
強酸(強塩基)による弱酸(弱塩基)の遊離反応
酸・塩基の強弱
強酸・強塩基 電離度がほぼ1の酸・塩基 (水溶液中ではほぼ100%電離)
弱酸・弱塩基 電離度が小さい酸・塩基 (水溶液中では一部のみが電離)
代表的な酸・塩基
強酸: HCl (塩酸), H₂SO₄ (硫酸), HNO₃ (硝酸)
弱酸: CH₃COOH (酢酸), H₂S (硫化水素), H₂CO₃ (炭酸), H₂SO₃ (亜硫酸)
強塩基: NaOH, KOH, Ca(OH)₂, Ba(OH)₂
[アルカリ金属の水酸化物とBe, Mgを除くアルカリ土類金属の水酸化物]
弱塩基: NH₃ (アンモニア)
認知度が今一つだが, 中和反応・酸化還元反応と並ぶ最重要反応原理である.
酸・塩基の強弱の違いと代表的な酸・塩基が前提知識となる.
三大強酸(塩酸・硫酸・硝酸)さえ覚えておけば, それ以外は基本的には弱酸である.
ただし, HF以外のハロゲン化水素HBr, HIは強酸である.
反応原理の根幹は, 酸・塩基の強弱で陽イオンと陰イオンの相性が大きく異なる点にある.
強酸のHCl分子が100個あれば, 水溶液中では100個ほぼすべてがH⁺とCl⁻に電離する.
一方, 弱酸のH₂S分子が100個あれば, 水溶液中ではそのうち数個だけがH⁺とS²⁻に電離する.
つまり, 強酸・強塩基は陽イオンと陰イオンの仲が極めて悪いので, できるだけ離れていたい.
一方で, 弱酸・弱塩基は陽イオンと陰イオンが仲良しなので, できるだけくっついていたい.
以上の前提知識を元に, 塩 FeS と強酸 H₂SO₄ の反応を考えよう.
両者を混ぜると, 水溶液中には Fe²⁺, S²⁻, H⁺, SO₄²⁻ が混在することになる.
このとき, 4種の化合物 FeS, H₂S, FeSO₄, H₂SO₄ が生成される可能性が考えられる.
ここで, 強酸H₂SO₄の陽イオンH⁺と陰イオンSO₄²⁻の相性は極めて悪い.
一方で, 弱酸H₂Sの陽イオンH⁺と陰イオンS²⁻は仲良しなのであった.
すると, 必然的にH₂SO₄が分解し, H₂Sが生じる方向に反応が進行することになる.
つまり, FeS + H₂SO₄ → FeSO₄ + H₂S のような反応が起こるわけである.
当然ながら, H₂Sが分解してH₂SO₄が生じるという逆方向の反応は自然には起こらない.
以上が大まかなイメージだが, より厳密には以下のようになる.
まず, 塩FeSがどんな酸と塩基から生じるかを考える.
Fe²⁺とS²⁻に分離し, Fe²⁺にOH⁻, S²⁻にH⁺を結合させる.
すると, H₂S + Fe(OH)₂ → FeS + 2H₂O という中和反応で生じる塩であるとわかる.
FeSは弱酸H₂Sから生じた塩であるから, FeSは「弱酸由来の塩」といえる.
弱酸由来の塩に強酸を加えると, 必然的に強酸が分解し, 弱酸が生成する.
また, 残りのイオンをまとめると強酸由来の塩FeSO₄ができる.
結局, 以下のような反応原理が導かれる. 塩基に関しても同様である.
強酸による弱酸の遊離反応
弱酸由来の塩+強酸 → 強酸由来の塩+弱酸
例 ZnS+2HCl → ZnCl₂+H₂S
例 CaCO₃+2HCl → CaCl₂+H₂O+CO₂
例 Na₂SO₃+H₂SO₄ → Na₂SO₄+H₂O+SO₂
強塩基による弱塩基の遊離反応
弱塩基由来の塩+強塩基 → 強塩基由来の塩+弱塩基
例 NH₄Cl+NaOH → NaCl+NH₃+H₂O
普通に作ると, 2例目は CaCO₃+2HCl → CaCl₂+H₂CO₃ だが, 炭酸H₂CO₃は直ちに分解する.
よって, 化学反応式にはH₂CO₃とは書かず, H₂O+CO₂と書くことになる.
同様に, 3例目の亜硫酸H₂SO₃も直ちにH₂O+SO₂に分解する.
また, 塩基の例も NH₄Cl+NaOH → NaCl+NH₄OH となるが, NH₄OHはNH₃+H₂Oと書く.
なお, この反応原理における酸・塩基の強弱は絶対的なものではなく, あくまで相対的なものである.
H₂CO₃とCH₃COOHは両方弱酸だが, 酸の強さは CH₃COOH > H₂CO₃ である(有機化学で学習).
よって, 次のような反応も進行し, 逆反応は起こらない.
CaCO₃+2CH₃COOH → (CH₃COO)₂Ca+H₂O+CO₂
(より弱い酸である炭酸の塩)+(炭酸よりは強い酢酸)→(より強い酸の塩)+(より弱い酸)
問い BaCO₃にHClを加えると?
HClは強酸である. また, BaCO₃は弱酸H₂CO₃由来の塩である.
よって, 弱酸の遊離反応 BaCO₃+2HCl → BaCl₂+H₂O+CO₂ が起こる.
HClが強酸であることはすぐに気付く.
そこで「弱酸の遊離かも」と思いつつBaCO₃の特性を考えると, 正に弱酸の塩だったわけである.
問い NH₄ClとCa(OH)₂を反応させると?
Ca(OH)₂は強塩基である. また, NH₄Clは弱塩基NH₃由来の塩である.
よって, 弱塩基の遊離反応 2NH₄Cl+Ca(OH)₂ → CaCl₂+2NH₃+2H₂O が起こる.
