イオン交換膜法(NaOHの工業的製法)と電気透析法

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イオン交換膜法(NaOHの工業的製法) 電解槽を陽イオン交換膜で仕切り, 陽極側に飽和塩化ナトリウムNaCl水溶液, 陰極側に純水(または薄いNaOH水)を入れて電気分解する. 陽極 2Cl⁻ → Cl₂↑ + 2e⁻ 陰極 2H₂O + 2e⁻ → H₂↑ + 2OH⁻ 合体反応式 2NaCl + 2H₂O → H₂↑ + Cl₂↑ + 2NaOH 陽極側でCl⁻が酸化されてCl₂が生じると, 余ったNa⁺が陽イオン交換膜を通って陰極側に移る. 陰極側でH₂Oが還元されてH₂が生じると, OH⁻が余るが, 陽イオン交換膜を通ることはできない. 結局, 陰極側でNa⁺とOH⁻の濃度が上昇していく. つまり, 陰極側でNaOHが生成する. 合体反応式は以下の手順で作成できる. 2Cl⁻ + 2H₂O → H₂ + Cl₂ + 2OH⁻ (2e⁻を消去) 2NaCl + 2H₂O → H₂ + Cl₂ + 2NaOH (両辺に酸化還元反応に関与しないNa⁺を加える) 電極は安定している炭素C(陽極)と鉄Fe(陰極)である. 白金Pt電極はCl₂と反応して劣化するので, 陽極側には炭素を用いる. 陽イオン交換膜がない場合, 陰極で生じるNaOHが陽極で生じるCl₂と反応してしまう. 2NaOH + Cl₂ → NaCl + NaClO + H₂O この反応式は, 以下の3つの反応式の両辺を足して得られる. Cl₂ + H₂O ⇄ HCl + HClO (塩素は水と少し反応して塩化水素と次亜塩素酸が生成) HCl + NaOH → NaCl + H₂O (塩化水素が水酸化ナトリウムと中和) HClO + NaOH → NaClO + H₂O (次亜塩素酸が水酸化ナトリウムと中和) 電解槽を陽イオン交換膜で仕切り, 陽極側に飽和塩化ナトリウム水溶液, 陰極側に純水200 mLを入れて0.500 Aの電流で32分10秒間電気分解した. ファラデー定数F=9.65×10⁴ C/mol, log₁₀2=0.301 (1) 陽極および陰極で起こる反応をイオン反応式で示せ. (2) 両極で発生した気体の体積の合計は0℃, 1.013×10⁵ Paで何Lか. 発生した気体は水溶液に溶解しないものとする. (3) 電気分解後の陰極室のpHを求めよ. 電気分解後も両室の液体の体積は変化せず, 液温は25℃で一定であった. 水のイオン積Kw=1.0×10⁻¹⁴ (mol/L)² (25℃) (1) 陽極 2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻ 陰極 2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻ (2) 流れた電子e⁻の物質量は 0.500 A×(32×60+10) s / 9.65×10⁴ C/mol = 1.00×10⁻² mol 2 molの電子e⁻が流れると, 陽極で1 molのCl₂, 陰極で1 molのH₂が発生する. 両極で発生した気体の体積の合計は 22.4 L/mol × 1.00×10⁻² mol = 0.224 L (3) 2 molの電子e⁻が流れると, 陰極で2 molのOH⁻が生じる. 陰極で生じたOH⁻は 1.00×10⁻² mol [OH⁻] = 1.00×10⁻² mol / (200/1000 L) = 5.00×10⁻² mol/L [H⁺] = Kw / [OH⁻] = 1.0×10⁻¹⁴ / 5.00×10⁻² = 2.00×10⁻¹³ mol/L pH = -log₁₀[H⁺] = -log₁₀(2.00×10⁻¹³) = -(log₁₀2.00 + log₁₀10⁻¹³) = -0.301 + 13 = 12.699 ≈ 12.7 (2)の補足 (電気量Q[C]) = (電流I[A]) × (時間t[s]) を用いて流れた電子e⁻の物質量が求められる. 