
弱酸や弱塩基}}は水溶液中で完全に電離せず,\ \textbf{\textcolor{blue}{電離平衡}}に達する. \\[.2zh]
電離平衡における平衡定数を\textbf{\textcolor{blue}{電離定数}}という. \\[.2zh]
\textbf{\textcolor{magenta}{温度が一定ならば電離定数は一定}}である. \\\\
\rei\ \ 酢酸の電離平衡 \textcolor{cyan}{$\ce{CH3COOH}\,+\,\ce{H2O}\,\ce{<=>}\,\ce{CH3COO-}\,+\,\ce{H3O+}$} \\[.5zh]
\ \,化学平衡の法則より $K=\bunsuu{[\ce{CH3COO-}][\ce{H3O+}]}{[\ce{CH3COOH}][\ce{H2O}]}=(一定)$ \\[.5zh]
\ \,[\ce{H2O}]を一定とみなすと \ $K[\ce{H2O}]=\bunsuu{[\ce{CH3COO-}][\ce{H3O+}]}{[\ce{CH3COOH}]}=(一定)$ \\[.5zh]
\ \,$K[\ce{H2O}]=K_{\text{a}}$\ とおき,\ [\ce{H3O+}]を[\ce{H+}]と表す. \\[1zh]
\centerline{\dilutecolor{yellow}{.2}{dy}\colorbox{dy}{\ \textbf{\textcolor{blue}{酸の電離定数}} $\bm{\textcolor{red}{K_{\text{\textbf{a}}}=\bunsuu{[\ce{CH3COO-}][\ce{H+}]}{[\ce{CH3COOH}]}}}$\ }} \\\\\\
\rei\ \ アンモニア水の電離平衡 \textcolor{cyan}{$\ce{NH3}\,+\,\ce{H2O}\,\ce{<=>}\,\ce{NH4+}\,+\,\ce{OH-}$} \\[.5zh]
\ \,化学平衡の法則より $K=\bunsuu{[\ce{NH4+}][\ce{OH-}]}{[\ce{NH3}][\ce{H2O}]}=(一定)$ \\[.5zh]
\ \,[\ce{H2O}]を一定とみなすと \ $K[\ce{H2O}]=\bunsuu{[\ce{NH4+}][\ce{OH-}]}{[\ce{NH3}]}=(一定)$ \\[.5zh]
\ \,$K[\ce{H2O}]=K_{\text{b}}$\ とおく.塩基の電離定数}} $\bm{\textcolor{red}{K_{\text{\textbf{b}}}=\bunsuu{[\ce{NH4+}][\ce{OH-}]}{[\ce{NH3}]}}}$\
\bm{希薄水溶液では,\ 溶媒(水)は溶質に比べて十分に多量でほぼ電離しない.} \\[.2zh]
一方,\ その他の分子・イオンの濃度は通常0.10\,\text{mol/L}程度かそれ以下である. \\[.2zh]
よって,\ 電離平衡が移動しても,\ [\ce{H2O}]は55.6\,\text{mol/L}で常に一定とみなせる. \\[1zh]
酢酸は簡潔に表せる. \ce{CH3COOH}\,\ce{<=>}\,\ce{CH3COO-}\,+\,\ce{H+} K_{\text{a}}=\bunsuu{[\ce{CH3COO-}][\ce{H+}]}{[\ce{CH3COOH}]} \\[.8zh]
K_{\text{a}}\,の\text{a}は\text{acid}\,(酸),\ K_{\text{b}}\,の\text{b}は\text{base}\,(塩基)を意味している.
