
窒素(15族)とその化合物
窒素 N₂
工業的製法 液体空気の分留で得る.
実験的製法 亜硝酸アンモニウム水溶液を加熱する.
NH₄NO₂ →[加熱] N₂↑ + 2H₂O (自己酸化還元反応)
性質
① 空気中に体積で約78%存在する. 常温で安定な気体だが, 高温では反応する.
② 液体窒素は冷却剤として利用される.
〔NH₄NO₂のNH₄⁺のN(酸化数−3)からNO₂⁻のN(酸化数+3)にe⁻が3個移動する.
これにより, 酸化数0のN₂が生じる.
N₂はN≡Nの結合エネルギーが大きいために安定しており, 貴ガスに次いで反応性が乏しい.〕
─────────────────────────────
アンモニア NH₃ (Nの酸化数 −3)
工業的製法 ハーバー・ボッシュ法
窒素と水素に四酸化三鉄を触媒として加える.
N₂ + 3H₂ →[Fe₃O₄, 高温・高圧] 2NH₃ (詳細は理論化学:化学平衡)
実験室製法 塩化アンモニウムと水酸化カルシウムを加熱する.
2NH₄Cl + Ca(OH)₂ →[加熱] CaCl₂ + 2H₂O + 2NH₃↑ (弱塩基の遊離)
性質
① 分子量の割に沸点が異常に高い(分子間に水素結合が生じるから).
② 無色刺激臭の気体で, 水によく溶け, 水溶液は弱塩基性を示す.
NH₃ + H₂O ⇄ NH₄⁺ + OH⁻
検出
・塩化水素に触れると白煙を生じる. NH₃ + HCl → NH₄Cl (白煙)
・湿った赤色リトマス紙を青変する.
・水溶液中のNH₄⁺は, ネスラー試薬で赤褐色の沈殿を生じる.
④ アンモニアと二酸化炭素を高温・高圧で反応させると尿素が得られる.
2NH₃ + CO₂ →[高温・高圧] (NH₂)₂CO + H₂O
一酸化窒素 NO (Nの酸化数 +2)
製法 銅に希硝酸を加える.
3Cu + 8HNO₃ → 3Cu(NO₃)₂ + 4H₂O + 2NO↑ (酸化還元反応)
性質
① 無色.
② 水に不溶.
③ 空気中でただちにNO₂に変化する.
2NO + O₂ → 2NO₂
─────────────────────────────
二酸化窒素 NO₂ (Nの酸化数 +4)
製法 銅に濃硝酸を加える.
Cu + 4HNO₃ → Cu(NO₃)₂ + 2H₂O + 2NO₂↑ (酸化還元反応)
性質
① 赤褐色.
② 水に溶け, HNO₃を生成する.
3NO₂ + H₂O → 2HNO₃ + NO
③ 常温では無色の四酸化二窒素と平衡状態にある.
2NO₂ ⇄ N₂O₄
〔補足〕
NOの製法
(酸化剤) HNO₃ + 3H⁺ + 3e⁻ → 2H₂O + NO
(還元剤) Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
(酸化剤)×2 + (還元剤)×3 より
3Cu + 2HNO₃ + 6H⁺ → 3Cu²⁺ + 4H₂O + 2NO
H⁺の由来はHNO₃と考えられるので, 両辺にNO₃⁻を6個加えて完成.
NO₂の製法
(酸化剤) HNO₃ + H⁺ + e⁻ → H₂O + NO₂
(還元剤) Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
後はNOと同様にして作成できる.
硝酸生成反応
温水 3NO₂ + H₂O → 2HNO₃ + NO
冷水 2NO₂ + H₂O → HNO₃ + HNO₂
酸性酸化物(非金属の酸化物)に水を加えると, 対応する(酸化数が同じ)オキソ酸が生成する.
例えば CO₂(+4) に水を加えると H₂CO₃(+4) が生成する.
しかし NO₂(+4) に対応するオキソ酸は存在しない.
そこで HNO₃(+5) が生じるとき, 同時に NO(+2) や HNO₂(+3) が生じる(自己酸化還元反応).
化石燃料の燃焼で生じる NO, NO₂ などの窒素酸化物は NOₓ(ノックス) と総称される.
大気汚染物質であり, 雨水に溶けると硝酸に変化して酸性雨(pH5.6以下)の原因となる.
自動車のマフラー内には触媒があり, 排ガス中のNOₓをN₂やO₂に無害化している.
