
リチウム電池(起電力 約3.0V)
(−) Li | Li塩を含む有機溶媒 | MnO₂ (+)
負極 Li →[酸化] Li⁺ + e⁻
正極 MnO₂ + Li⁺ + e⁻ →[還元] LiMnO₂
電解液に有機溶媒を用いる理由
Liはイオン化傾向が大きく常温で水と反応する。
2Li + 2H₂O → 2LiOH + H₂↑
特徴 一次電池。小型軽量(Liは最も軽い金属)。
高起電力(Liはイオン化傾向最大、起電力は両電極物質のイオン化傾向の差に依存)。
氷点下でも使用可能(電解質に水を含まないので低温でも凍らない)。
用途 腕時計、カメラ、心臓ペースメーカー。
リチウムイオン電池(起電力 約3.6V)
(−) LiₓC₆ | Li塩を含む有機溶媒 | Li₁₋ₓCoO₂ (+)
負極 LiₓC₆ ⇄[放電][充電] 6C + xLi⁺ + x e⁻ (0 < x ≤ 0.5)
正極 Li₁₋ₓCoO₂ + xLi⁺ + x e⁻ ⇄[放電][充電] LiCoO₂ (0 < x ≤ 0.5)
全体反応式 LiₓC₆ + Li₁₋ₓCoO₂ ⇄[放電][充電] LiCoO₂ + 6C
電解液に有機溶媒を用いる理由
起電力が大きく、水溶液を用いると溶媒の水が電気分解されてしまう。
特徴 1990年代に日本企業が実用化した二次電池(2019年吉野彰博士ノーベル化学賞)。
小型軽量、高起電力、長寿命(電極自体は反応せず、Li⁺が負極と正極の層を出入りするだけ)。
氷点下でも使用可能。
用途 スマートフォン、ノートパソコン、ハイブリッドカー、電気自動車(EV)。
エネルギー密度 鉛蓄電池の4〜5倍、ニッケル・水素電池の1.5〜2倍。
黒鉛Cの層状構造
リチウムイオン電池は特殊な反応式なので丸暗記は意味がなく、構造と合わせて理解しておきたい。
まず、リチウムイオン電池の正極は酸化コバルトCoO₂(Ⅳ)の層状構造である。
層の間に最大 Li⁺:CoO₂ = 1:1 でLi⁺を収容できるため、LiCoO₂(コバルト(Ⅲ)酸リチウム)と表す。
外部電源を用いて充電すると、CoO₂のCo³⁺の一部が電子を失ってCo⁴⁺となる。
同時に、電気的中性を保つために正極からLi⁺が脱離する。
1 molのCo³⁺のうちx molがCo⁴⁺になったとすると(つまりxは割合)
LiCoO₂ →[充電] Li₁₋ₓCoO₂ + xLi⁺ + x e⁻
半分以上のLi⁺が脱離すると、正極のCoO₂の層状構造が不安定になる。
実際のリチウムイオン電池では、約半分のLi⁺が脱離したところ(x = 0.5付近)で充電完了とする。
一方、負極は炭素の同素体の1つである黒鉛Cである。
黒鉛はC原子が正六角形に結合した平面構造が分子間力で層状に結合している。
層の間に最大 Li⁺:C = 1:6 でLi⁺を収容でき、その状態をLiC₆と表す。
充電時は、正極からx molのLi⁺が出ると同時にx molのLi⁺が負極に入る。
よって、有機溶媒中のLi塩の物質量は変化しない。
実際には約半分(x=0.5付近)までしか充電しないから、充電完了時でもLi₀.₅C₆である。
結局、リチウムイオン電池はLi⁺が出入りして
負極 Li₀.₅C₆ ⇄[完全放電][満充電] Li₀C₆
正極 Li₀.₅CoO₂ ⇄[完全放電][満充電] Li₁CoO₂
の間を繰り返す。
欠点 Li資源は限られ、高価格。発火の危険性があり、安全性を確保するために高度な技術が必要。
リチウムイオン電池の放電・充電時の負極と正極の反応は次の式で表される。
負極 LiₓC₆ ⇄[放電][充電] 6C + xLi⁺ + x e⁻ (0 < x ≤ 0.5)
正極 Li₁₋ₓCoO₂ + xLi⁺ + x e⁻ ⇄[放電][充電] LiCoO₂ (0 < x ≤ 0.5)
Li = 7.0, C = 12, O = 16, Co = 59, 1 J = 1 C·1 V, ファラデー定数 F = 9.65×10⁴ C/mol
(1) x=0.5まで充電したリチウムイオン電池を放電したときの全体反応式を示せ。
(2) リチウムイオン電池を放電したところ、3.86×10⁴ Cの電気量が流れた。負極の質量は何g変化したか。
(3) x=0.5まで充電したときに取り出せる電気量が3860 mAhであるリチウムイオン電池を作るのに必要なLiCoO₂の質量を有効数字3桁で求めよ。
(4) x=0.5まで充電したリチウムイオン電池の重量エネルギー密度(電池全体の活物質の合計1gに対して得られる電池のエネルギー)[J/g]を求めよ。起電力を3.6Vとする。
(5) 満充電の状態からさらに充電し続けると、Li₁₋ₓCoO₂がO₂とLiCoO₂とCo₃O₄に分解し、放電容量が減少する。x=0.6のとき、分解反応の反応式を示せ。
(1) 全体反応式 Li₀.₅C₆ + Li₀.₅CoO₂ → 6C + LiCoO₂
(2) 流れた電子e⁻の物質量 = 3.86×10⁴ C / 9.65×10⁴ C/mol = 0.40 mol
負極から0.40 molのLi⁺が出るから、質量変化 = 7.0 g/mol × 0.40 mol = 2.8 g減少。
(3) 3860 mAh = 3860×10⁻³ A × 3600 s = 1.3896×10⁴ C
電子e⁻の物質量 = 1.3896×10⁴ C / 9.65×10⁴ C/mol = 1.44×10⁻¹ mol
0.5 molのe⁻の充電に1 molのLiCoO₂(分子量98)が必要。
したがって、必要なLiCoO₂の質量 = 98 g/mol × (1.44×10⁻¹ × 1/0.5) mol ≈ 28.2 g
(4) 放電時に流れる電気量 = 9.65×10⁴ C/mol × 0.5 mol = 48250 C
エネルギー = 48250 C × 3.6 V = 1.737×10⁵ J
活物質の合計質量 = Li₀.₅C₆ + Li₀.₅CoO₂ = 75.5 + 94.5 = 170 g
重量エネルギー密度 = 1.737×10⁵ J / 170 g ≈ 1.0×10³ J/g
(5) Li₀.₄CoO₂ → O₂ + 2LiCoO₂ + Co₃O₄
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リチウムイオン電池の反応式は複雑だが、同じ物質量のLi⁺とe⁻が移動しているにすぎない。
よって、放充電において、各極はe⁻と同じ物質量のLi⁺の分の質量が増減する。
市販の電池で取り出せる電気量(放電容量)はmAh単位で表され、1 mAh = 電流1 mA × 1時間。
(電気量C) = (電流A) × (秒s)(Q = It)が成り立つため、mAhはCに換算できる。
電気量がわかると電子e⁻の物質量もわかる。
質量を求めるとき、全体反応式は半反応式から0.5 mol e⁻を消去して導かれる。
複雑な反応式は未定係数法を用いるとよい。両辺の各原子数に注目して連立方程式を立て、a=1と仮定して係数比を求める。
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