\textbf{\textcolor{blue}{電離度$\bm{\alpha}$が小さい($\bm{\alpha<0.05}$)ときに使える近似公式}} \\[1zh]
酢酸のモル濃度を$c$\,[mol/L],\ 電離度を$\alpha$\,とする. \\[.5zh]
電離定数 $\textcolor{forestgreen}{K_{\text{a}}}=\bunsuu{[\ce{CH3COO-}][\ce{H+}]}{[\ce{CH3COOH}]}=\bunsuu{c\alpha\times c\alpha}{c(1-\alpha)}=\textcolor{forestgreen}{\bunsuu{c\alpha^2}{1-\alpha}}$ \\[.5zh]
電離度\ \textcolor{red}{$\bm{\alpha<0.05\ll1}$}\ のとき,\ $\bm{\textcolor{red}{1-\alpha\kinzi1}}$\ と近似できる. \\[1zh]
$\ce{NH3}\,+\,\ce{H2O}\,\ce{<=>}\,\ce{NH4+}\,+\,\ce{OH-}$\ についても完全に同じ流れで次が導かれる. \\
表の作成により平衡時のモル濃度を求めて電離平衡の式に代入し,\ さらに近似を行う. \\[.2zh]
すると,\ K_{\text{a}}\,がcと\,\alpha\,で簡潔に表され,\ 逆に\,\alpha\,と[\ce{H+}]\,がK_{\text{a}}\,で簡潔に表される. \\[.4zh]
表の作成から近似して自分で導けるようにした上で公式として覚えておくとよい. \\[1zh]
近似1-\alpha\kinzi1が許されるのは,\ \alpha\,が0に近いからではなく,\ \bm{1に対して相対的に小さい}からである. \\[.2zh]
根本的に重要なことは,\ \bm{厳密値と近似値が有効数字の範囲内で一致するように近似する}ことである. \\[1zh]
例えば,\ \alpha=0.01のとき,\ (1+\alpha)\alpha\,の値を1+\alpha\kinzi1として求めるとしよう. \\[.2zh]
(厳密値)=(1+\alpha)\alpha=(1+0.01)\times0.01=1.001\times0.001=0.0101=1.01\times10^{-2} \\[.2zh]
(近似値)=(1+\alpha)\alpha\kinzi1\times0.01=0.01=1.0\times10^{-2} \\[.2zh]
仮に有効数字2桁で考えるならば,\ 両者の値は一致するからこの近似は妥当である. \\[.2zh]
\alpha\,が0に近いからといって例えば\,\alpha\kinzi0と近似すると,\ (1+\alpha)\alpha\kinzi0になってしまう. \\[.2zh]
可能なのは,\ \bm{和や差があるとき,\ その中で相対的に小さい項を無視する}という近似なのである. \\[1zh]
ここで,\ \alpha=0.1のとき (厳密値)=(1+0.1)\times0.1=0.11 (近似値)\kinzi1\times0.1=0.1 \\[.2zh]
有効数字2桁が一致しないので,\ この近似は不適である. \\[.2zh]
高校化学では有効数字2桁で考えることが多く,\ \alpha<0.05ならば1-\alpha\kinzi1として問題ない.
酸・塩基の強弱と電離定数}} \\[1zh]
\textbf{\textcolor{blue}{ 酸解離指数 $\bm{\text{\textbf{p}}K_{\text{\textbf{a}}}=-\log_{10}K_{\text{\textbf{a}}}}$}} \textbf{\textcolor{red}{小さいほど酸性が強い.}} \\[.5zh]
\textbf{\textcolor{blue}{塩基解離指数 $\bm{\text{\textbf{p}}K_{\text{\textbf{b}}}=-\log_{10}K_{\text{\textbf{b}}}}$}} \ \ \,\textbf{\textcolor{red}{小さいほど塩基性が強い.}
酸・塩基の強弱は電離度の大小で決まり,\ \bm{電離度が大きいほど酸性・塩基性が強い}のであった. \\[.2zh]
しかし,\ 弱酸・弱塩基の場合,\ \bm{電離度は濃度によって変化する}から比較が面倒である. \\[.2zh]
ここで,\ 酸の電離\ \ce{HA}\,\ce{<=>}\,\ce{H+}\,+\,\ce{A-}\ では,\ \bm{電離度が大きいほど[\ce{H+}]と[\ce{A-}]が大きくなる.} \\[.2zh]
このとき,\ \bm{K_{\text{\textbf{a}}}=\bunsuu{[\ce{H+}][\ce{A-}]}{[\ce{HA}]}\ も大きくなる}から,\ \bm{K_{\text{\textbf{a}}}\,は酸の強さを示す指標}となる. \\[.8zh]
電離定数は濃度によらない定数であるから,\ これを指標として酸の強弱を判断するのが便利である. \\[.2zh]
しかし,\ 電離定数は10^{x}\,のように非常に大きい(小さい)値であることが多い. \\[.2zh]
よって,\ 水素イオン指数\ \text{pH}=-\log_{10}[\ce{H+}]\,と同様に\bm{負の常用対数}をとった値がよく用いられる. \\[.4zh]
