電気分解の量的関係(直列電解と並列電解)

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電解槽A, B, Cを下図のように接続し, 2.00 Aの電流を5時間21分40秒の間流したところ, 電解槽Aの陰極の質量が27.0 g増加した. このとき, 電解槽Bと電解槽Cで発生する気体の体積の合計は, それぞれ0 °C, 1.013×10⁵ Pa(標準状態)で何Lか. ファラデー定数 9.65×10⁴ C/mol, Ag = 108 ―――――― 電気分解の量的関係(直列電解と並列電解) 【電気量とファラデー定数】 [1] 電気量 Q [C] = 電流 I [A] × 時間 t [s] (Q = It) [2] 電子1 mol当たりの電気量 F = 9.65×10⁴ C/mol (ファラデー定数) 1 Aの電流が1秒間で運ぶ電気量の大きさが1クーロン [C]である. また, 1個の電子 e⁻ がもつ電気量の絶対値(電気素量)は e = 1.602×10⁻¹⁹ C と決まっている. これにアボガドロ定数を掛けると電子1 mol当たりの電気量(ファラデー定数)が得られる. 1.602×10⁻¹⁹ C/個 × 6.022×10²³ 個/mol ≒ 9.65×10⁴ C/mol = 96500 C/mol と覚えるとよい. ―――――― 【直列・並列の関係】 電解槽1, 2が直列 → (電解槽1に流れた電気量) = (電解槽2に流れた電気量) 電解槽1, 2が並列 → (全電気量) = (電解槽1に流れた電気量) + (電解槽2に流れた電気量) ―――――― 電解槽A 陽極 : 2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ 陰極 : Ag⁺ + e⁻ → Ag 電解槽B 陽極 : 2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻ 陰極 : Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu 電解槽C 陽極 : 2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ 陰極 : 2H⁺ + 2e⁻ → H₂ ―――――― 流れた電子 e⁻ の物質量の合計は 2.00 A × (5×60² + 21×60 + 40) s ÷ 9.65×10⁴ C/mol = 0.400 mol 電解槽Aに流れた電子 e⁻ の物質量は 27.0 g ÷ 108 g/mol = 0.250 mol 電解槽Bと電解槽Cに流れた電子 e⁻ の物質量は 0.400 mol − 0.250 mol = 0.150 mol ―――――― 電解槽Bで発生する気体の体積 22.4 L/mol × (0.150 × ½) mol = 1.68 L 電解槽Cで発生する気体の体積 22.4 L/mol × (0.150 × ¾) mol = 2.52 L ―――――― 解説 電気分解の量的関係の基本は, 電池の場合と同様である. まず流れた電子 e⁻ の物質量を求め, 半反応式をもとに各極で何が起こるかを考える. よって, 各極の反応式を書けることが大前提である. 電解槽A 陽極 : 電極はAgでもCuでもない → 水溶液中にCl⁻, Br⁻, I⁻なし → 酸素 O₂ 発生 陰極 : 水溶液中にAg⁺があるので Ag が析出する. AgNO₃ は強酸 HNO₃ と弱塩基 AgOH 由来の正塩なので水溶液は酸性. よって酸性条件で考える. 電解槽B 陽極 : 電極はAgでもCuでもない → 水溶液中にCl⁻があるので Cl₂ が発生. 陰極 : 水溶液中にCu²⁺があるので Cu が析出する. 電解槽C 陽極 : 電極はAgでもCuでもない → 水溶液中にCl⁻, Br⁻, I⁻なし → 酸素 O₂ 発生. 陰極 : 水溶液中にAg⁺やCu²⁺はない → 水素 H₂ 発生. 硫酸水溶液は酸性なので, 陽極・陰極ともに酸性条件の反応式を書く. いずれの電解槽も, 電源の正極と接続されている図の左側の電極が陽極である. 電源から流した電流と時間の積により電気量を求め, ファラデー定数を用いて物質量に換算する. 電解槽Aの陰極の質量変化から流れた電子の物質量がわかる. Ag⁺ + e⁻ → Ag より, 1 mol の電子 e⁻ が流れると 1 mol (108 g) の Ag が析出する. 0.250 mol (27.0 g) の Ag が析出したので, 0.250 mol の e⁻ が流れたことがわかる. 電解槽Aと電解槽B,Cは並列に接続されている. したがって, (全電気量) = (Aの電気量) + (B,Cの電気量) が成り立つ. これは (全体の e⁻ の mol) = (Aの e⁻ の mol) + (B,Cの e⁻ の mol) と同じ意味である. ここで, (B,Cの電気量)はBとCの合計ではなく, 下のルートに流れた電気量を指す. つまり (全電気量) = (上ルートの電気量) + (下ルートの電気量) である. 全体から電解槽Aに流れた分を引くことで, 電解槽B,Cに流れた電子の物質量が求まる. 電解槽Bと電解槽Cは直列に接続されているため, 流れた電気量は等しい. つまり (Bの e⁻ の mol) = (Cの e⁻ の mol) = 0.150 mol となる. 電解槽Bの反応 陽極 : 2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻ 2 mol の e⁻ が流れると 1 mol の Cl₂ が発生する. 