
ハロゲンの化合物
フッ化水素 HF
実験的製法 蛍石(フッ化カルシウム)に濃硫酸を加えて加熱する.
CaF₂ + 濃 H₂SO₄ →[加熱] CaSO₄ + 2HF↑ (揮発性酸の遊離)
性質
① 水素結合するため, 沸点が異常に高い.
② ハロゲン化水素の中で唯一の弱酸.
③ ガラス(主成分:SiO₂)を溶かすため, ポリエチレン容器に保存する.
SiO₂ + 6HF(aq) → H₂SiF₆ + 2H₂O (錯イオン形成反応)
④ 体内に吸収されやすく, 人体に極めて有害(八王子フッ化水素酸事故で検索禁止).
カルボン酸のCa塩を加えると, 水に不溶のCaF₂を生じ吸収されにくくなる.
沸点(℃) 常温 液性 水溶液の名称 臭い 毒性
HF 20 (最高) 気体 弱酸 フッ化水素酸 刺激臭 有毒
HCl -85 (最低) 強酸 塩酸 刺激臭 有毒
HBr -67 強酸 臭化水素酸 刺激臭 有毒
HI -35 強酸 ヨウ化水素酸 刺激臭 有毒
性質① H(2.1)とF(4.0)は電気陰性度(共有電子対を引きつける強さ)の差が大きい.
よって, 分子内に大きな電荷の偏り(極性)が生じる. (δ⁺) H–F (δ⁻)
すると, 分子間にもHとFの間に静電気的引力が発生する. これを水素結合という.
H–F···H–F···H–F (···が水素結合)
水素結合(分子間力の約10倍の強さ)により, ハロゲン化水素の中でHFの沸点が最も高い.
分子量が大きいほど分子間力が大きく沸点が高くなるから, 結局HClの沸点が最も低くなる.
性質② 以前の高校化学では, 弱酸の理由を「水素結合によりH⁺が電離しにくくなる」としていた.
納得しやすいが事実ではない. 実際はH–Fの結合エネルギーが大きいことなどによる.
性質③ ヘキサフルオロケイ酸イオン [SiF₆]²⁻ という錯イオン形成反応である.
HFが気体の場合は四フッ化ケイ素が生成する. SiO₂ + 4HF(気) → SiF₄↑ + 2H₂O
塩化水素 HCl
実験的製法 塩化ナトリウムに濃硫酸を加えて加熱する.
NaCl + 濃 H₂SO₄ →[加熱] NaHSO₄ + HCl↑ (揮発性酸の遊離)
工業的製法 水素と塩素を直接化合させる. H₂ + Cl₂ → 2HCl
性質 アンモニアに触れると白煙を生成する. NH₃ + HCl → NH₄Cl (白煙) (中和)
HFの生成反応ではCaSO₄まで進行するが, HClの生成反応ではNaHSO₄までしか進行しない.
これは, 酸の強さが H₂SO₄(第1電離) > HCl > HSO₄⁻(第2電離) > HF であることに起因する.
より電離しやすいHClが存在している(電離していない)段階では, HSO₄⁻は電離しない.
次亜塩素酸 HClO
① 塩素は水に少し溶けて, 塩酸と次亜塩素酸が発生する. Cl₂ + H₂O ⇄ HCl + HClO
② 強力な酸化剤であり, 漂白・殺菌作用をもつ. HClO + H⁺ + 2e⁻ → Cl⁻ + H₂O
基準の塩素酸 HClO₃ よりOが1個少ないHClO₂を亜塩素酸, 2個少ないHClOを次亜塩素酸という.
次亜塩素酸はHClOと書くが, 構造式はH–O–Clである.
次亜塩素酸塩 NaClO, CaCl(ClO)・H₂O, Ca(ClO)₂
さらし粉 CaCl(ClO)・H₂O:塩化カルシウムCaCl₂と次亜塩素酸カルシウムCa(ClO)₂の複塩.
高度さらし粉 Ca(ClO)₂:さらし粉から潮解性をもつCaCl₂を除いたもの.
さらし粉はClO⁻の酸化作用による漂白・殺菌作用をもつ. → プールの消毒剤
① 塩素Cl₂は塩基(NaOHやCa(OH)₂)と反応し, 次亜塩素酸塩が生じる.
Cl₂ + 2NaOH → NaClO + NaCl + H₂O
Cl₂ + Ca(OH)₂ → CaCl(ClO)・H₂O (さらし粉)
② さらし粉や高度さらし粉に塩酸を加えると塩素が発生する(塩素の実験室的製法).
CaCl(ClO)・H₂O + 2HCl → CaCl₂ + 2H₂O + Cl₂
Ca(ClO)₂ + 4HCl → CaCl₂ + 2H₂O + 2Cl₂
③ 次亜塩素酸ナトリウムに塩酸を加えると塩素が発生する.
NaClO + 2HCl → NaCl + H₂O + Cl₂
さらし粉(次亜塩素酸塩化カルシウム一水和物)が複塩であることは, 2倍してみるとよくわかる.
2倍すると Ca₂Cl₂(ClO)₂・2H₂O → 並び替えると CaCl₂・Ca(ClO)₂・2H₂O
① 塩素が水に溶けて生じた塩酸と次亜塩素酸が塩基と中和したと考えればよい.
Cl₂ + H₂O ⇄ HCl + HClO
HCl + NaOH → NaCl + H₂O
HClO + NaOH → NaClO + H₂O
——
Cl₂ + 2NaOH → NaClO + NaCl + H₂O
2Cl₂ + 2H₂O ⇄ 2HCl + 2HClO
2HCl + Ca(OH)₂ → CaCl₂ + 2H₂O
2HClO + Ca(OH)₂ → Ca(ClO)₂ + 2H₂O
——
2Cl₂ + 2Ca(OH)₂ → CaCl₂・Ca(ClO)₂・2H₂O
② は前項(ハロゲン)ですでに扱った. ③ はその②と同様の仕組みである.
弱酸の遊離によりHClOが増えると, 平衡がCl₂を発生させる方向に移動する(ルシャトリエの原理).
NaClO + HCl → HClO + NaCl
HCl + HClO ⇄ Cl₂ + H₂O
——
NaClO + 2HCl → NaCl + H₂O + Cl₂
有毒な塩素ガスが発生するので, 塩素系漂白剤(主成分:NaClO)と酸性の漂白剤を混ぜると危険!
