
[1] 0.10 mol/L のヨウ素溶液50 mLに二酸化硫黄を完全に吸収させた.
[2] [1]の溶液中に残ったヨウ素をデンプンを指示薬として0.050 mol/L のチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定したところ, 20 mLを加えたときに溶液の色が消えた.
(1) [1]について, 二酸化硫黄とヨウ素が反応するときの化学反応式を示せ.
(2) [2]について, ヨウ素とチオ硫酸ナトリウムが反応するときの化学反応式を示せ.
(3) [2]の指示薬は何か. また, 滴定の終点で水溶液は何色から何色に変化するか.
(4) 吸収させた二酸化硫黄の物質量を求めよ.
【ヨウ素酸化滴定(ヨージメトリー)】
ヨウ素酸化滴定:まず, 定量したい還元剤を過剰の酸化剤のヨウ素 I₂ と反応させる.
次に, 余った I₂ を還元剤のチオ硫酸ナトリウム Na₂S₂O₃ で逆滴定する.
(1) SO₂ + I₂ + 2H₂O → 2HI + H₂SO₄
(2) I₂ + 2Na₂S₂O₃ → 2NaI + Na₂S₄O₆
(3) 指示薬:デンプン(水溶液) 青紫色から無色
(4) 吸収させた二酸化硫黄の物質量を x mol とする.
酸化剤の物質量(mol)と還元剤の物質量(mol)の関係:
2価×x + 1価×0.050 mol/L×(20/1000 L) = 2価×0.10 mol/L×(50/1000 L)
∴ x = 4.5×10⁻³ mol
【解説】
(1) ヨウ素溶液とは, ヨウ化カリウム KI 水溶液にヨウ素 I₂ を溶かし込んだ褐色の溶液である.
I₂ は無極性分子で極性溶媒の水には溶けにくいが, KI 水溶液には溶けて反応させられるようになる.
ヨウ素溶液のヨウ化カリウム KI は単に溶質として存在するだけで, 酸化還元反応には関与しない.
2価の酸化剤 I₂ + 2e⁻ → 2I⁻
2価の還元剤 SO₂ + 2H₂O → SO₄²⁻ + 4H⁺ + 2e⁻
2式を足すと SO₂ + I₂ + 2H₂O → 2I⁻ + SO₄²⁻ + 4H⁺
右辺のイオンを組み合わせると酸化還元反応式が得られる.
(2)
2価の酸化剤 I₂ + 2e⁻ → 2I⁻
1価の還元剤 2S₂O₃²⁻ → S₄O₆²⁻ + 2e⁻ (2 mol の S₂O₃²⁻ が 2 mol の e⁻ を放出)
2式を足すと I₂ + 2S₂O₃²⁻ → 2I⁻ + S₄O₆²⁻ (ヨウ素の定量)
両辺に4個の Na⁺ を加えると酸化還元反応式が得られる.
(3)
最初からデンプンがあるとヨウ素の反応速度が低下する.
できる限り終点の直前(ヨウ素の褐色が消えそうなとき)に加える方がよい.
ヨウ素デンプン反応による色の変化は非常に鋭敏であり, 終点を明確に判定できる.
ヨウ素 I₂ がわずかでも残っているうちは青紫色, I₂ がすべて I⁻ に還元された瞬間に色が消える.
(4)
(酸化剤が受け取る e⁻ の物質量) = (還元剤が放出する e⁻ の物質量) が酸化還元の根幹である.
本問は, 酸化剤が I₂ の1種類, 還元剤が SO₂ と Na₂S₂O₃ の2種類となる逆滴定である.
ヨウ素 I₂ は温和な酸化剤なので, ヨウ素酸化滴定では比較的強い還元剤しか定量できない.
H₂S や SO₂ の他, アスコルビン酸 C₆H₈O₆ (慣用名:ビタミンC) を定量する出題も散見される.
2価の還元剤 C₆H₈O₆ → C₆H₆O₆ + 2H⁺ + 2e⁻
