
鉛蓄電池, 電池の反応の量的関係
鉛蓄電池(起電力 2.1V)
(−) Pb | H2SO4aq | PbO2 (+)
負極 Pb⁰ + SO4²⁻ →(酸化) Pb²⁺SO4 + 2 e⁻
正極 Pb⁴⁺O2 + 4 H⁺ + SO4²⁻ + 2 e⁻ →(還元) Pb²⁺SO4 + 2 H2O
全体反応式 Pb + 2 H2SO4 + PbO2 ⇄[放電(2 e⁻)][充電(2 e⁻)] PbSO4 + 2 H2O + PbSO4
起電力低下の要因①
放電すると, 両極ともにPbSO4(白色, 水に難溶)で覆われる(質量増加).
起電力低下の要因②
放電により両極の質量が増加した分, 電解液の希硫酸の濃度が減少する.
鉛蓄電池は二次電池(蓄電池)であり, 外部電源から放電と逆向きの電流を流すと,
極板に付着したPbSO4がPb(負極)とPbO2(正極)に戻り, 起電力が回復する(充電).
放電と逆向きの電流を流すため, 充電は
外部電源の正極と鉛蓄電池の正極
外部電源の負極と鉛蓄電池の負極
を接続.
起電力低下の要因③
電解液の希硫酸の溶媒である水が, 蒸発または充電時の電気分解により減少すると,
水位の低下による極板の露出で起電力が低下するため, 蒸留水や精製水を補充する.
用途 自動車のバッテリー, 病院の非常用電源.
電気量とファラデー定数
[1] 電気量 Q [C] = 電流 I [A] × 時間(秒) t [s] (Q = It)
[2] 電子1 mol当たりの電気量 F = 9.65×10⁴ C/mol (ファラデー定数)
[負極と正極の半反応式を書けるようにしておく必要がある.
2 e⁻を消去すると合体反応式が得られ, 左辺がそのまま電池式(電池の構造)を表している.
酸化剤(PbO2)と還元剤(Pb)はいずれも固体で混ざる心配はないので, 隔膜は必要ない.
放電・充電に伴って希硫酸の濃度が変化するので, その測定によって放電・充電の程度を調べられる.
何らかの理由で接触面積が減少したり濃度が低下したりすると反応が起こりにくくなる(起電力低下).
PbSO4が水に難溶で極板に付着する(拡散しない)ため, 容易に逆反応を起こせる(充電できる).
単純な構造で, 発明から150年経った現在でもほぼ原型のまま実用されている故, 試験で頻出する.
電気量とファラデー定数に関しては普通電気分解で扱うが, 電池でも問われるのでここで取り上げる.
1 Aの電流が1秒間で運ぶ電気量の大きさが1クーロン[C]である.
また, 1個の電子e⁻がもつ電気量の絶対値(電気素量)は, e = 1.602×10⁻¹⁹ C と決まっている.
これにアボガドロ定数を掛けると電子1 mol当たりの電気量(ファラデー定数)が得られる.
1.602×10⁻¹⁹ C/個 × 6.022×10²³ 個/mol ≈ 9.65×10⁴ C/mol 96500 C/mol と覚えるとよい.]
質量パーセント濃度30%, 密度1.25 g/cm³の希硫酸1.0 Lを電解液とする鉛蓄電池を
電流4.0 Aで1時間20分25秒放電した.
(1)
負極 Pb + SO4²⁻ → PbSO4 + 2 e⁻
正極 PbO2 + 4 H⁺ + SO4²⁻ + 2 e⁻ → PbSO4 + 2 H2O
放電時の全体反応式 Pb + 2 H2SO4 + PbO2 → 2 PbSO4 + 2 H2O
(2)
流れた電子e⁻の物質量は (4.0 A×4825 s)/(9.65×10⁴ C/mol) = 0.20 mol
負極の質量変化は {(303−207)×1/2 g/mol} × 0.20 mol = 9.6 g
正極の質量変化は {(303−239)×1/2 g/mol} × 0.20 mol = 6.4 g
∴ 負極 9.6 g 増加, 正極 6.4 g 増加
(3)
放電前の溶液(H2SO4 + H2O)の質量は 1.25 g/cm³ × 1000 cm³ = 1250 g
放電前の溶質(H2SO4)の質量は 1250 g × 30/100 = 375 g
1 molのe⁻が流れると, 1 molのH2SO4が1 molのH2Oに変化する.
∴ 放電後の電解液の質量パーセント濃度は
(放電後の溶質 [g])/(放電後の溶液 [g]) × 100
= (375 − 98×0.20)/(1250 − 98×0.20 + 18×0.20) × 100 ≈ 29 %
[ (1) 最低酸化数 Pb⁰ と最高酸化数 Pb⁴⁺O2 がともに Pb²⁺(安定)に自発的に変化するのが根幹である.
まず, 「負極 Pb → Pb²⁺」「正極 PbO2 → Pb²⁺」を元に半反応式の作成手順に従う.
1. H2Oで両辺のOを合わせる. PbO2 → Pb²⁺ + 2 H2O
2. H⁺で両辺のHの数を合わせる. PbO2 + 4 H⁺ → Pb²⁺ + 2 H2O
3. e⁻で両辺の総電荷を合わせる. PbO2 + 4 H⁺ + 2 e⁻ → Pb²⁺ + 2 H2O …①
①と「Pb²⁺ + SO4²⁻ → PbSO4」を足すと正極の反応式が得られる(負極も同様).
(2) とにかくまず電流×時間(秒)で電気量を求め, ファラデー定数を用いて物質量に換算する.
わかりにくければ, 比で計算すればよい. 1 mol : 96500 C = x [mol] : (4.0 A×4825 s) C
質量変化は, 各極の反応式を元に考える.
負極 Pb + SO4²⁻ → PbSO4 + 2 e⁻ より, 電子2 molが流れると Pb 1 mol が PbSO4 1 mol になる.
よって, 電子2 molが流れると, (PbSO4 303) − (Pb 207) = 96 g 質量が増加する.
結局, 0.20 molで何 g増加するかを求めればよい. 2 mol : 96 g = 0.20 mol : x [g]
正極では, 電子2 molが流れると PbO2 1 mol が PbSO4 1 mol になる.
よって, 電子2 molが流れると, (PbSO4 303) − (PbO2 239) = 64 g 質量が増加する.
(3) 放電前後の電解液の質量パーセント濃度は, 2 e⁻を消去してできた全体反応式で考える.
Pb + 2 H2SO4 + PbO2 → 2 PbSO4 + 2 H2O
これは, 2 molの電子が流れると, 2 molのH2SO4が2 molのH2Oに変化することを意味する.
つまり, 1 molの電子が流れると, 1 molのH2SO4が1 molのH2Oに変化するとわかる.
放電後の質量パーセント濃度は, 放電前の質量と放電による変化量を考えて求める.
つまり, (放電後の溶質の質量)/(放電後の溶液の質量) = (放電前の溶質の質量 + 溶質の変化量)/(放電前の溶液の質量 + 溶液の変化量) を計算する.
放電前, 溶液は1.25 g/cm³ = 1.25 g/mLで1.0 Lあるから質量は1250 g, その30%が溶質である.
0.20 molの電子が流れると, 0.20 molのH2SO4(分子量98)の分の 98×0.20 g 減少する.
溶液については溶質H2SO4と溶媒H2Oの変化を両方考慮しなければならない.
放電によって, 溶質は0.20 molのH2SO4(分子量98)の分の 98×0.20 g 減少し,
溶媒は0.20 molのH2O(18)の分の 18×0.20 g 増加する.]
