酸化還元滴定(過マンガン酸塩滴定)

スポンサーリンク
permanganate-titration
市販のオキシドール中の過酸化水素の濃度を求めるため, 以下の実験を行った. [1] シュウ酸二水和物 H₂C₂O₄·2H₂O (式量126) 6.3 g を水に溶かして, 全量を正確に100 mLとした. [2] 器具①を用いて[1]で調製したシュウ酸水溶液10 mLをコニカルビーカーに入れ, 希硫酸を加えて酸性にした. この溶液を60〜70℃に温めた後, 濃度不明の過マンガン酸カリウム水溶液を器具②に入れて滴下していくと, 40 mL滴下したところで赤紫色が消えなくなった. [3] 器具①を用いてオキシドール10 mLを500 mLの器具③に入れ, 純水を加えて10倍に希釈した. 器具①を用いてこの希釈水溶液20 mLをコニカルビーカーに入れ, 希硫酸を加えて酸性にした後, [2]の過マンガン酸カリウム水溶液を器具②に入れて滴下していくと, 10 mL滴下したところで赤紫色が消えなくなった. (1) 過マンガン酸カリウム水溶液を保存するときの注意点を理由と共に答えよ. (2) 器具①〜③の名称を答えよ. また, それらの器具が水で濡れている場合の使用方法を説明せよ. (3) 実験[2]と[3]で, 酸性にする理由と塩酸や硝酸が使えない理由を答えよ. (4) 実験[2]で60〜70℃に温めるのはなぜか. (5) 実験[2]における滴定の終点はどのように判定されるか. (6) 硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液とシュウ酸水溶液の化学反応式を示せ. (7) 硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液と過酸化水素水溶液の化学反応式を示せ. (8) オキシドールの密度を1.01 g/cm³とするとき, オキシドール中の過酸化水素の質量パーセント濃度を求めよ. H₂O₂=34. 酸化還元滴定(過マンガン酸塩滴定) 標準溶液 濃度が正確にわかっている溶液. 酸化還元滴定 中和滴定と同様, 酸化剤(または還元剤)の標準溶液を用いて, 濃度が未知の還元剤(または酸化剤)の水溶液の濃度を滴定によって求める操作. (1) KMnO₄は光で分解してMnO₂に変化する性質をもつため, 褐色びんに保存する. (2) ① ホールピペット 使用する水溶液で洗い(共洗い), そのまま使用する.   ② 褐色ビュレット 使用する水溶液で洗い(共洗い), そのまま使用する.   ③ メスフラスコ 水で濡れたまま使用する. (3) KMnO₄は酸性条件で強力な酸化剤になるから. また, 塩酸HClを用いるとCl⁻が還元剤として, 硝酸HNO₃を用いるとHNO₃自身が酸化剤として働いてしまうから. (4) 酸化還元反応の反応速度を大きくするため. (5) 滴下したMnO₄⁻の赤紫色が消えなくなるところを終点とする. (6) 2KMnO₄ + 5H₂C₂O₄ + 3H₂SO₄ → 2MnSO₄ + 10CO₂ + 8H₂O + K₂SO₄ (7) 2KMnO₄ + 5H₂O₂ + 3H₂SO₄ → 2MnSO₄ + 5O₂ + 8H₂O + K₂SO₄ (8) [1]で調製したシュウ酸水溶液のモル濃度は 6.3 g / 126 g/mol ÷ (100/1000 L) = 0.50 mol/L. 過マンガン酸カリウムKMnO₄水溶液のモル濃度を c [mol/L] とする. [2]の過マンガン酸カリウム水溶液とシュウ酸水溶液の反応における量的関係は 5価 × c [mol/L] × 40/1000 L = 2価 × 0.50 mol/L × 10/1000 L より c = 0.050 mol/L. 10倍に希釈したオキシドール中のH₂O₂のモル濃度を c’ [mol/L] とする. [3]の過マンガン酸カリウム水溶液と過酸化水素水溶液の反応における量的関係は 5価 × 0.050 mol/L × 10/1000 L = 2価 × c’ [mol/L] × 20/1000 L より c’ = 0.0625 mol/L. よって, 10倍に希釈する前のオキシドール中のH₂O₂のモル濃度は 0.625 mol/L. 市販のオキシドール中のH₂O₂の質量パーセント濃度は 34 g/mol × 0.625 mol / 1010 g × 100 ≒ 2.1 %. 代表的酸化剤の過マンガン酸カリウムKMnO₄を用いる酸化還元滴定を過マンガン酸塩滴定という. 高校範囲の酸化還元滴定は, 本項の過マンガン酸塩滴定と次項で扱うヨウ素滴定くらいしかない. 中和滴定のpH指示薬のような明確に終点を判定できる指示薬が少ないことなどが理由である. 酸化還元滴定の問題は, 計算だけでなく, 実験器具や操作理由についてもよく問われる. オキシドールとは, 過酸化水素H₂O₂の水溶液(過酸化水素水)である. (2) ホールピペット 一定体積の少量の溶液を正確に量り取り, 他へ移動させる.   