
α粒子の散乱とラザフォードの原子模型
【α粒子の散乱と原子核の発見】
20世紀初頭、トムソンは、正電荷が原子全体に広く分布し、その中に電子が散在するというトムソンの原子模型(ブドウパン模型)を提唱した。
ラザフォードらは、高速のα粒子を非常に薄い金属箔に入射させ、その散乱を調べた。
トムソンの模型ではα粒子の大角度散乱は予想されなかったが、実験の結果、
① 大部分のα粒子はほぼ直進した。
② ごく一部のα粒子は大きく散乱され、90°以上曲げられるものもあった。
この結果から、原子の内部の大部分は空間であり、正電荷と質量のほぼすべてが中心の非常に小さな領域に集中していることがわかった。この部分を原子核という。
ラザフォードは、正電荷をもつ原子核の周囲を電子が静電気的な引力を受けて公転しているというラザフォードの原子模型(惑星型模型)を提唱した。
α粒子は電気量 +2e のヘリウム原子核 ⁴₂He であり、正電荷をもつ原子核に近づくほど静電気的な反発力が大きくなる。
原子核の直径は約10^-15 m、原子の直径は約10^-10 mであり、その比は約10万分の1である。
例えば、原子を直径100 mの球に拡大しても、原子核の直径は1 mm程度である。
【問題】
原子番号Z、電気量 +Ze の原子核に向かって、運動エネルギーKのα粒子(電気量 +2e)が正面から入射する場合を考える。原子核は静止しているものとし、その反跳は無視する。
また、原子核から十分遠い位置での電気的な位置エネルギーを0とし、クーロンの法則の比例定数をk、電気素量をeとする。
(1) α粒子が原子核に最も近づいたときの原子核からの距離 r_min を K、k、Z、e で表せ。
(2) 金の原子番号を Z=79 とする。運動エネルギー K=5.0 MeV のα粒子を金原子核に正面から入射させたときの r_min を求めよ。
ただし、k=9.0×10^9 N・m²/C²、e=1.6×10^-19 C とする。
(3) 同じ金原子核に対して、α粒子の運動エネルギーを(2)の2倍にすると、r_min は(2)の何倍になるか。
(4) 運動エネルギーが等しいα粒子を、原子番号がZと2Zの原子核にそれぞれ正面から入射させる。それぞれの最近接距離を r1、r2 とするとき、r2/r1 を求めよ。
(5) (2)の実験でα粒子が原子核に衝突せずに反対向きへ散乱されたとする。この結果から、金原子核の半径Rについてどんな不等式が成り立つと考えられるか。
(6) トムソンの原子模型を考える。金原子の正電荷 +79e が半径 a=5.0×10^-11 m の球内に一様に分布していると仮定する。電子による電気力は無視し、正電荷の分布は変化しないものとする。
このとき、無限遠を基準としたα粒子の電気的な位置エネルギーは、球の中心で最大となり、
U_max = 3kZe²/a
で与えられる。
α粒子が正面から入射し、球の中心を通過するために必要な運動エネルギーの下限値をeV単位で求めよ。また、(2)のα粒子(5.0 MeV)はこの球を通過できるか。
【解答】
(1)
α粒子が原子核に最も近づいたとき、α粒子の速さは一瞬0となる。
力学的エネルギー保存則より、
K = k(2e)(Ze)/r_min
したがって、
r_min = 2kZe²/K
無限遠では、
運動エネルギー:K
電気的位置エネルギー:0
最近接では、
運動エネルギー:0
電気的位置エネルギー:U = kq1q2/r_min
となる。
(2)
K = 5.0 MeV
= 5.0×10^6×1.6×10^-19
= 8.0×10^-13 J
(1)より、
r_min
= 2×(9.0×10^9)×79×(1.6×10^-19)² / (8.0×10^-13)
= 4.55…×10^-14 m
よって、
r_min ≒ 4.6×10^-14 m
1 eV = 1.6×10^-19 J である。
(3)
(1)より、Zが一定のとき、r_min はKに反比例する。
よって、Kを2倍にすると、
r_min は1/2倍
(4)
(1)より、Kが一定のとき、r_min はZに比例する。
よって、原子番号が2倍になると最近接距離も2倍になるから、
r2/r1 = 2
(5)
α粒子は r_min まで近づいても原子核に衝突せずに跳ね返ったため、原子核の半径Rは最近接距離 r_min より小さいと考えられる。
よって、
R < r_min ≒ 4.6×10^-14 m
(6)
運動エネルギーKが位置エネルギーの最大値 U_max を超えればよいから、
K > U_max
U_max
= 3kZe²/a
= 3×(9.0×10^9)×79×(1.6×10^-19)² / (5.0×10^-11)
≒ 1.09×10^-15 J
これをeV単位に換算すると、
U_max
= (1.09×10^-15)/(1.6×10^-19)
≒ 6.8×10^3 eV
よって、通過に必要な運動エネルギーの下限値は、
6.8×10^3 eV
である。
(2)のα粒子の運動エネルギーは、
5.0 MeV = 5.0×10^6 eV
であり、U_max より十分大きい。
したがって、(2)のα粒子は球を通過できる。
トムソンの模型では、5.0 MeVのα粒子は原子の中心を通過できる。
一方、ラザフォードの模型では、原子核の強い反発力により、中心まで到達せずに跳ね返される。
この違いは、原子の正電荷が広く分布せず、非常に小さな原子核に集中していることを示している。