流れた電子が 0.150 mol なので, Cl₂ はその半分の 0.075 mol 発生. 22.4 L/mol × 0.075 mol = 1.68 L 電解槽Cの反応 陽極 : 2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ 陰極 : 2H⁺ + 2e⁻ → H₂ 4 mol e⁻ → 1 mol O₂, 2 mol e⁻ → 1 mol H₂ したがって e⁻ 1 mol につき O₂ ¼ mol, H₂ ½ mol → 計 ¾ mol の気体が発生する. 0.150 mol e⁻ × ¾ = 0.1125 mol → 22.4 × 0.1125 = 2.52 L 結果 電解槽B : Cl₂ 1.68 L 電解槽C : (O₂ + H₂) 2.52 L 合計 4.20 L (標準状態) 下図のような電気回路を作成し, 2.0 Aの電流で9分39秒間電気分解した. ファラデー定数 9.65×10⁴ C/mol, Cu = 64, log₁₀2 = 0.30 (1) 鉛蓄電池の両極の反応式を示し, 電気回路に流れた電子 e⁻ の物質量を求めよ. (2) 電解槽Aには0.010 mol/Lの CuSO₄ 水溶液が500 mL入っていた. 電気分解後の陰極の質量変化および水溶液のpHを求めよ. 電気分解による体積変化は無視してよい. (3) 電解槽Bの陰極では主に亜鉛 Zn が析出した. 同時に生じる可能性のある物質の化学式を示せ. ―――――― (1) 鉛蓄電池 正極 PbO₂ + 4H⁺ + SO₄²⁻ + 2e⁻ → PbSO₄ + 2H₂O 負極 Pb + SO₄²⁻ → PbSO₄ + 2e⁻ 流れた電子 e⁻ の物質量 = (2.0 A × (9 × 60 + 39) s) / (9.65×10⁴ C/mol) = 0.012 mol ―――――― (2) 電解槽A 陽極 2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ 陰極 Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu 0.012 mol の電子 e⁻ が流れると, 最大 0.0060 mol の Cu が生じる. 電解槽Aに含まれていた Cu²⁺ の物質量 = 0.010 mol/L × (500 / 1000) L = 0.0050 mol 陰極での質量変化 = 64 g/mol × 0.0050 mol = 0.32 g 増加 Cu が 0.0050 mol 析出する間に流れた e⁻ の物質量 = 0.0050 mol × 2 = 0.010 mol 陽極で生じた H⁺ の物質量 = 0.010 mol 水素イオン濃度 [H⁺] = 0.010 mol / (500 / 1000 L) = 2.0×10⁻² mol/L pH = −log₁₀[H⁺] = −log₁₀(2.0×10⁻²) = −log₁₀2.0 − log₁₀10⁻² = −0.30 + 2 = 1.7 ―――――― (3) H₂ ―――――― (1) 図の上側の装置が鉛蓄電池であることが問題で明記されているとは限らない. その場合, PbO₂, Pb, H₂SO₄ という構成から鉛蓄電池であることに気付かなければならない. 鉛蓄電池を放電して電解槽Aと電解槽Bで電気分解を起こすわけである. 電気分解と一緒に鉛蓄電池の反応式や電極の質量変化などもよく問われる. (2) 陰極では, 2 mol の電子 e⁻ が流れると, 1 mol の Cu²⁺ が還元されて 1 mol の Cu が生じる. (1) より 0.012 mol の電子 e⁻ が流れたので, 理論上は 0.0060 mol の Cu が生じるはずである. しかし, 電解槽A内の Cu²⁺ の物質量は 0.0050 mol しかなく, 結局, その分だけ Cu が生じる. さて, 陰極ですべての Cu²⁺ が Cu に還元されて析出した後は H₂O が還元される. 陽極 2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ (最初から変化なし) 陰極 2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻ (Cu²⁺ がなくなった後) 全体反応式は 2H₂O → 2H₂ + O₂ (実質的に水 H₂O の電気分解) であり, pH は変化しない. pH が変化したのは, 陰極で Cu が析出していた間である(この間 0.010 mol の e⁻ が流れた). 陽極では, 1 mol の電子 e⁻ が流れると 1 mol の H⁺ が生じる(4H⁺:4e⁻ より). 後は, 水素イオン指数 pH の定義 pH = −log₁₀[H⁺] に従って計算すればよい. ここで, 対数公式 logₐ(MN) = logₐM + logₐN を用いた. (3) 水溶液中にイオン化傾向が中程度の Zn²⁺, Fe²⁺, Ni²⁺ が含まれている場合, 条件次第で金属単体の析出と水素 H₂ の発生が同時に起こりうる. Zn²⁺ + 2e⁻ → Zn   2H⁺ + 2e⁻ → H₂↑ イオン化傾向 Zn > Fe > Ni > (H₂) より, Zn の析出よりも H₂ の発生の方が優先されそうである. しかし, とくに気体が発生する場合には, 電気分解に余分な電圧が必要になる(過電圧). 金属が析出する場合の過電圧はほぼ 0 なので, Zn の析出が優先的に起こりうる. 析出した Zn の質量は, 電気分解終了後直ちに電解槽から電極を取り出し, 水洗・乾燥して調べる. イオン化傾向 Zn > H₂ より, そのままにしておくと, 析出した亜鉛が電解液の硫酸に再溶解する.

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