\text{pH}が小さいほど[\ce{H+}]が大きいのと同様,\ \bm{\textbf{p}K_{\textbf{a}}\,が小さいほどK_{\textbf{a}}\,が大きく,\ 酸性が強い.} \\[.4zh]
塩基解離指数も同様である. \\[1zh]
\rei\ \ 塩酸 K_{\text{a}}=1.0\times10^{8} \text{p}K_{\text{a}}=-\log_{10}K_{\text a}=-\,8 \\[.4zh]
\rei\ \ 酢酸 K_{\text{a}}=2.75\times10^{-5} \text{p}K_{\text{a}}=-\log_{10}K_{\text a}=4.56
0.10\,mol/Lの酢酸水溶液の電離度$\alpha$,\ 水素イオン濃度[\ce{H+}],\ pHを求めよ. \\[.2zh]
\hspace{.5zw}\phantom{(1)}\ \ 酢酸の電離定数$K_{\text{a}}=2.0\times10^{-5}\,$mol/L,\ \ $\log_{10}2=0.30,\ \ruizyoukon2=1.4$とする. \\[1zh]
\hspace{.5zw}(2)\ \ \scalebox{.98}[1]{0.010\,mol/Lのアンモニア水の電離度$\alpha$,\ 水酸化物イオン濃度[\ce{OH-}],\ pHを求めよ.} \\[.2zh]
\hspace{.5zw}\phantom{(1)}\ \ アンモニアの電離定数を$K_{\text{b}}=1.6\times10^{-5}$\,mol/L, \\[.2zh]
\hspace{.5zw}\phantom{(1)}\ \ 水のイオン積を$K_{\text{w}}=1.0\times10^{-14}$\,(mol/L)$^2$,\ \ $\log_{10}2=0.30$\,とする. \\[1zh]
\hspace{.5zw}(3)\ \ $1.0\times10^{-5}$\,mol/Lの酢酸の電離度$\alpha$,\ 水素イオン濃度[\ce{H+}],\ pHを求めよ. \\[.2zh]
\hspace{.5zw}\phantom{(1)}\ \ 酢酸の電離定数$K_{\text{a}}=5.0\times10^{-7}$\,mol/L,\ \ $\log_{10}2=0.30$\,とする. \\[1zh]
\hspace{.5zw}(4)\ \ $c$\,[mol/L]の酢酸水溶液が電離平衡にあるとき,\ p$K_{\text a}=-\log_{10}K_{\text a}$をpHおよび \\[.2zh]
\hspace{.5zw}\phantom{(1)}\ \ 電離度$\alpha$を用いて表せ.\ また,\ $\text pK_{\text a}=\text{pH}$のときの$\alpha$を求めよ. \\
酢酸のモル濃度cと電離度\,\alpha\,を自分で設定して公式を導けば,\ 後は数値を代入するだけである. \\[1zh]
ところで,\ 近似1-\alpha\kinzi1を利用できるのは\,\alpha<0.05\,のときであった. \\[.2zh]
しかし,\ そもそもその電離度が不明で近似の条件を満たしているのか否かを判断できない. \\[.2zh]
この場合,\ \bm{\alpha<0.05と仮定して近似を利用し,\ 求まった電離度が近似条件を満たすかを確認}する. \\[1zh]
\text{pH}は[\ce{H+}]=1.4\times10^{-3}\,を代入してしまうと求まらない. \\[.4zh]
\log_{10}2=0.30\,が与えられていることに着目し,\ \ruizyoukon{2\times10^{-6}}\ を代入する必要がある. \\[.4zh]
\text{pH}には有効数字の考え方は適用されないから,\ 2.85\kinzi2.9などとする必要はない.
alpha<0.05$と仮定する}と
基本的に(1)と同様である.\ \ [\ce{H+}]は水のイオン積K_{\text{w}}=[\ce{H+}][\ce{OH-}]\,を利用して求める. \\[.2zh]
\text{pH}は\,\bunsuu14=0.25\,としてしまうと求まらないので注意する. \\[.8zh]
\alpha<0.05と仮定して近似公式を使うと \alpha=\ruizyoukon{\bunsuu{K_{\text{a}}}{c}}=\ruizyoukon{\bunsuu{5.0\times10^{-7}}{1.0\times10^{-5}}}=\ruizyoukon{5\times10^{-2}}\kinzi2.2\times10^{-1} \\[1.2zh]
0.22は\,\alpha<0.05\ を満たさないからこの近似は不適である. \\[.2zh]
よって,\ 近似\,1-\alpha\kinzi1\ を適用せずに2次方程式を解いて求めることになる. \\[.2zh]
本問の場合,\ 解の公式を使わずとも因数分解できる. \\[.2zh]
両辺を10^{7}\,倍すると
電離定数K_{\text a}\,を[\ce{H+}]と\,\alpha\,で表した後,\ -\log_{10}K_{\text a}\,を計算すればよい. \\[.4zh]
\alpha=\bunsuu12\,のときc\alpha=c(1-\alpha)より,\ [\ce{CH3COOH}]=[\ce{CH3COO-}]=[\ce{H+}]\ である.
