
標準水素電極 1 mol/LのH⁺の水溶液に白金電極を入れ, 25 ℃, 1.013×10⁵ PaのH₂ を吹きかけた電極. 標準水素電極の電位を基準の0 Vと定める.
標準電極電位 E⁰
金属Mを電極としてその陽イオンMⁿ⁺の水溶液(1 mol/L)に入れ, 標準水素電極と塩橋で接続したときに生じる電位差(起電力).
酸化剤の酸化力の指標. E⁰が高い金属ほど酸化力が強い. 逆に, E⁰が低い金属ほど酸化されやすい(イオン化傾向が大きい). 金属をE⁰の低い順に並べたものが金属のイオン化列である.
(図:標準電極と金属電極の模式図)
H₂ → Pt | 1 mol/L HCl aq || 1 mol/L Mⁿ⁺ aq | M
塩橋:KCl寒天
電位差計
負極:Pt, 正極:金属M
左側H₂ → H⁺ + 2e⁻(酸化)
右側Mⁿ⁺ + ne⁻ → M(還元)
電池の標準起電力 E⁰ 両極の電解液の濃度が1 mol/Lのときの起電力.
(電池の標準起電力) = (正極の標準電極電位) − (負極の標準電極電位)
例 Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu E⁰(Cu²⁺|Cu) = + 0.34 V …①
Zn²⁺ + 2e⁻ → Zn E⁰(Zn²⁺|Zn) = − 0.76 V …②
ダニエル電池 (−) Zn | ZnSO₄ aq | CuSO₄ aq | Cu (+)
①−② より Zn + Cu²⁺ → Zn²⁺ + Cu …③
標準起電力 E⁰ = (+ 0.34 V) − (− 0.76 V) = 1.10 V
[補足]
金属Mをその陽イオンMⁿ⁺の水溶液に入れたものを半電池という.
異なる半電池を2つ組み合わせると電池ができる(ダニエル型電池).
一方を標準水素電極にしたダニエル型電池の起電力が標準電極電位である.
塩橋 KClなどの塩の水溶液を寒天で固めて入れた管で, 両側の電解液を電気的に接続する. 負極側にCl⁻, 正極側にK⁺が移動し, 電気的中性を保つ.
(E⁰ が高い) = (e⁻を引き寄せて電極が還元される) = 電極の酸化力 大 = イオン化傾向 小
(E⁰ が低い) = (e⁻が奪われて電極が酸化される) = 電極の酸化力 小 = イオン化傾向 大
標準電極電位 E⁰ の測定対象となる電極の反応は還元反応として表現する. Mⁿ⁺ + n e⁻ → M [還元]
例 Li⁺ + e⁻ → Li E⁰(Li⁺|Li) = − 3.05 V
単に E⁰ = − 3.05 V と表すことも多い. 電池の標準起電力も E⁰ と表すため, 混同に注意する.
E⁰ < 0 のとき, 逆反応(酸化反応)が自発的に進む. Li → Li⁺ + e⁻ (Liはイオン化傾向最大)
電池は, 標準電極電位 E⁰ が高い金属側が正極になる(還元される).
電池の起電力は, 高電位の正極から低電位の負極の電極電位を引く決まりなので, 必ず正になる.
自発的に進む酸化還元反応を選び, それを利用した電池の標準起電力 E⁰ を求めよ.
(a) Cd + Zn²⁺ → Cd²⁺ + Zn
(b) Cd + 2Ag⁺ → Cd²⁺ + 2Ag
――― 電極反応と標準電極電位 ―――
Zn²⁺ + 2e⁻ → Zn − 0.76 V
Cd²⁺ + 2e⁻ → Cd − 0.40 V
2H⁺ + 2e⁻ → H₂ 0.00 V
Ag⁺ + e⁻ → Ag + 0.80 V
(b) E⁰ = E⁰(Ag⁺|Ag) − E⁰(Cd²⁺|Cd) = (+0.80 V) − (−0.40 V) = 1.20 V
[補足]
標準電極電位より, イオン化傾向 Zn > Cd > H₂ > Ag である.
よって, Ag よりイオン化傾向が大きい Cd が陽イオンになる (b) の反応が自発的に進む.
標準電極電位の値は物質量によらず一定である. よって, 2Ag⁺ + 2e⁻ → 2Ag などと考えて +0.80 V を2倍したりする必要はない.
実際には, 電池の起電力は電解質の水溶液の濃度やpHによって変化する.
各濃度における電池の起電力Eの求め方として, 次のネルンストの式が知られている.
