化学反応の速さと仕組み(触媒と活性化エネルギー)、反応速度式

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化学反応の速さは, 反応の種類によって大きく異なる. 中和反応や火薬の爆発など瞬間的な反応もあれば, 発酵や鉄の腐食など数年かかる反応もある. 化学反応を利用するには, 反応速度にも着目してその仕組みを理解する必要がある. 反応速度v 単位時間あたりの物質の物質量や濃度の変化量. 特に, 反応が一定体積の中で行われるとき v = 反応物のモル濃度の減少量 / 反応時間 または v = 生成物のモル濃度の増加量 / 反応時間 例 H₂ + I₂ → 2HI ([H₂] = [I₂]) の Δt の間の平均反応速度 v̄ (Δは変化量を表す) ([H₂] の減少速度 v_H₂) = −Δ[H₂]/Δt   ([I₂] の減少速度 v_I₂) = −Δ[I₂]/Δt ([HI] の増加速度 v_HI) = Δ[HI]/Δt したがって 平均反応速度 v̄ = −Δ[H₂]/Δt = −Δ[I₂]/Δt = 1/2·Δ[HI]/Δt 各物質のモル濃度を[化学式]で表す. 例 H₂ のモル濃度 [H₂] 普通, 反応時間 Δt の間にも瞬間の反応速度(数学的には接線の傾きの大きさ)は変化し続ける. これを実験的に求めることはできないので, 高校化学では平均の反応速度を考える. 反応時間 Δt の間の平均の反応速度 v̄ は, 数学的には2点を結ぶ直線の傾きの大きさである. v_H₂ = −([H₂]後 − [H₂]前)/(t後 − t前) = −Δ[H₂]/Δt > 0 (Δ[H₂]<0よりv_H₂>0となるように−をつける) v_HI = ([HI]後 − [HI]前)/(t後 − t前) = Δ[HI]/Δt > 0 H₂ + I₂ → 2HI より, 1 mol の H₂ と 1 mol の I₂ が反応すると 2 mol の HI が生じる. よって, 反応速度の比は反応式の係数と等しく, 常に v_H₂ : v_I₂ : v_HI = 1 : 1 : 2 が成り立つ. 1つの反応なのに着目物質で反応速度が違うと混乱するため, 反応式の係数が1の物質を基準とする. 例 20秒間で反応物のモル濃度が0.30 mol/Lから0.10 mol/Lに変化した場合の平均反応速度 v̄ v̄ = −(0.10 − 0.30) mol/L ÷ 20 s = 0.010 mol/(L·s) 反応速度式 反応速度と反応物の濃度の関係式 A + B → C のとき v = k[A]ᵃ[B]ᵇ (指数 a, b は実験して求める) 反応速度式中の比例定数 k を反応速度定数という. 同じ反応で温度が一定ならば, 反応物の濃度によらず k は一定値をとる. 反応の種類や, 同じ反応でも温度の変化や触媒の付加によって k は変化する. 例 H₂ + I₂ → 2HI    v = k[H₂][I₂] …① 2HI → H₂ + I₂    v = k[HI]²   …② 2H₂O₂ → 2H₂O + O₂  v = k[H₂O₂] …③ 一般に, 反応物の濃度が大きいほど, 粒子の衝突回数が増えるために反応速度が大きくなる. 気体の場合, 濃度は分圧に比例するため, 分圧が大きいほど反応速度が大きくなる. (気体の状態方程式 pV = nRT より p = n/V·RT であるから, 圧力 p はモル濃度 n/V に比例する) 普通, 反応速度定数は10℃上がるたびに2,3倍になっていく. 10℃で反応速度が3倍上がる反応では, 100℃上がれば反応速度は3¹⁰ = 59049倍にもなる. 反応速度式のモル濃度 [A], [B] の指数 a, b を反応次数という. v = k[H₂O₂] のように反応速度がモル濃度の1次に比例する反応を1次反応という. v = k[HI]² は2次反応, v = k[H₂][I₂] も全体として a + b = 1 + 1 = 2次反応である. ①と②では指数 a, b が反応式の係数と一致しているが, これは極めて稀な例である. 実際には③のように一致しないことがほとんどであり, 反応式から指数 a, b の特定はできない. その理由は, 化学反応の多くが実際には多段階反応だからである. 