ビュレット 溶液を少量ずつ滴下し, 滴下した溶液の体積を正確に量る.   KMnO₄は光で分解するため, 本実験では褐色ビュレットの使用が好ましい.   水平方向からメニスカス(液面)の最下部を最小目盛りの1/10まで目分量で読み取る.   メスフラスコ 溶液の濃度を薄め, 正確なモル濃度の溶液を調製する.   コニカルビーカー 振ったときに液体がこぼれないよう上部を細めたビーカー(三角フラスコでも可).   体積を正確に量るためのガラス器具(ホールピペット, ビュレット, メスフラスコ)は, 熱膨張すると使えなくなるので加熱乾燥してはならない.   ホールピペットやビュレットは, 濃度がわかっている溶液の体積を正確に量り取る器具であるため, 水で濡れたまま使用してはならない.   どうせ後で水を入れて薄めるので, メスフラスコは水で濡れたまま使用できる.   モル濃度が変わっても溶質の物質量が変わらなければビュレットからの滴下量は変わらないので, コニカルビーカーは水で濡れたまま使用できる. (3) 酸性条件下では5価の酸化剤, 中性・塩基性条件下では3価の酸化剤として働く.   酸性 Mn⁺⁷O₄⁻ + 8H⁺ + 5e⁻ → Mn²⁺ + 4H₂O   中性・塩基性 Mn⁺⁷O₄⁻ + 2H₂O + 3e⁻ → Mn⁺⁴O₂ + 4OH⁻. (4) 常温では反応が非常に遅い. なお, 80℃を超えるとKMnO₄が分解してしまう. 一旦反応が始まると生成したMn²⁺が触媒となり, 常温でも速やかに反応が進行する. (5) 過マンガン酸塩滴定では指示薬を加える必要がない. MnO₄⁻(赤紫色) → Mn²⁺(ほぼ無色)という酸化剤自体の色の変化で終点がわかる. ただし, 赤紫色から無色になったときが終点であると誤解しやすいので注意を要する. 滴下したMnO₄⁻の赤紫色が消えずに残るところが終点である. (6) 2価の還元剤 H₂C₂O₄ → 2CO₂ + 2H⁺ + 2e⁻.   MnO₄⁻ + 8H⁺ + 5e⁻ → Mn²⁺ + 4H₂O.   2MnO₄⁻ + 5H₂C₂O₄ + 6H⁺ → 2Mn²⁺ + 10CO₂ + 8H₂O. (7) H₂O₂は基本酸化剤だが, 最高酸化数のKMnO₄やK₂Cr₂O₇に対しては還元剤として働く.   H₂O₂ → O₂ + 2H⁺ + 2e⁻.   2MnO₄⁻ + 5H₂O₂ + 6H⁺ → 2Mn²⁺ + 5O₂ + 8H₂O. (8) KMnO₄が光で分解することなどから, 決まった濃度のKMnO₄水溶液を調製することは難しい. そこで, シュウ酸H₂C₂O₄の一次標準溶液を調製し, これでKMnO₄水溶液の濃度を決定(二次標準溶液)し, さらにこの二次標準溶液でH₂O₂の濃度を決定する. FeS純度測定実験 (1) 発生した気体のH₂Sが溶液中に残っていると, 還元剤としてKMnO₄と反応するから. (2) 2KMnO₄ + 10FeSO₄ + 8H₂SO₄ → 2MnSO₄ + 5Fe₂(SO₄)₃ + 8H₂O + K₂SO₄. (3) KMnO₄の物質量 = 1.58 g / 158 g/mol = 0.010 mol.   調製溶液濃度 = 0.010 mol ÷ (25/1000 L) = 0.40 mol/L.   滴定に用いたFeSO₄の物質量 x mol.   KMnO₄ : FeSO₄ = 0.40 mol/L × 5.0/1000 L : x = 2 : 10 → x = 0.010 mol.   FeS質量 = 88 g/mol × 0.010 mol = 0.88 g.   FeS純度 = 0.88/1.0 × 100 = 88 %. (1) 硫化鉄(II)と希硫酸の反応は, 代表的な弱酸の遊離反応である.   FeS + H₂SO₄ → FeSO₄ + H₂S↑ (弱酸の塩 + 強酸 → 強酸の塩 + 弱酸) (2)   5価の酸化剤 Mn⁺⁷O₄⁻ + 8H⁺ + 5e⁻ → Mn²⁺ + 4H₂O (酸性条件) …A   1価の還元剤 Fe²⁺ → Fe³⁺ + e⁻ …B   A + B×5より MnO₄⁻ + 5Fe²⁺ + 8H⁺ → Mn²⁺ + 5Fe³⁺ + 4H₂O   両辺を2倍すると 2MnO₄⁻ + 10Fe²⁺ + 16H⁺ → 2Mn²⁺ + 10Fe³⁺ + 8H₂O (※)   両辺に2個のK⁺と18個のSO₄²⁻を加えると酸化還元反応式が得られる.   ※ 両辺を2倍したのは, すべてのFe³⁺をFe₂(SO₄)₃にするには偶数個のFe³⁺を要するため. (3) 1 molのFeSに希硫酸を加えると1 molのFeSO₄が生じるから, FeSとFeSO₄の物質量は等しい.   FeSの物質量を求めるため, FeSO₄の物質量をKMnO₄水溶液の滴定で決定するのが本実験である.   酸化還元反応式から, KMnO₄とFeSO₄は2:10の物質量比で反応するとわかる.

タイトルとURLをコピーしました