
代表的な実用一次電池
一次電池 充電して再使用できない電池.
二次電池 充電して繰り返し使える電池. 蓄電池ともいう.
代表的な実用一次電池
電池の名称|電池の構成|起電力|利用例
マンガン乾電池|負極(還元剤) Zn|電解質 ZnCl₂, NH₄Cl|正極(酸化剤) MnO₂|1.5 V|懐中電灯
アルカリマンガン乾電池|Zn|KOH|MnO₂|1.5 V|懐中電灯
酸化銀電池(銀電池)|Zn|KOH|Ag₂O|1.55 V|時計
空気亜鉛電池(空気電池)|Zn|KOH|O₂|1.3 V|補聴器
リチウム電池|Li|Li塩|MnO₂|3.0 V|腕時計
[まず, 電池の構成は確実に暗記する. 起電力は参考程度である.
負極に用いられる金属のイオン化傾向が大きい(電子を放出しやすい)ほど, 起電力が大きくなる.
Znは, イオン化傾向の大きさ・価格・重量・安全性のバランスがよく, 負極に多用される.
より大きな起電力を得るため, 負極にイオン化傾向最大のLiを用いたのがリチウム電池である.
電解質には酸性または塩基性の水溶液が多用される.
H⁺とOH⁻は水中での移動度が他のイオンの数倍大きく, その分電気伝導性が大きいからである.
ただし, 強酸は金属を腐食させる性質が大きいため, 強塩基が多用される.
また, 移動度K⁺>Na⁺より, NaOHではなくKOHが用いられる.
リチウム一次電池は別項でリチウムイオン二次電池とまとめて扱う.]
マンガン乾電池(起電力 1.5 V)
(−) Zn | ZnCl₂ aq + NH₄Cl aq | MnO₂ · C (+)
負極 Zn⁰ →(酸化) Zn²⁺ + 2 e⁻ …①
正極 Mn⁴⁺O₂ + H⁺ + e⁻ →(還元) Mn³⁺O(OH)
用途 懐中電灯, リモコン.
負極では, NH₄⁺の加水分解で生じたNH₃がZn²⁺と錯イオンを形成する.
[乾電池 液漏れを防ぐために電解液をペースト状にして携帯しやすくした電池(乾いた電池).
正極の炭素棒Cは電子を伝達する役割をもつ集電体にすぎず, 酸化剤(正極活物質)はMnO₂である.
ZnCl₂, NH₄Clは, 強酸HClと弱塩基Zn(OH)₂, NH₃からなる塩なので, その水溶液は弱酸性である.
強酸性ではないのでMn²⁺までは還元されず, 酸化水酸化マンガン(Ⅲ) Mn³⁺O(OH)に変化する.
実際には後続反応が起こるなど複雑で上の反応式は一例にすぎないので, その都度問題の指示に従う.
放電が進んでZn²⁺の濃度が高まると, Zn → Zn²⁺ + 2 e⁻ …① の進行が妨げられる.
これは, 後に学習するルシャトリエの原理(化学平衡は変化を打ち消す方向に移動する)による.
電解液のNH₄Clは, Zn²⁺とアンミン錯イオンを作ることでZn²⁺を低濃度に保ち, ①の進行を促す.
Zn²⁺ + 4 NH₄⁺ → [Zn(NH₃)₄]²⁺ + 4 H⁺ …②
①+②より Zn + 4 NH₄⁺ → [Zn(NH₃)₄]²⁺ + 4 H⁺ + 2 e⁻ …③
Zn²⁺は, 電解液のH₂Oとも反応する.
Zn²⁺ + 2 H₂O → Zn(OH)₂ + 2 H⁺ …④
①+④より Zn + 2 H₂O → Zn(OH)₂ + 2 H⁺ + 2 e⁻ …⑤
電解液のZnCl₂は, Zn(OH)₂と不溶性の塩基性塩を形成し, 漏液しにくくする役割をもつ.
ZnCl₂ + 4 Zn(OH)₂ → ZnCl₂ · 4 Zn(OH)₂ …⑥
⑤×4 + ⑥より 4 Zn + ZnCl₂ + 8 H₂O → ZnCl₂ · 4 Zn(OH)₂ + 8 H⁺ + 8 e⁻ …⑦
負極の反応式として, 後続反応をまとめた③や⑤や⑦が問題で与えられている場合がある.]
