
銅の電解精錬
粗銅(純度99%)の製法
① 黄銅鉱(CuFeS₂)とコークスCと石灰石CaCO₃を溶鉱炉に入れて加熱する。鉄分は酸化される一方、銅分は還元され、硫化銅(I) Cu₂S となる。
4CuFeS₂ + 9O₂ → 2Cu₂S + 2Fe₂O₃ + 6SO₂↑
② Cu₂Sを転炉に移してO₂を吹き込むと、還元されて粗銅(純度99%)が得られる。
Cu₂S + O₂ → 2Cu(粗銅) + SO₂↑
銅Cuの電解精錬
純度99%の粗銅を陽極、純度99.99%の純銅を陰極、CuSO₄水溶液を電解液とし、約0.3 Vで電気分解して純度99.99%の純銅を得る。
陽極 Cu(粗銅) → Cu²⁺ + 2e⁻ (粗銅が溶解)
陰極 Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu(純銅) (純銅が析出)
粗銅中の不純物
Cuよりイオン化傾向の
・大きい金属(Zn, Fe, Ni):電解液中に溶解
・Pb:不溶性の塩PbSO₄となり沈殿(陽極泥)
・小さい金属(Ag, Pt, Au):陽極の下に沈殿(陽極泥)
鉱石から金属を取り出す工程を製錬、製錬によって得られた金属の純度を高める工程を精錬という。特に、電気分解を利用する精錬を電解精錬という。
Cuの電解精錬が0.3 V程度の低電圧で行われる理由は、金属のイオン化列で説明できる。
陽極(酸化):
Zn → Zn²⁺ + 2e⁻
Fe → Fe²⁺ + 2e⁻
Ni → Ni²⁺ + 2e⁻
Pb → Pb²⁺ + 2e⁻
Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
Ag → Ag⁺ + e⁻
陰極(還元):
Ag⁺ + e⁻ → Ag
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu ←起こしたい反応
Ni²⁺ + 2e⁻ → Ni
他の金属の反応を起こさずCuの反応のみ起こすには、0.3 V程度がちょうどよい。電圧が高くなると、陽極で起こりにくいはずのAg → Ag⁺ + e⁻が起こり、電解液中にAg⁺が生じ、陰極でAgが析出してしまう。また、陰極で起こりにくいNi²⁺ + 2e⁻ → Niなども進行してしまう。これにより、陰極で余計な金属まで析出し、得られる純銅の純度が下がる。
PbはCuよりイオン化傾向が大きいため、Pb²⁺となって溶け出す。ただし、電解液中のSO₄²⁻によって不溶性の塩PbSO₄となり、結局陽極泥になる。
問題:
0.70 mol/LのCuSO₄(Ⅱ)水溶液5.0 Lに、ニッケルと銀を不純物として含む粗銅を陽極とし0.20 Aの電流を流したところ、陰極に128 gの銅が析出し、CuSO₄(Ⅱ)水溶液の濃度は0.66 mol/Lに減少した。また、粗銅の下に1.0 gの沈殿が生じた。
F = 9.65×10⁴ C/mol, Ni = 59, Cu = 64, Ag = 108
(1) 電流を流した時間(秒)を求めよ。
(2) 陽極の粗銅の純度(銅Cuの質量パーセント)を求めよ。
(1) 陰極 Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu(純銅)
陰極で析出したCuの物質量=128 g / 64 g mol⁻¹ = 2.0 mol
流れた電子の物質量=2.0 mol × 2 = 4.0 mol
電流を流した時間=(9.65×10⁴ C mol⁻¹ × 4.0 mol) / 0.20 A = 1.93×10⁶ s
(2) 陽極 Cu(粗銅) → Cu²⁺ + 2e⁻ Ni → Ni²⁺ + 2e⁻
4.0 molの電子が流れたとき、陽極では合計2.0 molのNiとCuが溶解する。
電解液から失われたCu²⁺の物質量=(0.70−0.66)×5.0 = 0.20 mol
陽極で溶解したCu=2.0−0.20 = 1.8 mol
陽極で溶解したNi=2.0−1.8 = 0.20 mol
(粗銅の質量減少分)=(Niの溶解質量)+(Cuの溶解質量)+(陽極泥Agの質量)
=59×0.20 + 64×1.8 + 1.0 = 128 g
粗銅の純度=(Cuの溶解質量)/(粗銅の質量減少分)=(64×1.8)/128 = 0.90 = 90 %
(補足)
・2 molの電子が流れると1 molのCuが析出する。
・陰極の純銅の質量変化から電子量を逆算できる。
・電子物質量×ファラデー定数=電気量Q。Q = I × t より時間を求める。
・陽極ではCuおよびCuよりイオン化傾向が大きいNiが溶解する。
・Cuよりイオン化傾向が小さいAgは沈殿する(陽極泥)。
・陰極ではCu²⁺のみがCuとして析出するため、電解液中のCu²⁺は減少する。
・(陽極で溶解したCu mol) = (陰極で析出したCu mol) − (電解液から失われたCu²⁺ mol)
・(陽極で溶解したNi mol) = (陽極で溶解した金属 合計 mol) − (陽極で溶解したCu mol)