2 molの電子e⁻が流れると, 両極で合計2 molの気体が発生する. 理想気体1 molの体積は, 気体の種類によらず0℃, 1.013×10⁵ Paで22.4 Lである. (3)の補足 OH⁻のモル濃度[OH⁻]を求めると, 水のイオン積Kw=[H⁺][OH⁻]より[H⁺]が求まる. 後は, 定義 pH = -log₁₀[H⁺] によってpHを求める. イオン交換膜を用いた電気透析法は, 海水の淡水化や食塩の製造に利用されている. 陽イオン交換膜Xと陰イオン交換膜Yで仕切って電解槽をA~Eの5槽に分け, 各槽に0.50 mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を1.0 Lずつ入れて5時間電気分解したところ, E槽で発生した気体の体積は27℃, 1.0×10⁵ Paで2.49 Lであった. 液体の体積変化と気体の溶解は無視でき, 気体定数を8.3×10³ Pa・L/(K・mol)とする. (1) 電気分解で電解槽に流れた電流は平均何Aか. ファラデー定数F=9.65×10⁴ C/mol (2) 電気分解後の各槽における塩化ナトリウムのモル濃度を求めよ. (1) E槽で発生した気体の物質量をn molとすると, 1.0×10⁵ Pa×2.49 L = n mol×8.3×10³ Pa・L/(K・mol)×(273+27) K n = 0.10 mol 陽極 2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻ 陰極 2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻ 陰極(E槽)では, 2 molの電子e⁻が流れると1 molのH₂が発生する. 流れた電子の物質量 = 0.10 mol×2 = 0.20 mol 電流I[A]: 9.65×10⁴ C/mol×0.20 mol = I[A]×(60×60×5) s 電流I = 1.07 ≈ 1.1 A (2) 0.20 molの電子e⁻が流れたとき, 陽極(A槽)でCl⁻が0.20 mol減少し, 陰極(E槽)でOH⁻が0.20 mol増加する. 電気的中性を保つために, Na⁺とCl⁻が0.20 molずつ移動する. A槽: 0.50 mol/L B槽: 0.30 mol/L C槽: 0.70 mol/L D槽: 0.30 mol/L E槽: 0.50 mol/L 電気分解により, まずA槽で0.20 molのCl⁻が減少(0.10 molのCl₂発生). すると, B槽からA槽に0.20 molのCl⁻が移動し, A槽の電気的中性が保たれる. A槽のNaClのモル濃度は変化しない. B槽とC槽は陽イオン交換膜で隔てられており, C槽からB槽にCl⁻が移動することはできない. 逆にB槽からC槽に0.20 molのNa⁺が移動し, B槽の電気的中性が保たれる. B槽はNa⁺とCl⁻が0.20 molずつ減少 → 0.30 mol/L E槽では0.20 molのOH⁻が発生. D槽からE槽に0.20 molのNa⁺が移動し, E槽の電気的中性が保たれる. E槽ではNaCl濃度は変化しないが, NaOHが0.20 mol増加する. C槽とD槽は陰イオン交換膜で隔てられており, C槽からD槽にNa⁺は移動できない. 逆にD槽からC槽に0.20 molのCl⁻が移動し, D槽の電気的中性が保たれる. D槽はNa⁺とCl⁻が0.20 molずつ減少 → 0.30 mol/L. C槽はB槽から0.20 molのNa⁺, D槽から0.20 molのCl⁻を受け取り → 0.70 mol/L. 電気分解を利用して溶質と溶媒を分離する方法を電気透析法という. 陽イオン交換膜と陰イオン交換膜で交互に仕切ると, 濃縮室と希釈室が交互に生じる. 電気透析法により, 加熱蒸発よりも少ないエネルギーで海水を濃縮できる.
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