ⇄ NH₄⁺ + OH⁻ 化学平衡の法則より K = [NH₄⁺][OH⁻]/([NH₃][H₂O]) = (一定) [H₂O]を一定とみなすと K[H₂O] = [NH₄⁺][OH⁻]/[NH₃] = (一定) K[H₂O] = Kb とおく. 塩基の電離定数  Kb = [NH₄⁺][OH⁻]/[NH₃] 【補足】 希薄水溶液では, 溶媒(水)は溶質に比べて十分に多量でほぼ電離しない. H₂O = 18より, [H₂O] = 1000 g/L ÷ 18 g/mol = 1000/18 mol/L ≒ 55.6 mol/L である. 一方, その他の分子・イオンの濃度は通常0.10 mol/L以下である. よって, 電離平衡が移動しても [H₂O] は55.6 mol/Lで常に一定とみなして問題ない. 酢酸の電離平衡は簡潔に表せる. CH₃COOH ⇄ CH₃COO⁻ + H⁺ Ka = [CH₃COO⁻][H⁺]/[CH₃COOH] Ka の a は acid(酸), Kb の b は base(塩基)を意味している. 電離度αが小さい(α<0.05)ときに使える近似公式 酢酸のモル濃度をc [mol/L], 電離度をαとする.  CH₃COOH ⇄ CH₃COO⁻ + H⁺ 電離前 c   変化量 −cα +cα +cα 平衡時 c(1−α) cα cα 電離定数 Ka = [CH₃COO⁻][H⁺]/[CH₃COOH]  = (cα × cα)/(c(1−α))  = cα²/(1−α) 電離度 α<0.05≪1 のとき, 1−α≒1 と近似できる. このとき Ka ≒ cα², α = √(Ka/c), [H⁺] = cα = √(cKa) NH₃ + H₂O ⇄ NH₄⁺ + OH⁻ についても完全に同じ流れで次が導かれる. Kb ≒ cα², α = √(Kb/c), [OH⁻] = cα = √(cKb) 【補足】 表の作成により平衡時の各物質のモル濃度を求めて電離定数の式に代入し, さらに近似を行う. すると, Ka が c と α で簡潔に表され, 逆に α と [H⁺] が Ka で簡潔に表される. 表の作成および近似を利用した導出をすべて自分でできるようにした上で公式暗記が推奨される. 今後近似を多用することになるため, どういうときにどう近似できるかを理解しておく必要がある. 特に, 近似 1−α≒1 を α≒0 と近似したと考えるのは重大な誤りである. もし α≒0 と近似できるのならば, Ka = cα²/(1−α) ≒ 0/(1−0) = 0 となってしまう. 根本的に重要なのは, 厳密値と近似値が有効数字の範囲内で一致するように近似することである. 具体的には, 和や差があるとき, その中で相対的に小さい項を無視するという近似が可能である. 1−α≒1 が許されるのは, αが0に近いからではなく, αが1に対して相対的に小さいからである. 例えば, α=0.01 のとき, (1+α)α の値を 1+α≒1 として求めるとしよう. (厳密値)=(1+α)α=(1+0.01)×0.01=1.01×0.01=0.0101=1.01×10⁻² (近似値)=(1+α)α≒1×0.01=0.01=1.0×10⁻² 仮に有効数字2桁で考えるならば, 両者の値は一致するからこの近似は妥当である. αが0に近いからといって α≒0 と近似すると (1+α)α≒0 となり有効数字2桁が一致しなくなる. また, α=0.1 のとき (厳密値)=(1+0.1)×0.1=0.11 (近似値)≒1×0.1=0.1 有効数字2桁が一致しないので, この近似は妥当でない. 高校化学では有効数字2桁で考えることが多く, α<0.05ならば1−α≒1として問題ない. 酸・塩基の強弱と解離指数 酸解離指数 pKa = −log₁₀Ka 小さいほど酸性が強い. 塩基解離指数 pKb = −log₁₀Kb 小さいほど塩基性が強い. 【補足】 酸・塩基の強弱は電離度の大小で決まり, 電離度が大きいほど酸性・塩基性が強い. しかし, 弱酸・弱塩基の場合, 電離度は濃度によって変化するから比較が面倒である. ここで, 酸の電離 HA ⇄ H⁺ + A⁻ では, 電離度が大きいほど [H⁺] と [A⁻] が大きくなる. このとき, Ka = [H⁺][A⁻]/[HA] も大きくなるから, Ka は酸の強さを示す指標となる. 電離定数は濃度によらない定数であるから, これを指標として酸の強弱を判断するのが便利である. しかし, 電離定数は10ˣのように非常に大きい(小さい)値であることが多い. よって, 水素イオン指数 pH = −log₁₀[H⁺] と同様に負の常用対数をとった値がよく用いられる. pHが小さいほど[H⁺]が大きいのと同様, pKaが小さいほどKaが大きく, 酸性が強い. 塩基解離指数も同様である. 