
リン(15族)とその化合物
リンの同素体
黄リン P₄ | 赤リン Pₓ
淡黄色・ろう状固体 | 赤褐色・粉末(マッチの横)
猛毒 | 無毒
自然発火→水中保存 | 自然発火しない
CS₂に溶ける | CS₂に溶けない
正四面体構造 | 網目状高分子
黄リンの製法
リン鉱石(主成分 Ca₃(PO₄)₂)にケイ砂 SiO₂ とコークス C を混ぜて電気炉内で加熱する.
2Ca₃(PO₄)₂ + 6SiO₂ + 10C → 6CaSiO₃ + 10CO + P₄
黄リンを窒素中で約250℃で数時間熱すると赤リンが得られる.
二硫化炭素 CS₂ は, CO₂ と同じく直線型の分子であるから(SもOも16族), 無極性の溶媒である.
それゆえ, 無極性分子である黄リンは CS₂ に溶ける. 赤リンは高分子なので不溶である.
黄リンの製法は, 次の3つの反応式が合体したものと考えると理解しやすい.
① 2Ca₃(PO₄)₂ ⇄ P₄O₁₀ + 6CaO (高温で, 酸性酸化物+塩基性酸化物→塩 の逆反応)
② SiO₂ + CaO → CaSiO₃ (酸性酸化物+塩基性酸化物→塩)
③ P₄O₁₀ + 10C → 10CO + P₄ (Cによる P₄O₁₀ の還元)
十酸化四リン P₄O₁₀ (P の酸化数 +5)
製法 リンを空気中で燃焼させる.
4P + 5O₂ → P₄O₁₀ (酸化)
性質 吸湿性・脱水性の強い白色結晶で, 強力な酸性の乾燥剤となる.
P₄O₁₀ 分子は, 正四面体構造の PO₄ が4個合体した立体構造をしている.
リン酸 H₃PO₄ (P の酸化数 +5)
製法 十酸化四リンを水に溶かして加熱する.
P₄O₁₀ + 6H₂O →(加熱)→ 4H₃PO₄
(酸性酸化物+水→オキソ酸)
性質 ① 潮解性をもつ無色結晶.
② 水に溶けてやや強い酸性を示す(弱酸).
過リン酸石灰
製法 リン酸カルシウムに硫酸を加える.
Ca₃(PO₄)₂ + 2H₂SO₄ → Ca(H₂PO₄)₂ + 2CaSO₄ (弱酸の遊離)
性質 リン酸二水素カルシウムと硫酸カルシウムの混合物を過リン酸石灰という.
リン肥料に用いられる.
強酸 H₂SO₄ から弱酸 PO₄³⁻ に H⁺ が受け渡される.
しかし, リン酸 H₃PO₄ もそこそこ強い酸であるため, H⁺ とはそこそこ相性が悪い.
そこで, PO₄³⁻ + 3H⁺ → H₃PO₄ までは進行せず, PO₄³⁻ + 2H⁺ → H₂PO₄⁻ まで進行する.
これに Ca²⁺ と SO₄²⁻ を加えると, 過リン酸石灰の化学反応式が得られる.
リンは, 肥料の三要素である窒素 N・リン P・カリウム K の1つである.
植物は, 水に溶けた H₂PO₄⁻ や PO₄³⁻ の形でリンを根から吸収する.
しかし, Ca₃(PO₄)₂ は, Ca²⁺ と PO₄³⁻ の間に働くクーロン力が大きいため, 水に不溶である.
そこで, 強酸 H₂SO₄ を加えて, PO₄³⁻ → HPO₄²⁻ → H₂PO₄⁻ のように陰イオンの電荷を小さくする.
すると, クーロン力が弱くなり, 水に可溶になるのである.
なお, 水に不溶のリン酸カルシウムは骨や歯の主成分である.
過リン酸石灰に含まれる CaSO₄ は, 肥料効果がなく無駄である.
H₂SO₄ の代わりに H₃PO₄ を反応させると, Ca(H₂PO₄)₂ のみが得られて効果的である.
Ca₃(PO₄)₂ + 4H₃PO₄ → 3Ca(H₂PO₄)₂ (重過リン酸石灰)
大量使用したリン肥料が海に流入すると, 富栄養化でプランクトンが増加し, 水質汚染を引き起こす.