例 2N₂O₅ → 4NO₂ + O₂ …A この反応速度は v = k[N₂O₅]² ではなく v = k[N₂O₅] である. 反応Aは以下の3段階で進行し, 1段階目の反応の反応速度が最も遅い. N₂O₅ → N₂O₃ + O₂   (最も遅い反応:律速段階, v₁ = k₁[N₂O₅]) N₂O₃ → NO + NO₂   (速い反応, v₂ = k₂[N₂O₃]) N₂O₅ + NO → 3NO₂   (速い反応, v₃ = k₃[N₂O₅][NO]) それぞれを素反応といい, 3つの反応式を足すとAが得られる. 素反応は一段階で進行する反応で, 反応式の係数と反応速度式の指数 a, b が一致する. 多段階反応で最も遅い素反応の段階を律速段階という (全体の反応速度がこの段階に律せられる). v₁ ≪ v₂, v₁ ≪ v₃ より, 反応A全体としての反応速度は v ≈ v₁ = k₁[N₂O₅] となる. 実験して反応次数を求めることで, 逆に反応機構(反応が進む過程)を推測することができる. 化学反応の仕組み 遷移状態 化学反応の途中に経由するエネルギーの高い不安定な状態. 活性化エネルギー 反応物が遷移状態になるときに必要な最小のエネルギー. これが大きいほど反応速度は遅くなる. 触媒 活性化エネルギーが小さい別の経路を作り, 反応速度を大きくする. 触媒自身は反応前後で変化せず, 反応エンタルピー(反応熱)も変化しない. 遷移状態を超えられるだけの運動エネルギーをもった粒子が衝突すると, 化学反応が起こる. 上図の正反応では, 反応エンタルピーΔHを放出してよりエネルギーの低い生成物となる. 逆反応においても遷移状態は正反応と同じである. したがって, (逆反応の活性化エネルギー) = (正反応の活性化エネルギー) + ΔH となる. H₂ + I₂ → 2HI (触媒なし) の活性化エネルギーは174 kJ/molである. これは, H₂の結合エネルギーとI₂の結合エネルギーの合計581 kJ/molよりもかなり小さい. このことから, H₂とI₂が一旦原子に解離してからHIが生成するわけではないことがわかる. H–H結合とI–I結合が切断されずにH₂とI₂が結合した複合体(活性錯体)を経てHIとなる. 反応速度の増加条件 ① 濃度(気体ならば分圧)を大きくする. (単位時間当たりの衝突回数が増加) ② 温度を高くする. (活性化エネルギー以上のエネルギーをもった粒子の数が増加) ③ 触媒を加える. (活性化エネルギーが減少) ④ 表面積を大きくする(固体を粉末にする). (単位時間当たりの衝突回数が増加) 気体分子がもつ運動エネルギーは, 高温ほど大きく, 低温ほど小さい(高校物理). ただし, すべての気体分子が同じ運動エネルギーを持つわけではない. 同じ温度でも, 低エネルギーの分子もあれば高エネルギーの分子も存在し, 分布している. 高温になるほど, 高エネルギーをもつ粒子の割合が増加する(高エネルギー側に分布が広がる). 全体の粒子数(曲線と横軸の間の面積)は変化しないので, 高温ほど山の高さは低くなる. 高温になるほど活性化エネルギー以上のエネルギーをもつ粒子(斜線部分)が増え, 反応速度も増す. 触媒の分類 均一触媒 反応物と均一に混合した状態で働く. 例 2H₂O₂ →(Fe³⁺)→ 2H₂O + O₂ 不均一触媒 反応物と均一に混合せずに働く. 例 2H₂O₂ →(MnO₂)→ 2H₂O + O₂ 三元触媒 白金Pt, パラジウムPd, ロジウムRhを触媒に用いた浄化装置は, ガソリン自動車の排ガスに含まれる有害3成分(炭化水素CₘHₙ, 一酸化炭素CO, 窒素酸化物NOₓ)を, 同時にCO₂, H₂O, N₂へと無害化できる. 均一触媒は均一系触媒, 不均一触媒は不均一系触媒ともいう. 過酸化水素H₂O₂は常温ではほとんど反応しないが, 触媒を加えると常温でも激しく分解する. H₂O₂の分解の触媒としては, 少量のFe³⁺を含む水溶液(FeCl₃水溶液)(均一触媒)や, 黒色微粒子の酸化マンガン(IV) MnO₂ (不均一触媒)が使われる. 均一触媒は, 反応物と反応して不安定な反応中間体を作り, 安定な生成物を生じるときに再生される. 反応物 + 触媒 → [反応中間体] → 生成物 + 触媒 不均一触媒には固体が多い. 