
二段滴定①(炭酸ナトリウム Na₂CO₃)
主成分が炭酸ナトリウムの固体試料0.20 gを水に溶かし、0.10 mol/Lの希塩酸で滴定したところ、第2中和点までに20 mLを要した。(Na₂CO₃=106)
(1) 第1中和点までに起こる反応の化学反応式を示せ。
(2) 第1中和点から第2中和点までに起こる反応の化学反応式を示せ。
(3) 固体試料中の炭酸ナトリウムの純度を求めよ。
第1中和点まで:
Na₂CO₃ + HCl → NaHCO₃ + NaCl
第2中和点まで:
NaHCO₃ + HCl → NaCl + H₂O + CO₂
滴下した塩酸の物質量は 0.10 mol/L × 20/1000 L = 2.0×10⁻³ mol
試料中の炭酸ナトリウムの物質量は 2.0×10⁻³ mol × 1/2 = 1.0×10⁻³ mol
試料中の炭酸ナトリウムの質量は 106 g/mol × 1.0×10⁻³ mol = 0.106 g
したがって、試料中の炭酸ナトリウムの純度は
0.106 g / 0.20 g × 100 = 約53%
炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)は塩基ではなく、弱酸 H₂CO₃ と強塩基 NaOH に由来する正塩である。
したがって、水溶液は加水分解によってやや強い塩基性を示す。
第1中和点と第2中和点までの化学反応式から、反応に直接関与しない Na⁺ と Cl⁻ を除くと、次のようになる。
CO₃²⁻ + H⁺ → HCO₃⁻ (①)
HCO₃⁻ + H⁺ → H₂CO₃ (②)
もともと、2価の酸である炭酸(H₂CO₃)は、次のように二段階で電離する。
H₂CO₃ ⇄ H⁺ + HCO₃⁻ (③)
HCO₃⁻ ⇄ H⁺ + CO₃²⁻ (④)
ただし、炭酸は弱酸であるため、H⁺が多くなると容易にH⁺を受け取る逆反応が起こる。
つまり、
CO₃²⁻ + H⁺ → HCO₃⁻ (④の逆=①)
HCO₃⁻ + H⁺ → H₂CO₃ (③の逆=②)
したがって、Na₂CO₃ および NaHCO₃ はブレンステッドの定義における塩基である。
ブレンステッドの定義:
酸=H⁺を与える物質、塩基=H⁺を受け取る物質。
よって、2つの反応①、②は広い意味での中和反応といえる。
また、弱酸の遊離反応(無機化学で学習)ともみなせる。
すなわち、(弱酸の塩)+(強酸)→(強酸の塩)+(弱酸)という形式である。
ここで、炭酸は第1電離(③)に比べて第2電離(④)が非常に起こりにくい。
炭酸の第1電離定数と第2電離定数は、それぞれ
Ka₁=4.0×10⁻⁷、Ka₂=4.0×10⁻¹¹ である。
言い換えると、第1段階中和①(=④の逆)は第2段階中和②(=③の逆)に比べて非常に起こりやすい。
このため、第1段階中和①が完了した後に第2段階中和②が始まると考えてよい。
したがって、第1中和点と第2中和点で2回のpHジャンプが生じる滴定曲線となる。
第1中和点ではNaHCO₃水溶液となるため、塩基性側に偏る。
(NaHCO₃のpH)=−log₁₀√(Ka₁×Ka₂)=約8.4(NaHCO₃の電離平衡とpHの項を参照)
また、第2中和点では、弱酸H₂CO₃(=H₂O+CO₂)水溶液となっているため、酸性側に偏る。
指示薬はそれぞれ、**フェノールフタレイン(赤→無色)、メチルオレンジ(黄→赤)**が適切である。
硫酸(H₂SO₄)は炭酸(H₂CO₃)と同じ2価の酸であるが、強酸であるため第2電離もかなり起こりやすい。
そのため、硫酸を強塩基で滴定すると、第1・第2電離による中和が同時進行し、1回のpHジャンプが生じる。
※シュウ酸(COOH)₂も2価の弱酸だが、第1電離と第2電離の起こりやすさはそれほど異ならないため、この場合もpHジャンプは第2中和点のみで起こる。
2価の弱酸であり、第1電離と第2電離の電離定数の差が大きいからこそ、炭酸は二段階で中和する。
炭酸ナトリウムの二段階中和の量的関係
化学反応式から、
X mol の Na₂CO₃ の第1段階中和には X mol の HCl が必要である。
Na₂CO₃:HCl=1:1 で反応するためであり、このとき X mol の NaHCO₃ が生成する。
同様に、X mol の NaHCO₃ が中和する第2段階中和にも X mol の HCl が必要である。
したがって、第1中和点までと第1中和点から第2中和点までのHClの滴下量は等しくなる。
ただし、本問では、HClの滴下量が等しいこと自体は重要ではない。
重要なのは、第2中和点までの全体として、Na₂CO₃ X mol に対して HCl 2X mol が反応するという点である。
つまり、滴下したHClの物質量の半分が試料中のNa₂CO₃の物質量に等しい。
反応①と②を1つにまとめると、次のように表せる。
Na₂CO₃ + 2HCl → 2NaCl + H₂O + CO₂
二段滴定②(NaOH+Na₂CO₃)
水酸化ナトリウム NaOH の結晶は、空気中の二酸化炭素 CO₂ を吸収して炭酸ナトリウム Na₂CO₃ を不純物として含んでいる。
この試料を蒸留水に溶かして100 mLの溶液とした。ここから20 mLを分取し、0.10 mol/L の希塩酸で滴定したところ、滴下量は第1中和点までが30 mL、第2中和点までの合計が40 mLであった。