E = E⁰ − (0.059 / n) × log₁₀ Q (E⁰: 標準起電力, n: 反応した電子の物質量, Q: 反応商)
反応商 Q は平衡定数の式と同じ形式であり, 固体のモル濃度は1とする.
(1) 次の電池の起電力 E を求めよ.
(a) (−) Cu | 1.0 mol/L CuSO₄ aq | 0.10 mol/L AgNO₃ aq | Ag (+)
(b) (−) Ag | 0.10 mol/L AgNO₃ aq | 1.0 mol/L AgNO₃ aq | Ag (+)
――― 電極反応と標準電極電位 ―――
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu +0.34 V
Ag⁺ + e⁻ → Ag +0.80 V
(2) (1)の(b)の電池の両極の電解液がともに0.50 Lずつであるとする.
放電が完了したときの電解液の濃度と, それまでに流れた電子の物質量を求めよ.
(1)(a) 全体反応式:Cu + 2Ag⁺ → Cu²⁺ + 2Ag
標準起電力:E⁰ = (+0.80 V) − (+0.34 V) = 0.46 V
E = E⁰ − (0.059 / 2) × log₁₀ ( [Cu²⁺] / [Ag⁺]² )
E = 0.46 − (0.059 / 2) × log₁₀ (1.0 / 0.10²)
E = 0.46 − (0.059 / 2) × 2 = 0.46 − 0.059 ≈ 0.40 V
(1)(b) 全体反応式:Ag(負) + Ag⁺(正) → Ag⁺(負) + Ag(正)
両極ともにAgであるから, 標準起電力 E⁰ = 0 V
E = E⁰ − (0.059 / 1) × log₁₀ ( [Ag⁺(負)] / [Ag⁺(正)] )
E = 0 − 0.059 × log₁₀ (0.10 / 1.0) = +0.059 V
(2) 両極の電解液の濃度が等しくなったときの濃度は
(0.10 mol/L × 0.50 L + 1.0 mol/L × 0.50 L) ÷ (0.50 L × 2)
= (0.05 + 0.50) ÷ 1.0 = 0.55 mol/L
1 mol の電子が流れたとき負極で 1 mol の Ag⁺ が生じるから, 流れた電子の物質量は
0.55 mol/L × 0.50 L − 0.10 mol/L × 0.50 L = 0.225 ≈ 0.23 mol
[補足]
元々のネルンストの式は
E = E⁰ − (RT / nF) × ln Q
問題で与えられている式は,
気体定数 R = 8.31 J/(mol・K), 絶対温度 T = 298 K (25 ℃),
ファラデー定数 F = 9.65×10⁴ C/mol を代入し, 自然対数の底 e を常用対数の底 10 に変換したものである.
aA + bB ⇄ cC + dD が平衡状態にあるときの平衡定数は
K = [C]ᶜ[D]ᵈ / [A]ᵃ[B]ᵇ
反応商 Q は平衡定数 K と同じ形式で考えられる. Cu や Ag は固体なので [Cu] = [Ag] = 1 とし, 実質無視できる.
(1)(b) 同じ物質であっても, 濃度が異なると電池になる(濃淡電池).
濃度が均等になる(エントロピーが大きくなる)方向に反応が自発的に進むからである.
濃度が小さい方が負極, 濃度が大きい方が正極になる.
負極:Ag(負) → Ag⁺(負) + e⁻ (電極が溶解し, 電解液の濃度が増加)
正極:Ag⁺(正) + e⁻ → Ag(正) (電極に金属が析出し, 電解液の濃度が減少)
濃淡電池は, 1 V 以上の起電力が要求される実用電池にはならない.
しかし, 細胞内外の濃度の違いによる電位差を利用して神経伝達を行うなど, 生命活動で利用される.
(2) 濃淡電池は, 両極の電解液の濃度が等しくなると, それ以上電流が流れなくなる.
このときの濃度は, 両極の合計物質量を両極の合計体積で割って求められる.
本問の場合は両極の電解液の体積が等しいので, 結局正極の濃度と負極の濃度の平均値になる.
流れた電子の物質量は, 放電前後の Ag⁺ の物質量の変化量に等しい.
負極で考えると
(流れた電子の物質量) = (放電後の Ag⁺(負) の物質量) − (放電前の Ag⁺(負) の物質量)
正極で考えると
(流れた電子の物質量) = (放電前の Ag⁺(正) の物質量) − (放電後の Ag⁺(正) の物質量)
