原子の励起・電離と光の吸収・放出

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水素原子のエネルギー準位は、Eₙ = −13.6/n² eV(量子数 n = 1, 2, …)で与えられる。 電子が原子核から完全に離れた状態のエネルギーを0とする。 以下では、基底状態にある水素原子に光子または自由電子を入射させる場合を考える。 ただし、原子核の反跳によるエネルギー損失は無視し、光子の吸収は1個ずつ起こるものとする。また、光子の散乱など、励起・電離以外の過程は考えない。 (1) 基底状態の水素原子をn = 2, 3, 4の励起状態にするために必要なエネルギーΔEをそれぞれeV単位で求めよ。 (2) 基底状態の水素原子にエネルギー10.2 eVの光子を1個入射させる。この光子が吸収されるとき、電子の遷移先の量子数を求めよ。 (3) 基底状態の水素原子にエネルギー11.0 eVの光子を1個入射させる。この光子は吸収されるか。理由とともに答えよ。 (4) 基底状態の水素原子に、運動エネルギー11.0 eVの自由電子を衝突させる。水素原子を励起できるか。励起できる場合、遷移先の量子数と衝突後の自由電子の運動エネルギーKを求めよ。 (5) (3)、(4)の結果から、光子の吸収による励起と自由電子の衝突による励起の条件にはどのような違いがあるか説明せよ。 (6) 基底状態の水素原子に、運動エネルギー13.0 eVの自由電子を衝突させる。衝突によって水素原子が励起される場合、遷移先として可能な量子数nをすべて求めよ。また、このうち衝突後の自由電子の運動エネルギーが最小となるのはどの状態へ励起される場合か。そのときの自由電子の運動エネルギーも求めよ。 (7) n = 3の励起状態にある水素原子が基底状態に戻るとき、光子を1個だけ放出する場合と、光子を2個放出する場合がある。それぞれの遷移経路を示し、放出される光子のエネルギーの総和を比較せよ。 (8) 基底状態の水素原子に、運動エネルギー16.0 eVの自由電子を衝突させる。衝突によって水素原子が電離し、散乱された電子と電離により放たれた電子の2個が等しい運動エネルギーをもつ場合、それぞれの運動エネルギーK₁、K₂を求めよ。 【解答】 (1) 基底状態(n = 1)のエネルギーはE₁ = −13.6 eVである。 基底状態から量子数nへの励起に必要なエネルギーは ΔE = Eₙ − E₁ = −13.6/n² − (−13.6) = 13.6(1 − 1/n²) eV n = 2のとき ΔE = 13.6(1 − 1/2²) = 10.2 eV n = 3のとき ΔE = 13.6(1 − 1/3²) ≒ 12.1 eV n = 4のとき ΔE = 13.6(1 − 1/4²) = 12.75 eV (2) (1)より、n = 1からn = 2への励起に必要なエネルギーは10.2 eVである。 入射光子のエネルギーと一致するため、光子は吸収され、電子はn = 2へ遷移する。 (3) (1)より、n = 2への励起には10.2 eV、n = 3への励起には約12.1 eVが必要である。 励起エネルギーはnが大きいほど増加するため、入射光子のエネルギー11.0 eVは、どの励起エネルギーとも一致しない。よって、光子は吸収されない。 (4) 自由電子の運動エネルギー11.0 eVは、n = 2への励起に必要な10.2 eVより大きい。 一方、n = 3への励起に必要な約12.1 eVより小さいため、n = 2への励起が可能である。 エネルギー保存則より K = 11.0 − 10.2 = 0.8 eV (5) 光子が原子に吸収されると光子自体は消滅し、そのエネルギーすべてが原子に渡される。 よって、光子の吸収による励起では、光子のエネルギーが2つのエネルギー準位の差に一致する必要がある。 一方、自由電子の衝突による励起では、自由電子の運動エネルギーが励起に必要なエネルギー以上であれば励起が可能であり、余ったエネルギーは衝突後の自由電子の運動エネルギーとして残る。 (6) 励起に必要なエネルギーは ΔE = 13.6(1 − 1/n²) eV 自由電子の運動エネルギーが13.0 eVであるから 13.6(1 − 1/n²) ≦ 13.0 よって 1/n² ≧ 1 − 13.0/13.6 = 3/68 n² ≦ 68/3 ≒ 22.7 nは2以上の整数であるから、可能な遷移先はn = 2, 3, 4である。 衝突後の自由電子の運動エネルギーKは K = 13.0 − ΔE よって、ΔEが最大となるn = 4への励起で最小となる。 このとき、運動エネルギーは 13.0 − 12.75 = 0.25 eV (7) 光子を1個だけ放出する場合の遷移経路は n = 3 → n = 1 放出される光子のエネルギーは E₃ − E₁ = −13.6/3² + 13.6/1² = 108.8/9 ≒ 12.1 eV 光子を2個放出する場合の遷移経路は n = 3 → n = 2 → n = 1 1個目の光子のエネルギーは E₃ − E₂ = −13.6/3² + 13.6/2² ≒ 1.89 eV 2個目の光子のエネルギーは E₂ − E₁ = −13.6/2² + 13.6/1² = 10.2 eV 放出される光子のエネルギーの総和は (E₃ − E₂) + (E₂ − E₁) = E₃ − E₁ ≒ 12.1 eV よって、放出される光子のエネルギーの総和は、途中の遷移経路によらず等しい。 (8) 入射電子の運動エネルギー16.0 eVのうち、13.6 eVが電離に使われる。 エネルギー保存則より、衝突後の2個の自由電子の運動エネルギーの総和は K₁ + K₂ = 16.0 − 13.6 = 2.4 eV 2個の電子が等しい運動エネルギーをもつ場合 K₁ = K₂ = 2.4/2 = 1.2 eV 【補足】 電子が原子核から完全に離れた状態のエネルギーが0であるから(E∞ = 0)、電離に使われるエネルギーは E∞ − E₁ = 0 − E₁ = 0 − (−13.6) = 13.6 eV
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