溶存酸素(DO)測定(ウィンクラー法)

スポンサーリンク
dissolved-oxygen
ある河川で試料水を採取し, 空気が入らないように試料びん(A)と試料びん(B)に正確に100 mLずつ入れて栓をした. [2] 試料びん(A)に硫酸マンガンMnSO₄水溶液と水酸化ナトリウムNaOH水溶液を加えると, 水酸化マンガン(II) Mn(OH)₂の白色沈殿が生じた.  Mn²⁺ + 2OH⁻ → Mn(OH)₂↓ [3] [2]の沈殿が試料水全体に及ぶように混ぜると, 試料水中のすべての溶存酸素と反応し, 酸化水酸化マンガン(IV) MnO(OH)₂の褐色沈殿に変化した.  2Mn(OH)₂ + O₂ → 2MnO(OH)₂↓ …① [4] [3]の水溶液にヨウ化カリウムKI水溶液と硫酸を加えると, 褐色沈殿がすべて溶解してヨウ素I₂が遊離し, 褐色の溶液になった.  MnO(OH)₂ + 2I⁻ + 4H⁺ → Mn²⁺ + I₂ + 3H₂O …② [5] [4]の水溶液をすべてコニカルビーカーに移し, 指示薬を加えてヨウ素I₂を0.025 mol/L のチオ硫酸ナトリウムNa₂S₂O₃水溶液で滴定したところ, 3.0 mL滴下したところで終点に達した.  I₂ + 2Na₂S₂O₃ → 2NaI + Na₂S₄O₆ …③ [6] 試料びん(B)は密栓をしたまま20 ℃で5日間保ち, その後試料びん(A)と同様の操作を行ったところ, 0.025 mol/L のチオ硫酸ナトリウムNa₂S₂O₃水溶液の滴下量は1.2 mLであった. (1) [5]の指示薬は何か. また, 滴定の終点で水溶液は何色から何色に変化するか. (2) 試料びん(A)と試料びん(B)の試料水100 mL中の溶存酸素(DO)[mg/L]を求め, これらの値からこの河川試料水の生物化学的酸素要求量(BOD)[mg/L]を求めよ. ただし, 加えた試薬の液量は無視してよいものとする. O₂ = 32 (3) 20 ℃で酸素O₂の分圧1.01×10⁵ Paのとき, 酸素O₂の水1 Lに対する溶解度は1.40×10⁻³ molであった. 空気中の酸素の体積百分率が20 %であるとし, 20 ℃の大気圧1.01×10⁵ Pa下で水100 mL中に溶解できる酸素量(飽和溶存酸素量)[mg]を有効数字3桁で求めよ. また, 試料びん(A)中の試料水の酸素飽和率を求めよ. 【溶存酸素(DO)測定(ウィンクラー法)】 溶存酸素(DO)[mg/L] (Dissolved Oxygen) 水に溶けている酸素O₂の量. 水の汚染度の指標の1つ. DOが小さいほど汚染度が高い. 水中に酸化されやすい汚染物質(有機物など)があるとO₂が消費されてDOが小さくなる. 生物化学的酸素要求量(BOD)[mg/L] (Biochemical Oxygen Demand) 微生物による水中の汚染物質(有機物など)の酸化分解に伴って消費される酸素O₂の量. 水を密閉容器中に一定温度で一定時間保ったときのDOの減少量から求められる. 水の汚染度の1つの指標であり, BODが大きいほど汚染度が高い. (1) デンプン(水溶液)  青紫色 → 無色 (2) 試料びん(A)の試料水100 mL中の溶存酸素の物質量を x [mol] とする. O₂ : Na₂S₂O₃ = x : (0.025 mol/L × 3.0/1000 L) = 1 : 4 より x = 7.5/4 × 10⁻⁵ mol 加えた試薬の液量は無視してよいから, 試料びん(A)の試料水100 mL中の溶存酸素は (32×10³ mg/mol × (7.5/4 × 10⁻⁵ mol)) / (100/1000 L) = 6.0 mg/L 試料びん(B)の試料水100 mL中の溶存酸素を y [mg/L] とする. (Na₂S₂O₃ の滴下量):(溶存酸素) = 3.0 mL : 6.0 mg/L = 1.2 mL : y [mg/L] したがって y = 2.4 mg/L 生物化学的酸素要求量(BOD)は 6.0 − 2.4 = 3.6 mg/L (3) 水100 mL中に溶解できる酸素量はヘンリーの法則より (1.40×10⁻³ mol/L) × (100/1000 L) × (32×10³ mg/mol) × (20/100) = 0.896 mg 酸素飽和率 = (試料水の溶存酸素量)/(飽和溶存酸素量) = 6.0 mg/L / 8.96 mg/L = 0.67 ≒ 67 % 【補足解説】 試料水採取直後に現場で溶存酸素O₂をMnO(OH)₂の沈殿に変換して実験室に持ち帰る. 実験室で沈殿MnO(OH)₂をI₂に変換してNa₂S₂O₃で滴定すると, 溶存酸素を定量できる. O₂は酸化力が弱いが, 塩基性溶液中で強力な還元剤となるMn(OH)₂とならば完全に反応する. MnO(OH)₂は塩基性条件下では安定だが, 酸性条件下で酸化剤となり, ヨウ化物イオンI⁻を酸化してヨウ素I₂にする一方, 自身はMn²⁺に還元される. I₂がある間は青紫色(ヨウ素デンプン反応), I₂がすべてI⁻に還元された瞬間に色が消える. 実験過程はやや複雑だが, 計算上は3つの反応における物質量比を考慮すればよいだけである. ① より, 1 mol の O₂ から 2 mol の MnO(OH)₂ が生じる (1:2). ② より, 2 mol の MnO(OH)₂ から 2 mol の I₂ が生じる (1:1). ③ より, 2 mol の I₂ の滴定には 4 mol の Na₂S₂O₃ が必要である (1:2). したがって O₂ : Na₂S₂O₃ = 1 : 4. O₂の物質量が求まるので, 質量[mg]に換算し, さらに1 Lあたりに換算すればよい. 同じ操作を行った試料びん(B)については, 試料びん(A)との比を考えれば済む. BOD = 溶存酸素(DO)の減少量 = 採取直後の溶存酸素(DO) − 5日後の溶存酸素(DO). 溶解度の小さな気体が水に溶ける最大量は, 次のヘンリーの法則に従う. 「一定温度で一定量の水に溶ける気体の質量(物質量)は, その気体の分圧に比例する」 体積百分率より, 大気圧下でのO₂の分圧は 1.01×10⁵ × (20/100) Pa である. O₂の分圧 1.01×10⁵ Pa のときの溶解度が 1.40×10⁻³ mol/L より, O₂の分圧 1.01×10⁵ × (20/100) Pa のときの溶解度は 1.40×10⁻³ × (20/100) mol/L である. 後は水100 mL中であることも考慮し, 質量[mg]に換算すればよい.

タイトルとURLをコピーしました