
pH指示薬はそれ自身が弱酸または弱塩基であり、H⁺の濃度によって分子構造が変化して変色する。
1価の弱酸である指示薬を HA で表すと、次の電離平衡が成立する。
HA ⇄ H⁺ + A⁻ ……(1)
一般に、色の変化が肉眼でわかるのは [HA] と [A⁻] の濃度比が約 0.1~10 の範囲にあるときであり、これを変色域と呼ぶ。
弱酸 HA の電離定数を Ka = 3.2×10⁻⁴ とするとき、この pH 指示薬の変色域を求めよ。
(log₁₀2 = 0.30, log₁₀3 = 0.48)
Ka = [H⁺][A⁻]/[HA] = 3.2×10⁻⁴
[A⁻]/[HA] = 0.1 のとき
[H⁺] = Ka × [HA]/[A⁻] = 3.2×10⁻⁴ × (1/0.1) = 3.2×10⁻³
pH = −log₁₀(3.2×10⁻³) ≈ 2.5
[A⁻]/[HA] = 10 のとき
[H⁺] = 3.2×10⁻⁵
pH = −log₁₀(3.2×10⁻⁵) ≈ 4.5
よって、pH指示薬の変色域は 2.5~4.5
指示薬は弱酸や弱塩基なので、滴定量に影響しないよう使用量は最小限にする。
H⁺が多くなる(pHが小さい)と、ルシャトリエの原理により平衡(1)は左に移動してHAが増え、溶液はHAの色に近づく。
逆にH⁺が少なくなる(pHが大きい)と、平衡(1)は右に移動してA⁻が増え、溶液はA⁻の色に近づく。
これがpH指示薬の原理である。
メチルオレンジの例では、HAが赤色、A⁻が黄色であり、実際の変色域はpH 3.1〜4.4(pKa ≈ 3.5 付近)である。
ヘンダーソン–ハッセルバルヒの式:
pH = pKa + log₁₀([A⁻]/[HA])
したがって、
0.1 ≤ [A⁻]/[HA] ≤ 10 のとき
−1 ≤ log₁₀([A⁻]/[HA]) ≤ 1
つまり、pKa ± 1 の範囲が変色域 である。
(参考:対数の性質)
logₐ(MN) = logₐM + logₐN
logₐ(M/N) = logₐM − logₐN
logₐ(Mʳ) = r × logₐM