─────────────────────────────
硝酸 HNO₃ (Nの酸化数 +5)
工業的製法 オストワルト法(触媒:白金)
4NH₃ + 5O₂ →[Pt] 4NO + 6H₂O ①
2NO + O₂ → 2NO₂ ②
3NO₂ + H₂O → 2HNO₃ + NO ③
合体式
NH₃ + 2O₂ → HNO₃ + H₂O
〔補足〕
① アンモニアを白金を触媒として酸化すると, 一酸化窒素と水が生じる(暗記).
② 一酸化窒素は容易に酸化されて二酸化窒素になる.
③ 二酸化窒素と水を反応させると硝酸が生じる(温水). 同時に生じるNOは②で再利用される.
合体反応式は次のように導かれる.
[1] ②×3 + ③×2 より NO₂ を消去する.
4NO + 3O₂ + 2H₂O → 4HNO₃ ④
[2] ① + ④ より NO を消去する.
4NH₃ + 8O₂ → 4HNO₃ + 4H₂O (4で割る)
∴ NH₃ + 2O₂ → HNO₃ + H₂O
合体式から, 1molのNH₃から1molのHNO₃が生じることがわかる.
─────────────────────────────
実験的製法 硝酸ナトリウムに濃硫酸を加えて加熱する.
NaNO₃ + H₂SO₄ →[加熱] NaHSO₄ + HNO₃↑ (揮発性酸の遊離)
性質
① 強酸であり, かつ強い酸化作用も備える.
よって, イオン化傾向の小さい Cu, Ag, Hg を加熱なしで溶かす.
② 濃硝酸は Fe, Ni, Al, Cr, Co を不動態にする.
③ 濃硝酸は光や熱で分解するので, 褐色瓶に入れ, 冷暗所で保存する.
〔補足〕
不動態:強い酸化作用により, 表面に緻密な酸化皮膜ができて反応性が失われた状態.
(不導体ではないので注意)
光や熱による分解時の反応式
4HNO₃ → 4NO₂ + 2H₂O + O₂
硝酸は無色だが, 光や熱で分解するとNO₂の影響で徐々に黄色みを帯びる.
アンモニアとHNO₃の工業的製法は, 空気と水を窒素肥料に変えたことに意義がある.
窒素は肥料の三要素(N, P, K)の1つであり, 農作物の成長に大量に必要となる.
窒素肥料の例
(NH₄)₂SO₄(硫安), NH₄NO₃(硝安), NH₄Cl(塩安), (NH₂)₂CO(尿素)
─────────────────────────────
【計算問題】
オストワルト法でアンモニア6.8kgを完全に硝酸にしたとすると, 60%硝酸は何kg得られるか.
NH₃ + 2O₂ → HNO₃ + H₂O より, 1molのNH₃から1molのHNO₃が生成する.
NH₃は 6800[g] ÷ 17[g/mol] = 400mol ある.
よって得られるHNO₃は400molである.
その質量は 63×400 = 25200[g]
∴ 得られる60%硝酸は 25200×(100/60) = 42000[g] = 42[kg]
〔補足〕
原子量 H=1, N=14, O=16 とすると NH₃=17, HNO₃=63
本問で注意すべきは, 次のように接触法と同様に考えると間違えることである.
4NH₃ + 5O₂ → 4NO + 6H₂O より 1molのNH₃から1molのNOが得られる.
2NO + O₂ → 2NO₂ より 1molのNOから1molのNO₂が得られる.
3NO₂ + H₂O → 2HNO₃ + NO より 3molのNO₂から2molのHNO₃が得られる.
総合すると 1molのNH₃から最大 2/3 molのHNO₃が得られる???
これが誤りなのは, N原子に着目するとわかる.
3NO₂ + H₂O → 2HNO₃ + NO において, N原子はHNO₃の他にNOにも分配されている.
したがって, これではNH₃が完全にHNO₃になったとはいえない.
結局, 合体反応式で考えなければならないのである.
硝酸は HNO₃分子とH₂O分子の混合物である.
題意は, 「HNO₃が60%, H₂Oが40%の混合物が何kg得られるか」である.
NH₃の物質量からHNO₃の質量25200gが求まる.
これはHNO₃(60%)分だけで25200gあることを意味する.
したがって硝酸全体の質量は 25200×(100/60)=42000g.
決して25200gの60%を求めるわけではないことに注意する.
