
難溶性塩 Zn(OH)₂ の飽和水溶液中では、次の溶解平衡が成立している。
Zn(OH)₂(固) ⇄ Zn²⁺ + 2OH⁻
Ksp(Zn(OH)₂) = [Zn²⁺][OH⁻]² = 3.2×10⁻¹⁷ (mol/L)³
Zn(OH)₂ は水には溶けにくいが、アンモニア水には溶けやすい。
Zn²⁺ がアンモニアと錯イオンを形成し、次の平衡状態となるからである。
Zn²⁺ + 4NH₃ ⇄ [Zn(NH₃)₄]²⁺
Kf = [Zn(NH₃)₄²⁺] / ([Zn²⁺][NH₃]⁴) = 3.0×10⁹ (mol/L)⁻⁴
アンモニアの電離 NH₃ + H₂O ⇄ NH₄⁺ + OH⁻ の影響と、溶解時の溶液の体積変化は無視してよい。
³√6 = 1.82
(1) Zn(OH)₂ の水に対する溶解度 (mol/L) を求めよ。
Zn(OH)₂(固) x mol/L が水に溶解したとき、[Zn²⁺] = x, [OH⁻] = 2x
Ksp(Zn(OH)₂) = [Zn²⁺][OH⁻]² = x(2x)² = 4x³ = 3.2×10⁻¹⁷
したがって、x = ³√(3.2×10⁻¹⁷ / 4) = ³√(8.0×10⁻¹⁸) = 2.0×10⁻⁶ mol/L
(2) イオン反応式
Zn(OH)₂(固)+ 4NH₃ ⇄ [Zn(NH₃)₄]²⁺ + 2OH⁻
(3) Zn(OH)₂ の 2.0 mol/L アンモニア水に対する溶解度を求めよ。
溶解度を y mol/L とし、(2) の溶解平衡の平衡定数を K₁ とする。
Kf も [NH₃] も大きいため、ほぼすべての Zn²⁺ が [Zn(NH₃)₄]²⁺ になるとみなせる。
K₁ = [Zn(NH₃)₄²⁺][OH⁻]² / [NH₃]⁴
= Kf × Ksp
= 3.0×10⁹ × 3.2×10⁻¹⁷ = 9.6×10⁻⁸ (mol/L)⁻¹
錯体形成前:NH₃ 2.0 mol/L、錯体形成量:y mol/L、平衡後:NH₃ = 2.0 – 4y, [Zn(NH₃)₄²⁺] = y, [OH⁻] = 2y
したがって、
K₁ = y(2y)² / (2.0 – 4y)⁴ = 9.6×10⁻⁸
ここで 2.0 ≫ y より、2.0 – 4y ≈ 2.0
したがって、(4y³) / (2.0)⁴ = 9.6×10⁻⁸
よって、y = ³√(384×10⁻⁹) = 4׳√6×10⁻³ = 7.28×10⁻³ ≈ 7.3×10⁻³ mol/L
補足解説
(1) 溶解度とは、溶媒1Lに溶ける最大の溶質の物質量(mol)のこと。限界まで溶けている状態は飽和溶液であり、溶解平衡が成立している。
(2) 問題で与えられた2つの平衡式を足し合わせると、合体平衡式が得られる。錯生成定数 Kf は「錯体生成定数」や「錯体安定度数」とも呼ばれる。
(3) 溶解平衡と錯生成平衡を組み合わせた混合型問題であり、近似を2段階行う必要がある。
錯生成定数 Kf が非常に大きいため、平衡はほぼ右に偏り、Zn²⁺ はほとんど [Zn(NH₃)₄]²⁺ になる。
Kf = [Zn(NH₃)₄²⁺] / (Zn²⁺
⁴) = 3.0×10⁹
これは [Zn(NH₃)₄²⁺] が [Zn²⁺] の 4.8×10¹⁰ 倍で平衡となることを意味する。
したがって、Zn(OH)₂ が溶けて Zn²⁺ が生成した瞬間に [Zn(NH₃)₄]²⁺ へ変化すると考えられる。
一般に、複数の平衡式を足したとき、その平衡定数は各定数の積で表される。よって K₁ = Ksp × Kf。
Zn(OH)₂ が y mol/L 溶けたとき、NH₃ が 2.0 mol/L に対して十分に大きいので 2.0 – 4y ≈ 2.0 と近似できる。
y が 0 に近いから 0 とみなすわけではなく、「2.0 に対して小さい」ために近似が可能である。
結果として、水への溶解度 2.0×10⁻⁶ mol/L に対し、アンモニア水への溶解度は 7.28×10⁻³ mol/L、
つまり錯イオン形成により溶解度は約 3640 倍に増加する。
これは Zn²⁺ が [Zn(NH₃)₄]²⁺ になることで、ルシャトリエの原理により溶解平衡 Zn(OH)₂ ⇄ Zn²⁺ + 2OH⁻ が右に移動するためである。
