酸化還元反応・電池・電気分解の概要
酸化・還元や電池・電気分解の分野は、電子の移動を軸に化学反応を捉える領域であり、「電子の授受」という共通原理で統一的に理解できる。
19世紀、ラボアジエが「酸化・還元」を酸素との結びつきとして定義したのに対し、20世紀に入ると電子移動を基準とする現代的な定義が確立した。これにより、酸化数・酸化剤・還元剤という概念が体系化され、酸化還元反応式を論理的に書くための基盤が整った。また、金属の反応性を比較するイオン化列は、湿式製錬や腐食防止などの実用化学と直結した。
酸化還元反応を数量的に扱えるようになると、分析化学が大きく進展し、過マンガン酸塩滴定、ヨードメトリー・ヨージメトリー、COD測定やウィンクラー法などが水質評価に欠かせない分析手法として確立された。
実験に使える安定した電源が存在しなかった19世紀、電気を持ち運んで継続的に取り出す手段の必要性が高まり、化学反応を利用した電池の研究が進んだ。ファラデーは、電気分解で流れた電気量と反応した物質量が比例することを見いだし、電子e⁻という概念が確立する前の時代に、化学反応と電気が本質的に結びついていることを明確に示した。この理解を基盤として、金属の反応性の差が電位差として現れることを示したダニエル電池が広く受け入れられ、電池原理の体系化が大きく進んだ。20世紀に入ると、乾電池、鉛蓄電池、ニッケル・水素電池、リチウムイオン電池、燃料電池など多様な電池が続々と実用化されていった。
電気分解の研究もファラデーの法則を出発点として体系化が進んだ。電流と物質変化の量的関係が明確になったことで、電気分解は単なる現象から“計算できる操作”へと発展し、銅の電解精錬、溶融塩電解によるナトリウムやアルミニウムの製造、イオン交換膜法によるNaOHの工業生産など、現代の金属製錬・基礎化学品製造を支える重要技術となった。
このように、酸化還元・電池・電気分解の分野は、電子の授受と電位差を統一原理とし、分析化学・エネルギー工学・金属製錬・環境化学など多彩な応用へと広がっている。高校化学で扱う酸化数、酸化剤と還元剤、酸化還元反応、電池の原理、電気分解の量的関係などは、化学反応と電気の関係を理解するための基盤であり、人類が電気をエネルギーとして利用し産業を発展させるうえでも必要不可欠である。
酸化還元反応・電池・電気分解の攻略
物質の反応「熱化学」「化学平衡」「酸塩基反応」に続き、当カテゴリでは物質の反応「酸化還元反応」「電池」「電気分解」を扱う。
この分野は、酸化剤・還元剤や電池の構造、電気分解での反応の優先順位など、理論化学の他の分野に比べて暗記すべき知識が多めである。しかし、単なる暗記だけでは太刀打ちできず、定義や原理を正確に理解しておくことがかなり重要である。
酸化・還元の定義と酸化数の考え方、酸化還元反応式の立て方、電池や電気分解における電子の移動と反応との対応関係などの基本原理を理解した上で暗記事項を整理していけば、出題パターンを体系的に把握でき、むしろ得点源にしやすい分野となる。特に電気分解に苦手意識を持つ学生が多いが、実は陽極と陰極での反応の優先順位さえ覚えておけば、試験で容易に得点できる。
当カテゴリでは、定期試験レベルの基本的な内容はもちろんのこと、環境化学への応用(COD測定、DO測定)、現代社会の実用電池(リチウムイオン電池・燃料電池)、標準電極電位やネルンストの式など、難関大学レベルの応用的内容まで幅広く取り扱う。
酸化還元反応・電池・電気分解の学習リスト
- 酸化・還元の定義と酸化数
- 酸化剤と還元剤、酸化還元反応式、酸化力の強さ比較
- 酸化還元反応の量的関係
- 酸化還元滴定(過マンガン酸塩滴定)
- ヨウ素還元滴定(ヨードメトリー)
- ヨウ素酸化滴定(ヨージメトリー)
- 化学的酸素要求量(COD)測定
- 溶存酸素(DO)測定(ウィンクラー法)
- 金属のイオン化列と反応性、トタンとブリキ、イオン化傾向とイオン化エネルギーの関係
- 電池の原理とダニエル電池、様々な実用電池
- 代表的な実用一次電池(乾電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池)
- 鉛蓄電池、電池の反応の量的関係
- 燃料電池(リン酸型、アルカリ型、固体高分子形)
- ニッケル・カドミウム電池とニッケル・水素電池
- リチウム電池とリチウムイオン電池
- バナジウムレドックスフロー電池
- 標準電極電位と電池の起電力、ネルンストの式と濃淡電池
- 電気分解の原理、電極で起こる反応の優先順位
- 電気分解の量的関係(直列電解と並列電解)
- 銅Cuの電解精錬
- 溶融塩電解(ナトリウムNa、アルミニウムAlの精錬)
- イオン交換膜法(NaOHの工業的製法)と電気透析法