指示薬としてフェノールフタレインとメチルオレンジを用いた。(NaOH=40、Na₂CO₃=106)
(1) 下線部の反応を化学反応式で示せ。
(2) 第1中和点までに起こる反応の化学反応式を示せ。
(3) 第1中和点から第2中和点までに起こる反応の化学反応式を示せ。
(4) 第1中和点を過ぎてからは、希塩酸を少量滴下するごとに煮沸した方がよい理由を答えよ。
(5) 結晶中の水酸化ナトリウムの純度を求めよ。
(1) 2NaOH + CO₂ → Na₂CO₃ + H₂O
(2) 第1中和点まで
NaOH + HCl → NaCl + H₂O
Na₂CO₃ + HCl → NaHCO₃ + NaCl
(3) 第2中和点まで
NaHCO₃ + HCl → NaCl + H₂O + CO₂
(4) CO₂が水に溶けて弱酸H₂CO₃が生じるため、溶液のpHは滴定の進行に伴って緩やかに低下し、2回目のpHジャンプが不明瞭になる。煮沸してCO₂を除去すると、pH変化が急になり、終点をより明確に判断できる。
(5) 分取液20 mL中のNa₂CO₃の物質量は
0.10 mol/L × (40−30)/1000 L = 1.0×10⁻³ mol
分取液20 mL中のNaOHの物質量をX molとすると
0.10 mol/L × (30−0)/1000 L = X + 1.0×10⁻³ mol
よって X = 2.0×10⁻³ mol
溶液100 mL中のNa₂CO₃の物質量:5.0×10⁻³ mol
溶液100 mL中のNaOHの物質量:1.0×10⁻² mol
Na₂CO₃の質量=106 g/mol × 5.0×10⁻³ mol = 0.53 g
NaOHの質量=40 g/mol × 1.0×10⁻² mol = 0.40 g
したがって、NaOHの純度=0.40 / (0.40+0.53) ×100 ≒ 43%
【解説】
二段滴定の中で最も出題率が高いのが、NaOH+Na₂CO₃ のパターンである。
NaOH結晶の性質などより現実に即しており、適度な難易度の二段滴定問題を作成できる。
(1) NaOHと炭酸H₂CO₃の中和反応と考えるとよい。両辺からH₂Oを除くと解答の式になる。
2NaOH + H₂CO₃ → Na₂CO₃ + 2H₂O
(2) 強塩基NaOHが放出するOH⁻は、容易にH⁺を受け取り中和される。OH⁻がH⁺を受け取る強さは、CO₃²⁻がH⁺を受け取る強さより大きい。
したがって、塩基としての強さは OH⁻ > CO₃²⁻ ≫ HCO₃⁻ である。
ゆえに、NaOH → Na₂CO₃ → NaHCO₃ の順で中和されることになる。
ただし、NaOHの中和が完了してもNa₂CO₃の加水分解によりやや強い塩基性を示す。
したがって、フェノールフタレインではNaOHの中和の完了を判断できない。
フェノールフタレインで明確にわかるのはNa₂CO₃の中和の完了である。
よって、第1中和点まではNaOHの中和とNa₂CO₃の第1段階中和が起こると考えられる。
(5) 試料中のNaOHとNa₂CO₃の物質量をそれぞれX mol, Y molとする。
まずYが求まる。Yは第1中和点から第2中和点までに必要なHClの物質量に等しい。
後は、第1中和点までに必要なHClの物質量がX+Y molであることからXを求める。
二段滴定③(Na₂CO₃+NaHCO₃)
炭酸ナトリウム Na₂CO₃ と炭酸水素ナトリウム NaHCO₃ の混合水溶液20 mLを、0.10 mol/Lの希塩酸で滴定したところ、第1中和点までに10 mL、第2中和点までの合計で40 mLを要した。混合水溶液中のNa₂CO₃とNaHCO₃のモル濃度を求めよ。
第1中和点まで:
Na₂CO₃ + HCl → NaHCO₃ + NaCl
第2中和点まで:
NaHCO₃ + HCl → NaCl + H₂O + CO₂
混合水溶液中のNa₂CO₃とNaHCO₃のモル濃度をそれぞれx, y [mol/L]とする。
第1段階中和:
0.10 × 10/1000 = x × 20/1000 → x=0.050 mol/L
第2段階中和:
0.10 × (40−10)/1000 = (x+y) × 20/1000 → y=0.10 mol/L
したがって、Na₂CO₃:0.050 mol/L、NaHCO₃:0.10 mol/L
【解説】
混合水溶液中のNa₂CO₃とNaHCO₃の物質量をそれぞれX mol, Y molとする。
塩基としての強さ CO₃²⁻ ≫ HCO₃⁻ より、先にNa₂CO₃のみが中和する(第1段階中和)。
X molのNa₂CO₃の第1段階中和では、X molのHClを消費してX molのNaHCO₃が生成する。
新たに生成したX molと最初からあったY molの計X+Y molのNaHCO₃が第2段階中和する。
このとき、X+Y molのHClが消費される。
2段階の中和の量的関係を立式すると、Na₂CO₃とNaHCO₃のモル濃度が求まる。
モル濃度が未知なので、中和反応の量的関係の公式を用いるとよい。
(酸の価数a)×(モル濃度c)×(体積V)=(塩基の価数b)×(モル濃度c′)×(体積V′)
Na₂CO₃, NaHCO₃は各段階だけで考える場合は1価の塩基として扱う。