はじめに
数学の答案において、「美しく図示できるか」はその人の数学的能力を如実に表す。
ここでいう「美しい」とは、丁寧で綺麗ということではない。「数学的に必要なことは全て描いてあり、不必要なことは描いていない」ということである。
問題の数学的本質を見抜き、素早く正確に描こうとすると自然と美しい図となるはずなのである。
数学が苦手な人は直線のグラフを描けない
数学が苦手な人の図には、次のような共通点が見受けられる。
- とにかく図が小さすぎて、追加情報が書き込めない。
- 最低限の数学的に重要なポイントが認識できていないため、本質的に図が違う。
- 無駄な情報が多すぎて、何が大事なのかがわからない。
- 綺麗に描くことばかり意識して、1つの図示に時間をかけすぎる。
- 矛盾が生じていることに気付いていながら、無理矢理突き進もうとする。
もう少し具体的に見てみよう。数学が苦手な人と数学が得意な人の直線のグラフの比較を示す。
多くの学生が「自分は直線のグラフくらい描ける」と思っているが、はっきり言って左のグラフでは直線が描けているうちには入らない。
中学校ではきちんと目盛りをとってグラフを描くこともあるが、高校では必要最小限で描くのが基本である。
また、結果だけからはわからないが、苦手な人は左のグラフを1分くらいかけて描く。得意な人は右のグラフを10秒ほどで仕上げる。あらかじめ全体図をイメージし、記入すべきポイントをおさえていればそれくらいの時間で十分である。
直線の図示1つでこれだけの差がつくのである。
正しい描き方を知る
最も大事なことは、これらの問題点はいずれも注意さえしていれば防げる可能があるという点である。
図の正しい描き方は、本来中学生の時に身につけておくべき技術である。しかし、学校では踏み込んで習うことはなく、試験でも間違いにされることはないので悪い癖がついたまま気にもとめない高校生が大勢いるのが現実である。
普段描く図が教科書と同じにならない人は、まず正しい描き方を知るところから始めなければならない。
数学が得意な人が普段どんな点に注意しながらどんな手順で図示しているかを知り、それを真似る。図が数学的に美しくなければ、気付くべきことに気付けなかったり、最悪自ら間違った道に足を踏み入れる羽目になったりする。図を描く時のルールを知り、普段からそれを意識して描く訓練をしておかなければならない。
グラフの図示の一般的な手順とポイント
数学的に美しいグラフを図示するための手順とポイントを確認する。これらを常に意識して図示するようにしていれば、自然と美しい図が書けるようになる。
注意すべきは、問題ごとに「数学的に必要なのは何か」は多少変化することである。
例えば、面積を求める積分の問題ならば、交点や上下関係がわかれば頂点や極値は必要ないことが多い。場合によっては、特定部分を大げさにして強調することも大事である。問題の本質に気付いているかが問われる。
2次関数の図示のポイント
円に内接する三角形の図示のポイント
複数の関数を同時に図示するときと領域を図示するときのポイント
鉛筆と消しゴムだけで綺麗な線や円を描く裏技
大学入試で使用が許されるのは、原則として鉛筆(シャーペン)と消しゴムだけである。
この2つだけでできるだけ綺麗な図を描くことを考える。
本質が一番大事
数学の試験では、図を素早く正確に描くことが大事である。綺麗に描くことにとらわれすぎて無駄な時間を費やしてしまっては本末転倒である。
最低限の数学的に必要な美しさがあれば、それ以上の綺麗さは基本的に必要ない。実際、純粋なフリーハンドの図で困ることはまずない。
それを踏まえた上で綺麗な図の描き方を確認しておこう。
綺麗な直線と角度は消しゴムを活用する
大きい新品の消しゴムを2個常備しておく。
あらかじめ縦・横・高さの長さを測っておくと実質定規になる。また、2個の消しゴムを組み合わせることで、完璧な直角を作成できる。
さらに、1:1:√2の直角三角形ができるような点を取ることで(直角に等しい長さの点をとればよい)、45°も作成できる。
30°や60°を正確に描くのは難しいが、30°、45°、60°の区別がつくように描きたい。
綺麗な円を描く裏技
2本の鉛筆を箸のように持って固定し、支点となる1本を中心に紙のほうを回転させると、綺麗な円を描くことが出来る。
紙を持ったほうの腕を出来る限り支点の腕と交差させた状態から開始するのがコツである。また、支点を強く抑えすぎて紙が破れないよう注意する。
下は、自分が2本の鉛筆と2個の消しゴムだけで描いた図であるが、どうだろうか。ちなみに、所要時間は40秒ほどだった。