
電気分解の原理
外部電源から電流を流して自然には起こらない方向に強制的に酸化還元反応を起こす.
電池とは逆に, 電気エネルギーが化学エネルギーに変換される.
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電池 vs 電気分解の極性比較
区分 +極 −極
電池 正極(還元反応) 負極(酸化反応)
電気分解 陽極(酸化反応) 陰極(還元反応)
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(図の説明)
外部電源(電池)の正極が左, 負極が右.
陽極(+)で電子を失う酸化反応, 陰極(−)で電子を受け取る還元反応が起こる.
電子e⁻の流れは右→左, 電流の向きは左→右(逆方向).
陽極:酸化
陰極:還元
電池の正極と接続した電極を陽極, 負極と接続した電極を陰極という.
電流と電子の移動は逆向きなので, 陽極で電子を失う酸化反応, 陰極で電子を受け取る還元反応が起こる.
毎回どちらが酸化かを考えるのは面倒なので, 原理を理解した上で暗記するのが良い.
「正極は還元で他は全て逆」と覚えておくと簡単.
電極で起こる反応の優先順位(陽極)
優先順位|内容
1位|電極がAgまたはCuなら電極自身が溶解する.
Ag → Ag⁺ + e⁻
Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
2位|水溶液中にCl⁻, Br⁻, I⁻があるなら, それぞれ単体が生成する.
2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻
2I⁻ → I₂ + 2e⁻(褐色水溶液)
3位|酸素O₂が発生する(pHが下がる)
酸性・中性条件:2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻(H⁺増加)
塩基性条件:4OH⁻ → O₂ + 2H₂O + 4e⁻(OH⁻減少)
優先順位|内容
1位|水溶液中にAg⁺またはCu²⁺があるなら, 単体が析出する.
Ag⁺ + e⁻ → Ag
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu
2位|水素H₂が発生する(pHが上がる)
酸性条件:2H⁺ + 2e⁻ → H₂(H⁺減少)
中性・塩基性条件:2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻(OH⁻増加)
電気分解は, 陽極の酸化反応と陰極の還元反応の優先順位を覚えるだけである.
酸素O₂, 水素H₂が発生する場合, 液性によって反応式が変わることに注意する.
陽極・陰極ともに酸性条件の反応式さえ覚えておけば, 塩基性条件の反応式は作成できる.
陽極(塩基性条件): 発生したH⁺がOH⁻と中和してH₂Oになる.
2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ の両辺に4OH⁻を加え, H⁺を消去すると
2H₂O + 4OH⁻ → O₂ + 4H₂O + 4e⁻
よって 4OH⁻ → O₂ + 2H₂O + 4e⁻
陰極(中性・塩基性条件): H⁺がほとんど存在しないのでH₂Oが還元される.
2H⁺ + 2e⁻ → H₂ の両辺に2OH⁻を加え, H⁺を消去すると
2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻
pH = −log₁₀[H⁺] であり, H⁺濃度が大きいほどpHは小さい.
よって, 陽極でO₂または陰極でH₂の一方のみが発生する場合, 電解液のpHが変化する.
陽極でH⁺の増加やOH⁻の減少が起こると, pHは下がる(A).
陰極でH⁺の減少やOH⁻の増加が起こると, pHは上がる(B).
O₂とH₂の両方が発生するとき, AとBが相殺してpHは変化しない(実質H₂Oの電気分解).
ハロゲンは電気陰性度(電子を引きつける強さ)が F > Cl > Br > I の順である.
したがって, Cl⁻・Br⁻・I⁻ の混合水溶液を電気分解すると, 電気陰性度の小さいI⁻から順に酸化される(電子を失う).
陽極でI₂が発生すると, I₂ + I⁻ ⇄ I₃⁻ により褐色の三ヨウ化物イオンとなる.
電気陰性度最大のF⁻は水溶液中では酸化されない.
陰極では, イオン化傾向がAl以上の金属が還元されて単体になることはない.
水溶液中にZn²⁺, Fe²⁺, Ni²⁺などイオン化傾向が中程度の金属が含まれている場合はやや複雑である.