アルカリマンガン乾電池(起電力 1.5 V) (通称アルカリ乾電池)
(−) Zn | KOH aq | MnO₂ (+)
負極 Zn⁰ + 2 OH⁻ →(酸化) Zn²⁺O + H₂O + 2 e⁻ …A
正極 Mn⁴⁺O₂ + H₂O + e⁻ →(還元) Mn³⁺O(OH) + OH⁻
特徴 放電容量が大きく, マンガン乾電池の2~10倍の性能.
用途 懐中電灯, リモコン.
[KOH水溶液には, 未放電時にAが進行しないようZnOが添加されている(ルシャトリエの原理).
負極では, マンガン乾電池と同じくZnが溶解する. よって, 負極の質量は減少する.
Zn → Zn²⁺ + 2 e⁻ …①
電解液のOH⁻がZn²⁺と錯イオンを作ることでZn²⁺が低濃度に保たれ, ①の進行が促される.
Zn²⁺ + 4 OH⁻ → [Zn(OH)₄]²⁻ …② (ルシャトリエの原理)
この錯イオンは, 電解液中で飽和状態になるとZn(OH)₂の沈殿となる.
[Zn(OH)₄]²⁻ → Zn(OH)₂ + 2 OH⁻ …③
さらに, 正極でH₂Oが消費されると, Zn(OH)₂が脱水される.
ルシャトリエの原理より, H₂Oが増加する方向に反応の推進力が働くためである.
Zn(OH)₂ → ZnO + H₂O …④
①+②+③+④によって負極の反応式Aが得られる.
ZnOは沈殿であり, Zn → ZnOだからといって負極の質量が増加するわけではない.
負極の反応式Aは, 「Zn → ZnO」を元に半反応式の作成手順に従うと直接的に得られる.
H₂Oで両辺のOを合わせる. Zn + H₂O → ZnO
H⁺で両辺のHを合わせる. Zn + H₂O → ZnO + 2 H⁺
e⁻で両辺の電荷を合わせる. Zn + H₂O → ZnO + 2 H⁺ + 2 e⁻
塩基性より両辺に2 OH⁻を加えて(H⁺を中和) Zn + H₂O + 2 OH⁻ → ZnO + 2 H₂O + 2 e⁻
正極の反応式は, マンガン乾電池の正極の反応式の両辺にOH⁻を加えてH⁺を中和したものである.]
酸化銀電池(銀電池)
(−) Zn | KOH aq | Ag₂O (+)
負極 Zn⁰ + 2 OH⁻ → Zn²⁺O + H₂O + 2 e⁻
正極 Ag¹⁺₂O + H₂O + 2 e⁻ → 2 Ag⁰ + 2 OH⁻
全体反応式 Zn + Ag₂O → ZnO + 2 Ag
特徴 ボタン型電池. 電圧が長期に安定する. 貴金属の銀を使うため高価.
用途 腕時計, 電子体温計.
空気亜鉛電池(空気電池)
(−) Zn | KOH aq | O₂ (+)
負極 Zn⁰ + 2 OH⁻ → Zn²⁺O + H₂O + 2 e⁻
正極 O⁰₂ + 2 H₂O + 4 e⁻ → 4 O²⁻H⁻
全体反応式 2 Zn + O₂ → 2 ZnO
特徴 ボタン型電池.
酸化剤を蓄える必要がなく, 負極のZnを十分に充填できるため, 長寿命.
用途 補聴器, 電子体温計.
[正極にある空気孔に貼られたシールをはがして取り入れた空気中の酸素を酸化剤として利用する.
取り入れた酸素の分だけ電池全体の重量が増加する.
空気金属電池には, 負極に亜鉛ではなくマグネシウムや鉄を用いたものも存在する.
負極の金属のイオン化傾向が大きい(電子を放出しやすい)ほど, 起電力が大きくなる.
起電力は, イオン化傾向 Mg > Zn > Fe より 空気マグネシウム電池 > 空気亜鉛電池 > 空気鉄電池]