例 塩酸 Ka = 1.0×10⁸ pKa = −log₁₀Ka = −8 酢酸 Ka = 2.75×10⁻⁵ pKa = −log₁₀Ka = 4.56 (1) 0.10 mol/L の酢酸水溶液の電離度α, 水素イオン濃度[H⁺], pHを求めよ. 酢酸の電離定数 Ka = 2.0×10⁻⁵ mol/L, log₁₀2=0.30, √2=1.4 とする. (2) 0.010 mol/L のアンモニア水の電離度α, 水酸化物イオン濃度[OH⁻], pHを求めよ. アンモニアの電離定数 Kb = 1.6×10⁻⁵ mol/L, 水のイオン積 Kw = 1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)², log₁₀2=0.30 とする. (3) 1.0×10⁻⁵ mol/L の酢酸の電離度α, 水素イオン濃度[H⁺], pHを求めよ. 酢酸の電離定数 Ka = 5.0×10⁻⁷ mol/L, log₁₀2=0.30 とする. (4) c [mol/L] の酢酸水溶液が電離平衡にあるとき, pKa = −log₁₀Ka をpHおよび電離度αを用いて表せ. また, pKa = pH のときのαを求めよ. (1) α<0.05 と仮定する. Ka = [CH₃COO⁻][H⁺]/[CH₃COOH] = (cα×cα)/(c(1−α)) = cα²/(1−α) ≒ cα² α = √(Ka/c) = √(2.0×10⁻⁵ / 0.10) = √(2×10⁻⁴) = 1.4×10⁻² → α<0.05 を満たす. [H⁺] = cα = √(cKa) = √(0.10×2.0×10⁻⁵) = √(2×10⁻⁶) = 1.4×10⁻³ mol/L pH = −log₁₀[H⁺] = −log₁₀√(2×10⁻⁶) = −(1/2)log₁₀(2×10⁻⁶) = 2.85 補足: 近似1−α≒1はα<0.05のときのみ適用可能. 電離度が未知の場合は仮定して求め, 後で条件を確認する. また, pHは[H⁺]=1.4×10⁻³をそのまま代入せず, √(2×10⁻⁶)を対数式に変形して求めること. pHには有効数字の概念を無理に適用しない(2.85→2.9とはしない). (2) α<0.05 と仮定する. Kb = [NH₄⁺][OH⁻]/[NH₃] = (cα×cα)/(c(1−α)) = cα²/(1−α) ≒ cα² α = √(Kb/c) = √(1.6×10⁻⁵ / 0.010) = √(16×10⁻⁴) = 4.0×10⁻² → α<0.05 を満たす. [OH⁻] = √(cKb) = √(0.010×1.6×10⁻⁵) = √(16×10⁻⁸) = 4.0×10⁻⁴ mol/L [H⁺] = Kw / [OH⁻] = (1.0×10⁻¹⁴) / (4.0×10⁻⁴) = 0.25×10⁻¹⁰ = 2.5×10⁻¹¹ mol/L pH = −log₁₀[H⁺] = −log₁₀(2.5×10⁻¹¹) = −(log₁₀2.5−11) = 10.6 補足: [H⁺]を求める際, 1/4=0.25 の数値を直接代入せず, 対数の性質を使って −log₁₀((1/4)×10⁻¹⁰) = −(log₁₀(1/4) + log₁₀10⁻¹⁰) = 2log₁₀2 + 10 を用いること. (3) Ka = (cα²)/(1−α) より 1.0×10⁻⁵α² + 5.0×10⁻⁷α − 5.0×10⁻⁷ = 0 α>0 より α = 0.20 [H⁺] = cα = (1.0×10⁻⁵)×0.20 = 2.0×10⁻⁶ mol/L pH = −log₁₀(2.0×10⁻⁶) = −log₁₀2.0 + 6 = −0.30 + 6 = 5.7 補足: もし近似式を用いると α = √(Ka/c) = √(5.0×10⁻⁷ / 1.0×10⁻⁵) = √(5×10⁻²) ≒ 0.22 0.22はα<0.05を満たさないため, この近似は不適切. したがって1−α≒1の近似は使えず, 2次方程式を解いて求める必要がある. この場合, 因数分解により (4α+1)(5α−1)=0 → α=1/5=0.20 と求まる. (4) Ka = [CH₃COO⁻][H⁺]/[CH₃COOH]   = [H⁺]×(cα / c(1−α)) = [H⁺]×(α / (1−α)) pKa = −log₁₀Ka = −log₁₀[H⁺] − log₁₀(α/(1−α)) = pH − log₁₀(α/(1−α)) pKa = pH のとき log₁₀(α/(1−α))=0 → α/(1−α)=1 → α=1/2 補足: pKa = pH のとき, [CH₃COOH]=[CH₃COO⁻]=[H⁺]. すなわち酸と共役塩基の濃度が等しい状態である. 