
硫黄(16族)とその化合物
硫黄の同素体
斜方硫黄 (黄色塊状結晶) 単斜硫黄 (黄色針状結晶) ゴム状硫黄 (輪ゴム)
S₈ 環状分子 Sₓ 鎖状分子
CS₂に溶ける CS₂に溶けない
空気中で硫黄に点火すると, 青い炎を出して燃焼し, 二酸化硫黄が発生する.
S + O₂ → SO₂
硫化水素 H₂S (Sの酸化数 −2)
実験的製法:硫化鉄(II)に希硫酸を加える.
FeS + H₂SO₄ → FeSO₄ + H₂S↑ (弱酸の遊離)
二酸化硫黄 SO₂ (Sの酸化数 +4)
実験室製法
① 亜硫酸水素ナトリウムに希硫酸を加える.
NaHSO₃ + H₂SO₄ → NaHSO₄ + H₂O + SO₂↑ (弱酸の遊離)
② 銅に濃硫酸を加えて加熱する.
Cu + 2H₂SO₄ →[加熱] CuSO₄ + 2H₂O + SO₂↑ (酸化還元反応)
工業的製法
硫黄や黄鉄鉱(主成分FeS₂)を燃焼させる.
S + O₂ → SO₂
4FeS₂ + 11O₂ → 2Fe₂O₃ + 8SO₂
H₂SとSO₂の共通性質
① 水に溶け, 弱酸性.
② 還元性あり.
③ 有毒な気体.
H₂SとSO₂の相違性質
H₂S
① 腐卵臭
② 水溶液中の金属イオンを硫化物として沈殿する. 例: Cu²⁺ + S²⁻ → CuS↓
SO₂
① 刺激臭
② 塩素の酸化力による漂白では傷む絹・羊毛を, 還元力によって漂白する.
H₂SとSO₂の反応
SO₂が酸化剤, H₂Sが還元剤として酸化還元反応を起こす.
SO₂ + 2H₂S → 3S + 2H₂O (酸化還元反応)
H₂Sの製法
FeSに強酸を加えて弱酸H₂Sを遊離させるが, 希硝酸は不適.
酸化力をもつ硝酸によってH₂Sが酸化されSを遊離してしまう.
H₂SもSO₂も弱酸性なので, 強酸による弱酸の遊離反応で容易に得られる.
亜硫酸H₂SO₃は直ちに分解される.
H₂SO₃ → H₂O + SO₂
(酸化剤) H₂SO₄ + 2H⁺ + 2e⁻ → SO₂ + 2H₂O
(還元剤) Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
両式を足すと
Cu + H₂SO₄ + 2H⁺ → Cu²⁺ + SO₂ + 2H₂O
H⁺はH₂SO₄に由来するので, 両辺にSO₄²⁻を1個加えて完成する.
黄鉄鉱の反応は, 4Fe + 3O₂ → 2Fe₂O₃ と S + O₂ → SO₂ が合体したものと考える.
この方法では不純物が含まれるため, 現在は用いられない.
(酸化剤) SO₂ + 4H⁺ + 4e⁻ → S + 2H₂O
(還元剤) H₂S → 2H⁺ + S + 2e⁻
還元剤の式を2倍して足すと,
SO₂ + 2H₂S → 3S + 2H₂O
Sの酸化数は, SO₂で+4 → Sで0, H₂Sで−2 → Sで0.
化石燃料の燃焼で生じるSO₂, SO₃などの硫黄酸化物はSOₓ(ソックス)と総称される.
これらは大気汚染物質であり, 雨水に溶けると硫酸に変化して酸性雨(pH5.6以下)の原因となる.
日本では, 石油中の硫黄分を除く脱硫処理により自動車排ガス中のSOₓは減少した.
工場からのSOₓは, 石灰石CaCO₃と反応させてCaSO₄に変えて除去される.
硫酸 H₂SO₄ (Sの酸化数 +6)
工業的製法(接触法)
① S + O₂ → SO₂
② 2SO₂ + O₂ →[V₂O₅(触媒)] 2SO₃
③ SO₃ + H₂O → H₂SO₄
SO₃に直接水を加えると激しく発熱して危険なため,
実際にはSO₃を濃硫酸に吸収させて発煙硫酸とし, それを希硫酸で薄める.
希硫酸の性質
強い酸性のみを示す.
① Zn + H₂SO₄ → ZnSO₄ + H₂↑
(Hよりイオン化傾向が大きい金属を溶かす, 酸化還元反応)
② FeS + H₂SO₄ → FeSO₄ + H₂S↑
(強酸による弱酸の遊離反応)
濃硫酸の性質 (濃度90%以上)
① 不揮発性酸
NaCl + 濃H₂SO₄ → NaHSO₄ + HCl↑ (揮発性酸の遊離)
② 加熱で酸化作用
Cu + 濃2H₂SO₄ → CuSO₄ + 2H₂O + SO₂↑ (酸化還元反応)
③ 脱水性
C₂H₅OH →[濃H₂SO₄] C₂H₄ + H₂O (有機物からH₂Oを引き抜く)
④ 吸湿性(空気中の水分を吸収)
⑤ 溶解熱が大きい
H₂SO₄ + aq → H₂SO₄(aq), ΔH = −95.3 kJ/mol
⑥ 粘性が高く, 密度が大きい
濃硫酸の希釈
水に濃硫酸を少しずつ加えて希釈する(逆は危険).
希硫酸と濃硫酸の違い
希硫酸は単なる強酸だが, 濃硫酸は分子同士が水素結合しており,
これにより粘性が高く, 蒸発しにくく, 不揮発性を示す.
H₂SO₄分子間では (HO)₂SO₂···(HO)₂SO₂ のような水素結合がある.
また, H₂O分子とも水素結合できるため吸湿性を示す.
熱濃硫酸は, Hよりイオン化傾向の小さいCuやAgをも酸化できる.
希硫酸が紙や木綿につくと, 不揮発性のため水分だけが蒸発し,
濃硫酸となって脱水作用によりセルロース(C₆H₁₀O₅)ₙが炭化し黒く焦げる.
濃硫酸に水を加えると, 密度の小さい水が上に浮き,
強い溶解熱により水が沸騰して硫酸が飛び散る危険がある.
【計算問題】
硫黄3.2kgを接触法で完全に硫酸にしたとき, 98%硫酸は何kg得られるか.
S: 3200 g ÷ 32 g/mol = 100 mol
得られるH₂SO₄も100 mol → 98 × 100 = 9800 g
∴ 得られる98%硫酸は 9800 × (100 ÷ 98) = 10000 g = 10 kg
原子量 H=1, S=32, O=16 → H₂SO₄=98
1 molのSから1 molのH₂SO₄が得られる.
S + O₂ → SO₂
2SO₂ + O₂ → 2SO₃
SO₃ + H₂O → H₂SO₄
すべて1:1:1の対応なので, S1 mol → H₂SO₄1 mol.
問題の要点は, 硫酸がH₂SO₄分子とH₂O分子の混合物である点.
すなわち「H₂SO₄が98%, H₂Oが2%」という混合物の質量を求める.
H₂SO₄部分だけで9800 gあるので,
残り2%のH₂Oを加えた全体質量は 9800 × (100 ÷ 98) = 10000 g である.
98%が9800 gなので, 9800 gの98%を取るのではないことに注意.
