揮発性酸の遊離反応

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揮発性酸の遊離反応 酸の揮発性 濃硫酸のみ 不揮発性(蒸発しにくい) 濃硫酸以外の酸 揮発性(蒸発しやすい) 塩 NaCl と濃硫酸の反応を考えよう. 両者を混ぜると, 水溶液中には Na⁺, Cl⁻, H⁺, SO₄²⁻ が混在することになる. すると, 4種の化合物 NaCl, Na₂SO₄, HCl, H₂SO₄ が生成される可能性が考えられる. 加熱すると, 揮発性の酸である HCl だけがどんどん蒸発し, 反応系から取り除かれる. よって, HCl を増やそうとする方向に反応が進行する(ルシャトリエの原理). つまり, NaCl + H₂SO₄ →(加熱) NaHSO₄ + HCl↑ のような反応が起こることになる. ここで, HCl + NaOH → NaCl + H₂O より, NaCl は揮発性酸 HCl 由来の塩である. 以上から, 次の反応原理が導かれる. 揮発性酸の塩+不揮発性酸 → 不揮発性酸の塩+揮発性酸↑ 例 NaCl + H₂SO₄ →(加熱) NaHSO₄ + HCl↑ 例 CaF₂ + H₂SO₄ →(加熱) CaSO₄ + 2HF↑ 希硫酸と濃硫酸は別物と考える. 希硫酸は単なる強酸だが, 濃硫酸になって初めて不揮発性を示す. 1例目は Na₂SO₄ までは進行せず NaHSO₄ で止まっているが, 2例目は CaSO₄ まで進行している. これは, 酸の強さに起因する. 硫酸は, H₂SO₄ → H⁺ + HSO₄⁻, HSO₄⁻ → H⁺ + SO₄²⁻ のように二段階で電離する. 酸としての強さ(H⁺の放出しやすさ)は, H₂SO₄(第1電離) > HCl > HSO₄⁻(第2電離) である. 実は, 揮発性酸の遊離反応は, 弱酸の遊離反応の一種である. NaCl に H₂SO₄ を加えると, H₂SO₄ から Cl⁻ に H⁺ が受け渡され, より弱い酸 HCl が遊離する. HCl は HSO₄⁻ よりは強い酸なので, HSO₄⁻ からさらに Cl⁻ に H⁺ が受け渡されることはない. それゆえ, NaHSO₄ で反応が止まり, Na₂SO₄ までは進行しないのである. さて, HCl も強酸なので, H₂O があると H⁺ を受け渡して電離する. HCl + H₂O → Cl⁻ + H₃O⁺ H₂O がほとんど存在しない濃硫酸を用いることで, HCl が電離しにくくなる. この状態で加熱すると, 揮発性酸 HCl のみが追い出され, 反応を効率よく右に押し進められる. 化学平衡が変化を相殺する方向に移動すること(ルシャトリエの原理)を利用するわけである. 酸としての強さが H₂SO₄ > HSO₄⁻ > HF であることを考慮すると, 2例目はもはや当然だろう. 硫酸の第2電離が HF の電離より起こりやすいため, CaSO₄ まで完全に反応が進行する. 弱酸 HF の遊離反応とも考えられるが, 加熱して追い出すことでより効率よく捕集できる. それゆえ, 揮発性酸の遊離反応に分類される. 結局, 弱酸の遊離反応において特に濃硫酸を用いて加熱する場合が揮発性酸の遊離反応である. 問い NaNO₃に濃H₂SO₄を加えて加熱すると? 濃H₂SO₄は不揮発性酸である. また, NaNO₃は揮発性酸 HNO₃ 由来の塩である. また, 酸の強さは H₂SO₄ > HNO₃ > HSO₄⁻ である. よって, 揮発性酸の遊離反応 NaNO₃ + H₂SO₄ →(加熱) NaHSO₄ + HNO₃↑ が起こる. 揮発性酸の遊離反応に関しては, 本項で取り上げた3つをおさえておけば済む.
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