金属単体の析出と水素H₂の発生が同時に起こり, どちらが優勢かは濃度や電圧の条件による.
電極材料には化学的に安定している白金Ptや黒鉛Cがよく用いられる.
ただし, Cl₂が発生する場合はPt電極が侵されるためC電極を用いる.
逆に, O₂が発生する場合はC電極がCO₂に変化して侵されるためPt電極を用いる.
次の水溶液を電気分解したときの陽極と陰極の反応式を書け.
(1) H₂SO₄水溶液(陽極Pt, 陰極Pt)
陽極: 2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻
陰極: 2H⁺ + 2e⁻ → H₂
(2) NaOH水溶液(陽極Pt, 陰極Pt)
陽極: 4OH⁻ → O₂ + 2H₂O + 4e⁻
陰極: 2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻
(3) NaCl水溶液(陽極C, 陰極C)
陽極: 2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻
陰極: 2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻
(4) Na₂SO₄水溶液(陽極Pt, 陰極Pt)
陽極: 2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻
陰極: 2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻
(5) CuSO₄水溶液(陽極Cu, 陰極Cu)
陽極: Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
陰極: Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu
(6) AgNO₃水溶液(陽極Pt, 陰極Pt)
陽極: 2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻
陰極: Ag⁺ + e⁻ → Ag
(7) CuCl₂水溶液(陽極C, 陰極C)
陽極: 2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻
陰極: Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu
(8) KI水溶液(陽極Pt, 陰極Pt)
陽極: 2I⁻ → I₂ + 2e⁻
陰極: 2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻
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解説メモ
陽極と陰極それぞれ, 暗記しておいた優先順位に従って判断する.
O₂(陽極)やH₂(陰極)が発生する場合は, 水溶液の液性も考慮する必要がある.
正塩の水溶液の液性は次の通り.
強酸と強塩基由来の正塩: 中性
強酸と弱塩基由来の正塩: 酸性
弱酸と強塩基由来の正塩: 塩基性
(1) 陽極: 電極はAgでもCuでもない → 水溶液中にCl⁻, Br⁻, I⁻なし → O₂発生.
陰極: Ag⁺やCu²⁺はない → H₂発生.
硫酸水溶液は酸性 → 陽極・陰極ともに酸性条件の式を書く.
(2) 陽極: 電極はAgでもCuでもない → Cl⁻, Br⁻, I⁻なし → O₂発生.
陰極: Ag⁺やCu²⁺はない → H₂発生.
NaOH水溶液は塩基性 → 陽極・陰極ともに塩基性条件の式を書く.
(3) 陽極: 電極はAgでもCuでもない → Cl⁻あり → Cl₂発生.
陰極: Ag⁺やCu²⁺はない → H₂発生.
NaClは強酸HClと強塩基NaOH由来の正塩 → 中性 → 中性条件の式を書く.
(4) 陽極: 電極はAgでもCuでもない → Cl⁻, Br⁻, I⁻なし → O₂発生.
陰極: Ag⁺やCu²⁺はない → H₂発生.
Na₂SO₄は強酸H₂SO₄と強塩基NaOH由来の正塩 → 中性 → 中性条件の式を書く.
(5) 陽極: 電極がCu → Cu²⁺となり電極が溶ける.
陰極: 溶液にCu²⁺がある → Cuが析出する.
(6) 陽極: 電極はAgでもCuでもない → Cl⁻, Br⁻, I⁻なし → O₂発生.
陰極: 溶液にAg⁺がある → Agが析出する.
AgNO₃は強酸HNO₃と弱塩基AgOH由来の正塩 → 酸性 → 酸性条件の式を書く.
(7) 陽極: 電極はAgでもCuでもない → Cl⁻あり → Cl₂発生.
陰極: 溶液にCu²⁺がある → Cuが析出する.
(8) 陽極: 電極はAgでもCuでもない → I⁻あり → I₂発生.
陰極: Ag⁺やCu²⁺はない → H₂発生.
KIは強酸HIと強塩基KOH由来の正塩 → 中性 → 中性条件の式を書く.
補足
3大強酸(塩酸・硫酸・硝酸)に加え, HClと同じハロゲン化水素のHBrとHIも強酸である.