C$\,[mol/L]の酢酸水溶液中では,\ 次の2つの電離平衡が成立している. \\[.5zh]
\hspace{.5zw} $\ce{CH3COOH}\,\ce{<=>}\,\ce{CH3COO-}\,+\,\ce{H+}\ \cdots\,\maru{\text A}$ $\ce{H2O}\,\ce{<=>}\,\ce{H+}\,+\,\ce{OH-}\ \cdots\,\maru{\text B}$ \\[1zh]
\hspace{.5zw}(1)\ \ $C$を[\ce{CH3COOH}]と[\ce{CH3COO-}]で表せ(物質収支の条件). \\[.8zh]
\hspace{.5zw}(2)\ \ [\ce{H+}]を[\ce{CH3COO-}]と[\ce{OH-}]で表せ(電気的中性の条件). \\[.8zh]
\hspace{.5zw}(3)\ \ [\ce{H+}]以外の分子やイオンの濃度を消去し,\ [\ce{H+}]についての3次方程式を導け. \\[.2zh]
\hspace{.5zw}\phantom{(1)}\ \ 酢酸の電離定数を$K_{\text a}$,\ 水のイオン積を$K_{\text w}$とする. \\[.8zh]
\hspace{.5zw}(4)\ \ 濃度$C$が十分に高いとき,\ 水の電離は無視できる. \\[.2zh]
\hspace{.5zw}\phantom{(1)}\ \ このときの[\ce{H+}]を$C$と$K_{\text a}$を用いて表せ. \\[.8zh]
\hspace{.5zw}(5)\ \ 濃度$C$が十分に高く,\ さらに酢酸の電離度が十分に小さいとき,\ [\ce{H+}]を$C$とC=[\ce{CH3COOH}]+[\ce{CH3COO-}]}$\ \ (物質収支の条件) \\[.5zh]
[\ce{H+}]=[\ce{CH3COO-}]}$\ \ (電気的中性の条件) \\[.5zh]
酢酸水溶液の[\ce{H+}]を求めるとき,\ 厳密には酢酸の電離に加えて水の電離を考慮しなければならない. \\[.4zh]
つまり,\ 2つの電離平衡における電離定数の式を満たす[\ce{H+}]を求めることになる. \\[.4zh]
しかし,\ 式2つに対して未知数は[\ce{H+}],\ [\ce{OH-}],\ [\ce{CH3COOH}],\ [\ce{CH3COO-}]の4つもある. \\[.4zh]
数学的には,\ 解が求まるためには,\ 未知数の数と同じだけの方程式の数が必要である. \\[1zh]
まず,\ \bm{ある元素に着目すると,\ その元素の物質量はどんな化学変化が起こっても不変である.} \\[.2zh]
\ce{C}原子に着目すると,\ 電離前は2C\,[\text{mol/L}]存在していた(1分子中に\ce{C}原子2個あるので2倍). \\[.4zh]
電離後,\ \ce{C}原子は\ce{CH3COOH}か\ce{CH3COO-}の状態で存在しているが,\ 総物質量は変化しない. \\[.2zh]
よって,\ \ce{C}原子について,\ 2C=2[\ce{CH3COOH}]+2[\ce{CH3COO-}]\ が成り立つ. \\[.4zh]
ある元素に着目して作られた電離前後の濃度についての関係式を\bm{物質収支の条件}という. \\[1zh]
また,\ \ce{CH3COOH},\ \ce{H2O}は電気的に中性な分子なので,\ 電離後も全体として電気的中性が保たれる. \\[.4zh]
\bm{(陽イオンの正電荷の総モル濃度)=(陰イオンの負電荷の総モル濃度)}を\bm{電気的中性の条件}という. \\[1zh]
(3)\ \ \maru1\,~\,\maru4から[\ce{CH3COOH}]=x,\ [\ce{CH3COO-}]=y,\ [\ce{OH-}]=zを消去して[\ce{H+}]の方程式を作る.
\phantom{(1)}\ \ 3次方程式をまともに解くのは容易ではないので,\ 状況に応じて適切に近似することになる. \\[1zh]
(4)\ \ \ce{CH3COOH}の濃度が高くなると,\ ルシャトリエの原理により平衡\maru{\text{A}}は右に移動する. \\[.4zh]
\phantom{(1)}\ \ [\ce{H+}]が大きくなるので,\ 平衡\maru{\text B}は左に移動し,\ 元々少ない水の電離がさらに減る. \\[.4zh]
\phantom{(1)}\ \ (3)の結果を利用しない場合は別解となる. \\[.2zh]
\phantom{(1)}\ \ 本項序盤で示したように,\ 電離度\,\alpha\,を用いても求められる(高校化学ではこちらが一般的). \\[1zh]
\phantom{(1)}\ \ 電離度\,\alpha\,を用いて計算すると