反応物が触媒表面に吸着されると, 反応分子中の結合が弱められる. そこにもう1つの反応物が衝突すると容易に反応が進行し, 生成物となって触媒から離れる. 三元触媒: CₘHₙ →(酸化)→ CO₂ + H₂O CO →(酸化)→ CO₂ NOₓ →(還元)→ N₂ 0.25 mol/L の過酸化水素水溶液10 mLを分解し(2H₂O₂ → 2H₂O + O₂), 発生した酸素を水上置換によって捕集する実験を行った. 反応温度を一定に保ち, 捕集した酸素の体積を20秒ごとに測定した. 酸素の水への溶解と過酸化水素水溶液の体積変化は無視する. 反応時間 t [s]: 0, 20, 40, 60, 80 [H₂O₂] [mol/L]: 0.250, 0.146, 0.0920, 0.0580, 0.0340 時間範囲 [s]: 0~20, 20~40, 40~60, 60~80 平均の分解速度 [mol/(L·s)]: ア, イ, ウ, エ (平均の分解速度)/(平均の濃度) [s⁻¹]: オ, カ, キ, ク (1) 反応開始40秒後までに反応した過酸化水素の物質量と発生した酸素の物質量を, それぞれ有効数字3桁で求めよ. (2) ア~クにあてはまる数値を有効数字3桁で求めよ. (3) 反応開始後 t [s] での分解速度 v [mol/(L·s)] と過酸化水素濃度 [H₂O₂] [mol/L] の関係を反応の速度定数 k を用いて表せ. また, k の値を有効数字3桁で求めよ. (1) 分解した H₂O₂ は (0.250 − 0.0920) mol/L × (10×10⁻³ L) = 1.58×10⁻³ mol 2 mol の H₂O₂ が分解すると 1 mol の O₂ が発生する. 発生した O₂ は 1.58×10⁻³ × (1/2) = 7.90×10⁻⁴ mol (2) 時間範囲: 0~20, 20~40, 40~60, 60~80 平均の分解速度: 5.20×10⁻³, 2.70×10⁻³, 1.70×10⁻³, 1.20×10⁻³ mol/(L·s) (平均の分解速度)/(平均の濃度): 2.63×10⁻², 2.27×10⁻², 2.27×10⁻², 2.61×10⁻² s⁻¹ (3) v = k[H₂O₂] k = (2.63 + 2.27 + 2.27 + 2.61)/4 × 10⁻² ≒ 2.45×10⁻² s⁻¹ 【解説】 (1) 40秒間で減少した H₂O₂ のモル濃度 [mol/L] に体積 [L] を掛けて物質量 [mol] が求まる. また, 化学反応式の係数から, 発生した酸素 O₂ の物質量は H₂O₂ の物質量の半分である. (2)  ア:−(0.146 − 0.250)/(20 − 0) = 0.0052 イ:−(0.0920 − 0.146)/(40 − 20) = 0.0027 ウ:−(0.0580 − 0.0920)/(60 − 40) = 0.0017 エ:−(0.0340 − 0.0580)/(80 − 60) = 0.0012 平均の濃度は単純平均で求める. (平均の濃度) = (最初の濃度 + 最後の濃度)/2 したがって, 0~20 s: (0.250 + 0.146)/2 = 0.198 mol/L 20~40 s: (0.146 + 0.0920)/2 = 0.119 mol/L 40~60 s: (0.0920 + 0.0580)/2 = 0.075 mol/L 60~80 s: (0.0580 + 0.0340)/2 = 0.046 mol/L オ:5.20×10⁻³ / 0.198 = 0.0263 s⁻¹ カ:2.70×10⁻³ / 0.119 = 0.0227 s⁻¹ キ:1.70×10⁻³ / 0.075 = 0.0227 s⁻¹ ク:1.20×10⁻³ / 0.046 = 0.0261 s⁻¹ (3) (2)より, (平均の分解速度 v̄)/(平均の濃度 [H₂O₂]) はどの時間範囲でもほぼ同じである. したがって, 分解速度が [H₂O₂] に比例することがわかる. (v/[H₂O₂]) = k (一定) より v = k[H₂O₂] k の値は, 誤差を平均化するために4つの時間範囲の相加平均として求める.

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