弱酸の電離平衡の厳密な扱い C [mol/L] の酢酸水溶液中では, 次の2つの電離平衡が成立している. CH₃COOH ⇄ CH₃COO⁻ + H⁺ …(A) H₂O ⇄ H⁺ + OH⁻ …(B) (1) Cを[CH₃COOH]と[CH₃COO⁻]で表せ(物質収支の条件) (2) [H⁺]を[CH₃COO⁻]と[OH⁻]で表せ(電気的中性の条件) (3) [H⁺]以外の分子やイオンの濃度を消去し, [H⁺]についての3次方程式を導け    酢酸の電離定数をKa, 水のイオン積をKwとする. (4) 濃度Cが十分に高いとき, 水の電離は無視できる.    このときの[H⁺]をCとKaを用いて表せ. (5) 濃度Cが十分に高く, さらに酢酸の電離度が十分に小さいとき, [H⁺]をCとKaを用いて表せ. (1) C = [CH₃COOH] + [CH₃COO⁻] …① (2) [H⁺] = [CH₃COO⁻] + [OH⁻] …② (3) Ka = [CH₃COO⁻][H⁺]/[CH₃COOH] …③    Kw = [H⁺][OH⁻] …④ ④より [OH⁻] = Kw / [H⁺] ②に代入 → [CH₃COO⁻] = [H⁺] − Kw/[H⁺] ①に代入 → [CH₃COOH] = C − ([H⁺] − Kw/[H⁺]) ③に代入 → Ka = (([H⁺] − Kw/[H⁺]) [H⁺]) / (C − ([H⁺] − Kw/[H⁺])) したがって [H⁺]³ + Ka[H⁺]² − (CKa + Kw)[H⁺] − KaKw = 0 …⑤ (4) 式⑤において, CKa + Kw ≒ CKa とでき, KaKw は無視できる. さらに [H⁺] で割ると [H⁺]² + Ka[H⁺] − CKa = 0 [H⁺]>0 より [H⁺] = {−Ka + √(Ka² + 4CKa)} / 2 また, 別解として C = [CH₃COOH] + [CH₃COO⁻](物質収支) [H⁺] = [CH₃COO⁻](電気的中性) Ka = [H⁺]² / (C − [H⁺]) より同様に [H⁺]² + Ka[H⁺] − CKa = 0 となる. (5) [CH₃COOH] ≫ [CH₃COO⁻] より C = [CH₃COOH] + [CH₃COO⁻] ≒ [CH₃COOH] Ka = [CH₃COO⁻][H⁺]/[CH₃COOH] ≒ [H⁺]²/C ∴ [H⁺] = √(CKa) 【補足解説】 酢酸水溶液の[H⁺]を求めるとき, 厳密には酢酸の電離に加えて水の電離も考慮する必要がある. つまり2つの電離平衡式の両方を満たす[H⁺]を求めることになる. 未知数は [H⁺], [OH⁻], [CH₃COOH], [CH₃COO⁻] の4つあるため, 対応する4つの関係式が必要になる(物質収支・電気的中性・電離定数2式). (1) 特定の元素に着目すると, その元素の物質量は化学変化後も一定である.   C原子に注目すると, 電離前のCH₃COOH分子中に2個あり,   電離後もCH₃COOHかCH₃COO⁻のいずれかの形で存在するため,   C原子に関して 2C = 2[CH₃COOH] + 2[CH₃COO⁻] が成り立つ.   これを物質収支の条件という. (2) CH₃COOH, H₂Oは中性分子であり, 全体として電気的中性が保たれるため   (陽イオンの総モル濃度) = (陰イオンの総モル濃度) が成立する.   これを電気的中性の条件という. (3) ①~④を組み合わせ, x=[CH₃COOH], y=[CH₃COO⁻], z=[OH⁻] を消去して   [H⁺]の式を作る.   c=x+y, [H⁺]=y+z, Ka=y[H⁺]/x, Kw=[H⁺]z   の順に代入すると良い.   原理的には3次方程式を解けば[H⁺]を求められるが, 実際は困難であるため   条件に応じた近似を行う. (4) CH₃COOHの濃度が高いと, ルシャトリエの原理により平衡(A)は右へ移動し[H⁺]が増加する.   一方平衡(B)は左に移動し, 水の電離が減少する.   例えば0.10 mol/L酢酸(Kₐ=2.0×10⁻⁵)ではpH=2.85≈3.   このとき CKa=2.0×10⁻⁶, Kw=1.0×10⁻¹⁴ より CKa≫Kw.   [H⁺]≈10⁻³ とすると [H⁺]³≈10⁻⁹, Ka[H⁺]²≈2.0×10⁻¹¹, CKa[H⁺]≈2.0×10⁻⁹.   これらに対し KaKw=2.0×10⁻¹⁹ は非常に小さいため無視できる.   したがって「水の電離を無視する」とは, KaKw項が他の項に比べて極めて小さいため省略することを意味する. (5) 電離度αを用いると Ka = Cα²/(1−α) ≒ Cα² より   α = (−Ka + √(Ka² + 4CKa)) / (2C)   [H⁺] = Cα = {−Ka + √(Ka² + 4CKa)} / 2   また, αが十分に小さいとき [H⁺] = √(CKa)

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